石川温の「スマホ業界 Watch」

能登半島地震、携帯4社の会見で示された注目すべき取り組みと「衛星・空飛ぶ基地局」への期待

 2024年1月18日、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの4社は、「令和6年能登半島地震」における通信エリアの復旧状況について、共同会見を行った。

 地震自体は1月1日16時10分頃に発生しているが、各社に共通しているのは、サービス中断エリアが拡大したのは、発生から時間が経過した1月3日や4日だったという点だ。

 被災地で停電が発生し、基地局への電力供給が途絶えてしまうが、基地局にはバッテリーを備えているところも多い。本来であれば、すぐに停電が回復すれば基地局もサービスを維持できるのだが、今回は停電が長引く一方で、道路が寸断され、発電機などを基地局に接続できないという状況が多発したようだ。

 結果として、バッテリーの無くなった基地局が増え、サービス中断エリアが拡大していったのだった。

 共同会見を取材していて感じたのが、「各社とも日頃の準備や訓練の成果が発揮されており、比較的、迅速に対応できていたのではないか」という点だ。

 筆者は2011年の東日本大震災から1カ月が経過したころ、被災地に行き、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの復旧活動を取材したことがある。

 その際に課題とした出ていたのが「給油」の問題だ。

 基地局を動かすための可搬型発電機には当然のことながら燃料が必要なのだが、当時、その確保にとても苦労したという話が良く出ていた。

 今回の会見ではKDDIとソフトバンクが連携を行い、給油拠点の相互利用を実施。また、ソフトバンクでは被災地の深部に仮設給油所を設置し、道路が回復を待って北上。キャリア間での給油を連携して行ったという。

 今回の復旧活動で特に印象的なのが、このキャリア間連携だ。NTTドコモとKDDIでは、NTTが持つ船を長崎から出航させ、共同で海上から沿岸に向けて電波を飛ばし、エリアの復旧に当たった。NTTの船は海底ケーブルのメンテナンスに利用されるものであり、長期間、海に留まり続けられる仕様となっている。

 実際に運用したところ、1500名ほどが利用するなど、有効性はかなり高かったという。ただ、冬の日本海という荒波での停泊であったため、船舶の専門スタッフは何ら問題なかったが、基地局運用のスタッフが船の揺れに耐えきれず、かなり過酷な任務になってしまっていたようだった。

 災害時のエリア復旧を新しいテクノロジーでカバーすると言う取り組みも今回の復旧活動の特長と言える。ソフトバンクがドローンを飛ばして、空からエリアを復旧を試みたのだ。

 ただ「ドローンは役に立ったが、飛べる場所に制限が一部あり、有効に活用できる場所を選んで投入した。その場所では有効に活用できた」(同社、関和 智弘CNO)という。NTTドコモもドローンを試そうとしたが、運用を断念したとのことで、災害時のドローン運用は「場所を選ぶ」というのが課題になっているようだ。

大活躍した「スターリンク」

 そんななか、能登半島で最も大活躍したのが、衛星通信の「スターリンク」なのではないだろうか。

 KDDIでは、バックホール回線に活用するスターリンクアンテナを159台投入。たとえば通信ケーブルが切断されてしまって通信ができない無線基地局にスターリンクアンテナを接続、衛星経由で通信を復活させる。

 移動基地局とは異なり、既存の無線基地局が再び使えるようになるため従来のエリアカバーがそのまま復活するというメリットがある。

 また、KDDIでは避難所にも350台、災害対応期間にも200台のスターリンクアンテナを配備している。こちらはWi-Fiルーターとしての活用となる。

 スターリンクにおいては、ソフトバンクも24カ所、28台を設置するなど、今回の支援には欠かせないテクノロジーとなったようだ。

 スターリンクアンテナは小型で可搬性に優れ、設置しやすく、設定や衛星の捕捉も自動で行うなど、使い勝手が良いのが利点だ。今後、地方自治体などはいざと言う時に備えて、備蓄しておくのがいいだろう。

 今回のように道路が寸断し、ダークファイバー(光回線)が損傷を受け、なかなか復旧できないような場所では衛星通信はとても有効だと言うことがあらためて証明された。

 スターリンクは今年、スマートフォンとの直接通信を実現する予定だ。

 また、楽天モバイルはASTと提携を行い、衛星との直接通信を実現しようと計画している。先日、楽天ではハワイから衛星を経由した音声通話を三木谷浩史会長が受けるといった動画を公開していた。

 NTTグループとソフトバンクは、開発中のHAPS(高高度を飛ぶ無人航空機に基地局設備を搭載する仕組み)で、スマートフォンの直接通信を実現しようとしている。

 日本は地震の多い国であり、いつ、能登半島地震のような大災害がどこで起こるかもわからない。いざと言う時に備えて、各キャリアには一刻も早く、衛星やHAPSによるスマートフォンとの直接通信を実現してもらいたいものだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。