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ソフトバンクの通信品質向上のカギは「5Gと4G LTEのベストミックス」、ネットワーク品質維持の秘訣を担当者が解説

 普段の生活の中で切っても切り離せない「携帯電話の通信環境」。キャッシュレス決済サービスの普及などにより、その重要性は増していく一方だ。

 そんななか、近年は“通信品質”について注目が集まっている。コロナによる制限の緩和や大規模イベントで「物理チケットレス」や「完全キャッシュレス」などの取り組みで、“携帯回線がつながらない”ということがこれまで以上に敏感になっているユーザーも多いだろう。

 一方で、通信品質はキャリアによってさまざまで、ネットワークの構築の方法や会社の方針、地域によって大きく異なる。

 今回は、ネットワークを担当するソフトバンク 常務執行役員兼CNO(チーフ・ネットワーク・オフィサー)の関和 智弘氏から、同社がネットワーク品質の維持や向上に向けてどのように取り組んでいるかを聞いた。

ソフトバンク 常務執行役員兼CNOの関和 智弘氏

全体のネットワーク品質維持には「5Gが重要」“ユーザー体験を重視”して

 関和氏は、モバイルネットワークの重要度は高くなってきているとし、「つながらない」ということはユーザーの不満に直結することから、「スマートフォンを当たり前に使えるようにする」ということに視点があると説明。具体的には「(スマートフォンがつながらない)イライラを街からなくす」ように取り組んでいるとする。

 そのなかで、関和氏が特に重要視しているのが、5Gと4G LTEのベストミックスであり「品質の維持には5Gが需要」と指摘する。

 ソフトバンクでは、5G基地局を全国に7万局以上整備しており、ユーザーが多いエリアでは既存の5G基地局エリアに重ねて設備を投入するなど、人口カバー率の増減にとらわれない基地局展開を進めている。また、電波が飛びにくいエリアでも5G通信できるよう4G LTEの既存周波数を転用した周波数も積極的に利用することで、5Gと4G LTEトータルでの通信品質維持に努めていると話す。

アフターコロナで通信環境が変化

 関和氏は、アフターコロナによって、通信トラフィックに大きな変化が見られると指摘する。

 新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言が出されていた頃は、「街中のトラフィックが軽減、在宅勤務の浸透などで住宅街のトラフィックが増加した」が、その後5類への移行を皮切りに、コロナ前よりも繁華街のトラフィックが増加してきているという。

 人流の変化をみても、5類移行前の2022年のデータでもすでにトラフィックが都心に戻ってきていることがわかるほか、ソフトバンクの基地局をみても「高頻度で3Mbps(動画が見づらい)、時折1Mbps程度まで低下してしまう基地局」と定義する混雑局も都心を中心に増加してきており、都心回帰とともに、ユーザー1人あたりのデータ使用量も増加していると説明する。

品質対策は「ユーザー体験」を重視

 ソフトバンクでは、ネットワークの品質対策の指標として「ユーザーの体感」を重要視しているという。

 関和氏は、メディアなど一般的には“ダウンロード速度で比較されがち”としながらも、ユーザー体験価値を向上させるには「アップリンクとダウンリンクのバランスをとることが重要」と指摘する。

5Gエリアと「アンカーバンド」に注目した対策

 ソフトバンクでは、基本的な5Gネットワークを4Gのコアネットワークを利用したノンスタンドアローン(NSA)で構成されており、LTEをベースにLTEのアンカーバンド(5G接続時に同時に使われる4Gの通信バンド、無線制御などユーザーのデータ通信と分けて通信されるバンド)、5G周波数を利用して通信品質を向上させている。

 関和氏は、「NSAのネットワークでは、4Gのアンカーバンドが非常に重要」とし、ユーザーが都心回帰してきた中でこのアンカーバンドに問題が発生してきたと指摘する。

 5Gを開始した当初は、5G基地局の展開途中であったため、エリアによっては離散的、ポイントポイントでの5G展開であったため、エリアの外側でも弱い5G電波をつかめる状態だったという。一方、5G専用周波数は、高い周波数帯を利用しているので、あまり弱い場所でつかんでしまうと、アップリンクがしづらくなり品質がよくない状況だったという。

 現在では5Gエリアを積極的に展開しており、密度が高くなると同時に基地局がグループとなり、これまでの点的展開から面的展開となりセルエッジ(境界)が抑えられより高い品質でサービスが提供できるという。

 また、すべてのLTEをアンカーバンドにしてしまうと、5Gユーザーが局所的に増加し、LTEバンドでも品質低下に陥るとし、アンカーバンドをうまくコントロールすることで、5GとLTEユーザーのバランスをとり、全体のネットワーク品質を維持するようにしていると説明する。

電車や建物内の対策

 これらの5G通信の対策に加えて、4G通信での通信品質向上も実施しているという。電車の中や建物内などLTEの一部周波数帯しか届きにくいエリアでは、いわゆるプラチナバンドとよばれる低い周波数帯に通信が局所的に集中してしまうと指摘。

 関和氏は、この問題に関しては「飛び道具はなく、地道に基地局を設置し対策していくしかない」とコメントし、ユーザーの体験などに基づいて、路線に沿って基地局を設置したり周波数を追加したりしながら対策しているとしている。

