インタビュー
能登半島地震の復旧支援に「Starlink」活用、KDDIの現地担当者に聞く
2024年1月5日 21:37
1月1日に発生した令和6年能登半島地震は、最大震度7を記録した。停電が続き、道路は寸断され、物流などさまざまな方面への影響が出ている。
KDDIでは基地局の復旧に取り組む一方で、衛星通信の「Starlink」を主に自衛隊や電力会社、自治体などに提供し、現地で復旧に携わる人々をサポートしている。
今回、現場で指揮をとる、KDDI ソリューション事業本部 ビジネスデザイン本部 副本部長の高木秀悟氏と、東京から現場をサポートする事業創造本部 LX基盤推進部 部長の鶴田悟史氏がインタビューに応じた。聞き手は本誌編集長の関口聖。
高木氏
我々は今、金沢にあるKDDIのネットワークセンターにいます。急遽ここを今回の災害対策の拠点にしました。
基地局の復旧は、全国から人を集めてやっています。
一方で、たとえば石川県庁や被災地の各自治体、自衛隊など、民間では運送会社や電力会社など法人のお客さまに向けて、通信機器をお届けしたり設置・利用をサポートしたりしています。
――どの程度の規模感なんでしょうか。
高木氏
KDDIでは、こうした大規模災害時、何から取り組むか、ある程度決めています。
地震が発生した直後、1月1日の夜間から「どこに拠点を設けるか」という議論を始めて、1月2日にはここに拠点を設けました。
法人に対応するビジネスデザイン本部、ソリューションのエンジニアを担当する部隊、デリバリーを担当する物流センターや、運用の保守センターなど、何人かをここに集結して立ち上げました。
大変な状況ですので、たとえば(東京や大阪の)物流センターからStarlink(の機材)が深夜1時に届いたり、朝5時にお客さまへ機材を届けるため、4時に出発したりと、スタッフが輪番で対応しています。2日~5日まで、スタッフの稼働人数は、この拠点だけでも、のべ200人くらいになっていると思います。
――なるほど。
高木氏
一例として、電力会社の方々は、電気が通っていないところでの現地対応を余儀なくされています。しかし、そういった被災地域では、通信サービスが途絶えています。ですから、まずはイリジウムを含めた、いわゆる衛星携帯電話のニーズが高いのです。
衛星携帯をお届けして、電柱が折れていたり電線が切れていたりする場所の現地調査をサポートします。
その後「データ通信がしたい」ということになりますので、Starlinkを配備します。
これまでの経験からすると、その次として、基地局の復旧作業ができたあと、通常のスマートフォンやWi-Fiルーターの貸出依頼が来るので、そういったことをこの2~3日間でやっています。
――ステップバイステップでニーズが変化するというお話でしたが、まずは音声通話へのニーズが来るんですね。
高木氏
法人のお客さまからすると、まず通信手段がありませんし、道路の分断など危険な箇所は複数ある。まずは安全のために衛星携帯を保持して、どこまで車で行けるのかといった点検を最初にするために(衛星携帯を)貸し出します。
飛び地で保守拠点が開設されたりすると、そこにStarlinkを置いて、今度はデータ通信へのニーズが出てくるというかたちですね。
――KDDIで、大規模な災害におけるStarlinkの活用は今回が初めてですか。
高木氏
Starlinkに限れば、今回が初めてだと思います。
Starlinkは、今までの衛星通信デバイスと比べて、アンテナ自体の大きさが非常に小さくて軽いです。最初は「5台貸してほしい」というのが追加で10台、15台と需要が増えており、連絡をどんどんいただいています。
――台数としてはどの程度なのでしょうか。
高木氏
(5日夕の取材時点で)総数として約150台、金沢まで輸送済みて、お貸し出ししている数が60台くらいです。
衛星携帯端末で言うと、イリジウムだと100台以上が金沢に輸送済みです。実際に使っていただいているのは50台以上です。
――Starlinkはデバイスのコンパクトさに加えてスループットもある、ということでしたが。
高木氏
想定になりますが、端末で動画を送っていただくところでは、お客さまの体感としては光回線とあまり差異がないくらいに利用いただけるんじゃないかなと思います。
――現地で活動されていて、課題感や、逆にうまくいったところはありますか。過去の災害対策訓練の知見が活用できているところなどもあるのでしょうか。
高木氏
本音を言うと、本当にドタバタしています。お客さまからこんなに引き合いをいただくとは思っていなかったので……。
我々に対するお客さまからのニーズが、3倍~4倍くらい増えそうなので、お客さまの求めるスピードに対して、デリバリーが間に合うかどうかというところがまずひとつですね。
逆に、災害対策などの訓練で活かせている点は、提供のスムーズさです。
