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「AH-K3001V」開発者インタビュー
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京セラ開発者たちの熱意を聞く
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1年ぶりの新音声端末、そしてパソコン向けWebサイトを閲覧できる「Opera」を搭載したことで話題を呼んだDDIポケットの京セラ製端末「AH-K3001V」。まさに世界中の情報を入手できるという「Opera」の存在に加えて、豊富なメール機能などが特徴だ。
斬新なコンセプトを掲げる「AH-K3001V」は、どのような過程を経て作り上げられたのか。商品企画や端末デザインを担当した京セラの開発者に話を聞いた。
■ 開発は2002年末にスタート
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AH-K3001V
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商品企画を担当した通信システム機器統括事業部の富家 八栄子氏
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インタビュー冒頭で明らかにされたのは開発開始の時期。「AH-K3001V」の元となる、新端末の検討がスタートしたのは、2002年も終わりに近づいた頃という。約1年半という時間をかけて発売を迎えたわけだが、「AH-K3001V」の商品企画を担当した通信システム機器統括事業部の富家 八栄子氏は、「長かったです」と正直に語る。
-開発中の雰囲気はいかがでしたか?
富家氏
「当然ですが、最初が一番楽しかったですね。しばらく(PHSの)音声端末市場から離れていたこともあって、あれこれと端末の機能について提案がありました。私にとって、一から商品企画として関わったのは今回が初めて。思い入れはありますね、端末が完成に向かう過程を見てきたわけですから」
-最初から「Opera」の搭載は決まっていたのでしょうか?
富家氏
「ええ、最初から決まっていました。大きなコンセプトとして、限られた携帯電話やPHS向けの世界から、ユーザーをもっと広い世界に連れ出したかったんです」
-2002年に開発スタートということでしたが、たとえばQVGA液晶の搭載も最初から決まっていたのでしょうか?
富家氏
「Operaに決めた時点で、QVGA液晶も搭載すべきと考えました。当時は、低解像度の液晶が一般的でしたが、ユーザーからは“もっと見やすく”という声が強かったですし」
当然の選択、と胸を張った富家氏だが、営業担当の総責任者である木村 哲夫氏からは「当時の社内からは“PHSにQVGA液晶とは贅沢だ”という意見が出されましたね」と裏話も明らかにされた。
■ 「ドコモユーザーを取り込んでみせる」という意気込み
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営業の総責任者である木村 哲夫氏
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携帯電話からパソコンのWebサイトが利用できるようになることは、現状のコンテンツビジネスを覆しかねない。携帯電話に限らず、DDIポケットでも専用コンテンツは提供されてきた。
-Operaでパソコン向けコンテンツを利用できることで、有料のAirH"PHONE向けコンテンツにも影響がでると考えましたか?
木村氏
「他キャリアのコンテンツサービスに比べると、DDIポケットのものは1つの弱みと言えるかもしれない。じゃあ逆に他キャリアにはできないことをやってやろう、と。最初に富家が言っていたのは“ドコモユーザーを取り込んでみせる”ということでした。何を言ってるんだろうと思いましたけどね(笑)」
富家氏
「夢は大きく、ということですよ。みんなハッピーになるだろうと思いましたね。我々は端末が売れる、ユーザーはいろんなコンテンツが利用できる、DDIポケットも新たなユーザーを獲得できるということです。既存のAirH"PHONE向けコンテンツにとっては厳しいかもしれないが、Opera向けの新しいコンテンツを提供できる場を生み出せた面もあると考えてます」
■ 最初から苦しんだ開発過程
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プロジェクトリーダーを務めた通信システム機器統括事業部の大森 光氏
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全体を統括し、プロジェクトリーダーを務めたのは通信システム機器統括事業部 通信システム機器第1事業部 第1技術部 第3技術課 責任者の大森 光氏だ。
-楽しくスタートしたということですが、最初に苦しんだ点というのは何でしょう?
大森氏
「最初に苦しんだ、というよりも最初から苦労しました。今考えれば貧弱な機能と思われるかもしれませんが、市場に提供する際の価格などを考えれば、絶対に譲れない目玉の機能や、逆に削減できるポイントなど、コストとの兼ね合いで部品選定を行なわなければなりませんでした」
富家氏
「社内でもSDカードスロットを搭載すべきかどうかという点が議論になりました。商品企画の立場としては、今回の目玉は“Opera”。SDカードスロットは次にしようと説得しました」
大森氏
「そして(京セラのPHSにとって)カメラもQVGA液晶も、Operaも何もかもが初めてのことで実績がない。実際に形にしてみなければ判明しないバグもあります。たとえばメニューを表示したとき、うっすらと待受画像が見えるよう半透過になっています。透過させないという選択肢もありましたし、反対意見もありました。ですが、これは実現させたかった」
富家氏
「基本として使って楽しい端末にしたかった。半透過にしたのは、待受画像を楽しむユーザーを考えたから。いろいろとカスタマイズしている人たちがいるんですよね。だから半透過にすべきと考えたのです」
-実際使ってみると、京セラの以前のPHS端末と全く異なるメニューになっていますね。一からソフトウェアを作り上げたのでしょうか?
