インタビュー

auはなぜシャオミのチューナーレステレビを発売したのか

 10月、KDDIは、周辺機器などを取り扱う「au +1 collection」の新製品として、シャオミ製のチューナーレステレビ「Xiaomi TV A Pro」を発売した。

 au +1 collectionでは、スマホ関連機器など多彩な製品ラインアップが推進されてきたが、auショップ(オンライン含む)限定で32インチ/43インチ/55インチ/65インチという大型製品が扱われることに、発表時、驚きの声が相次いだ。

 ちなみに、KDDIによれば、発売から約1カ月を経て、これまでに事前に計画していた数量の3倍が売れたという。

 なぜ、auショップでチューナーレステレビが扱われることになったのか。au +1 collection担当者であるKDDIの西田麻衣氏と小川真一郎氏、スマホなどのプロダクトを担当し今回はメーカーであるシャオミとの窓口役も担った林清鎮氏に聞いた。

左から林氏、西田氏、小川氏

au +1 collectionの進化とシャオミの取り組みがマッチした

 今回の取り組みのきっかけは何だったのか。

 ひとつはシャオミの製品ラインアップの豊富さ。KDDIのなかでも、さまざまな製品を扱う「au +1 collection」チームの西田氏、小川氏にとって、その製品群は魅力的に見えていた。

 そんななかで、シャオミ側から「台湾でテレビを販売しているが、関心はある?」と打診を受けたという。

 もともと関心を持っていたところに、この打診は渡りに船。とはいえ、スマホを軸としてきたauと、テレビという組み合わせには、どうしても唐突な印象を持ってしまわなかったのか――。

 筆者のそうした疑問に、西田氏は「家電量販店さんのようにテレビを売るというイメージではないんです」と語る。

 この言葉の背景には、KDDI、なかでもauブランドで「Netflix」「Amazon Primeビデオ」「TELASA」など映像配信サービスとスマートフォン向け料金プランをセット(バンドル)したものが展開されていることがある。

 西田氏の言葉は、auが料金プランとして提供するその方針が、いわばソフト(コンテンツ)とハードウェアを融合させる体験価値の提供であることを示す。

 そうした土壌があると、auショップ店員も映像配信サービスについての知識を持っていることになる。つまり「チューナーレステレビを販売する」=「スマホよりも大画面な映像デバイスを販売する」ことになり、強みのひとつとなり、ユーザーに丁寧な説明を提供できることにもなる。

 また、auショップの強みは、その位置する場所とも関わる。auでは、携帯電話会社として、他社と同じく全国各地にショップがあるわけで、当然、都心や郊外などさまざまなロケーションに位置し、そこを訪れる人も多種多様だ。

 そんなスポットで、比較的安価、そして大画面なチューナーレステレビを店頭で体験でき、それも「ほとんどの店舗に置かれている」(西田氏)ようにした。さらには、店舗内のレイアウトにあわせた展示になるよう、発売後も改善が図られている。

キャンペーン価格(2024年1月8日まで)
モデル価格
32インチ3万2780円
43インチ4万9280円
55インチ6万5780円
65インチ9万3280円

テレビのほうがわかりやすい

 一方、テレビに装着するスティック型のストリーミングデバイスや、いわゆるセットトップボックスといった製品でも、「大画面で映像を楽しむ」ことはできる。

 だが、今回、インタビューの応えた3人は「テレビのほうがわかりやすい」と口を揃える。

 スティック型のストリーミングデバイスは1万円以下でも購入でき、比較的、手に取りやすい。だが、テレビのどの端子に装着するのか、電源供給はどうするのか、といった点は、一定のITリテラシーが必要な可能性がある。

 一方、価格はある程度するが、テレビというかたちになっていれば、Wi-Fiなどの設定は必要だが、「買ったあとのハードル」は低い。この点と、先述した「auショップ店員のスキル」は相性がよいと言える。

大画面で映像コンテンツを楽しむ習慣が広がってきた

 一方、ユーザー側の行動も変化したことが、「Xiaomi TV A Pro」の好調さを牽引していると林氏は語る。

林氏

 林氏は「以前からスマートフォンとタブレットをご提案してきた。たとえばタブレットは電子書籍や映像を使うといった用途。だが、動画の利用が広がってきて、より大画面へのニーズが高まってきた。そこで今回のテレビをご案内するという話にもなった」という。

 この数年、コロナ禍で人々の移動が制限され、「自宅で楽しむ」あれこれが増えた。とはいえ、今春、そうした制限が大幅に緩和されている。

 これらの環境の変化は、「移動する人が増えてスマホ・タブレットで動画を観る」のか、「引き続き大画面で観ることを選ぶ」のどちらになったのか。

 これに林氏も西田氏も、「大画面の快適さが根付いたのではないか」と指摘する。

人気の画面サイズは?

 発売から1カ月を経た「Xiaomi TV A Pro」は、冒頭で触れたとおり、「もともと目指していた販売数の3倍売れた」(小川氏)という。

小川氏

 ショップからすぐ仕入れたいと要望が寄せられ、入荷してはすぐ店頭に置くという状態。

 32インチ、43インチ、55インチ、65インチという4種類がラインアップされているが、小川氏によれば「発売前は32インチが人気になると思っていたが、発売後、最初に直面したのは43インチが足りなくなった」という。

 「基本的にはリビングに大きなサイズのチューナー付きテレビがあり、2台目としての需要を狙っていた」(林氏)とのことで、子供がメインのテレビをYouTube視聴で専有してしまい、もう1台欲しいといった声に対応できると読んでいた。

 2台目であれば32インチ、43インチで事足りそうだが、さらに55インチと65インチという大画面までラインアップしたのはなぜか。西田氏は「チューナーレスというお手頃な価格を、(店頭で)体験しながらご説明できるのは私たちだけではないかと思っている。きちんとしたターゲットとしてニーズを掘り起こせるのではないかというのはちょっと感じていた」と振り返る。

 購入する人も、割賦ばかりではなく、一括で購入する人もそれなりにいるとのこと。

ローカライズで「Google TV」搭載に

 台湾で販売されていた「Xiaomi TV A Pro」シリーズの元モデルのソフトウェアプラットフォームは、Android TVだった。

 一方、2020年10月、グーグルはストリーミング対応テレビなどに向け「Google TV」を発表済み。徐々に広がりを見せていたGoogle TVだったが、日本での発売にあたり、KDDI側がシャオミに求めたローカライズのひとつがGoogle TVの搭載。

 そのほかにも、メニュー画面の日本語表記の監修や、プリセットアプリから海外向けのものを外すといったカスタマイズも施されている。ただ、それ以外の大きな要求はせず、法制度への対応といったあたりは確認したものの、ハードウェアもほぼ元モデルのままで販売されることになった。

 ちなみに、故障時などの対応は基本的にシャオミ側で対応する。

 そもそもチューナーがない、という点については、テレビ視聴がかつてよりも減少していることや、郊外であればケーブルテレビ契約者も多くセットトップボックスを導入済みの世帯もあることなどから、チューナーレスで十分、魅力ある商品となっているようだ。

ワクワク製品をこれからも

 全国のauショップでチューナーレステレビを販売することになった今回、担当者たちは、KDDIだけではなく、シャオミ側、Google TVのチームなどとも連携してきた。KDDI社内でも、新しいもの・ワクワクするものを受け入れる社風とのことで、後押しする雰囲気だったという。

 今後について、西田氏は「当社ならではの品揃えとして、ARグラスのようなものを独占提供できるか、検討している」とコメント。先進的なデバイスのひとつではあるが、通信事業者がチャレンジすべき分野として、取り組んでいきたいと語っていた。