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「Starlink」をバックホールにしたau回線、熱海・初島で髙橋社長がセレモニー

 KDDIは、静岡県熱海市の初島において、衛星ブロードバンド回線のStarlinkをauのバックホール回線として利用する基地局の提供を開始した。

 同社では1日、Starlinkを導入した初島で報道関係者向け説明会を開催した。サービス開始を記念するセレモニーには、KDDIの髙橋誠代表取締役社長が登場した。

衛星通信をスマートフォンに活用

 Starlinkは、米Space Exploration Technologiesによる、低軌道衛星を活用してブロードバンドインターネットを提供できるサービス。auでは同社の仕組みをau通信網のバックホール回線として利用することで、基地局整備が困難な場所での通信サービス提供につなげる。

 利用が想定される場所としては、山間部や離島など、これまで通常の基地局整備が難しかった場所で、KDDIでは全国1200カ所に場所を広げていくとしている。

KDDI・髙橋社長など参加のセレモニー

 1日、初島で行われたセレモニーには「KDDI」「スターリンク」と書かれたハッピを着たKDDI 代表取締役社長の髙橋誠氏が登壇。

KDDI 髙橋氏。パーカーにも「STARLINK」とある

 1963年、TVの中継とともに始まった日本の衛星通信の歴史に触れ、今回のスターリンクを活用したauエリアの拡充を「衛星通信の新時代」と説明した。光ファイバーなしでも通信サービスを提供できるStarlinkについて「ソーラーパネルで電力を供給するとそのままエリアにできる」とアピール。

 初島に設置されたStarlink対応の基地局は、オレンジや白、青色などが入ったカラフルなデザイン。「うちのスタッフが灰色の電柱の上にこれ(Starlinkのアンテナ)をつけたいって言ったんでこれをイメージして作ってくれと言ったらあんなふうになった」と「ファルコン9」を示しながら、裏話を明かす髙橋氏。KDDIが協賛するアニメ映画「すずめの戸締まり」とコラボしたCMでもひそかにこの基地局が登場している。

 同じく登壇したスペースX Vice President of Starlink Commercial Salesのジョナサン・ホフェラー氏は「KDDIとのパートナリングを嬉しく思う。我々のプロジェクトにより何千もの衛星が打ち上がっており、つながることや教育などを実現できることは光栄」とコメント。また「今日は1つの基地局から始まるが、これから何百、何千の基地局を使ってたくさんの人とつながるスタートを切れることを喜んでいる」とした。

 髙橋氏とジョナサン氏による、地球儀型のボタンを押すパフォーマンス後、Starlink対応の基地局が開局した。会場のディスプレイでは、これまで圏外だったスマートフォンが4Gでネットワークにつながる様子が披露された。

 その後「すずめの戸締まり」で主演を務める原菜乃華とビデオ通話する様子や同作品の監督である新海誠氏からのビデオメッセージが届き、セレモニーは終幕を迎えた。

左=KDDI 髙橋氏。右=スペースX ジョナサン氏
左=原菜乃華と髙橋氏のビデオ通話。右=新海誠監督

Starlinkによるメリットとは?

 コンシューマー向けのauサービスでStarlinkが活用されるのは「バックホール回線」と呼ばれる部分。この部分はネットワークと基地局を結ぶ、通信サービスの根幹となる部分。一般的に、バックホール回線には光ファイバーが用いられる。

 光ファイバー敷設のためには工事が必要で、人口が少なく地形が厳しい山間部や海底ケーブルなどを使う必要がある離島などでは、コストや工事の困難さなどから基地局が設置できず、通信を利用できないという課題がある。

 一方で、人工衛星で宇宙から電波を届けるStarlinkの場合、光ファイバーの敷設などが不要になるためこれまで通常の基地局整備が困難だった場所でも、通信サービスを提供できるようになることが期待される。

 KDDI 事業創造本部 LX基盤推進部の泉川晴紀氏は、ユーザーの声として「登山やキャンプ、離島などで写真や動画のアップロードをしたい」、自治体や法人の声としてデジタルデバイドの解消や作業現場での大容量データの送受信、従業員向けの環境整備などを紹介する。

 これらはいずれも、高額なコストをかけて基地局を建設しての対応が困難だった。KDDIでは、2021年からスペースXとの実証実験をすすめており今回、従前から対応がアナウンスされていたau回線へのバックホールへの導入第1弾を開始した。現段階で具体的な時期は明確にされていないものの今後、1200カ所でStarlinkを活用したエリア整備が行われる見込み。KDDI 髙橋氏によるとすでに300件ほどの問い合わせが自治体や企業から届いているという。

 同社では2022年中にも「Starlink BUSINESS」の提供も予定しており、広域での高速大容量通信に対応するバックホールとしてのStarlinkとスポット的な運用に向くStarlink BUSINESSの最適なものをユーザーに提案する。

Starlinkの感想など、髙橋氏語る

――Starlinkを始めた感想は?

