ニュース

「2年契約の役割は終わっている」とゲスト有識者が指摘、総務省「研究会」第2回

ヒアリングのMVNOは接続料の改善を要求

 総務省は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」の第2回を開催した。MVNO事業者を対象にしたヒアリングを実施する回となり、主に接続料などについて意見が交わされた。

「モバイル市場の競争環境に関する研究会」第2回

 「モバイル市場の競争環境に関する研究会」は10月10日に第1回を開催しており、研究会を開催する背景やその方向性、座組はすでにニュース記事でお伝えしている。第2回からしばらくは民間の事業者へのヒアリングが開催される予定で、まずはMVNO事業者としてテレコムサービス協会MVNO委員会、楽天(楽天モバイル)、インターネットイニシアティブ(IIJ)、ケイ・オプティコム(mineo)、日本通信が招かれた。

 また今回も、「モバイル研究会」の構成員ではない有識者の枠が設けられ、20年以上にわたって通信業界をみているという、モルガン・スタンレー・MUFG証券 エグゼクティブディレクターの津坂徹郎氏が意見を述べた。

 第1回で総務省側が主要な論点(案)として挙げた中で、MVNO事業者が主に関係するのは、接続料の算定方式の見直しなどについて。MVNO側が過去にも求めてきた内容だけに、ヒアリングでも各社から見直し・改善を求める声が挙がった。

 また第2回の冒頭には、出席した総務大臣政務官の國重徹氏が「携帯電話は生活に不可欠なインフラ。本研究会に対する国民の期待も大変大きなものがある」と挨拶。「構成員の皆様においては、利用者の視点に立ち、公正な競争を促進するための具体的な方策について検討していただきたい」と期待を述べた。

総務大臣政務官の國重徹氏

 MVNOへのヒアリングに先立ち、第2回の前半には、モルガン・スタンレーの津坂氏からモバイル市場への評価と意見が語られたほか、構成員である全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長の長田三紀氏、全国消費生活相談員協会 IT研究会代表の西村真由美氏からそれぞれ、現在の課題に対する「消費者視点からの考察・論点」が述べられた。なおこれらの意見は、MVNOではなく研究会の主要な論点案全般を対象にしたものになっている。

モルガン・スタンレー津坂氏、「儲けすぎ」論調に警告

 津坂氏からはまず、モルガン・スタンレーによるモバイル分野の競争環境および収益環境の評価について説明された。

 それによれば、モバイルネットワーク産業は、LTEスマートフォンの普及が進んだことで、「サービス・技術は当面の成熟期に入っている」という。また大手キャリアの囲い込みが進んだことで、解約率は下がったまま維持され、料金などで大きな動きもないことから、競争が機能しているのか? という疑問が生まれる結果になっているとした。

 一方で、一部で言われる「キャリアは儲けすぎ」という意見に対しては、「グローバルの通信事業者と比較しても、突出して利益が高いという事実はない。健全で平均的な利益率。ここは正しい認識をする必要がある」と冷静に反対意見を述べている。

 またこの“儲けすぎ”の論調に関連し、前述の通信事業者としての利益は平均的という意見を踏まえた上で、最終利益は株主に帰属するものであり、これを削減するような圧力により株式市場の原則が崩れると、政策に敏感なグローバルの機関投資家による投資の引き上げにつながるなど「投資が極端に冷え込む」リスクがあると警告する。そうなれば株価の下落を招き、株式市場や個人投資家にも大きな影響を及ぼすとしている。

 もっとも、津坂氏は「料金の値下げはキャッシュフローの減少につながり、グローバル投資家からの投資は冷え込むことになるが、そうしないようにするのが経営。外部要因が変化しても利益を確保するのが経営手腕」ともしており、外部に翻弄されない経営も重要になるとしている。

「2年契約の役割は終わっている」

 津坂氏からは、モバイル市場の競争を活性化するための論点も語られた。同氏は「役割が終わった商習慣が残っていると強く感じている。2年契約は、はっきり言って役割は終わっている」と、土台部分に大きな疑問を投げかける。

 「かつては、多くの設備投資を回収するため、端末を無償(同然)で配ってサービスの普及を図った。そういう時期はずいぶん前に過ぎている。またすでにほとんどが割賦や分離プランで端末を提供しており、端末代金を“取り逸れる”ことがないようなビジネスモデル・仕組みになっている。現在の顧客獲得費用の回収期間は2カ月もない。回収期間が2年もないのに2年契約という商慣習が残っている。2年という期間で縛る意味はなく、そうなるとSIMロックをかけていることも意味がなく、すでに必要はない。設備投資額もすでに一定で、償却期間も一定。5Gの設備投資も、今よりはかからないと各社が言っている。設備投資を理由に期間拘束の契約にするのもあまり通らない。昔のビジネスモデルが残っている。流動性が上がらないのはこれが理由」(津坂氏)

