ニュース

MVNO向け環境整備で接続料の算定方式など議論、総務省モバイル研究会第8回

 総務省は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第8回を開催した。

「モバイル市場の競争環境に関する研究会」第8回

 第8回では、MVNO向けの接続料の算定方式の変更や、MVNOに回線を提供することへのインセンティブ付与など、前回の第7回でまとめきれなかった内容を含めて議論し、方向性(案)を固めた。またモバイル研究会の前に総務省が開催していた「モバイル検討会」のフォローアップとして、各社の現在の対応状況が報告された。

 モバイル研究会では、3月に中間取りまとめを行う予定で、序盤の事業者へのヒアリングや討議を経て、事務局(総務省)側がまとめる方向性案を固めていくという段階に入っている。

 第8回で掲げられたテーマは、1)接続料算定の適正性の向上(将来原価方式への移行の検討)、2)ネットワーク提供条件の同等性に関する検証、3)MNOによるネットワーク提供に係るインセンティブ付与、4)将来的な課題の検討(5G、eSIM等)、5)モバイル検討会報告書フォローアップ、の5つ。

 これまでの議論を踏まえて論点を整理した「検討の方向性(案)」(以下、方向性案)が総務省側から示され、有識者からなる構成員が意見を述べた。

将来原価方式の予測精度

 接続料の算定方式は、前回の第7回の議論で、将来原価方式に移行していくというおおまかな方向性がすでに示されている。

 焦点になる実際の予測の精度については、総務省が2016年度の各社の情報を得て試算した予測値が示され、実際の2016年度の実績と比較、最終的な接続料は予測が+2.2%の誤差に収まったことを示した。

 またドコモなどが決算で公表しているように、各社の設備投資予測と実績に大きな隔たりはなく、突飛な動きではない近年の接続料の傾向からも、予測には一定の精度が見込めるとし、将来原価方式に移行することが適当であるとした。

 北俊一氏(野村総合研究所 パートナー)は、総務省が今回紹介した予測値について「良好な結果。この方向で検討を進めるのがいいのではないか」と評価。一方で、今後については、「非連続的な、市場変化のある年もある」と指摘する。例えば2020年のオリンピックに向けては、ネット同時配信でモバイルトラフィックの増加が予測され、対策として設備増強も行われているとし、「過去の実績から外挿するだけでは読み誤る。ただ、どうやって(イレギュラーな年を)組み入れるかは難しい。数字を持った議論を進めていただきたい」と語っている。

 関口博正氏(神奈川大学 経営学部 教授)は、今後を睨み、「5Gの設備投資は、ソフトウェアで実施する面もあり、3Gから4Gほどの大きな変動はないと聞いている。ただ、(5Gでは)今までなかった事案が出てくる。(通信規格の変更にともなう変動部分を)どうやって管理していくのか。検討要素として考えるべき」と指摘している。

サブブランド優遇説、“検証後”に課題

 サブブランドやグループ内別ブランドがMVNOを圧迫しているという議論については、検証の必要性があるという前提で、不透明な金銭的補助などを確認するなど、検証に必要なデータの提供を受けることが適当としている。

 相田仁氏(座長代理、東京大学大学院 工学系研究科 教授)は、「料金プランは1年目が安いものもある。1年目は赤字でも2年目以降は黒字かもしれない。利用実態を踏まえたものとなると、難しそうだ」と、意見を述べたほか、「5Gが本格導入されると、L2接続ではないのではないか。私もどういう形が分からないが、そういうところも含めた検討が必要」と指摘し、検証の難しさを語っている。

 北氏は、「検証をぜひ進めていただきたい」と賛同するが、相田氏と同様に、複雑化している環境を指摘する。「提示されている金額と実際の支払う料金は、割引やキャンペーンで異なる。最近では、光回線の加入で割引とか、auならWowma!で買い物をすると通信料金を割引するといっている。タリフ(料金表、元の仕様)と実際の支払う料金に違いが出ている。MVNOがどこと戦っているのかといえば、実質の料金と戦っている。ただ、MVNOも同じことはできるが……そうしたことを考えて比較するのか、しないのか」と、検証の難しさを語る。

 北氏はまた、「完全分離により、端末はそうそう安くはならないことになる。今までは、通信料金をいじるより、端末料金をいじって誘引してきた。完全分離では通信料金をいじることこになる。(検証にあたって)どんな比較方法がいいのか、検討を進めていく必要がある」と語っている。

