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衛星で「圏外でもスマホつながる」――KDDIとスペースXが提携、髙橋社長が語る未来の姿

左:KDDIの髙橋社長、右:スペースXのオチネロ氏

 KDDIは30日、米スペースX(Space Exploration Technologies)と新たに業務提携した。スペースXの衛星とauのスマートフォンが直接つながり、接続するサービスを2024年内を目処に提供する。

 今回の衛星通信サービスでKDDIが目指す世界とは――発表会にはKDDI 代表取締役社長 CEOの髙橋誠氏らが登壇し、今後の展望などを語った。

髙橋社長

どんなサービスが提供されるのか、競合他社の動向は

 今回のサービスでは、スペースXの衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」とauの通信網を活用。auのスマートフォンが衛星と直接つながり、空が見える状況であれば圏外でも通信できるようになる。

 サービスは2024年内を目処に提供が始まる予定。SMSなどのメッセージ送受信から始まり、音声通話やデータ通信にも順次対応する。既存の周波数帯を使うため、現行のauのスマートフォンのまま、衛星と通信できるとしている。

 料金は未定。auやUQ mobile、povoで利用できるようにするという。

 スマートフォンと衛星が直接つながるNTN(非地上系ネットワーク)の取り組みとして、NTTドコモとソフトバンクでは、HAPS(High Altitude Platform Station、高高度プラットフォーム)の開発を進める。

 また、楽天モバイルは米AST SpaceMobileとタッグを組み、「スペースモバイル(SpaceMobile)」プロジェクトを進めている。

 今回の発表により、KDDIが他社を一歩リードするかたちで具体的なサービスの姿を示した。

「空が見えれば、どこでもつながる」世界の実現へ

 これまでKDDI(au)は、「ずっと、もっと、つなぐぞ。」をスローガンとし、通信エリアの拡大を進めてきた。

 鉄道路線や商業地域などだけでなく、“非日常をつなぐ”ということで、山間部や島しょ地域、野外イベントでもエリアづくりに取り組む。

 とはいえ、通信エリア拡大について「まだまだ課題は多い」と髙橋氏は語る。ネックになるのは日本特有の地形だ。

 髙橋氏が披露したデータでは、日本の山の数は1万7000弱。アルプスの山々で知られるスイスでも約9000で、いかに日本の山が多いかがわかる。

 また、日本には約1万4000の島があり、これは世界で5番目の数字だという。

 こうした地形のため、人々が住める土地の割合を表す「可住地面積率」は33%にとどまる日本。欧米は約6割以上とされ、「そういう意味では通信が使えないエリアがまだまだ多い」(髙橋氏)。

 KDDIでは、通信の人口カバー率と比較すると低い水準にある面積カバー率を上げるべく、衛星通信サービスのStarlinkを提供するスペースXと新たな業務提携を結んだ。

 具体的な内容として、先述の通り、日本全土をカバーする衛星とスマートフォンが直接通信できるような取り組みを進める。スローガンは「日本のどこにいても、つながらないがなくなるように」。空が見えれば圏外でもつながる通信によって、新次元のエリアカバー”を目指す。

 髙橋氏は「人口カバー率99.9%は、ドコモさんもソフトバンクさんも我々もほぼ同じ。これからの差別化のポイントは“非日常をつなぐ”ということ」と語り、2024年内とされるサービスインに向けて自信を見せた。

Starlinkは「ゲーム・チェンジャー」

 KDDIが提携するスペースXは、TwitterからXへの変更で耳目を集めるイーロン・マスク氏によって2002年に設立された。以来、70mの大きさの「Falcon 9」に代表されるようなロケットを打ち上げ、衛星ネットワークの構築を進めている。

 すでに5000基以上の衛星が打ち上げられ、「Starlink」の通信サービスは7大陸60カ国以上で提供されている。

ロケットを再利用しながら打ち上げを進めている

 従来のインターネットサービスが使えないような場所でも、「Starlink」によって、たとえばゲーミング用途にも対応可能な高品質のサービスが利用できる。

 スペースXがパートナーシップを有する国は、米国、カナダ、豪州、ニュージーランド、スイス、そして日本。スマートフォンと衛星の直接通信について、KDDIはアジア初のパートナーとなる。

 スペースXでコマーシャル・ビジネスのシニア・バイス・プレジデント(SVP of Commercial Business)を務めるトム・オチネロ(Tom Ochinero)氏は、Starlinkのサービスについて、通信の世界を一変させるという意味で「ゲーム・チェンジャー(Game Changer)」という単語を何度も出した。たとえば緊急時にStarlinkによって通信が利用できれば、それは人々の命を救うものにもなる、と同氏は熱を込めた。

オチネロ氏

質疑応答

 発表会後の質疑には、KDDI 取締役執行役員 パーソナル事業本部 副事業本部長 兼 事業創造本部長の松田浩路氏と、スペースXのオチネロ氏が答えた。

松田氏

どんなサービス? 料金は? UQ mobileやpovoでも利用できる?

