DATAで見るケータイ業界
本格化する「衛星通信サービス」導入競争
2021年11月6日 09:00
2020年ごろより、携帯各社が衛星通信を利用した新たなソリューションを発表している。全国に数十万カ所の基地局を張り巡らし、地道にネットワークを整備する携帯電話と比較して、衛星通信は、通信速度や端末などの課題はあるものの、カバーエリアを一気に拡大できるメリットがある。
5Gのエリア整備が進む一方で、衛星通信をどう位置付け、活用していこうとしているのか。今回は、携帯各社の衛星通信の取組みについて取り上げてみたい。
NTTドコモ | KDDI | ソフトバンク | 楽天モバイル | |
サービス名 | (1)HAPS(エアバス、ノキア) (2)HAPS(スカパーJSAT) | 「Starlink」(スペースX) | NTNソリューション (1)Skylo (2)One web (3)HAPSモバイル | スペースモバイル計画 |
高度 | 20km | 550km | (1)3万6000km (2)1200km (3)20km | 500~700km |
商用化時期 | (1)―― (2)2023年度までに成層圏での実証実験 | 2022年(日本) | (1)2022年中 (2)2022年度Q3~Q4 (3)2027年以降 | 2023年以降 |
用途(ターゲット) | 5GEvolition/6Gエリア拡大 | ・山間部、離島向けネット接続 ・IoTによる送電、橋梁点検 ・地上インフラのバックアップ | (1)IoT向け(漁業、海運など) (2)一般、造船、海運、携帯電話のバックホール) (3)インターネット未整備エリア | 携帯の提供エリア拡大(4G&5G対応) |
ソフトバンク、3つのNTNソリューションを計画
携帯各社のなかで、衛星通信に最も積極的に取り組んでいるのがソフトバンクだ。
現在、高度20kmのHAPS(High Altitude Platform Station)、高度1万2000kmのOneWeb、そして高度3万6000kmにあるSkylo Technologies(Skylo)の3種類のNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)ソリューションを計画している。
HAPSでは4Gや5G基地局を無人航空機に搭載し、高度20kmという比較的低い高度からサービスを提供するため、地上の基地局とそん色ない高速、大容量サービスを提供できるとされるが、商用サービスは2027年となっている。
その間を埋めるソリューションとして、OneWebとSkyloが位置付けられている。船舶や携帯電話のバックホール向けに期待されているOneWebに、ソフトバンクグループは2021年1月に再投資している。これまでに254機の衛星が打ち上げられており、下り200Mbps/上り30MbpsとLTE並の速度を実現するのが大きな特徴だ。
一方、静止衛星のSkyloについては、IoT向けナローバンドとして2022年中の商用化を予定している。
KDDI、宇宙事業会社スペースXと提携し、まずはauのバックホール回線として活用
KDDIは2021年9月に、イーロン・マスク氏が率いる宇宙事業会社スペースXと提携した。
スペースXが提供する高速・低遅延の衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」は、通常の通信衛星の約3万6000kmよりも低い上空約550kmを飛ぶ衛星と通信を行うことで、従来の衛星通信サービスよりも高速通信が可能とされる。
まずは、スターリンクの持つ100Mbpsの高速通信を生かし、au基地局のバックホール回線に利用する契約を行い、2022年までに全国約1200カ所導入を計画している。将来的には、これまでサービス提供が困難とされていた山間部や島しょ地域でのインターネット利用、IoTや法人用途への回線提供も検討されている。
なお、KDDIはHAPSに関しては、ソフトバンクが参加する「HAPS Alliance」のメンバーとしても加盟している。
楽天モバイル、カバーエリア対策向けとして、スマホへ直接接続して利用できる「SpaceMobile」を提供するAST&Scienceへ資本参加
携帯電話の基地局がないエリアをカバーするために導入を計画しているのが、楽天モバイルが2020年3月に資本提携したAST&Scienceだ。
同社が提供する「Space Mobile」は、地表から約730kmの高度に打ち上げられ、世界で初めて、普段使っているスマートフォンに直接接続できる衛星通信になる点が大きな特徴となっている。
HAPS(上空20km)と比較すると地上からの距離が高い(上空730km)にも関わらず、本当にスマホを使えるのか気になるが、楽天モバイルによれば人工衛星に全長24mもの巨大なアンテナを使うことで、その問題をクリアできるとしている。
「Space Mobile」は現状、楽天モバイルに割り当てられている1.7/1.8GHz帯に対応し、「Space Mobile」を活用することで、地上局と合わせてエリアカバー率99.9%以上が可能になるとしており、2023年以降の商用化を予定している。
NTTドコモ:実用化へ向けHAPSの実証実験
NTTドコモは、2021年2月にエアバスやノキアとHAPS型の無人機で5Gを運用する共同研究を行うことを発表した。
エアバスは、動力源が太陽光で成層圏を飛行する無人飛行機「ゼファー」を開発している。航空機内での高速通信サービスやドローン制御、山岳での遭難者探索や害獣監視などの利用が想定されている。
また、同年3月にはスカパーJSATと5G evolution及び6Gにおける上空からの通信エリア化の実現に向けて実証実験を行った。実験では、1Gbps超の高速通信が困難だったへき地、空、海上などへの通信エリアの拡大を目的に、小型飛行機を活用し市街地・山林・離島において電波伝搬測定を行った。今後も実証実験を重ね、2023年度までに、成層圏で実証実験を行うことを予定している。
“衛星通信”という新たな軸
従来の衛星通信サービスでは、NTTドコモのワイドスターIIのように静止衛星(N-STAR)が赤道上空3万6000kmから日本全土をカバーしたり、KDDIが提供しているイリジウムのように地上780kmの位置に配置された66機の周回衛星で地球をカバーしたりするなど、利用するには専用端末が必要で、災害対策として官庁や地方自治体、船舶など特殊な用途に限定されてきた。
これらの導入先を取材すると、バッテリーが充電されていなくて、実際の災害時に使えないとか、1年に1回も使う機会がないので、いざ必要な時に保管場所や使い方が分からないといった課題があった。
しかし、たとえば各社が採用を検討しているHAPSは、これらとは一線を画し、普段使っている携帯端末の利用を前提に研究が行われている。
さらには、2030年前後とされる6Gでの利用も想定しており、5Gの持つ高速大容量通信と低遅延通信、多数同時接続通信という3つの特性に加え、空や海、宇宙空間などもカバーする「超カバレッジ拡張」という面でも、その役割が期待されている。
今後の携帯各社の競争に、衛星通信という軸が新たに加わっていくこととなりそうだ。