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「日本の復活には意志が必要」NTT法をめぐる会見で島田社長が語ったこと

島田社長

 NTT(持株)は19日、改正が検討されているNTT法に関して会見を開いた。島田明代表取締役社長 社長執行役員が登壇し、NTT法に関して見直しを求める考えをあらためて示した。

島田氏の主張

公正競争について

 島田氏は、公正競争条件について、NTT法ではなく電気通信事業法で規定されていると説明。NTT東西では総務省の検証を受けつつ、すべての事業者に公平にネットワークを提供しているとし、今後も法律を遵守していくとした。

 なお、NTT東西とドコモを統合する考えはまったくないという。

研究開発の推進・普及責務

 NTT法で定められている、研究開発の推進・普及責務について「撤廃すべき」と島田氏。IOWNなどの研究開発をパートナーと連携して展開するうえで、経済安全保障や国際競争力強化の支障となることから、これを撤廃すべきと主張した。

ユニバーサルサービス義務

 ユニバーサルサービス義務について、音声・データ通信を、固定や無線、衛星などにより、各地域に最適な方法で最適な事業主体が担うべきと主張。

 海外の事例と同様、NTT法で定められている固定音声サービスも含め、電気通信事業法で定められているブロードバンドサービスのユニバーサルサービス義務に統合すべきとした。この場合、交付金制度などが整えば、NTT東西としてはラストリゾート責務を担うという。

外資規制について

 主要国では特殊法人法が廃止されており、ユニバーサルサービスは事業法で規定されている。外資規制に関して、ほとんどの国において外為法で規制されている状況。島田氏は国内での状況について、「NTTだけに外資規制を課すことは無意味」とコメントした。

 同氏は、ロシアの産業スパイがソフトバンクのモバイル設備の情報を国外に持ち出した事例を紹介。NTT法でNTTのみを守っても無意味であり、外為法などの法令で主要通信事業者を対象にすることを検討すべきと語った。

「NTT法は結果的に廃止になる」

 研究開発の推進・普及責務やユニバーサルサービスの義務が撤廃されることにより、「NTT法は結果として廃止につながる」と島田氏はコメントした。

質疑応答

NTT法に対する姿勢

――NTT法の廃止を求めているということでいいのか。

島田氏
 結果として廃止につながるということです。NTT法では、いわゆるメタルの固定電話のユニバーサルサービスの義務と、研究開発の責務の2つがあります。

 固定電話は1530万のお客さまがまだいらっしゃいますので、そこについてはしっかりやっていく必要がありますが、将来的に、10年後ぐらいには500万程度に減ることが想定されています。

 今求められているのは、ブロードバンドをユニバーサルサービスにすべきだということ。そこは電気通信事業法で規定されていますので、そのなかに音声も含めて統合することで、(メタルの)固定電話のユニバーサルサービスの義務がなくなります。

 研究開発の義務については、今の時代に残すことが正しいと思っている人はほとんどいらっしゃらないと思いますので、そちらは廃止するべきだと。

 NTT法自体は、その2つの責務を果たしなさいという法律ですので、責務がなくなれば中身がなくなる。当然、必要ではないという理解です。

――NTT法廃止について、自民党のPTでも同じように発言したのか。

島田氏
 廃止ありきではなく、結果として廃止になるでしょうと申し上げています。NTT法のユニバーサルサービスのところを電気通信事業法のなかに巻き取れば、結果としては廃止になりますよね、ということ。

 なぜこういうことを申し上げているかというと、ブロードバンドのユニバーサルサービスは電気通信事業法のなかで規定されているからです。

 たとえば三重県とか奈良県は、NTTの光ファイバーのシェアが38%。62%は、ほかの事業者さんが光ファイバーを提供しているんです。我々だけが提供するようなしくみになっているわけじゃないので、電気通信事業法のなかで運用を確立させる必要がある。

 諸外国はどうしているかというと、誰も手を上げないところは政府が事業者を指名するような規定が、事業法のなかにあります。日本もそういうかたちにして、誰もやる人がいない場合、条件などが整えば、我々もやる覚悟はありますよということを申し上げています。

――180者から反対の意見書があったが。

島田氏
 いろいろなかたちの競争があります。競合事業者さんは、なるべくNTTに足かせをかけているほうがいいと思われるはずなので、反対されるのは仕方ない。

 ただ、NTT法は40年前の法律であり、不要になってきているものについて見直しをしていくのは当然の流れだと思っています。

タイミング

――これまで、NTT側から廃止というワードは明確に出ていなかったように感じる。このタイミングになった理由は。

島田氏
 別に、前から考えていました。ただ、言うタイミングをやっぱり考えていて、今日のタイミングで申し上げるのがいいと思っていました。

 情報通信審議会で9月12日に発言していますが、中身をよく読んでいただければ、まったく同じことを申し上げています。結果的にはNTT法は不要になるという論理構成。

 ただ、まわりくどい言い方をしていても、なかなかご理解を得られないので……単純に廃止すればいいと言っているわけではありません。責務を電気通信事業法に取り込むなどすれば、NTT法の廃止ができるのではと申し上げています。

