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スマホと衛星の直接通信は実現する? KDDIの「Starlinkサービス」説明会

 KDDIは19日、「Starlink説明会」をオンラインで開催し、米スペースX(Space Exploration Technologies)の衛星ブロードバンドを用いた「Starlink」の法人向けサービスについて説明した。説明会には、同社執行役員 経営戦略本部長 兼 事業創造本部長の松田 浩路氏が登壇した。

 本稿では、同氏によるプレゼンテーションのほか、質疑応答の内容の一部をお届けする。

松田氏

 「Starlink」は、低軌道衛星を用いて、高速かつ低遅延なブロードバンドインターネットを提供するサービス。KDDIはスペースXとの契約に基づく「認定Starlinkインテグレーター」として、法人や自治体に対し、「Starlink」のネットワークの提供を予定している。

 松田氏は冒頭で、「スペースXとのパートナーシップに恵まれ、Starlinkのサービスを提供できることを喜ばしく思っている」とコメント。

 続いて同氏は日本の衛星通信の歴史を振り返り、「日本の衛星通信は60周年目を迎える」として、次の時代への移行を強調した。

 10月11日には、スペースXの公式Twitterアカウントが、個人向けサービス「Starlink」について、日本国内での提供開始をアナウンスした。アジアでは初のサービス提供となる。

 松田氏は、「私自身、KDDIに入社したときに衛星通信を担当していたので、衛星通信には非常に思い入れがある」と語り、あらためて「Starlink」について紹介した。

 赤道上空約3万6000kmに位置する静止衛星を活用した衛星通信では、「光の速度で通信しても往復に0.2~0.3秒かかる。電話でやり取りするとなると、0.5秒くらいを要する」と松田氏。

 こうした遅延の問題を解決するのが“低軌道衛星”で、「Starlink」の衛星が位置するのは、静止衛星の約1/65にあたる上空約550km。これにより、通信の実現に必要な電波の強度も低くなるという。

 衛星の打ち上げコストが下がってきたこともあり、スペースXは「Falcon 9」と呼ばれるロケットにより、衛星を高頻度で打ち上げている。

 10月18日時点で、2022年に打ち上げられた「Falcon 9」の回数は47回。1回あたり50機~60機の衛星が打ち上げられ、2022年に打ち上げられた「Starlink」の衛星は1400機にのぼるという。

 こうした取り組みによって大規模な衛星コンステレーションが形成され、衛星を活用したネットワークが実現する。

 KDDIでは、「⼩型衛星コンステレーションによる衛星通信システム(Ku帯⾮静⽌衛星通信システム)の検討状況について」と題し、総務省に技術資料を提出。スペースXと協力し、衛星通信システムの実現を図る内容となっている。

 KDDIは、同社の山口衛星通信所に「Starlink」の地上局を構築。そして2021年9月には、au通信網に「Starlink」を採用することを発表していた。これは、光回線の手配が難しいような場所において、「Starlink」の回線をバックホール(基地局の裏側の回線)として利用し、スマートフォン利用を想定したエリア化を進めるというもの。

 また、10月12日には、「Starlink」のサービスの法人・自治体向けへの提供を発表。年内に提供される予定となっている。

 ここで松田氏は、「Starlink」の活用についてあらためて紹介した。

 2021年9月に発表されたau通信網における「Starlink」の採用では、auの基地局の裏側に「Starlink」の衛星アンテナが位置する。そこから地上局に接続し、ネットワークを利用できるしくみ。

 今回発表された法人向けの「Starlink」サービスでは、auの基地局の代わりに「Starlink」の端末を利用。「Starlink」の端末からWi-Fiや有線LANを用いて、インターネット通信を利用できる。

 また、米国において8月に「Starlink」から発表されたのが、“衛星とスマートフォンの直接通信”。松田氏は「スマートフォンの周波数をそのまま衛星に使うということになるので、制度面でのケアも必要」とコメントした。

 松田氏は法人向けの「Starlink」サービスについて、個人向けの「Starlink」との比較を交えながら説明。まずエリアについて、「基本的に全国で利用可能」と紹介した。一部地域では制約もあるが、基本的に国内であれば利用できるという。

 同氏は個人向けの「Starlink」のWebサイトについても言及。「提供エリアとして東日本側だけに色が塗られているが、それは個人向けサービスの状況。法人向けは全国で展開できる」と強調した。

