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「端末割引は上限2万円」「解約金1000円」――その根拠は? 有識者も疑問を呈する「モバイル研究会」第15回

 総務省は、携帯電話市場の競争促進などを目的とした有識者会合「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第15回を開催した。

 なお、今回の会合は6月11日に非公開で開催された第14回に続くもので、議題や構成員が重複する「ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの検証に関するWG」第13回と合同で開催された。

 改正電気通信事業法の施行に向けて詳細を詰めている段階だが、総務省が提示した制度整備案やその根拠について、賛成派も含めて多くの構成員から疑問視する声が挙がった。

モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)

 制度整備にあたっては、改正電気通信事業法の理念にのっとり、利用者が事業者やサービスを適切に選択できる環境を整え、事業者間の公正な競争を促すことを趣旨としている。

 具体的には、通信契約と結び付いた端末代金の値引きなどの「利益の提供」を規制し、また、“行き過ぎた”囲い込みを抑止するため、改正法を補足する形で省令によってより詳細な条件を定める。

 制度整備案としては、まず端末の値引きやキャッシュバック、ポイントなどあらゆる形態の「利益の提供」に対して一律の基準で制限する。2年契約を条件とするなどの「通信役務の“継続”利用」を条件とする利益の提供は全面禁止、契約期間の条件を課さない「通信役務の利用」を条件とする割引であれば、2万円(税別、以下同)まで可能とする方針。

 たとえば、「割引価格で端末を購入後、1年以内に解約したら違約金などのペナルティが発生する」という割引方法は認めないが、「通信契約をしたら端末代金を値引き、単体購入なら定価で販売」という手法そのものは2万円を上限に認められる。

 なお、2万円という上限額は通信事業者と販売代理店が提供する利益の合計額と定義されている。

 販売価格が2万円以下の廉価端末については、0円以下とならない範囲で割引できる。通信方式や周波数帯の移行に伴って既存ユーザーに新端末を提供する場合は、0円未満とならない範囲で割引できる。

 在庫処分などを想定し、長期間販売している端末については例外的に大きな割引が認められる。最終調達から24カ月以上経過した機種は半額までの割引が可能。ただし、再調達をした場合は再び2万円までに制限される。

 「36回払いで購入して2年後に機種変更した場合、端末を回収する代わりに残り12回分の残債を免除する」といった仕組みについては、2年後の市場買取価格と免除される残債額に大きな乖離があれば「利益の提供」に当てはまるとして、許容する差額を制限する方針が示された。

 「行き過ぎた期間拘束の是正に関する措置」については、契約期間の上限は2年まで、解約金の上限は1000円とする方針。また、期間拘束のあるプランを提供する場合には期間拘束のないプランも選択肢として用意することを義務付け、両者の差額は月額170円までとする。

 これらの規制は、法人向けの相対契約や宅内用Wi-Fiルーター(CPE)、ユーザー数が少ない立ち上げ直後のMVNOなどを除く、ほとんどの事業者・サービスが対象となる。

 ただし、契約中のユーザーについては規制前の条件での継続利用や契約更新を認める。また、3G回線の新規受付を継続している事業者については、需要に対してシステム対応にかかる費用負担が大きいことも考慮し、従来の条件で施行日以降も提供することを許可する。

疑問視される上限額とその根拠

 今回の会合では、「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」で示された割引や解約金の上限額、そしてその根拠について、制度整備の方向性そのものには同意する構成員からも妥当性を疑問視する声が挙がった。

 総務省は端末値引きの上限額「2万円」について、現在の市場環境を前提とした利用者1人あたりの利益見込み額が平均3万円であることから、競争が促進された結果として利益率が低下することも想定して“1段階低い”2万円に設定したと説明。「“1段階”が1万円ということに根拠はあるのか」など、構成員が問いただす場面もあった。

 非公開で行われた「モバイル研究会」第14回以降、物議を醸している「解約金1000円」についても、“参考資料”とされたアンケート結果を根拠に決定された金額が果たして妥当なのか、営利企業としての通信事業者への影響なども含めて議論の必要がある課題となっている。また、この「解約金1000円」から逆算された金額である、2年契約と期間拘束のないプランの差額を最大で月額170円とする案についても、同様に指摘されている。

 このほかにも、「分離プラン義務化の発端となった会合では(料金プランに介入することに)異論がほとんど出なかったが、それは消費者が正しく選択できない環境になっているからやむを得ないという前提での合意だった。(上限額の基準など)確固たる理由がないまま踏み込むべきなのか」「MVNOに対する規制の必要性は訴えられていない」「究極の目標は消費者保護であって、長期利用割引を『期間拘束』の一部として制限することは妥当なのか」「研究会を通してほとんど議論されていない長期利用割引の規制に踏み込むのは拙速」など、大詰めの局面ながら、制度整備案の骨格を揺るがす厳しい指摘が相次いだ。

 なお、次回以降の「モバイル研究会」の開催やパブリックコメントの募集など、今後の予定については現時点では明らかにされておらず、あらためて案内される。