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UQとWCPが“二種指定”に反論、総務省「モバイル研究会」第5回
2018年12月26日 17:02
総務省は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第5回を開催した。
第5回は、主にMNOに対して2回目のヒアリングを行うもので、2回目のテーマはMVNO向けの接続料などについて。MNOのグループと一体となっているBWA事業者2社についても、二種指定などについて議論された。また、中古モバイル端末については、関連事業者から、業界に向けたガイドラインを策定中であることなど現在の取り組みが説明された。
モバイル研究会の第1回で明らかにされていた主要な論点案の中では、MVNOがMNOに対して支払う接続料(回線や帯域を使用した際の料金)について、その算定方式や請求のタイミングについて、公正競争の観点などから、見直しが必要ではないかという提案がなされていた。
通信事業者として出席したのは、NTTドコモ、KDDI、UQコミュニケーションズ、ソフトバンク、Wireless City Planning(WCP)の5社。
第5回の議論については、接続料についてキャリア各社は、継続的に低減を図り、精算方式についても現行制度の中で対応できている、あるいは対応する方針というのが、基本的な立場だった。音声卸については、各社が値下げの余地に言及した。BWA事業者の二種指定の議論は、これら2つの要素の生まれた時代背景が異なることから噛み合いづらい議論になったが、BWA事業者がいずれも大手キャリア傘下に収まり、キャリアアグリゲーション(CA)として一体となって提供されている現状から、議論の中で、「透明性・公平性確保の必要性」あるいは「MVNOに対する脅威」という見方を覆すには至らなかった。
NTTドコモ
NTTドコモ 取締役常務執行役員 経営企画部長の丸山誠治氏は、接続料を低廉化してきたことをはじめ、当年度精算や支払猶予制度の実施、今後は音声卸料金についてもMVNOの要望に基づき見直しを検討することなどを挙げ、「接続料に関する公正競争の環境はすでに確保されている」という立場を示す。
その上で、技術革新の早さや、短期間で大規模な投資が必要になるなど、モバイル市場自体は「熾烈な競争環境にある」とし、MVNOが撤退すれば費用負担の公平性に問題が出ることなども指摘した。
また同社(NTTグループ)が対象になっている禁止行為規制がパートナー企業との協業施策にも影響を及ぼしているとし、5G時代を見据え、今後のスピード感のある経営判断の面でも、総務省に問い合わせる形になる禁止行為規制について「さらなる見直しをお願いしたい」と要望した。
MVNOに対する取り組みでは、KDDIやソフトバンクとは異なる点を強調する。具体的には、接続料の低廉化だけでなく、資本関係のないMVNOに積極的に回線を提供している点も評価してほしいとし、KDDIやソフトバンクのように、MNOがMVNOを自社グループに組み入れることが新たなユーザーの囲い込み施策になっていると指摘、「整備を図ることが必要」と牽制した。
UQコミュニケーションズ
UQコミュニケーションズは、主にKDDIにWiMAX 2+の回線を提供するBWA事業者として出席した。その対応端末の増加などから、第二種指定通信設備(二種指定、現在の3大キャリアと同等の規制対象)を適用すべきなのではという議論に対して、指定の必要はないと改めて反論した。
UQコミュニケーションズ 執行役員 CSR部門長兼渉外部長の西川嘉之氏は、自社のBWA事業について「接続交渉上の優位性はない」とした上で、その大半はKDDI向けに提供されていること、二種指定で義務付けられる音声回線などの機能を提供できないこと、必要になる会計のために社内会計システムを変更する必要があり時間とコストがかかることなどを挙げ、「グループ内取引と二種指定は趣旨が異なる。切り離して考えるべき」と訴えた。
KDDI
KDDI 執行役員 渉外・広報本部長の古賀靖広氏は、UQを援護する形で、「交渉上の優位性とは、(従来の形のキャリア同士の)音声の接続を前提にしたもの」と指摘し、「MVNOとの取引関係は受給状況、環境により変化する。持っているものが、必ずしも優位とは限らない。MVNOに対する供給リソースは拡大しており、今後選ぶ側の優位性は拡大する。単純にシェアが10%を超えたから二種指定、とはならないようにしてほしい」と意見を表明している。
