石川温の「スマホ業界 Watch」

「NTT法」見直し論はボトルネック設備めぐり沸騰、“ニッポンの未来”につなげるべきだ

 「NTTの話は詭弁だ」

 そう吐き捨てたのはソフトバンクの宮川潤一社長だ。

 NTT法について、通信業界が真っ二つに割れている。事の発端は自民党による「防衛財源の確保」として政府が保有するNTT株の売却話だ。

 政府がNTT株を売却するにはNTT法の見直しが必要となっている。それを契機と捉えたのか、NTTはNTT法を廃止に持って行こうとしている。一方でKDDI、ソフトバンク、楽天モバイルやケーブルテレビ会社など180者が「NTT法を見直すのは賛成だが、廃止は絶対に反対」と声を上げているのだ。

 KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルなどは、NTT法を廃止することによって、NTTがNTT東西やNTTドコモを吸収し、一体化してしまうのではないかと恐れているのだ。

東西が握るボトルネック設備、値上げされても持株には影響なし

 特にNTT東西には、全国に7000を超える局舎や、全国110万kmに及ぶ光ファイバー網がある。KDDIやソフトバンク、楽天モバイルはNTT東西が持つ施設に接続してもらうことで、全国で4Gや5Gサービスを提供している。

 これが将来的にNTT東西とNTTドコモが一緒になってしまえば、NTT東西は接続料を値上げするなんてことも予想される。

 楽天モバイルの三木谷浩史会長は「値段を上げようが下げようがNTTに連結されていれば関係ない。自分がNTTのCEOだったら、間違いなく値上げするだろう。(島田NTT社長の)『NTT東西とNTTドコモとは統合はやりません』という口約束のコミットだけで済む話ではない」と懸念する。

 設備への接続料金が値上げされれば、ユーザーに対する通信料金も値上げせざるを得なくなる。そのため、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルは「NTT法の廃止は国民に不利益になる」と主張するのだ。

 「NTT東西が持つ特別な資産」をどうするべきか。これが今後、NTT法を見直すひとつの注目ポイントとなる。三木谷会長はNTT東西が持つ特別な資産を「国民の血税や電話加入権を支払ったお金で作ってきたもの。しっかりした特別な法律で管理する必要がある」と指摘。KDDIやソフトバンクなどは「NTT法を廃止したいなら、NTT東西から分離すべき」としている。

 これに対して、NTTの島田明社長は「NTTの民営化時に政府に株式を割り当てた時点で(NTT東西が持つ)資産は株主である政府に帰属した」と主張。その後、3分の2を民間に移転したことに伴い、それに見合った最終的な帰属は民間の株主に移転しているとしたのだ。

 それに対して宮川社長は「NTTの話は詭弁だ」と憤るのだ。

 宮川社長は「公社時代の継承資産(ボトルネック設備)を保有して運用しているのはNTT東西だ。この東西の株はNTT持株会社が100%、保有している。継承資産は株主のものであり、僕にはNTT自身が直接、関係ないといっているように聞こえた。継承資産を有していることの当事者意識が希薄しているのであればとても残念。一度、国に継承資産を返すべきだ」とまで主張した。

 全国にある局舎や光ファイバーは5Gや来たる6G時代に向けて重要なインフラになる。

 楽天モバイルの三木谷浩史会長は「NTTの局舎にはいま我々の通信用サーバーを貸していただいている。これが、これからはエッジコンピューティングで何をやるかが重要になってくる。AIやコンテンツをNTTの局舎に置けるようになると、レイテンシーが40mm/秒や30mm/秒、さらには数mm/秒の世界になっていく。

 そういう意味では、さまざまなかたちで局舎を柔軟に使えるようになると、日本のワイヤレスは世界に類を見ないぐらい速くて便利になっていく。さまざまなことがモバイルでできるようになる。

 エッジコンピューティングのために局舎を開放していくことは、重要なことだと思っている」と語る。

 実際、楽天シンフォニーがドイツの事業者に技術提供しているが、そこではすでに数mm/秒の通信が実現できているという。

対立構造の加速に懸念

 NTT法のあり方について、業界内がこじれていくことで「NTTとそれ以外」の対立構造が加速していく懸念が出てきた。

 宮川社長は「NTTとNTT以外の意見が対立していることになる。これがもし押し切られてNTT法が廃止になると、我々は最後まで腹落ちしなくなる。そうすると、ずっと『NTTが嫌い』ということになる。通信会社はこれまで協力して技術面で業界を引っ張ってきたが、こんなことで分裂して良いのか。やはり、一方的に決めるのではなく、お互い、本当に腹を割って話し合い、議論した上で次のステージにいかないと、このしこりは10〜20年では取れないと思う。ニッポンの通信にとって、とても悲しいことになってしまう」と悲観する。

 ただ、NTT側も「ニッポンの未来の通信を良くしよう」という思いがあることは間違いないようだ。

 NTTの島田社長は「ブロードバンド回線をあまねく普及させることで、国民の皆さんに進化しているテクノロジーをいかに享受してもらうかが重要だ。そういう観点で、先を見据えた議論をしていくことが今回の見直しでは大きな要素になる。うしろ向きな話をしても、未来は生まれてこない。国民にとって次のインフラはどうすべきか。新しい技術を日本で花開かせる未来のビジョンを描いていくために制度化を進めるべきだ」と国民のメリットを強調する。

 NTTとそれ以外がいがみ合っている場合ではない。まずは日本を代表する4社が同じテーブルにつき、未来の国民の通信インフラがどうあるべきか。そのためにNTT法はどうすべきかをじっくりと話し合わなければ、国民不在の「NTT法の見直し議論」で終わってしまうことだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。