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解約率改善の楽天モバイル、「安さとポイントで2倍美味しい」三木谷氏が見せた自信とは

 楽天グループは9日、2023年度第3四半期の決算を発表した。同日の決算説明会には三木谷浩史代表取締役会長が登壇し、楽天モバイルを含む事業の見通しなどを語った。

 楽天グループの連結売上収益は第3四半期として過去最高の5184億円で、前年同期比10.1%増。連結Non-GAAP営業損失は前年同期比で420億円改善し、410億円を計上した。

 モバイルセグメントにおける第3四半期の売上収益は887億円で、前年同期比5.0%増。Non-GAAP営業損失は812億円で、前年同期比で364億円改善された。楽天モバイル単体では、売上収益が557億円で前年同期比21.6%増。Non-GAAP営業損失は767億円で、前年同期比で351億円改善された。

三木谷氏

楽天グループならではの強み

 楽天グループは、海外事業以外では、インターネットビジネス、フィンテックビジネス、モバイルビジネスを手掛けている。

 インターネットビジネスやフィンテックビジネスは好調で、モバイルビジネスは契約者数を伸ばしつつコストを削減。これらにより、2023年12月はNon-GAAPで単月黒字の達成を目指す。

 たとえばインターネットセグメントでは楽天市場、楽天トラベルなどが増収に貢献。フィンテックセグメントでも、楽天カードや楽天証券、楽天ペイメントが成長を続ける。楽天カードのショッピング取扱高は5.3兆円になり、年間ベースで20兆円を超えるペースだという。

 楽天グループでは、楽天カードと楽天ペイのシナジーを強化し、フィンテック経済圏の最大化を図る。楽天カードの下に楽天ペイが置かれ、統合的な運営が進められる。三木谷氏は「オンラインをやってきた楽天グループが、オフラインでもかなりの影響度を持ってきている」と語った。

 三木谷氏は国内におけるキャッシュレス決済の状況に触れ、「キャッシュレス化はどんどん進んでいて、クレジットカード比率が85%で非常に高い」とコメント。クレジットカードの次に電子マネーやQRコード決済が続き、これらを統合的に運営している楽天グループは「大変強い」と自信を見せた。

モバイルのキーワードは「クオリティ」「グロース」

 楽天モバイルの売上は21.6%伸び、557億円を記録。Non-GAAPの営業利益なども改善された。三木谷氏は「安定的に収益改善が図れている」と語る。

 楽天モバイルの契約回線数において、10月の純増数は19.2万人。2024年末までに契約回線数として800万~1000万を目指すという。

 三木谷氏が重要視するのは楽天モバイルの解約率。調整後のMNO解約率は1.44%となり、「非常に良い状況」とコメントした。同氏は「世界中が注目している楽天シンフォニーも含め、新しいことをどんどんやっていきたい」と語った。

 楽天モバイルは今後のロードマップとして、2023年を「リーンな経営の確立」を目指す「フェーズ2」、そして2024年以降を「黒字化および国内No.1キャリアへの道」として「フェーズ3」としている。

 三木谷氏は2020年~2022年の「フェーズ1」も含めて振り返り、「かなり大胆に基地局の建設を始めた。仮想化技術も確立した。フェーズ2では『マラソンを走れるようにしよう』ということでやってきたが、回線数も増加し、成長曲線に入りつつある」とコメント。フェーズ3のキーワードとして「クオリティ(質)」と「グロース(成長)」を挙げ、ネットワーク品質の向上などに努めていくとした。

 楽天モバイルは10月、プラチナバンドと呼ばれる700MHz帯を獲得した。設備投資は10年間の合計で544億円となっている。同社ではネットワークの仮想化技術も活用し、基地局展開を進めていく。既存の1.7GHz帯の基地局に700MHz帯の無線機器を設置し、低コストで展開できるという。

 三木谷氏は続いて、オープンシグナル(Opensignal)によるネットワーク評価の結果を披露。ダウンロードスピードは他社に追いつきつつあり、アップロードスピードについては「圧倒的に速い」(三木谷氏)。「今はパケットロスと言うのか? つながらないとか、他社の話が出ているが、楽天モバイルに関しては一貫した品質ということで高い評価を得ている」と三木谷氏は語り、自信を見せた。