 北氏はサブブランドについても、「MNO(の一部門)とサブブランドでは、大きく性質が違う。例えば1つのキャリアの中でS・M・Lがあったとして、Sプランは赤字で、Mプラン以上の黒字で補填することは、戦略上は普通にあり得る。(方向性案の)検証はするとしても、サブブランドやMNOの料金戦略にどこまで首を突っ込めるのか。難しいのではないか。検証して、結果が出てから考え始めるのではなく、先に考えていく必要がある」と指摘し、規制やガイドラインで是正できる部分を明確にしていくべきとした。

 大谷和子氏(日本総合研究所 執行役員 法務部長)は、検証がサブブランドも対象にしている点を評価した上で、「ぜひ事業者の協力をいただいて、正確な把握ができるようにしてほしい」と要望した。

MNOへの評価

 MNOがMVNOにネットワークを提供することがより評価されるよう、インセンティブ付与に取り組むという部分では、接続料の低減など料金だけでなく、機能の開放や多様な提供になっているかなど、提供計画だけでなく実勢も評価することが重要としている。

 その上で、周波数割当ての審査時と、総務省が定期的に実施する電波の利用状況調査の2つの場面で、実績や継続的な取り組みを評価し公表していく方法を検討していく。

 関口氏は、方向性案において、周波数の割当て審査にあたって「(MVNOなどへの取り組みを)総合的な観点で実施する」と記載された点について「いかにもファジー(あいまい)な表現。具体性をもってほしい。機能開放で(MVNOによる)SIMの独自発行を可能にしたとか、もう少し書ける内容があるのでは」と指摘すると、総務省の事務局からは「実際は何社に提供したかに加えて、MVNOが使いやすい環境を整えたなどかも、割当、調査のどちらでもすでに考慮している。ただここ(指摘の記載部分)にはもう少し具体的に書けるので、検討したい」と回答された。

5GやeSIMなど環境の変化について

 5GやeSIMなど、将来的な技術・環境の変化に対する部分では、これまでの議論で、4Gと5Gは分けた議論が必要という意見や、過剰規制を警戒する意見が出ているほか、MVNO側が簡単にはeSIMを使ったサービス提供できないこと、MNOはeSIMプラットフォームの開放・提供に慎重になっていることが明らかになっている。

 特に5Gでは、ネットワークの仮想化などMNOの基幹網の変化や、法人向けではビジネスモデルに合わせた柔軟な提供形態が可能と予想されていることから、既存の規制やガイドラインが通用しなくなることが、すでに構成員などからも指摘されている。

 総務省側が示した方向性案では、これらの議論は、3月の中間取りまとめ以降に議論を深めることが適当とされた。

“緊急提言”、丁寧な議論やスケジュール開示を

 このほか、長田三紀氏(全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長)からは、今回の議論のテーマではなかったものの、モバイル研究会の第4回で公表された“緊急提言”について、「丁寧な議論をしなければいけないことがたくさんあるのではないか。スケジュールはどうなっているのか。完全分離とは実際はどういうことなのか。消費者、事業者、行政がきちんと同じものを共有しているのか。議論を詰めていく場を考えてほしい」と要望が出された。

 北氏も、長田氏の意見に賛同し、「関連する事業者からは、今のままでは来年度の計画が作れないと悲鳴が出ている。今年はドコモの料金値下げの影響、法の施行、春商戦など、3回ぐらいのヤマがあるとみられている。端末調達数を読み誤ると、“完全分離”の後にさばくのは難しくなる。スケジュール感だけでも示していくことが必要。完全分離の定義や、法改正、省令など、時間がかかるだろうが、できるだけ議論をしながら、先が読めるような形にしてあげる必要がある」としている。

「モバイル検討会」、その後の対応状況は

 モバイル検討会のフォローアップでは、KDDIとソフトバンクがMNPの手続きをWebサイト上でできないという、構成員からも呆れられた状況について、KDDIは「2019年春に実現予定」で、ソフトバンクは「2019年5月末までに実現すべく検討中」という現況が明らかにされている。

 MNP転出時の強引な引き止め策を問題視した部分では、調査した結果、MNPの転出の際に、転出を検討するユーザー限定の値引きや、ポイント・クーポンの付与、特定の移転先に勧誘するなどの行為が確認されたという。

 関口氏は「公表されていない料金メニューを出すのは、公平性担保も観点からも問題にすべき項目。関連法を含めて問題がないかどうか取り上げるべき」と指摘。大きな問題になり得るとした。

 MNPでコールセンターに電話をした際の待ち時間など混雑状況についても、週末を含む3日間を対象に、平均の待ち時間や、通話が切断された回数の割合などが調査され、結果が公表された。

 ただ、ドコモの3日目の調査については、台風の接近で交通機関が大きく乱れ、コールセンターを閉鎖などしていた日だったとのことで、通話の切断件数が非常に多く、比較材料として不適当で、落ち着いた日に再調査すべきではと構成員から提案されていた。