――(KDDIでは)法人向けのStarlinkサービスはすでに提供している。今回の個人向け直接通信サービスについて、価格の方向性は。

松田氏
 法人向けのサービスに対し、今回はスマートフォンに直接入るかたちです。料金(面)はこれからですが、au、UQ mobile、povoでお使いいただけるようにしたいと思います。

――オプションのようなかたちになるのか。

松田氏
 (既存の)プランに包含するかたちにするのか、オプションにするのかということも含めてこれからです。基本的にはプランに入っているほうが、お客さんにとっては優しいと思いますが……。

――直接通信について、まずはメッセージからスタートし、音声通話やデータ通信に順次対応するということだった。技術的なハードルがあるのか。

松田氏
 衛星のアベイラビリティ(可用性)というか、計画、マイルストーンによって当初はSMSへの対応になります。SMSの場合ですと、(通信が)少し簡潔になります。

オチネロ氏
 まずはSMSからスタートし、ユーザー体験を確立したいと考えています。

――端末によってサービスを利用できたりできなかったりするのか。

松田氏
 基本的には既存の周波数で、と考えていまして、今のスマートフォンがそのまま使えます。

 ハードウェアもソフトウェアも変えずに使えるようにしたいと思います。

――現在、Starlinkは日本の国土をすべてカバーしている。携帯電話と衛星の直接通信は、現在のKDDIのサービスエリア以外をカバーするのか、全国をカバーするのか。

松田氏
 (今回のサービスは)Starlinkの衛星からですので、日本中がカバレッジということは変わりません。

――衛星との直接通信は、地上のKDDIエリア内でも使えるのか。

松田氏
 使えますが、基本的にはauの電波が圏外になるようなパターンで、衛星の基地局を利用するイメージです。

技術面について

――空が見えれば全国カバーできるという話だが、山林が非常に多い日本では、空が見える場所がそもそも少ない。

松田氏
 山林もありますが、ある程度のクリアランス(視界)が取れれば(問題ない)ということで、川や沢に出ることを想定していますし、本当に山があって空が見えないエリアについても確認はしています。

――使う電波の帯域は。

松田氏
 基本的にKDDIの周波数を使わせていただくということでやっています。いわゆるミッドバンドの周波数帯を使えるよう、国内外のルールをクリアしていこうということで計画しています。

――既存の周波数を衛星から吹くと地上と干渉しそうだが。

松田氏
 今からの実証によりますし、衛星側のコントロールもあると思いますので、そこ(干渉)はもちろんないようにするというのが今回のポイントです。

――プラチナバンドは使わないのか。また、ローミングで(KDDIが)貸し出しているところもあると思うが。

松田氏
 ミッドバンドにはさまざまな定義がありますが、基本的にはグローバルにいろいろ使われているバンドのことを言っています。

 プラチナバンドはもう少し低い周波数帯で、国内の電波の浸透性という面でカバレッジを広げています。

 今ローミングで貸し出しをさせていただいていますが、そこは計画していません。

――スペースXは、国際的にも同じ周波数帯を使うのか。

オチネロ氏
 それは、(その国における)パートナーシップによります。

今後の展望

――直接通信について、日本以外で実現している国はあるのか。

オチネロ氏
 今の時点ではサービスを始めていません。我々のパートナーシップがある国でもまだ実験段階です。

――日本でも、たとえば米国と同時のサービスインを目指すのか。

松田氏
 衛星打ち上げのマイルストーンによります。国ごとにポリシーがあるかもしれませんが、我々としては遅れず、同じタイミングを目指したいです。

――日本特有のユースケースを想定していれば教えてほしい。

松田氏
 我々はやっぱり、(人口カバー率として)99.9%以上のお客さまに対して、そこはしっかりと今までの拡張としてやっていくということです。

 ただ、可住地面積率の低さもあり、携帯電話でもカバーできないようなエリアで空が見える場所は多くあると思います。ですので、そういうところをカバーしていこうという考えです。

 日本特有のユースケースとしては、「住んではいないが行くところ」があると思います。たとえばキャンプ場や登山道、あるいはゴルフ場など……。

 人が行くところはカバーしますが、(今回のような取り組みで)補完しながらやっていきたいと思います。

――KDDIとの独占契約なのか。今後、ドコモなどが同じようなことをする可能性は。

松田氏
 我々とスペースXさんは、長期にわたってパートナーシップを築いてきました。いろいろなユースケースを開拓しているということで、そういった意味では我々は先行しているプレイヤーだと思います。

 今回の直接通信においても、我々が先行して進めていきたいと思っています。

――au回線を使っているMVNOがこのサービスを使いたいと言ったらどうするか。

松田氏
 テクニカル(技術的)にできるかどうかは検証の必要があると思いますので、今は回答できる段階ではありません。