大森氏
「そうですね。CPUなどが決まって、その上にあるソフトウェアについては(使用する言語を)C++でやるのかどうかという点もありました。全てが新しく開発されたものです。本当に完成して良かったなと思いますね。もちろんまだ改善する余地はあるかと思いますが、コストを踏まえれば、できる範囲内でベストを尽くすべき。そういう意味でうまくいったと考えています」
-AirH"PHONE自体がパソコンユーザーを対象にした部分があると思うのですが、その他のユーザーに向けて、こだわった点はありますか?
大森氏
「フォントの大きさを変更できるという点でしょうか。たとえばリダイヤルで、電話番号などを表示させる画面で文字を大きくできる。視力が弱い方でも使っていただけると思います」
■ ノルウェー時間で勤務していた
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通信システム機器技術部の佐藤 弘和氏は、Opera実装に携わった
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Operaを搭載するため、奔走したのは、通信システム機器技術部 第1技術部 技術2課の佐藤 弘和氏だ。開発中の佐藤氏について大森氏はOpera Softwareとのやり取りを紹介した。
大森氏
「プロジェクトチーム全体としても、泊まり込むスタッフがいましたが、Operaとのやり取りは結局現地時間でやるしかない。スタッフが帰る夕方に佐藤は出社して、向こうとやり取りしていました。時間的に狂ってきますし、ほかのスタッフとのコミュニケーションする時間も少なくなってしまいました」
佐藤氏
「ノルウェーに行くことはなかったのですが、向こうからはスタッフがやって来ましたね。実装する際は、DDIポケットの仕様とOperaそのものの仕様との兼ね合いがありました。レンダリングする部分などはパソコン版Operaと同じです」
-京セラオリジナルのカスタマイズの中で、最も代表的なものは?
大森氏
「カスタマイズ、というか機能の切り分けですね。Operaの仕様とDDIポケットの仕様があって、その中間部分、いわばグレーゾーンですが、そこをどうしていくという点が“最初のカスタマイズ”ということになりますね」
佐藤氏
「今回は3つのモードで画面表示できるようになっています。その1つである“ケータイモード”という表示方法は、DDIポケット向けのコンテンツが表示できるように新たに開発されたものです」
「また、発売後のユーザーサイドの動きには驚いています。OperaでJavaScriptを使えるということサポート外の動作をさせている人もいるようですが、大きな自由を提供できたと思っています。ユーザーの動向から“こんな使い方がある”と教えられることもありますね」
■ 細かなこだわりが積み重ねられた筐体
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プロダクトデザインを行なった小佐井 眞也氏
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移動体通信機器統括事業部 マーケティング部の小佐井 眞也氏は、端末の外観やカラーリングを行なったプロダクトデザイナーだ。スリムでシンプルな外観は多くのユーザーから好評を得ている。
-このデザインはいつ決まったんでしょうか?
小佐井氏
「2003年早々ですね。プロジェクトがスタートした直後という感じですが、細かな部分へのデザインはその後も続きました。デザイン自体もいろんな方向性があると思いますが、メインターゲットとして20~30代といった年齢層の男性をイメージしたのです。その中でもプライベートと仕事を瞬時に切り替えられるような人ですね。そんなビジネスマンにとって、格好良い端末にしたかった。スマートな人たちにあわせるにはどこで表現するのか、という点でスリムな筐体デザインになりました」
「ポイントはサイドパーツですね。使用シーンも考えて、電話中に外から見るとツートンカラーがよくわかる。コントラストで“ONとOFFの切り替え”という世界観を表わしました」
木村氏
「サイドパーツは本体と別の部品。別の金型を起こし、工程も増える。コスト増にはなったんですが……」
ユーザーを見据えた上で作り上げられたデザイン。そのこだわりは細かな点まで行き届いている。
小佐井氏
「たとえば背面液晶周辺のパーツも、数多くの材質から選び抜いたもの。それからカメラ周辺にステンレス材質を採用していますし、アンテナの先端パーツもこだわった点です」
アンテナの先端を見れば、窪みがいくつか付けられたパーツが用いられている。窪んだ部分に、ライトがあたれば光沢がでるようになっているが、逆にその他の表面部分はややざらつきのある仕上げが施されている。
-ホワイトとシルバーというカラーリングですが、他に候補となったボディカラーは?