――NTT法の廃止についてタイミングを探っていたということだが、今回がそのタイミングということか。

島田氏
 9月12日に同じようなことを言っていますが、こういうふうに(資料を出して)書かないと皆さんに理解していただけないので。

 電気通信事業法の適用の関係など、ごちゃごちゃにして議論されている方が多いので、そこは我々も言っていかないと、間違った判断をされてしまう可能性があります。今回、そこは明確にしたつもりです。

――不要とされているNTT法について、これまで具体的にアクションをしてこれなかった点については。

島田氏
 メタルの固定電話のお客さまの数が多いときに、そういう議論を始めると、利用者のご不安になったりするといけない。実はそろそろ、この議論はしなくちゃいけないというのはずっと考えていました。

 固定電話の赤字は増えてきて、ユニバーサルサービスのところだけ取り出すと600億円の赤字です。これがだんだん増えていくと、NTT東西の経営も圧迫してくる。

 そろそろ固定電話のあり方について議論をしなくちゃいけないというのはあって、あまり公には言っていませんでしたけど、関係者に話していたのが昨年~今年にかけて。そのなかでこういう議論が始まりましたので、我々としても明確なデータを示して、議論できることはありがたいと思っています。

今後のスケジュール

――法改正の実現時期について、いつごろ実現したいというスケジュール感はあるのか。

島田氏
 法改正は政府がお決めになることなので、ちょっと我々が申し上げるものではないと思います。一気にやるのか段階的にやるのかというのもありますし、電気通信事業法のブロードバンドの交付金のスキームは、議論を始めたばかり。

 そういうものを整備して議論していくので、一定の期間が必要なのではないかというふうには思います。

 たとえば研究開発の責務は改正しようと思えば意外と簡単にできてしまうので、私どもが言うのもあれですが、来年とかでもできるかもしれない。ただ、全体の事業法の整備になると、時間はかかる気はします。

――固定電話のあり方についての議論が必要だと、少し前から考えていたとのことだった。自民党で防衛財源の特命委員会が立ち上がり、その後NTT株の売却の話があった。最初は株の売却が議論の中心だったが、今夏にPTが立ち上がり、NTT法の話に変容していった印象がある。PTが立ち上がったのは、NTTが自民党にいろいろ話して、理解が広がったということなのか。

島田氏
 それはまったく違いますね。固定電話の赤字の問題は、事業者として議論をすべきなのでやっていますが、自民党のほうに一切話していません。

 我々の努力の結果としてこういう話になったわけではない、という認識です。

――電気通信事業法を具体的にどうする、といった議論は。

島田氏
 それはこれからです。電気通信事業法のなかの交付金のしくみや詳細については、実は議論しているところなんです。

 議論のうえでしっかり規定していけば、固定音声の話も整理できるし、将来赤字が増えていくメタルの固定電話をどうやって代替するのかということも考えられる。その議論を深める必要があります。

――法改正にあたって、段階的に進めたいのか、どうせ手を付けるなら一気にやりたいのか。

島田氏
 政府の株保有についてのコメントはしませんが、一気に進められたほうがそれはベターです。

 ですが、法改正にはちゃんと手続きが必要。それは政府が手続きを進めることであって、どれくらいの時間かかるのかというのは我々にはわかりません。

ドコモとの統合、競争環境など

――NTT法の話なのに、競合他社がNTT東西とドコモの話を持ち出すことについては。

島田氏
 全然間違っていると思っています。

 公正競争は電気通信事業法のなかで規定されていますので、私どもも将来にわたってしっかり遵守していく。NTT東西とドコモを統合しないということについて、「担保がない」と言うのであれば、たとえば電気通信事業法の禁止行為のなかに書いてもらっても構わない。

 NTT東西とドコモの役員の兼任など、構造的なルールを電気通信事業法のなかに書いていただいているので、そこに加えて書いていただくのはやぶさかではありません。

 不要になった法律をずっと残していく必要はないと思いますし、未来の日本の情報通信産業の成長に向けて、諸外国と同じような環境整備をしていくほうが正しいのではないかという認識です。

 諸外国で言えば米国も英国もフランスもドイツも(環境整備を)やっていて、豪州にはテルストラ法がありますが、テルストラ法はあくまで外資の規制だけ。外資の総量規制と、外国人役員について制限を設けていて、それ以外は(制限が)全然ない。(規制があるのは)日本だけですね。