 繁華街などで新たなローミングエリアを設定する、KDDIとの新たなローミング契約について、「ほとんどのところは年内に運用を開始する」とした。残った場所についても、2024年の早い段階で運用を開始できるという。

 今後の成長の鍵として三木谷氏が挙げたのは「楽天グループのエコシステムのベネフィットを最大に活用していくこと」。楽天グループの顧客に楽天モバイルを使ってもらい、楽天モバイルユーザーによる楽天グループのサービス利用率アップも狙う。三木谷氏は「今まで(楽天は)ポイントとITとデータを軸にしていたが、モバイルが加わってくる」とコメントした。

 ポイントプログラムの「SPU」も改定され、楽天モバイルのユーザーをより優遇するしくみになる。コンテンツ面の充実などもあわせて、今後のユーザー増につなげていく。

 ユーザー1人あたりの平均収入(ARPU)は、2022年第1四半期時点で837円だったのが、2023年第3四半期には2046円になった。三木谷氏は最終的な目標として、「いろいろなオプションなどのバリューアップにより、ベースの携帯電話サービスで3000円、エコシステムのアップリフトで1000円、都合4000円の売上を実現したい」とする。

 続いて、三木谷氏はメッセージングサービスについても言及。「RCSアプリケーションで成功しているのは楽天モバイルだけだと思っている」と語り、「Rakuten Link」のホームボタン設置によって楽天グループへの送客数が上がっていることをアピールした。

 楽天モバイルの設備投資額について、2023年は当初2000億円を目標としていたが、それを下回る見込み。2024年は「半減させていきたい」(三木谷氏)。

 三木谷氏は「現在のネットワークで1300万人ぐらいはサポートできるかなと思う。そこを超えてくるときに新しい投資もあると思うが、当面はあまり必要ない」と語った。

NTT法に関する考え

 議論が進むNTT法については、「ワイヤレスが発展していくが、バックボーンはすべて光ファイバー。ここはもともと、国民の皆さんの血税などを使って作ってきた資産。しっかりとした特別な法律のもとで管理する必要がある」と語った。

 NTTでは、NTT法における「研究開発の推進・普及責務」が、同社の国際競争力にネガティブな影響を与えるとしている。三木谷氏は「NTT法は基本的にはNTT(持株)とNTT東西だけが適用され、それ以外は適用されていない。だから開発は別のグループ会社でやればいいと思っていて、我々としては単なる言い訳かなと思う」とコメント。

 同氏は「ガソリンスタンドをすべて独占している企業が、自分の作った自動車にしかガソリンを供給しないとか、あるいはガソリンの値段を上げるとか」とたとえ、NTT法見直しに関する懸念を示した。

 また、「(NTT法がなくなっても)電気通信事業法でサポートできるということだが、NTTドコモについても100%子会社化されていて、値段を上げようが下げようが、NTTの連結にはまったく関係がない。自分がNTTのCEOだったら間違いなく値段を上げると考えているので、『やりません』という口頭のコミットだけで済むような話ではない」とコメント。「NTTグループについても『統合しない』という約束が破られてどんどん進められていることを考えれば、まったく信用ができない」と語気を強めた。

 三木谷氏は「NTT法については、基本的にはそのままにしておいてほしいというのが私どもの考え」とし、説明を締めくくった。

質疑応答

NTT法

――昨日のソフトバンクの決算会見で、宮川社長がプラチナバンドに関する支援の考えを示した。NTT法見直しに反対の3社ということで、つながりが深くなっている印象もある。

三木谷氏
 ソフトバンクかNTTか選べ、ということでしょうか(笑)。

 (NTT法については)平たく言えば、NTTグループ以外は全員が反対しているという状況だと思っています。国民の血税で使ったネットワークをどんどん垂直統合していこうという……そもそもドコモの合併も、なんだかどさくさに紛れてやられてしまったと思っている。国民の通信という意味においては危険だと思っていまして、(KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの)3社はおおむね同じ方向を向いていると考えています。