接続料については、低減傾向にあること、MVNOとの協議を前提に、接続料の値下げの先取りを行い精算していること、将来のコストを予測するのは困難という意見を紹介し、「現行制度が適切ではないか」とした。音声の卸料金については、さらなる低廉化の協議に対応できるとしている。
ソフトバンク
ソフトバンク 渉外本部 本部長の松井敏彦氏は、MVNOによる接続料の精算について「暫定精算の負担が大きいと認識している」とした上で、MVNO側の要望や協議によって、割引率を乗じた予測値を提供し、おおむね、これまでよりも少額で済むような精算スキームを検討していることを明らかにした。算定根拠の透明性については、総務省に提出しており、「十分な対応をしている」という立場。音声の卸料金については、実情として一律になっているとするものの、例えばボリュームディスカウントなどを行えるよう、検討していくとした。
二種指定が議論される同社グループのWCPについては、「二種指定は解にはならない」と反対の立場。MVNOがWCPのネットワークを利用したい場合は、ソフトバンクから提供できるとの見方を示し「MVNOから要望があれば、早期に検討していく」とした。
WCP
WCPは、ソフトバンクの意見と同じく、自社の二種指定には反対の立場。Wireless City Planning 取締役の青木伸大氏は、「卸先の99%超がソフトバンク。WCP単体での交渉優位性は存在していない。10%といったシェアだけでなく、交渉優位性も考慮してもらいたい。市場支配力がないことを勘案してほしい」と、既存の3大キャリアとは異なる立場であることを訴えた。
接続料
各社からのヒアリングが終わると、有識者からなる構成員から質問がなされた。
構成員の佐藤治正氏(甲南大学 マネジメント創造学部 教授)は、KDDIに対し、固定網の議論ではKDDIがNTTの卸提供の内容が不透明と度々指摘してきたことを引き合いに出し、KDDIの(携帯電話回線の)卸料金の透明性について問いただし、またその料金が変わっていないのであれば、その理由についても問うた。
KDDIの古賀氏は、市場で7~8割のシェアを占めるNTT東西の固定網(固定インターネット回線)の卸と、3社で競争しているモバイル市場では「位置付けは違う」とした上で、不透明という指摘に対しては、構成員限りとして提供した資料や総務省に報告しているデータで「適正性を検証していただければ」とした。
一方で古賀氏は、「データ(パケット)と比較して下がっていないのは事実。KDDIのネットワークを再販する形になっている。下がっていないという指摘があるなら、もう少し下げられるのかどうか検討していく」と値下げの可能性に言及している。
ソフトバンクも同様の議論に対して、「ボリュームディスカウントというのはあくまで例示だが、基準値を変更するのはあり得る」と、こちらも値下げの可能性があることを回答している。
ただ佐藤氏は、「こうした議論の場があったから、値下げの議論になった」とし、卸料金の制度そのものに不透明性が残っており、自発的に値下げされていくわけではないという、制度的・構造的な課題があるとも指摘している。
佐藤氏はまた、今後の料金プランの大幅な値下げを発表しているドコモに対し、「MVNOは辛くなるのではないか」と問うた。ドコモの丸山氏は、「接続料の算定は、それはそれでやる。(自社の)料金プランとは別。ただし、値下げの原資は、技術革新の結果。直接的には関係していなくても、間接的には相関がある」と回答している。
構成員の関口博正氏(神奈川大学 経営学部 教授)は、接続料の低減や、MVNOの予見性向上の取り組みについて、「各社がバラバラにやっていること自体、もっと制度をはやく作るべきだったという反省がある」と振り返る。
これに対しNTTドコモ 経営企画部 企画調整室長の榊原啓治氏は「制度化されていない中で、MVNOとの協議の中で進めてきた。規制がないとやらない、ということではなく、自主的な取り組みに委ねられる部分はある」と、新たな規制は不要という立場で、3キャリアともに、MVNOと協議しながら現行の方式を運用していると訴えた。
構成員の大谷和子氏(日本総合研究所 執行役員 法務部長)は、IoTや5Gが本格化する時代には、現在議論しているルールとは異なる枠組みが必要になると指摘し、翻って、現行の制度・ルールが時代に追いつかなくなっていることを語った。