――NTTから通信網を切り離して中立的な会社にすることで、中立を担保できるのではないかという声もあるが。

島田氏
 日本は光(ファイバー)の普及率が99.7%で、100%近いところまでいっています。海外では、米国は48%、英国は42%、フランスは53%、ドイツは15%。

 我々は電気通信事業法を守って、800社(NTT東日本)、740社(NTT西日本)の事業さんに(ネットワークを)提供しているので、次のステップとしてインフラ自体も高度化していく必要があります。

 そのためにはやっぱり研究開発能力と、それからお客さまの声も聞けるようなかたちの事業体でないと、お客さまが求められるようなサービスを提供できるかたちにならないと思います。

 仮に分離をして、国の組織みたいなかたちで持っていったとして、次の日本のインフラを担えるような構造が、アクションとして本当にできるのかと。そういう議論をぜひしていただきたいと思います。

――たくさんある論点のうち、NTTの成長にとって妨げになっている大きなポイントは。

島田氏
 一番重たいのは、研究開発の推進や開示の責務です。これは今、グローバル競争があるなかで、言葉を選ばないといけませんが、いろんな陣営が世界で分かれはじめたりしている。

 そういう時代において、本当に我々が今後も研究開発をしていって、成果を世界のどこにも開示していって本当にいいんですか、と。

 そこはやはり、日本の国益ですとか、私どもの事業を支えていただいている株主の皆さんのことも考えると、開示などの自由度をちゃんと与えていただいた方がありがたい。

 40年前は(責務にも)役割があったと思いますが、今の通信はもうモバイルで作っていて非常に厳しい競争状況があるなかで、我々はそういう義務を負って開示しなければならないのかと。

 NTT自体にとってもマイナスですし、日本国としてもマイナスだと思いますので、そこを見直してもらいたいと申し上げています。ただ、我々自体は研究開発の推進は自らしっかりやっていきたいので、IOWNの研究開発の費用はここ数年増やしています。

 法律にあるから研究しているわけではなく、お客さまのために最高のサービスやプロダクトを提供していくために研究開発をしている。言われているからやっているわけではなく、(責務の部分は)不要と思っています。

新たな責務

――仮にNTT法を廃止して完全民営化しても、国民からの期待は大きいと思う。NTTにとって新たな責務は。

島田氏
 我々はもともと独占で日本の情報通信をしっかり守ってきました。1985年に民営化して、それからいろいろな競争のルールができて現在に至っています。

 今は2.1億人のモバイルのユーザーさんがいらっしゃいますが、ドコモが提供しているのは35.5%。ですから、しっかり競争できる環境になってきたわけです。

 でも、光ファイバーについてはNTT東西を利用している会社さんが多くありますので、我々の責務としてはそれをどう高度化していくかというところで、インフラとしての重要性があると思います。

 そこに我々の新しい研究成果やお客さまのご要望を組み込んで、高度な情報通信インフラをさらに成長させていく。それが我々のミッションであり、これからの歩むべきだと思っています。

――ラストリゾートの責務に関する考えを聞きたい。

島田氏
 固定電話については、NTT法と電気通信事業法のなかに、いわゆるユニバーサルサービスを提供する事業者には交付金を出すという規定があります。

 ただ、ブロードバンドに関しては、シェアの差異なども踏まえて、我々ではなくほかの事業者さんがカバーされたほうが経済合理性が高いところもある。

 なるべく国民に負担をかけずにサービスを展開していく必要があると思いますので、ほかの事業者さんにも強力してもらい、一緒にカバーする方法を考えるべき。

 本当に誰も提供者がいないのであれば、競争事業者さんの最後のエンドポイントから、我々が最後の義務を負ってもいいですよということです。

 離島とかそういうところは、衛星技術などを使ったほうがコストが安くなるのなら、国民の経済的にもいいだろうと思っています。

――衛星はスターリンクもあるが、NTTがやるべきではという声もある。

島田氏
 ワイドスターIIIという衛星があります。スターリンクと同じように、アンテナのところから電波を吹いて提供できるようなしくみを提供しはじめました。静止衛星なので限界もありますが、低軌道衛星をやっていきたいという政府の意向もありますので、積極的に参加したいと思っています。

 世界との競争ということも考えて、日本もしっかり参戦していかないといけないという認識です。

――ユニバーサルサービスの責務について、NTT法では強い責務がある。電気通信事業法への移管では、責務が緩くなるような印象も受けるが。

島田氏
 諸外国は最終的に、(政府が)事業者を指定する権利を持っています。そういう法律の建てつけにして、シェアの大小などを加味して、ユニバーサルサービスを展開させるのはいいと思います。