小佐井氏
「ユーザーからの統計を踏まえて、この2色になりました。もちろん最初は30色以上の候補を提案しましたね。ちなみに最後までもう1色が候補になってました」
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インタビュー中に、デザインに関わる開発資料も披露してくれた
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ちなみに木村氏が手にしている箱の中には、紙製の「AH-K3001V」のモックアップが入っていた
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■ 「みんな持ってないんです」
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本誌を「フルスクリーンモード」で表示したところ
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さまざまな利用スタイルが可能になる「AH-K3001V」だが、開発者自身はどのような使い方をしているのだろうか。その点について聞いてみたところ、木村氏とともに営業を担当した通信システム機器営業部 国内営業部の細川 喜玄氏は「実はみんなプライベートとしては持っていないんです」と明かした。発売直後に売り切れ状態となっており、開発者と言えども入手しづらい状況にあるという。
ちなみに不具合が明らかになった際、稼働台数は約20,000台とDDIポケットは発表している。この時点でほぼ完売状態であったことから、約20,000台という数字は、初期出荷台数と考えられる。
木村氏
「資材はすぐに調達できるものではないんですが、出荷台数を増やせるように頑張っています。ユーザーからのニーズが消えないうちになんとかしたいですね」
富家氏
「プライベートで使うとしたら、個人的にはモバイルバンキングや証券会社のサービスでしょうか。また友人たちとのコミュニケーションで、掲示板を利用することがあるのですが、携帯電話向けのインターフェイスは寂しいデザイン。この端末ならパソコンと同じような表示で楽しいと思います」
「AH-K3001V」上のOperaは、JavaScriptやCookieもサポートしており、さまざまなパソコン向けのWebサイトにアクセスできる。ユーザーが直接入力したURLや最後にアクセスしたWebサイトは参照できるのだが、Webブラウジングの細部までは履歴として残らない。ある程度プライバシーを保ったまま、心ゆくまで満足できるWebブラウジングは、妻帯者である記者にとっても魅力ある機能の1つだ。
■ 点数をつけるならば……
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側面に別パーツを配してコントラストを強調したデザインが採用されている
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-「AH-K3001V」に点数を付けるならば?
大森氏
「そうですね……、120点というところでしょうか。良くできたと本当に思います。先にも述べましたが、できる範囲の中でベストを尽くせた。動作が緩慢に思えることもあるかもしれませんが、たとえばOperaでのWebブラウジングは、固定網のブロードバンド回線と比べれば、PHSの通信速度では重く感じられるかもしれませんね」
-今後のアフターケアとして、ネットワーク経由でのアップデートなどはあるんでしょうか?
木村氏
「違う製品になってしまうほどの大きな機能追加はできないでしょうね。そうなれば新たにJATEなどの認証をとる必要がある。使い勝手を向上させるということは考えていかなければならないでしょう。それが実現できたとしても、どうユーザーへ告知するのかということは難しいですね」
-次の機種、後継機について現時点での考えは?
富家氏
「実は……開発はスタートしています。(Opera搭載という)この路線は踏襲していくでしょうが、どう拡張していくのか。これから取捨選択していくことになるでしょう。たとえば携帯電話やPHSの現状を見れば外部メモリカードのスロットを搭載しなければならないと思います。まだまだこれから、という段階です」
木村氏
「PHSの良さ、音質の良さといった点を再認識してもらえるような製品でしょうか。DDIポケットのユーザーを増やせる製品にしていきたいですね」
富家氏
「今回、AH-K3001Vが注目を浴びたのは、やっぱりDDIポケットあってのこと。次もDDIポケットと一緒に良い製品を提供できればと思っています」
-ありがとうございました。
DDIポケットの強みの1つは、定額制のパケット通信だ。インターネットへ自由にアクセスできる「AH-K3001V」はその強みをうまく活かした端末に仕上げられている。しかし携帯電話でもauが定額制を導入し、NTTドコモの定額制もスタート間近。音声通話のユーザーを増やしていくために何が必要なのか、今後も京セラの動向に注目していきたい。
■ URL
京セラ
http://www.kyocera.co.jp/
製品情報(京セラ)
http://www.kyocera.co.jp/prdct/telecom/consumer/ah-k3001v/
製品情報(DDIポケット)
http://www.ddipocket.co.jp/p_s/products/content/ah_k3001v.html
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(関口 聖)
2004/05/31 14:38
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