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楽天モバイル「プラチナバンド商用化」の実像と課題

 楽天モバイルは2024年6月27日に、いわゆるプラチナバンドの商用化を開始したことを発表した。今回は、楽天モバイルにとってのプラチナバンド商用化について考えていきたい。

プラチナバンドの開始時期前倒し

 総務省に提出していた開設計画では2026年3月のスタートとしていたが、大幅な前倒しとなったことから、記者会見を開き大々的にアピールした。同社は2023年10月に電波の割り当てを受け、今年4月に試験電波発射を開始し、今回「事業者専用モード」を解除したことで、一般利用ができるようになった。

 楽天モバイルの関係者が指摘するように、今回の記者発表はマーケティング的なメッセージが大きかった。発表時点での基地局数は、世田谷区(東京都)に開設した1局のみと、何よりも開始時期を優先させたことが伺える。

700MHz帯における3MHzシステムの割り当て 出典:総務省

圧倒的なコスト競争力でエリア展開

 今回の周波数帯の割り当てに際しては、そもそも総務省の研究会ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが保有するプラチナバンドを楽天モバイルに再割り当てする方向で議論が進んでいた。3社がプラチナバンドの一部を手放すことに加え、合計で3000億円とされる再割り当てコストを負担する必要性が発生した。その後、NTTドコモが特定ラジオマイクや高度道路交通システム(ITS)で使われている700MHz帯周辺に、3MHz幅×2の空きがあることを提言。総務省が同帯域の割当先を募集すると、楽天モバイルだけが申請するという「出来レース」とも呼べる状況だった。

 楽天モバイルが提出した開設計画では、認定期間終了時の特定基地局(700MHz帯)の開設数を1万661局、人口カバー率を83.2%と設定し、令和15年度末までの累計で、特定基地局に対し544億円の設備投資を行うとしている。この中にはブースター障害などの防止・解消費用が含まれるため、実質的な基地局の設備投資額はもっと低くなると見られる。

 楽天モバイルによれば、既存の基地局に700MHz帯に対応した無線機を設置すれば、そこから先はすべてソフトウェアで対応可能だという。これにより、「コストを圧倒的に下げられる」としている。ちなみに無線機はノキアソリューションズ&ネットワークス製を採用している。

 今回割り当てられたプラチナバンドの最大通信速度は、下りが29.4Mbps、上りが11.3Mbpsにとどまる。3MHz幅×2しかないためで、複数の周波数を束ねて高速化を図る「CA(キャリアアグリゲーション)」もまだ規定されていない。

今後のプラチナバンド投資とコスト削減の両立

 一般的にプラチナバンドの利用に際しては、都市部のビル影や地下街など高い周波数の電波が届きにくい場所をカバーするケースと、地方や都市郊外などのエリアを広くカバーするケースの2パターンが挙げられる。今回、楽天モバイルが活用を想定しているのは、前者となる。そのため、700MHz帯と1.7GHz帯の無線機やアンテナを一体で整備する方針を掲げており、プラチナバンド単独のエリア展開は基本的に想定していない。楽天モバイルに割り当てられた周波数帯は、770MHz~773MHzの3MHz幅(上りは715~718MHz)しかなく、単独のエリアで使い放題の「Rakuten最強プラン」を使われたらという懸念もあるのかも知れない。こうした割り切りも、設備投資削減に寄与していると推察される。

楽天モバイルによるプラチナバンドの効率的な基地局展開 出典:楽天モバイル

 プラチナバンドのエリア展開はこれからだが、令和15年度末までの基地局の敷設ペースはどうなるのか。今回、様々な関係者へ取材したところ、ここ数年は数百局単位で推移し、後半に一気に増やしていくシナリオのようだ。楽天モバイルは赤字圧縮のため、コスト削減を急いでおり、その辺が影響しているとみられる。

 コスト削減のしわ寄せは工事会社にも及んでいる。具体的には、支払いサイト長期化や工事保留による支払い延期といった形となってあらわれているという現場からの意見も聞かれる。

 2024年中の単月黒字化を目指す楽天モバイルとしては、契約者増へ向けプラチナバンド商用化のアピールはしたいが、コスト削減の手綱も緩めることはできないという状況下で難しい舵取りがしばらく続きそうだ。

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