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「N703iμ」担当者インタビュー
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薄さで魅せる「Nの新たな顔」
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N703iμ
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薄さ11.4mmというボディサイズに、ディンプル模様を取り入れた「N703iμ」は、NECが「デザインの本質」に取り組んだ結果、生み出されたモデルだという。モバイルターミナル事業部 商品企画部の有田行男氏と杉原光明氏、NECデザインの山崎宣由氏が「N703iμ」の誕生した背景を語った。
■ NECの顔を作る
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左から有田氏、杉原氏、山崎氏
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――ほぼ同時期に「N703iD」「N703iμ」という2モデルが登場することになりました。
有田氏
同時期の登場ではありますが、この2機種はデザインに対するアプローチが異なります。「N703iD」は、佐藤可士和さんという外部の力によって生み出されました。一方、今回の「N703iμ」は、NECのインハウスデザイナーによる端末です。両機種ともに、開発の大きな前提として「NECとしての新しい顔を作りたい」という想いがありました。その上で、「N703iμ」では、NECオリエンテッドな顔作りに取り組んだことになります。
とは言え、デザインとは決して外観のことだけを指すものではありません。道具としての課題をいかに解決するか、そこにデザインの本質があるのではないでしょうか。N703iμは、その“デザインの本質”に正面から取り組んだモデルです。11.4mmという薄型ボディは、技術の結集によって実現できたものですが、さまざまな課題がありました。デザインとして、それらの課題に取り組んだというわけです。
――課題と言うと?
有田氏
薄型化するということは、たとえば液晶ディスプレイやバッテリーなどを配置する場所、つまり部材のレイアウトがある程度決まってきます。これは、デザインを施す幅、余地が大変少ないということになります。「デザインする」と言えば、紙の上に美しいラインをひいて、それをいかに形にしていくか、という流れをイメージされることが多いと思いますが、今回は、デザインするのりしろがないわけですから、非常に大変でした。
――最初から薄型化を目指してきた、ということでしょうか。
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右が最初に制作されたコンセプトモックアップ。左は、それを元に携帯電話らしい機能の搭載を想定したモックアップ
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有田氏
そうですね、11.4mmという薄さが技術的に成り立っても、実際に商品として魅力を出せるかどうかは別の次元の話です。薄型化というイメージが先行したこともありますが、デザイン側が描いた理想もありました。
最初に、実装条件をあまり考慮せずに、「薄さを表現する携帯は、どのようなものが良いか」という視点でコンセプトモックアップを作りました。この時点からN703iμまで引き継がれている点としては、「ツートーン」というところが挙げられます。側面を2色で塗り分けることで、より薄く見せるということです。
続いて制作したモックアップは、サブ液晶などの部材を搭載することをイメージしたものです。こうなると、どこかで見たことがあるような、携帯電話らしい形になります。これは少々、面白みに欠けていて、ユーザーを興奮させたり驚きを与えたりするものがないな、と感じましたね。
こういった点をどう打開するか、一時期は大変悩みました。そこで「背面のサブ液晶の置き換え」を考えました。
■ 最初はLED4個しか搭載できなかった
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窪みが並ぶディンプル模様を採用した
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――携帯電話という商品の開発で、その考えは不安がよぎりませんでしたか? 反対の声はなかったのでしょうか?
有田氏
ええ、さすがに全く情報が表示されないというのは不便ですので、どう表現するか考えた結果、「ディンプル」という要素を取り入れました。LEDを埋め込むことで、電光掲示板のように表現することを目指したのです。N703iμには49個のLEDが搭載されていますが、最初の時点では、4個しか搭載できませんでした。ここで行き詰まりましたが、技術陣の力で、最終的に49個搭載できました。
杉原氏
NECの携帯電話は、サブ液晶にも注力してきましたので、機能面で落ちるのは、デメリットとして大きいと考えましたね。ディンプルというアイデアが出てきたことで、最終的にはうまく実装できたのかなと思います。
――表現できる情報量が減少してしまうと思うのですが……。
有田氏
たとえばメールが届いた場合は、49個のLEDで封筒のアイコンを表示します。音声の不在着信も表現できます。基本的な情報伝達機能を備えていますが、それ以上に、ユーザーへ驚きや満足感、すごいと感じてもらうような機能を提供したいと考えたわけです。
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コンセプトモックアップ(一番右)から徐々に製品版(一番左)に変化していった
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――最初のコンセプトモデルとは大きく異なる仕上がりですね。ディンプルはデザイン側からのアイデアになるのでしょうか?