 それでもその事業者さんが嫌だと言うなら、我々は交付金の制度などが整えば、責務を負ってもいいよということです。営利を目的にしているわけではありませんが。

 最終的に、事業者を政府が指定するという法律にして、誰も手を挙げなかったからNTTを指定するようにしてくれれば、我々はやる覚悟があります。

――交付金の制度などの条件をNTT法に入れたとしても、今の責務は重すぎるということか。

島田氏
 ブロードバンドの規定は電気通信事業法のなかに建てつけてあり、もう独占ではないんですよ。奈良だったら38%の光ファイバーしかNTT西日本は持っていないんです。

 ほかの事業者がいる中でどうやってブロードバンドの最終的なラストリゾートを決めていくのか、議論していかなきゃいけない。

コストマネージメントなど

――NTT法が不要になった場合、NTT東西とNTT(持株)の経営形態は。

島田氏
 将来的にコストの効率化を推進するにあたって、NTT東西の合併ができるようなかたちにしてもらいたいというのは申し上げました。ただ、それ以上になにかやろうと考えていませんし、ドコモと合併する必要もありません。

――NTT法廃止による料金への影響については。

島田氏
 実績を見ていただきたいのですが、光ファイバーの卸料金に関して申し上げると、マンションも戸建ても、合計して6回値下げをしています。

 今まで値上げをしたことはないですし、卸料金は届け出の義務があって、総務省で検証されるというのは法律で決まっているんですよ。接続のほうも含めてすべての事業者に同じ料金で提供しています。

 体系ができているわけで、我々が値上げしたりしたら総務省がチェックする。もしかしたらコスト増で値上げすることがあるかもしれませんが、チェックするしくみはできています。

 法律ですから、我々が勝手に値上げできるようなスキームにはなっていません。

政府による株の保有義務

――政府株保有義務については。

島田氏
 我々は、株についてはずっと申し上げているように、全部お売りになっても、持たれてもいい。そこは我々が申し上げることではありません。唯一申し上げているのは、株価に影響が出ないような売却の仕方を、ということです。

――政府が株を持っていること自体については、ニュートラルなところで変わらないというところだった。NTT法の、法律上の保有義務は撤廃すべきというスタンスなのか。

島田氏
 NTT法の責務があって、その責務がなくなるのであれば、法律自体の中身もなくなり、存在意義が消えると思っています。

 ドイツやフランスでは政府保有義務は廃止されていますが、フランスだと 13.4%程度、ドイツは、政府と政府の関係の金融機関が30.5%(株を)持っています。

 ですから、別にみんな売ってしまっているわけではない。我々は、規定がなくなったあとも政府が(株を)保有するのか売却するのか、それはもう政府のご判断という認識です。

――総務省の審議会のほうでは、法改正ではなくて運用の見直しという方向性も出ている。

島田氏
 (法律で)そうしろと書いてあるのにそうしないというのは脱法行為になってしまうので、ありえないと思っています。

グローバルビジネスなど

――今のNTT法のなかで、業務計画の認可などが、足かせになっている事例として挙げられている。こういうものが撤廃されて、実際に競争力の強さにどうつながるのか。

島田氏
 実態的にはあまりないのかもしれないですけど、事業計画で認可申請をする行為にはそれなりの手間はかかります。そういうことをやっている時間よりも、グローバルのビジネスに力を入れたほうがいいんじゃないかなということです。

――グローバルビジネスについては。

島田氏
 今NTTグループのグローバル事業について、大体2.5兆円の売上があります。お客さまは5000社いる。海外のそれぞれのエリアでサービス展開をしており、IOWNの事業は海外にも拡大したい。グローバルビジネスについては、これからも成長させたいと思っています。

――GAFAに対抗することについて、難しいのではという厳しい声もある。

島田氏
 いろいろなことを言われる人がいらっしゃいます。ですが、たとえば今の時代はChatGPTのようなものが突然出てくるわけです。

 ですから、技術開発に対してどういう見方をしていくかということだと思います。ある日突然、ブレークスルーになるような技術開発ができれば一気に逆転する。

 研究開発の投資額の多寡を話されたりしていますが、投資が少なくたって、ブレイクスルーのような技術が突然出てくれば、一気に様変わりするわけですよね。そこが技術開発に対しての認識の違いだと思っています。

 今すぐにGAFAと戦うというか、我々にとってGAFAはお客さまでもある。戦うところは戦い、使ってもらうところは使っていく。今は競争と協調の時代ですから、戦えばいいというものではありません。協業しながら新しいものを生み出すことも必要ですし、どういう姿勢を持つかということのほうが大事だと思っています。

 最初から諦めていたら日本は復活できない。日本の復活には意志が必要だと思います。

――縛りがなくなった場合、海外事業に関してやり方を変えていくのか。

島田氏
 もし(NTT法を)廃止していただけるのであれば、外国人の取締役を入れていくのは、グローバル企業としては必要だと思っています。