 個人向けの「Starlink」サービスと比較して、法人向けのサービスは「高速」「安定」「高耐久」の3点が大きな優位点になるという。

 松田氏は法人向けサービスで提供される長方形の衛星アンテナを紹介し、「個人向けの丸いアンテナとはサイズが違う。受信速度最大350Mbps、送信速度最大40Mbpsで、高速通信が実現する」とコメントした。

 また、法人向けには帯域が優先的に割り当てられ、安定した通信が実現する。「従来は100度くらいの視野角だったが、法人向けのStarlinkは140度。35%拡大した」(松田氏)。

 耐久性の面では、個人向けの「Starlink」端末がIP54相当の防水防塵性能であるのに対し、法人向けはIP56相当とグレードアップしている。融雪能力は75mm/hで、1.7倍向上。耐候性に優れ、厳しい気象にも対応する。

 KDDIは、国内唯一の「認定Starlinkインテグレーター」として、法人や自治体に対し、「Starlink」の導入をサポートしていく。松田氏によれば、「認定インテグレーターは、私の理解では世界で4社目。ほかの3社は海外の事業者と聞いている」とコメントした。

 松田氏は「衛星が多く打ち上がっているなかで、それに対応した地上局も必要になる。先ほど山口の例を紹介したが、複数の地上局の構築が終わり、全国をカバーできる体制が整った」と続け、今後の展開への自信をのぞかせた。

 「Starlink」のユースケースとしては、社会インフラの老朽化への対応、未開の土地を開拓する際の通信環境整備、自然災害への対応などが想定される。

 また、「Starlink」が「マリタイム(MARITIME)」としてサービス化しているものとして、海上での利用も期待されている。これについて松田氏は「マリタイムは現状、日本では提供できていない。我々も総務省と協議を進めており、領海内での制度は準備できている。早期に提供できるようにしたい」と語った。

質疑応答

――法人向けの「Starlink」サービスについて、価格などはどうなるのか。

松田氏
 複数の料金プランを準備していまして、通信そのものの料金と、あとアンテナを組み合わせたかたちで提供しようと思っています。料金体系についてはもう少しお待ちいただければと思います。

――昨年、バックホール(基地局をコアネットワークにつなぐ回線)での「Starlink」との提携を発表し、今回は法人向けの販売になる。今後の提携の拡大の可能性について知りたい。

松田氏
 バックホールでのパートナーシップに続いて、法人向けの「Starlink」ビジネスも開始しました。まずはここをしっかり深くやっていきたいと思います。

 あとは海上利用について、制度面を含めて調整すべきことがありますので、そこも進めていきたいと思います。

 加えて、「Starlink」からの発表にあったように、スマートフォンとの直接通信もあります。ここも制度面などいろいろありますが、技術的な検討を含めて検討していきたいと考えています。

――スマートフォンと衛星の直接通信について、技術的な課題や制度的な課題はどこにあるのか。

松田氏
 iPhoneで発表された衛星通信機能は、衛星通信に使っている周波数をスマートフォンに搭載しています。一方、「Starlink」が発表したのは、今陸上で使っている周波数を、衛星で使うというものです。

 厳密に言えば、陸上で使っていい周波数と、衛星で使っていい周波数は、国際的にも区分が分かれています。そこが制度面での課題として挙げられます。

 技術的な面で、通信速度がどの程度になるのかといったことは、衛星側のアンテナの大きさなどにもよります。あと、今あるスマートフォンのままで直接通信することを考えると、いくつか技術的な課題が残っています。

――個人向けのアンテナの形状が丸くて、法人向けのものが四角いが、スペック上の違いを知りたい。

松田氏
 スペック上のところは(「Starlink」の)Webサイトにも出されていますが、個人用のアンテナも、近いうちに長方形のものに変わっていきます。

 一方で、この長方形の大きさが少し違います。個人向けは少し小さくても、「速度や安定性はそこまで要らないだろう」ということ。法人向けはしっかりとしたサイズ感で、性能を担保しているということです。

――個人向けのサービスについて、スマートフォンとの直接通信などへの意欲の度合いを知りたい。やや慎重な表現だったと思うが。

松田氏
 我々は情報通信企業として、周波数をどうルールに沿って使うか、という部分に一番重きを置いています。ですから、ある意味、制度面での課題が解消できないといけません。技術的にできるから(やる)ということではなく、制度とともに歩んでいかなければいけないと思っています。

 そして制度については、日本だけの問題ではなく、国際間調整を含む問題でもあります。そこをひとつひとつ丁寧に解消していくということで、少し慎重な発言になりました。

――時期的な見通しもないということか。

松田氏
 まだ何とも……という感じです。米国で発表された情報ぐらいですかね。

――サービス品質についても聞きたい。2年ほど前の総務省の資料でエリアカバレッジなどは開示されているが、どのくらいのユーザーを収容できるのか、見通しを教えてほしい。