 大きな意味において、この独占体制からいかに競争を生んでいくかということについても、哲学的には同じ方向を向いているのかなと。

 私も報道でしか聞いていないので、具体的にどういう可能性があるのかということについては、ソフトバンクさんだけじゃなくて、KDDIさんやドコモさんも含めて、協調するところと競争するところ……業界として、不要なところで競争する意味もないと思っていますので、いろいろなかたちで話をしていければうれしいです。

――全国にNTTの庁舎があって、そういった庁舎の設備とかをNTT以外の企業が活用できるようになると、もっと日本のインターネットが良くなると思うが。

三木谷氏
 そうですね、NTTの局舎って言うんですか? こちらには我々も、いわゆる通信用のサーバーを貸していただいています。

 けれども、これからはエッジコンピューティングで何をやるかが重要になってくる。AIやコンテンツを置けるようになってくると、レイテンシーが40mm/秒や30mm/秒から、数mm/秒の世界に入ってきます。

 そういう意味では、さらなる緩和によって、さまざまなかたちで柔軟に使えるようになると、日本のワイヤレスというのは世界に類を見ないぐらい速くて便利になる、さまざまなことがモバイルでできるようになると思います。

 エッジに対して局舎を開放していくということは、ひとつ大きなことではないかと思っています。

モバイル事業

――楽天モバイルの契約回数の増加のところで聞きたい。伸びが加速している要因は。今後、この伸びを維持する見通しはあるのか。

三木谷氏
 大きく分けて3つの要因があると思っています。

 ひとつは、ネットワークのクオリティの向上により、脱退率(解約率)が大幅に下がってきていること。解約率は8%あったわけで、100取っても8が抜けていた。そういうところが改善してきたのは非常に大きいです。

 10月は解約率が1.72%ということで、3社のなかに入ってきてもそんなに遜色ないところまで下がってきたというのは、ひとつの大きな要因です。

 それから2つめは、「Rakuten最強プラン」やコンテンツのバンドリングを始めたことで、加入者数が非常に増えてきていること。全国プロダクトであり、地域プロダクトでもある携帯電話において、地域ベースの営業販売促進体制が確立されつつあり、マーケティングのレベルも上がってきています。

 あとは売上の立つ法人契約を増やしているのも大きな要素で、足元については多少のアップダウンはあるかもしれませんが、これから加速していく流れに来ているかなと思っています。

――プラチナバンドについて、既存の基地局に700MHz帯のアンテナを取り付けるとのことだった。大手3社では、700MHz帯や900MHzでかなり大きいものをつけていることもある。楽天モバイルの1.7GHz帯の基地局はあまり面積が広くないように見えるが、大丈夫か。

三木谷氏
 我々のいわゆるレディオヘッド……アンテナのパワーは、業界の中でも1、2を争うぐらいのパワーかな? というふうに思っています。小さいけれど高性能。大きければいい、というわけではないのかなと思います。

SPUの改定

――SPUの改定で楽天モバイル契約者を優遇する方向に来たと思う。新規獲得にどの程度貢献するのか。

三木谷氏
 毎日5倍というのはかなり魅力的なのではないかなと。ほかのプログラムでは、固定の月額料はもらっていませんが、楽天モバイルユーザーについては最低でも980円を月々払ってもらっていることを考えると、我々としては、ほかのプログラムと比べて魅力だと思っています。

 たとえば将来的に1500万人~2000万人の方が楽天モバイルを使っていただけると、それだけで楽天市場の流通総額が30%、40%、50%と上がっていく。シナジーが非常に大きいと思います。

 あとは、楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」は正直言って安いじゃないですか? 他社さんで7000円~8000円払っている人が楽天モバイルにすると、最大で4000円浮いて、なおかつポイントもたくさんもらえるということで、2倍美味しいということになるのかなと思っています。

――改悪という声もある。

三木谷氏
 現場から上がってきている報告では、ポジティブな見方をされている方々が大半です。何事も、変えたときは多少のプラスマイナスは出てくる。マイナスの方からのネガティブなコメントはしっかりと拾いつつ、さらにサービスの向上を目指していきたいです。