二種指定
UQコミュニケーションズが課題として挙げた二種指定の議論について、構成員の大谷氏は、「会計制度を変更するのに一定の時間がかかるという話は、もっともだ。社内的にシミュレーションして、時間がかかるというなら、今の時間も活用してほしい。キャリアアグリゲーション(CA)を前提としたものでは、アンバンドル機能の提供は無理だと思う。補正したルールを作り上げないといけないだろう」と、大枠としての二種指定に前向きな意見を明らかにしている。
構成員の関口氏は、BWA事業者2社に対し、「設備事業者として、交渉の場に立つかどうかに関わらず、優位性があるのではないか」と、2社の反論に疑問を呈する。
KDDIの古賀氏は「自社のシェアが高くないBWA事業者は、小さい事業者であり、MVNOに対して交渉上の優位性はない」と答えると、UQの西川氏は「ルーターは9割以上がMVNOが販売している。MVNOに売っていただかないといけない立場」と、優位性はないとする。
ソフトバンクの松井氏は、「WCPは小売りをほとんどやっていない。認知度、エリア、設備もプアだ。加入者数が多くなったのは、ソフトバンクと双方の周波数を利用できる端末を出したから、たまたまシェアが10%に達した。WCPに市場支配力はない。CA(の提供)はMNO側の機能で、MNO(ソフトバンク)側の対応になる。コストや時間の観点からも、(ソフトバンクがWCP網を提供することが)MVNOのメリットが高いのではないか」と述べると、WCPの青木氏は「WCPはソフトバンクからの収入で会社を維持をしていかなければいけない。新しいBWAへの規制は必要ないのではないか」と訴えた。
これに対し構成員の佐藤氏は「UQは、交渉上の優位性はないので規制はいらないと言っている。ソフトバンクは、公平性を認識した上で、ソフトバンクがCAとしてMVNO向けに提供するので、WCPに規制はいらないと言っている」と、BWA2社で反論の内容が異なっている点を指摘。その上で、(環境の公平性に言及していなかった)UQに対して、「公正競争が重要になっている時代をどう考えているのか」と問うた。
UQの西川氏は、「公平性について、卸だから何をやってもいいということではなく、KDDI外へのMVNOの提供料金も定めており、公平性は担保されていると認識している」と回答している。
大橋弘氏(東京大学 公共政策大学院・大学院経済学研究科 教授)は、「公正競争の観点からどう見えるのかは重要だ。ソフトバンクのCAの議論は、解決策ではない。MVNO市場にどうインパクトを与えるのかという視点が重要。海外では独禁法で問題になっている部分であり、いかに競争性を発生させるかが課題になっている。放っておいて競争になるのか? もう少し議論が必要」と、競争環境の重要性を指摘する。
また大橋氏は「シェアが10%を超えたらいきなり(影響力が)変わるわけではない。ただし、ほかにビジネスを始めたとき、優位性が出てくるのではないか」とも指摘している。
西村暢史氏(中央大学 法学部 教授)も同様に「CAはMNOがMVNOになり、再度MNOとして、とか、複雑化している。これがテコになって、優位性につながる可能性はある。複層化した構造は検証の必要がある」と語り、一様に影響力はない・優位性はないと訴えるBWA事業者の視点・立場の主張に、疑問を投げかけている。
この点についてソフトバンクの松井氏は、「10%を超えるといきなり交渉力が出てくる訳ではない。10%という数字にあまり意味はなく、ソフトバンクを二種指定する時に作られたもの。その時にBWAはなかった」と、二種指定とBWA事業者の、時代背景の違いを指摘する。
また松井氏は「今後も5GやIoTなど、別のルールを検討する段階がくるだろう。BWA、接続料の精算、音声卸の議論もそうだが、各社が代案を少しずつ提案している。MVNOからの要望というものも、必ずしも強い要望を受けているわけではないものもある。MNOと協議をしない段階でこういう場に議論があがってきているものもある。
まずは見守っていただき、スタックした場合に議論をすべき。二種指定ありき、将来原価方式でありきではなく……結論が決まっているわけではないだろうが、ステップを踏んで議論をしてもらえるとありがたい」と語り、議論の行方を警戒しながらも、慎重な議論を訴えた。