Starlinkをいざ使おうとしても、たとえば電源が最初の課題になります。つまり「モノだけお渡しても、すぐに使えない」ことがこれまでの訓練でわかっていたことでした。
そこで、あらかじめバッテリーや電源タップをご用意して、アンテナ装置とセットでお渡ししたり、使い方の説明をマニュアル化したりしています。これらの取り組みは、訓練の甲斐あって、スムーズにできているかなと思います。
――それは使う側にとってはありがたいですよね。
高木氏
Starlinkは簡単に使い始められるのですが、もともとこうした機材を使ったことないお客さまが大半です。
ですから、私どもがお届けするときには必ず、エンジニアが初期設定や立ち上げの方法をその場で実演しています。
私どもの拠点に取りに来ていただく方についても、同じような説明をしています。ありがたいことに、「現場で使えない/使い方がわからない」というお声は、これまでのところ、ありません。
簡単に使えるというStarlinkの特徴も、強みを発揮すると思っています。
――どういった利用方法があるのでしょう。
高木氏
利用方法を聞くと、やっぱり車との連携なんですよね。
車で移動して、移動した先で使いたいというケースもあります。車のシガーソケットからStarlinkの電源をとるみたいな実験もしていまが、それはちょっとうまくいっていない。車と連結して効果的に使う場合に必要な方法や機材の準備を、もう少し考えないといけないと思っています。
――デリバリーとしては、各社が活動している現場に届けるといったかたちでしょうか。
高木氏
道路で(崩落などにより)「これ以上進めない」というところがたくさんあります。
届け先によっては、往復するにあたり毛布を持って車中泊をしないといけないこともありました。これまでの最長は16時間です。
――地図アプリの渋滞情報を見ると穴水町の南でかなりの渋滞が続いているようでしたが……。
高木氏
そういった渋滞も通ってのお届けになります。
たとえば「WVS(KDDI Wide Area Virtual Switch)」というイントラネットワークの法人向けサービスにおいて、光ファイバーが切れていて、今回Starlinkでサポートするというものがありました。
――どのあたりまで届けることができたのでしょう。
高木氏
輪島(市)ですね。
運転できる人間が2人以上、技術の人間が1人、3人くらいで行きます。
道路状況などで「届けてもらうのは申し訳ない」という方もいらして、そういった方々には弊社拠点にまで来ていただくこともあります。
――Starlinkの活用において、特殊車両は使用されていますか。
高木氏
Starlinkのデリバリーについては、お客さまのモニターを運ぶようなこともあるので、普通の乗用車で行っています。
余談ですが、お客さまがすごく喜んでくださる。ですから、(金沢にいるKDDIのメンバーは)みな、士気が高いです。通信会社に勤める人間の生きがいのようなところを感じています。
――今回の活動、いつまでやるのかといった見通しはありますでしょうか。
高木氏
お客さまに対して今回お貸し出ししている端末は、「いつまでに返してください」とはもちろん申し上げていません。
お客さまの現場が復旧して、今の回線が使えるようになるまではご利用いただきたいと持っています。
――東京側ではバックアップなどをされているんですか。
鶴田氏
基本的には常に現場と連携していまして、Starlinkの回線のアクティベーションやトラフィックのウォッチングなどは一括してやっています。
情報収集含めて統括しながら、現地をサポートしているといったところです。
――今後の災害対策につながるような部分としては、どういったものが挙げられますか。
高木氏
たとえばStarlinkの電源をつなげるために必要になる、3ピンタイプの電源タップのようなものは、当初あまり想定はしていませんでした。お客さまからお声をいただくたびに調達しているんです。
(機材を)すぐ使っていただくためにはどうすればいいのか、お客さまからいろいろ教えていただいている。そういった意味で、今回の経験は今後につながると思います。
事前の準備という点では、私どもの物流センターが東京と大阪にありますが、分散もできるかもしれない。
(機材を)100台ずつというと大きな倉庫が必要になりますので、たとえば20台ずつくらいを全国のネットワークセンターに備えておいて、すぐ配れるような工夫はできるかと思います。
初動がスピーディーだとやっぱりすごく喜ばれるので。1~2日違うだけで効果がまったく違いますから。
――なるほど。
高木氏
普段は法人のお客さまにDXを提案しているメンバーが、ジャンパーを着てヘルメットをかぶって現場に赴いています。
今回のような災害が起きてほしくはありませんが、今回の経験は、今後の災害対策の進化に向けたヒントやノウハウにつながります。引き続き、お客さまに寄り添ってしっかり対応していきます。
――ありがとうございました。