松田氏
 ユーザー数は我々もつかみきれていない部分がありますが、「衛星がどんどん打ち上がっている」ということが、今までの衛星通信とは違うポイントです。

 今までは衛星が1機打ち上がって、その容量の中でどういう風な割り当てをするかということでした。今回は、次から次へと衛星が打ち上がっていて、そうした意味での容量の拡大はスペースX側でやっていると認識しています。

 そのうえで、ビジネスユーザー向けには優先帯域を割り合てるとお伝えしましたが、プライオリティをどうつけていくかというのはあります。それが価格に反映されるということで、複数のプランを検討しているとお伝えしました。

――法人向けの「Starlink」サービスについて、具体的にどういう業界や企業をターゲットにするのか。

松田氏
 そもそも今までは、住民が住んでいらっしゃるところに通信を、ということが基本的にありました。でも、そうではないところでも通信ニーズがある、ということをいろいろな方からお聞きしています。

 たとえば建設業界やインフラ産業のようなところからも問い合わせはいただいていますので、今後は企業の方々と話していきたいと考えています。

――バックホールと「Starlink」ビジネスのすみ分けはどうなるのか。バックホールで小さい基地局を用意して提供するのと、「Starlink」の端末を提供するのは、インターネットにつながるという意味で、結果的にやれることは同じかと思うが。

松田氏
 「バックホール型は簡易基地局で」とお伝えしましたが、基地局のアンテナやポールの高さはいくつか選べるようになっています。それによってエリアの広さが調節できるので、比較的広めのエリアに持っていく場合には基地局型を提案しています。

 そうでなくて「ある程度のスポット的なところでいい」という場合は、「Starlink」のサービスをおすすめします。

 また、大きな違いとして、基地局型の場合は、スマートフォンの音声も含めて使えるという点があります。緊急呼、VoLTEの通信が基地局タイプだとできますので、音声ニーズがある場所には基地局型をおすすめしています。

――個人向けは今のところ東日本でのみ展開されているようだが、KDDIの法人向け「Starlink」は全国展開となっている。これはどういうしくみなのか。

松田氏
 (個人向けの)「Starlink」のWebサイトにある表示(東日本でのサービス提供)については、我々は何か申し上げる立場にはありません。

 ただ、テクニカルに言えば全国でサービスを提供できるはずなんです。ですから、西日本エリアはKDDIに優先してというわけではなく、法人向けは全国で最初から展開できるということです。

――「Starlink」の法人向けサービスは、一部地域では制約を受けるということだったが、これはどういうことか。

松田氏
 ひとつの衛星につき、カバーできるエリア(円)が決まっています。現時点では、ユーザーの方の端末と地上局が同じ円に入っていないと通信ができないということになっていますので、たとえば太平洋上、地上局がどこにもないような場所だと通信が制約を受けます。

――そういった部分をカバーする構想は。

松田氏
 地上局を増やしていくというのもひとつの方法ですが、もうひとつ、衛星間通信を活用するパターンもあります。宇宙空間のなかで衛星同士で通信をしてもらう、そういったことが年明けあたりから有効になってくるのではと聞いています。

――「Starlink」の法人向けサービスは、たとえば通信障害のような場合でも使えるのか。

松田氏
 今回の「Starlink」の法人向けサービスは、スマートフォンのVoLTEには対応していません。ただ、データ通信について、地上のネットワークがダウンしたときでも衛星経由で使えるという意味では、バックアップ回線として使っていただけると考えています。

――au基地局へのバックホール回線への利用について、すでに開始しているのか。そうでなければ、いつごろ開始する見込みなのか。

松田氏
 「昨年発表してから、まだ始まっていないではないか」というお声だと思っています。年内導入と書いていまして、時間がないことも十分に理解しています。現時点ではスタートしていませんが、近いうちにご案内できると思っています。

――他社が進める「HAPS」と比べて、高度を考えると「Starlink」が不利な面もあるのではと思うが。

松田氏
 それぞれの高度に応じた一番強い利用シーン、というものがあると思っています。

 さらに言えば、「Starlink」の強みは「今すでにそこにある」ということで、毎年コンスタントに衛星を打ち上げているという点も大きいと思います。

――「Starlink」事業として、どの程度の売上高を見込んでいるのか。

松田氏
 その点についてはなかなか答えられない部分でして、ご了承いただければと思います。