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「NTT法」廃止すれば国民生活に影響、携帯3社がNTTの主張に異議

 自民党内でNTT法の見直しをめぐる議論が進むなか、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの3社がNTTの主張は誤認を招く・言及不足として懸念を表明した。

 3社が言及しているのは、19日に開かれたNTTが自社の考えを訴えた記者会見での主張。同日同時間帯には3社がNTT法の撤廃に反対を表明する記者会見が開かれていた。3社では同日にNTTが報道陣に示した資料をもとに、同社の主張には言及不足な部分や誤認を招く部分があると懸念を示す。それらを踏まえ、国益・国民生活を損ねることがあってはならないとしたほか、正確な共通認識をもって慎重な議論を進めるよう求めた。

NTTの設備は競合他社も使う公益性の高いもの

 日本電信電話公社(電電公社)という国営企業にルーツを持つNTTは、現在でも公社時代から受け継ぐ資産を保有するなど、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなどに代表される競合他社とは一線を画す立場にあるといえる。

 公社時代の資産とは、全国を網羅する電柱のほか管路やとう道と呼ばれる通信回線の通り道など多額の公的資金と長い年月をかけて作られたもので、他社がこれから同様の設備を整備することは難しい。こうした設備はNTTだけが使っているわけではなく、各社が携帯電話サービスのほか固定回線の提供などにも使用しており、そうしたなかでの完全民営化には各社が警戒感を明らかにしている。

NTTの主張は言及不足

 NTTの主張では、同社と競合他社の公正な競争環境の整備は電気通信事業法における規律のみで対応できるとされる。事業法では、NTTが他事業者に対して同社の設備を貸し出す際の「設備貸出ルール」が規定されている。NTTの主張の根拠はここにあるが、NTT法には前述の「特別な資産」を保有したままのグループ統合禁止など、強大な力をもつことがないよう公正競争環境整備に関する規律があり、3社はNTTがこれを無視していることを懸念。

 ただしNTT 島田明社長は19日の会見で、NTTドコモと特別な資産を保有するNTT東西の統合は考えておらず、前2社の統合禁止は事業法に明記しても良いと主張していた。一方、ソフトバンクでは「口約束に感じられる」と不信感を露わにする。そもそも、NTT1社を規制対象としたNTT法と通信事業者全体を規律する電気通信事業法では、趣旨が異なることや特定の事業者を名指しして規律することは難しいのではとの見解も示された。

 さらに、ユニバーサルサービスの提供義務についても指摘。NTTでは、その提供義務を事業法に統合可能との見解を述べているがNTT法では、全国に電話サービスを提供する義務を定め、その撤退は認めていない。たとえどんな地域でも、電話サービスの利用者があれば提供する必要があるが、事業法ではその事業者の提供エリアにおいてのみ公平なサービス提供の義務を定めており、ある場所を不採算地域として提供エリアから外せば(=撤退)サービスを提供する義務はなくなる。

 外資系からの保護についても、NTT法の廃止により懸念が高まる。税金を投入して作られた通信インフラの基盤が外国人や外国政府などに所有されることは、安全保障上の懸念がつきまとう。

 NTTでは、ソフトバンクの技術に関する情報がロシアのスパイに持ち出されたことを例に出し、NTTのみを保護しても無意味として外為法の強化を訴えていた。一方で今回の会見では、NTTが持つ設備は他社とは規模が異なり、一概に扱えるものではないとされ、外為法の強化は国外からも投資を呼び込もうとする政策とも相反するとして、NTT法で保護する必要性が強調された。

NTT VS 競争事業者の構図ではない

 10月19日には、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのほかケーブルテレビ事業者のほか自治体など180者が連名で、NTT法見直しには慎重な議論を求める要望書が自民党と総務省に提出された。

 各社が強烈に反対しているのはあくまで「NTT法の廃止」。公社時代からの資産を持ったままの完全民営化や不採算地域での電話サービス撤退など、公正競争条件の阻害、国益が損なわれる事態を懸念していることなどをその大きな論点として主張する。

 一方で、NTTがNTT法見直しの必要性のひとつとしてあげる、同社の研究開発成果の開示義務の見直しなどについては携帯3社も見直すことを反対していない。時代にあわせた改正は必要性を認めつつあくまで国益の話として、対立したいわけではない旨を強調した。