有田氏
たしかに大きく異なりますが、最初のアイデアにしがみつくのではなく、開発の過程で生まれてきたものを重視しています。また、ディンプルは、デザイン側から悩みに悩んで出てきたものです。ただ、ディンプルには薄型端末において、もう1つの側面があります。薄型端末には、「壊れやすい」「曲がりやすい」という印象を持ってしまうことがあると思います。ディンプルにすることで、スポーティな印象を与えることができますし、グリップするようなイメージを演出できます。
山崎氏
ディンプルは、LEDありきで採用したものではありません。スポーツカー、あるいはスーパーカーのハンドルのようなイメージですね。N703iμのディンプルは、深さ0.1mmという窪みですが、開発時には0.2mmのものなど、さまざまなパターンを試作しました。たとえば、0.2mmにするとハッキリと窪みが見えますが、端末全体の厚みが0.1mm増してしまいます。
今回のように、0.1mm単位でオーダーすることは、あまり例がありません。これまでのデザインにない、新たな試みとも言えます。薄型化によってデザインする余地があまりにもないため、個性をどう演出すべきか。そういった制約がある中で、いかに最適な解を見つけていく。インハウスデザイナーだからこそできたデザインとも言えます。
有田氏
それを形作るエンジニアの熱い想いに結びついてきます。たとえるならば、フォーミュラーカーのエンジンを搭載した量産車と言うべきものです。
■ 薄さを支える技術
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山崎氏(右)がデザインを、杉原氏(中)と有田氏(左)が商品企画を担当する
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――薄型端末という切り口であれば、海外メーカーが先駆けてリリースしていますね。
有田氏
NECの場合、「薄型化の中身が真面目」と表現できると思います。N903iのソフトウェアをベースにしており、使い勝手・機能面で手を抜いていません。たとえばバッテリーはN702iDと同じ容量の製品で、静止時での最大待受時間が690時間です。これは、FOMA端末としては2番目に長い数値です。1番はN703iDで、当社で上位2機種を提供する形ですね。
――薄型化を実現した、技術的な工夫も教えてください。
有田氏
部材としては、マグネシウム合金と、ステンレスと樹脂を一体化させたパーツを用いています。
山崎氏
樹脂はガラス繊維入りのポリアミド系複合樹脂であり、メインディスプレイ側ボディにマグネシウム合金、キー側ボディがポリアミド系樹脂+ステンレスを使用していますが、苦労したのは塗装です。
――どういうことでしょう?
山崎氏
金属と樹脂という異なる素材を、塗料によって同じ質感に仕上げるという意味ですね。通常よりも何層も塗っており、素材の違いが区別できないほど同じ質感にできたと思います。
■ カラーや内蔵コンテンツ
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アナログメーター調の待受Flash
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――ちなみに想定ユーザー層は?
有田氏
最初にデザインする際に考えたターゲットユーザーは、格好良い30代半ばの男性、というイメージですね。そういった年齢層の方には、背面LEDの光が左右に動くアニメーションや、昔のシューティングゲームのようなアニメーションがウケるかもしれません。
また、スタイルモード(メニュー着せ替え機能)で一括設定できるプリセットコンテンツとして、「アナログメーター」風のコンテンツを用意しています。30代半ばの方は、フルコンポの全盛期を体験していますので、そういった機器に搭載されていたメーターを意識した形です。単なるアニメーションではなく、そのメーターで日付や時刻を表現しています。また、数式をアニメーションで表現するコンテンツもプリセットしています。
杉原氏
LED部分と待受Flashで顔を表現するコンテンツも入れています。我々は「ミスターμ」と読んでいるキャラクターなのですが、開く頻度や着信があった場合など、さまざまなケースで笑顔や、怒った顔を見せてくれます。なにかイベントのある日には、その日にしか見られないものもあります。端末コンセプトとは少し外したコンテンツですが、遊び心の一種というところです。
――全体的に男性向けという印象を受けますが……。
有田氏
確かにデザイン上は男性をイメージしましたが、商品として、ユーザー層を限ってはいません。男性的なデザインに興味を持つ女性もいます。最近の傾向としては、完成度の高い商品が求められているのかな、と思いますね。
――ボディカラーは鮮やかな色を落ち着いた色で挟む形ですね。
有田氏
商品コンセプトは「アーバンライトウェイトスポーツ」です。都会の中を走る2シーターのスポーツカーをイメージしています。ボディカラーのREDは、まさにそのあたりをイメージしました。一方、GREENはもう少し個性を打ちだしたカラー、BROWNは落ち着いたカラーで男女を問わないと思います。
山崎氏
これまで、薄型の携帯電話と言えば、ビジネス層に向けたものでした。「おじさんが持つもの」と言うイメージがあったかもしれません。しかし「N703iμ」をデザインする上でイメージしていたのは、「20代が憧れる30代」と言うべき姿です。実際、そんな大人にはなかなかなれませんが、理想の姿に憧れることは大事なことですよね。薄型という制約の中で機能はそぎ落とすことなく製品化できました。デザインや技術など、NECとしての総合力を発揮した端末です。
有田氏
今までの薄型のイメージを留まらせることなく、より若い世代に、ファッションとして使ってもらえればと思いますね。今後はプロモーション活動として、六本木ヒルズのメトロハットをジャックする予定です。広告表現については佐藤可士和さんに進めていただいている部分です。N703iμ一世代で終わらせるのではなく、NECブランドの確立に向けて、強みを発揮していきたいと思います。
――ありがとうございました。
■ URL
N703iμ 製品情報
http://www.n-keitai.com/n703imyu/opn.html
(関口 聖)
2007/02/20 11:27
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