石川温の「スマホ業界 Watch」

GarageBandワークショップで、江崎文武氏と音楽について考える

 11月9日、Apple 表参道でToday at Apple「江崎文武と一緒にiPadとGarageBandで音楽をつくろう」というワークショップが開催された。

 Today at Appleとは、世界中のアップル直営店で毎日、開催されているワークショップで、iPhoneやiPadなどの製品やアプリの使い方を無料で学べるというものだ。今回はバンド「WONK」でキーボードを務め、幅広いジャンルを活躍している音楽家の江﨑文武氏が登壇するとあって、立ち見を含めて100名近い人が参加する大盛況なワークショップとなった。

 江崎氏は登場するや否や会場に設置されていたピアノで2曲を演奏。一瞬でApple 表参道がライブ会場に変わり、参加者はピアノの音色に引き込まれてしまった。続いて江崎氏は「曲を作るのは大変なイメージがあるかも知れないが、GarageBandであれば誰でも簡単に作れてしまう。音で表現することは特別な技術は必要ない。みんなに共通した表現方法のひとつと言える」と語る。

 江崎氏自身、曲作りにおいて普段からGarageBandを活用しているという。「僕は長いこと鍵盤楽器をやっていますが、ドラムは叩けない。ビアノは自分で演奏しつつ、ドラムはGarageBandで自動入力しています。僕ができないことをテクノロジーの助けを借りているのです」

 ワークショップでは江崎氏が用意した素材を会場内で配り(参加者が掲示されたQRコードを読むか、スタッフがAirDropで配布)、GarageBandのLIVELOOLPSから「眠る時の音楽」をテーマに曲作りをするというものだ。

 実は参加者は江崎氏のファンと思われる人だけでなく、子どもや年配の男性など結構、幅広い層が集まっていた。GarageBandではフレーズを作る際に「リラックス」「明るい」といったキーワードから選んでいくことで、それっぽいパートが組み上がっていくようになっている。ドラムなどに関しても、音量やパターンをオセロの盤のようなところに置いていくと、これまたそれっぽいパートができてしまう。どれがいいか迷ったときにはサイコロのアイコンをタップすると自動的に楽器の配置を換えてくれ、これまた良い感じに仕上がっていくのだ。

 ものの数十分で参加者は「眠る時の音楽」を作り上げていった。参加者が作った曲をみんなで聴いた際には、GarageBandが奏でる音楽に江崎氏が即興でピアノをあわせてセッションしたときには、ちょっと感動してしまった。もちろん、参加者のなかにはテーマとは関係ない曲を作っている人もいたが、実に楽しそうであった。江崎氏は「母の日にお母さんの似顔絵をプレゼントする感覚で、お母さんのテーマ曲をプレゼントするとか、そういうことを恥じらい無くできるようになれるといい」と夢を語った。

 今回、江崎氏のToday at Appleを取材しようと思ったのは、個人的に「GarageBandというアプリを使いこなしてみたかったから」という願望から来ている。GarageBandは個人的にはずっと興味のあるアプリではあったのだが、操作体系などが取っつきにくく、子どもとチャレンジする機会が何度かあったのだが、楽器を叩いてみたり、マイクをつないで声を変える程度しか活用できていなかった。実際に江崎氏のワークショップを取材して、自分もちょっと曲を作ってみようかなという気にもなってきた。

 江崎氏がワークショップで語っていた言葉で印象的だったのが「子どものころの音楽の授業で苦手意識ができてしまう人が多い」という問題意識だ。確かに自分も音楽の授業が嫌いで仕方なかった。楽譜を読んでかけないといけないし、楽器の演奏も真剣に練習して、テストで完璧に演奏しないと悪い点数をつけられてしまう。音楽家の顔や名前、楽曲なども覚えなくてはならず、「音を楽しむ授業」とは無縁だった気がしてならない。江崎氏によれば「音楽を生業にしている仲間には楽譜が読めないし書けない人も多い」と聞いて、目から鱗が落ちるほどの驚きであった。

 Today at Appleを取材して感じたのが「こんな授業を小学生のころに受けていたら、音楽に対する苦手意識なんて植え付けられなかっただろうな」という発見だ。iPadとGarageBandがあれば、誰でも簡単に音楽を奏でて、さらに作れるようになってしまう。本物の楽器だと「完璧な演奏」を求められるが、GarageBandであればテクノロジーの力で、それっぽい音楽が出来上がり、作っていて満足感が得られるのが、なによりも自信につながる。GIGAスクール構想で運良くiPadが配布されている小学校や中学校は、いますぐ音楽の授業でGarageBandを教材アプリとして使うべきだ。江崎氏によれば「iPadとGarageBandを活用している学校はあまり聞いたことがない。もしかすると、どこかの私学では導入しているかも知れないが」ということであった。

 自分の子どものころは様々な「苦手意識」が植え付けられる授業があったような気がした。しかし、これからはiPadやアプリなどのテクノロジーの力で、苦手意識ではなく「得意」につながれらるような授業をGIGAスクール時代の子どもには行ってほしいものだ。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。