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総務省「緊急提言」パブコメ公開、大きな修正なく実施へ

料金プランの大幅見直しや販売代理店の改善を要求

 総務省は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第6回を開催した。第4回で公表した「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言(案)」(以下、緊急提言)に対するパブリックコメントの結果を明らかにしたほか、緊急提言に含まれていない検討課題についても議論した。

モバイル研究会(第6回)、消費者WG(第6回)合同会合

 モバイル研究会の第6回は、緊急提言を公表した第4回と同様、内容が関連する「消費者保護ルールの検証に関するワーキング・グループ」(消費者WG)との合同会合になった。緊急提言を公表した後、2018年11月28日から12月18日までパブリックコメントを募集していたが、今回の第6回会合ではその内容が明らかにされ、総務省の考え方も合わせてコメントされた。意見提出数は合計79件で、法人・団体が15件、個人が64件。

 提出された意見は、賛同するものから慎重な対応を求めるものまでさまざま。中には、販売代理店とキャリアの関係・実態を記す告発めいた意見もあり、さまざまな立場で、それぞれに重要な議論として受け止められていることが窺えた。なお、通例では、パブリックコメントとして提出された意見は、総務省のWebサイトでも公開される。

 緊急提言は、“早急に取り組むべき事項”として、端末と通信サービスの“完全分離”などを含む、大手キャリアの料金プランの抜本的な見直しと、トラブルや課題の前線になっている販売代理店を届出制にするなどの、2つが大きなテーマになっている。

 パブリックコメントでの指摘などにより、緊急提言(案)は一部の文言を修正したものの、内容に変更はなく、承認される形になった。今回の第6回の会合では、有識者からなる構成員や事務局(総務省)の賛同を改めて確認しており、法改正を含めて、その内容が実行に移されることになる。

 なお、緊急提言の内容については、第4回会合の模様を伝えるニュース記事で詳しく触れている

料金プランの抜本的見直し、周知の徹底も要望

 有識者としてモバイル研究会の第1回にも出席していた黒坂達也(クロサカタツヤ)氏(慶應義塾大学大学院 特任准教授、「消費者WG」構成員)は、緊急提言で変更される内容は「国民生活上の影響が大きい」として、スケジュールや手続きの方法といった事項を、キャリアや関係者が国民にしっかりと広めるよう要望した。

 緊急提言で届出制にするとされている携帯電話の販売代理店については、一義的には契約の実務を行う事業者を販売代理店として定義することになるだろうとする一方、あっせん業者などが“抜け道”にならないよう、実態は継続的にモニタリングすることが望ましいと要望している。

 大谷和子氏(日本総合研究所 執行役員 法務部長)は、黒坂氏の意見に賛同した上で、提出されたいくつかの意見に対し、緊急提言では、通信サービスに紐付かない端末の割引までは禁止していないと改めて説明し、今後具体的なルールを作る上ではブラックリストあるいはホワイトリストの準備もあわせて検討できれば、とした。

 大谷氏は販売代理店について、4G契約が飽和を迎えていることを考えると(大きな発展が見込めないなど)「難しい状況」とし、厳しい市場環境の中での販売代理店とキャリアの関係(の歪み)が、ユーザーへのサポート不足といった構造・課題の「背景」になっていると指摘、届出制は「極めて有効ではないか」とした。

 座長の新美育文氏(明治大学 法学部 教授)は、緊急提言について、「必要な措置を早急に講じていただきたい。キャリアや関係者には、趣旨や措置を踏まえて、料金プランの抜本的な見直しを強く期待する」とまとめている。

そのほかの検討課題

 緊急提言の内容は、早急に取り組むべき2つの課題に絞っているが、第6回の会合では、「モバイル研究会」で取り扱うそのほかの検討課題についても、初回に提示した論点やヒアリング結果を紹介した上で、今後の対応が議論された。

 緊急提言に含まれていない、そのほかの論点として挙げられたのは、1)期間契約の拘束期間全体での支払総額の提示、2)ユーザーの料金の状況を継続的にモニタリングする体制の整備、3)料金が利用実態に合わないケースを是正するための、利用中や解約時の情報提供のあり方、の大きく3つ。

総額表示

 森亮二氏(英知法律事務所 弁護士、「消費者WG」構成員)は、単月や初月の安さで訴求するような場合でも、期間や総額を合わせて表示するだけでいいとし、「事業者側の負担も少ないのはないか」と、総額表示は比較的すぐに実現できるとの見方を示している。

 クロサカタツヤ氏は、総額表示について「考え方には賛成で、どんどん進めていいただきたい」とする一方、「緊急提言によって、今後は端末の提供方法が変わっていくことが想像される。従来にはない、たとえば販売に限らないレンタルなどもありうるだろう。新たな提供方法は企業努力の結果でもあり、阻害すべきではない」と指摘し、総額表示を求める議論の中でも、新たな提供形態が登場することも検討しておくべきとした。

モニタリング体制

 北俊一氏(野村総合研究所 パートナー)は、ユーザー料金のモニタリング体制を構築することについて、自社の受託調査の経験なども踏まえながら「限られた期間・予算の中では、限られた視点での比較になってしまい、(分かりやすい)金額だけを比較することになってしまう」とその難しさを指摘する。「今後は、ネットワークの品質や速度、エリアなどを含めて、多面的に比較していく必要がある。プランが値下がりしても、今後データトラフィックは上がり、データに払う料金は上昇していくだろう。国内でも海外でも、継続してみていく必要がある。仮に下げ止まっているなら、その背景についても調べた上で、比較検討していく体制を構築してもらいたい」と要望し、多面的かつ長期的に取り組むことが重要とした。

 クロサカタツヤ氏は、ユーザー料金のモニタリング体制について、詳細なデータや比較は国民の関心が高く、また学術的な価値も高いとし、「学会や公益性の高い研究機関と総務省が連携して、中長期で取り組む必要がある」と意見を述べている。

 西村暢史氏(中央大学 法学部 教授)もこの点について、「緊急提言は転換点であり、多くの知見が必要になる。多くのコストが必要で、総務省、事業者が一体となって取り組み必要がある。モニタリングであれば、そのほかの省庁とも連携し、分析手法を共用することなども必要ではないか」としている。

 横田明美氏(千葉大学大学院 社会科学研究員 准教授、「消費者WG」構成員)は、緊急提言を経てモニタリング体制が整うと、面倒や気付かないといった理由でキャリアからの通知・メール・案内を確認せず、自発的に行動しない“消極的なユーザー”がどういう状況にあるのかも分かることになるとし、「通知の“届き方”をどうするのかは継続課題」とした。

契約中の情報提供のあり方

 相田仁氏(座長代理、東京大学大学院 工学系研究科 教授)は、利用実態に合わないプランを継続利用してしまう状況の改善策について、「(キャリアが)勝手に変えると、不利益変更になるケースが必ず出てくるが、逆にオプトアウトで、“このままでいい”という意思を示さない限り、利用実態に合わせたプランに変更するといった方法も考えていいのではないか」と提案している。

 座長の新美氏は最後に、「継続契約でユーザーを一定期間拘束する状況について、事業者側はユーザーに対して、相当に重い責務がある。そういう構造になっていることには、疑いの余地がない。囲い込んだ人をどこまでケアするのか。囲い込んでいなければ(ユーザーは)いつでも出ていけるが、そうではない(出たくてもすぐに出られない)人達がいることを率直に認めて、どこまでしっかりとケアするのかが求められている」とし、“囲い込み戦略”の責任の大きさを改めて指摘している。