基地局側とユーザー側の両方で品質を計測

 ソフトバンクでは、基地局側とユーザー側の両方でネットワーク品質を計測し、品質対策にいかしている。

 基地局側では、電波の品質測定を実施できるものの、実際にどの場所の端末で起こっているかを具体的に見ることができない。

 そこで、許諾を得たユーザー端末の通信品質データを取得し、100m~1kmのメッシュで品質データを解析し、どのエリア(メッシュ)で問題があるかを分析するという。

 関和氏は「すべて自動化されているわけではない」としながらも、対策を自動化し速いサイクルになるようにしているとコメント。具体的には、問題を1週間程度で検知し、問題解決をパターン化することでおおむね1カ月程度で対策を策定し、チューニングあるいはハードウェアの整備(半年~1年程度)などを実施していく。

 これらの対策により、実際に他キャリアと比較しても通信品質が維持されているとしている。

各社の通信品質を分析した結果。関和氏によると、ping計測とは指標が異なるものとしながらも、700ms以上(グラフの赤色部分)ではパケ詰まりが起きている可能性があるエリアであり、青色や黄緑の割合が高いほど通信品質が高いと見ることができるという

イベント時も「5G通信で対策」

 日頃の通信環境とともに今夏注目されたのは、イベント時などの通信環境だ。いわゆる“夏フェス”やコミックマーケットなど一度に多くのユーザーが集まるイベントでは、コロナ関連の制限緩和などで昨年よりも多く集客したイベントが多かった。それゆえ、「つながりにくい」という声がこれまで以上に散見されていた。

 関和氏は、台風などの自然災害時などでは「伝送路障害や停電対策として、衛星通信など対策を順次進めている」としながら、大規模イベントなどでの対策について「5Gの積極利用に尽きる」とコメント。周波数幅の広い5G周波数でトラフィックを吸収することで、4G LTEを含めた全体のネットワーク品質を維持しているとした。

 ソフトバンクでは、実際にSNSでのコメントをAIで分析し“ネガティブコメント”の投稿数を分析したところ、ソフトバンクに関するコメントは少なかったと関和氏は説明する。

 関和氏は、5Gを適材適所で有効活用することが、ネットワーク品質改善につながっているとあらためて説明した。

ドコモとはどう違う?

関和氏

 通信品質への関心の高まりは先述の通りだが、近年は特にNTTドコモの通信品質に注目が集まっており、ドコモでも数回記者向けに説明会を開催し、品質対策について説明を重ねている。

 今回のソフトバンクの説明会でも、「ドコモとの違い」について記者からの問いかけが多かった。

「Massive MIMO」や基地局の設置場所

 たとえば、複数のアンテナを組み合わせて通信の品質向上を図る「Massive MIMO」の積極展開について、ドコモでは「検討している段階」と回答している。

 一方、ソフトバンクでは「突出した効果が出ているかは分析できていないが、(一定の)効果はあると考えている」(関和氏)と回答。高い周波数帯を広く使うことで電波が弱くなる場所を少なくできるため積極的に使いたいところだとしながらも、アンテナが大きく設置コストとのバランスが重要とし、引き続き適材適所で「Massive MIMO」を使っていく姿勢を強調した。

 また、ネットワークの設計思想については、「(他社と)それほど違わない」と考えを示しながら、5G基地局を街中で展開する取り組みについては、歴史的経緯から多くの設置場所(サイト)を利用できるため、適材適所にピンポイントの場所を選びやすいとの考えを示し、セルエッジができにくいネットワーク構築ができている要因を説明した。

再開発エリアでの対策

 渋谷など再開発が進んでいるエリアではどうなのか?

 ソフトバンクでは、「(他社と)基本的には同じ状況」としながらも、カバーする局の状況やネットワークを利用するユーザー数が異なるとしながらも、通常の対策でやりくりできたと説明。

 ソフトバンクでも、「5Gを使わせようとしたところ、パケ詰まりが増加傾向にあった」と他社と同様の問題があったという。この問題に対して「4G LTEによる通信がある程度増えることを許容」しながら調整を進めたところ現在の品質につながっているとした。

 ドコモは当初「瞬速5G」とうたい、5G専用の周波数を使ってエリア展開を進めてきた(現在は転用周波数も使用)一方、ソフトバンクは転用周波数を織り交ぜながら5Gエリアの展開を進めていた。転用周波数での5G通信について、一部では「なんちゃって5G」と揶揄された面もあったが、結果的には増大するトラフィックを5Gにもうまく分散させることで、全体の通信品質の維持につながった形とみられる。

衛星通信について

 一方でソフトバンクの5G専用周波数帯である3.9GHz帯は、衛星システムの地上局と干渉することから、なかなか積極展開できていない実情がある。

 関和氏は、この問題について徐々に解消に向かっていると説明。現在実施しているパワー制御については、順次解除できるようになってきているといい、具体的な時期は明言しなかったものの、周波数の移行は着実に進んでいるとした。

 また、スマートフォンと衛星が直接通信できる環境は実現するのか? KDDIは8月30日にスペースXの通信衛星とauのスマートフォンが直接つながるサービスを2024年内に提供すると発表しており、ソフトバンクもHAPSなど非地上系ネットワーク(NTN)の環境構築を進めている。

 関和氏は、具体的な時期は発表できないとしながらも、KDDIの取り組みについては「意識している」とし、積極的に取り組んでいる姿勢が見られた。