 同氏はまた、「実質●●円」という言葉が、2年経過後にはじめて得られる状況にもかかわらず、販売時のキャンペーンの強いキーワードになっていると懸念を示した。

 「分離プラン」についても、端末販売とセットが前提であることで「半分離プラン。完全に分離していない」と指摘。分離プランで提供されている、48回払いで25回目以降を免除する仕組みについても、「半額になっても、端末は取り上げられる。仮にリセールバリューが50%だとすると、50%を払った段階で残りの(リセールバリュー)50%は取り上げられ、さらにプログラム料を払っており、合わせると100%以上になる」と分析し、リセールバリュー次第でキャリア側が利益を確保でき、また総合的な収支に大きな影響が出ないビジネスモデルになっていると解説した。これらはMVNOでは追随が困難なビジネスモデルであるともしている。

消費者視点での意見

 構成員の、全国地域婦人団体連絡協議会 事務局長の長田三紀氏は、過去のさまざまな施策に対応する結果として「継ぎ足しのプランが増えている」と指摘し、「適切な選択ができなくなっている」と訴えた。

 端末を必ずセットにして、一体となって提供される現状に「通信事業者なのか、端末販売事業者なのか」と疑問を呈したほか、音声とデータのそれぞれのプランを自由に組み合わせられないこと、複雑なサービスになっていること、同じデータ通信でも1GBのプランと追加購入の1GBで価格が違うこと、料金プランの価格はほとんどが割引され「二重価格ではないか。実はそんな(元の高い)料金設定は必要ないのではないか」と、さまざまな点を挙げ、「早急な見直しを強く求めたい」とした。

 長田氏は、端末の販売方法についても苦言を呈する。「非常に高価になっており、オトクに提供するということだが、オトクに見えることで、自分にあった端末を選ぶというインセンティブ(動機)を失わせている。オトクな端末は高機能なので、その機能がいらなくても買って、使いこなせていない。あなたに合ったのはこれくらいの価格のモデル、と分かったほうがいい」。

 このほか広告表示に関連して、テレビCMなどを対象にしている審査を、販売代理店が掲げる広告にも適用すべき時期にきているのではないかと指摘している。

 構成員の、全国消費生活相談員協会 IT研究会代表の西村真由美氏は、消費者は満足しているのか、不満ならなぜ行動していないのか、障壁はなにか、といった点で消費生活相談員の意見をまとめたものを明らかにした。

 西村氏は「各社で同じプランが並んでいる。定額プランが当たり前。使った分だけを払うプランも、見直してもらえないか」とし、かつては“パケ死”などとして問題視され従量制プランも、選択肢としてあるべきと要望した。

 構成員の、野村総合研究所 パートナーの北俊一氏は、長田氏、西村氏から「自動更新をやめるべき」と意見されていることについて「あえて異論を。ないのが良いが、2年間の約束をした上で安くなるというのは、おかしい話ではない」と指摘する。「かつては自動更新の連絡すらなかった。保険の更新なら書類、電話と確認がくる。そうした通知が徹底されるなら自動更新はあってもいい」と語り、自動更新の存在には一定の理解を示している。

 一方で、自動更新がそもそも必要ない、期間拘束のないプランについては、北氏は「選択肢として機能していないのは問題」と指摘。「期間拘束なしのプランの料金の妥当性にかかっているのではないか。そこに話が戻ってくるのではないか」とした。座長の新美氏も「契約の観点からは、期間契約は一般にある。ただ、その価格が妥当なのか、安いのか、分からないのは問題」とした。

MVNOのヒアリング

テレコムサービス協会

 テレコムサービス協会 MVNO委員会 委員長の島上純一氏は、接続料算定の見直しと卸料金の検証は、今後の見通しが示されることが望ましいとし、接続料算定の透明性や検証の必要性も訴えた。

 また、グループ内優遇を排除するため、BWA事業者の二種指定化が必要とし、現在NTTグループに課されている禁止行為規制の対象事業者を拡大することも重要と指摘した。

 新しい技術に関連した部分では、eSIMにMVNOがプロファイルを書き込めるといったようなことを実現するため、事業者同士の議論を加速する必要があると訴えた。セルラーLPWAについても、MVNOでも使える枠組みが必要としたほか、5Gでは大きく仕組みが変わることから、MVNOの新たなネットワーク構成を考える時期にきていると指摘している。