髙橋氏
 結構時間がかかった。イリジウム関係をやっていたからジョナサンとも最初のテレカンで意気投合してそこからサポートすることになった。そこからも時間がかかったがようやくこぎつけられた。海外企業は、ライセンス取得など行政関係で苦労しているので、そこで我々がうまく手伝えている。

――T-Mobileなどが衛星とスマホの直接通信をやろうとしているがKDDIは?

髙橋氏
 そういう議論も始めている。(スペースXとは)良いリレーションができているのでその延長線上で実現できればいい。衛星はまだアンテナ関係を直していかないとダイレクト通信が広がっていかない。その辺を併合した開発を進めて近い将来、スマホでできればいいと思う。

――衛星通信の開発競争が進んでいるが、スペースXと連携した意義は?

髙橋氏
 いくつかの企業が低軌道衛星をやっているが、衛星の数で比較するとStarlinkが3000を超えて来ている。他社では1つや60などで、圧倒的に優勢がある。海外企業と提携するのは我々の得意とするところなので彼らとできてよかった。

――バックホールとして利用する一方、ビジネス向けにソリューションとしても提供する。収益の観点ではどちらが大きいのか?

髙橋氏
 正直言って取次の部分ではコストはそれほど大きくない。他社にまだ競合がないのでその周りのソリューション提供も可能性がある。そこもお客さんを(惹き付ける)磁石にしていきたい。au(コンシューマー向け)は差別化のポイントがなかなか難しくなる中で、どこでもつながる、つながらない場所をなくすというのはわかりやすいポイント。サステナブル経営という観点でも、事業の延長線上に社会の持続的成長がつながるというのは、これからの経営にとってすごく大事。そういうことでのブランド価値向上につながる。

――Starlinkとの提携はスピード感でメリットがあるが、他社では直接技術開発に乗り出している。ノウハウの蓄積がネックにならないか?

髙橋氏
 結果的にお客様に伝わらないと「技術の蓄積」といってもあまり意味がない。衛星関係では、KDDの時代から「インテルサット/インマルサット」で衛星技術者が結構いて、そこの技術はかなりある。今回も地球局と衛星の間のリンクの確立ではかなり協力できた。提携というかたちでも技術の蓄積はできると思う。それ以外でも、ビジネス化できそうなら出資したいと思う。

――HAPSは他社も取り組んでいるが、どう考えているか?

髙橋氏
 何を目的にしているかだと思う。災害時に活用するという意味であれば今回のStarlinkでも十分に対応できる。グローバルに事業を拡大するとソフトバンクが言っているが、そこはもうビジネスの可能性ということなので、投資するかどうかは我々の判断。

――総務省が700MHz帯の3MHz幅での利用を検討している。楽天モバイル向けにも思えるが手を挙げるか?

髙橋氏
 ちょっとわからない。新たな周波数の割り当ては通信会社にとってプラスになる。放送事業者も含めて検証していくので先走ったコメントはしないようにしておきたい。

――つながらない場所がなくなるのは歓迎だが「Starlink BUSINESS」ではつながらないと受け取られないか?

髙橋氏
 衛星関係の通信をどうとらえるかは我々も勉強しなくてはいけない。基地局バックホールに使っているので、ある程度品質を担保する必要はある。実際に使っている場所が今までは光ファイバーを通せない地域。ユーザーにとってはメリットがある。あとはそれをどうユーザーに伝えていくか。

 山小屋のようなところは要望をもらっていてできるだけ応対していきたい。

――通信障害時にも役に立つか?

髙橋氏
 我々が起こしてしまったような大規模な障害では、それをバックアップするにはStarlinkだけでは難しい。ここについてはローミングの話も総務省で進められているのと、複数SIMも積極的にすすめている。

――Starlinkによりエリア化が簡単になることについてはどう受け止めているか

髙橋氏
 絶対にプラス。山小屋などでは光ファイバーはものすごいコスト。だから諦めていたが容易に作れるようになるのは非常にユーザーにとってもプラスの部分があるので、積極的に勧めていきたい。

――Starlinkを使うインフラの整備の思いと展望は?

髙橋氏
 「ずっともっとつなぐぞ、au」ということでユーザーにとってすべてのエリアで使えるようにするのはプラスになり、社会に対する貢献としても重要。それがStarlinkにより一歩前に進んだ。延長線上にスマートフォンとダイレクトにつながるつながるようになれば、また一歩利便性があがる。すべてのネットワークが衛星に変わる訳では無いが、光ファイバーと衛星のハイブリッドがもたらす新たな世界観は夢としても広がる。