楽天モバイル

 楽天 執行役員 楽天モバイル事業 事業部長の大尾嘉宏人氏は、「音声卸条件の改善」と「スイッチングコストの低廉化」の2点に絞って意見を述べた。音声の卸料金は、2014年から見直しされていないとし、「音声の卸料金は高い。見直しがされていない。算定根拠も不透明」と訴えた。

 「スイッチングコストの低廉化」とは、MNPでかかる諸費用を問題にしたもので、自動更新による拘束やSIMロック解除の手数料、場合によってはバンドルされている光回線の存在などをコスト増の要因に挙げたほか、「MNPで手数料を徴収するのは、OECD加盟国ではほとんどない」と報告。「OECD加盟国の8割では、転入先での手続きだけで完了する。今の仕組みはワンストップではなく、利用者本位ではない」と指摘した。

 なお、転入先の手続きのみでMNPが完了する仕組みについては、過去にも同様の議論があったと構成員の大谷氏から指摘され、この時は、ポイントが失われる、違約金が発生するなどの注意事項を、転入先の企業が適切に案内できない懸念があり、消費者保護の観点から導入が見送られたという経緯が説明された。大尾嘉氏は、Web上で転出できるようになることで、転入先のキャリアと(注意事項を含めた)データの連携が可能になるのではないかとしている。

IIJ

 インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部長の矢吹重雄氏は、諸課題に対する意見としてまず、セルラーLPWAをMVNOで活用できるようにする仕組みの整備を訴えた。また接続料算定については「まだまだ不透明」とし、BWA事業者の二種指定化、サブブランドとの(健全な)競争環境のためにも、電気通信事業法第30条(禁止行為等)の適用拡大を求めた。

 eSIMや5G時代のネットワークについても、テレコムサービス協会と同様の意見で、「議論の活性化を強く望む」とした。

mineo

 ケイ・オプティコム 執行役員 経営本部 副本部長の浜田誠一郎氏は、サブブランドの台頭を受け「独立系MVNOは完全に伸び悩んでいる」と現在の状況を分析した上で、接続料算定、音声卸料金、MVNOサービスの多様化について意見した。

 接続料では、特にデータ通信の接続料の支払いが増加していることや、固定網と比較して算定基準で公開されていない項目が多いこと、また前々年度の実績により算定され年度末に多額の精算が発生すること、将来の見通しが不明であるとなどから、接続料算定に改善を求めた。

 音声卸料金では、ワイモバイルの通話定額プランを例にとり「弊社ではワイモバイルと同じサービスを提供できない」とし、音声定額サービスが事実上MNO限定となっていることは、利用者利便の面で課題であると訴えた。

 mineoはセルラーLPWAなどIoTサービスについても、MVNOがサービスを提供できるよう枠組みづくりを求め、ソフトバンクが月額10円から始められるとアピールするNB-IoTのプランも「MVNOがMNOに支払う1契約あたりの基本料月額88円。MVNOでは(月額10円は)実現できない」と、競争可能な環境の整備を訴えた。

 同社はまた、MNOへの周波数割当において、MVNOへの取り組みにインセンティブを与えることが、MVNOの普及促進に寄与するとした。

日本通信

 日本通信 代表取締役社長の福田尚久氏は、3年前の総務省での「タスクフォース」に持ち込んだ、「大リーグボール養成ギプス」を付けた人形を再び持参。「3年経ってどうなったか。本質的なところは変わっていない。少年が大リーガーと勝負するようなものだと訴えた。今では、これの足にもギプスがはまっている状態。サブブランド問題だ」と、状況は悪くなっているとする。

 福田氏は、接続料算定方式の適正化を求め、「原価はプライシングに非常に重要。将来原価として接続料を算定する必要がある」と訴えた。

 同氏は、MNO自身は法人の相対契約などで、3年先までの将来原価の情報を利用していたという、過去に明らかになった事実を改めて示し、「MNOが原価とみているものは、MVNOと3年の開きがある。このギャップをうめていただかないと、公正な競争もなにもない」と強調。加えて、「帯域あたりの接続料は下がっていると言われるが、MNOと同じ速度を出そうとすると、むしろ値上がりする」と、接続料の単価と“競争力のある帯域”との関係・トリックを指摘。「公正と言われたら、総務省を信用するしかないが、立入検査を含めた調査権を持っていただくしかない」と、算定基準の透明性の確保を訴えた。

 また福田氏は、構成員からの質問に答える形で、「音声を含めたフルMVNOを、(卸ではなく)接続で、と求めている。卸料金でやっている限り、根本的な解決は難しいのではないか」と限界を感じていることもにじませている。