インタビュー

ドコモ前田新社長ロングインタビュー 通信品質を実地で体験、銀行は「まずは意気込み表明」

 6月にNTTドコモの新たな代表取締役社長CEOへ就任した前田義晃氏。就任会見では、通信品質がさまざまなサービスを支える認識を示して、改善に取り組む意気込みを示したほか、dポイントを軸に幅広いサービスを推進する方針とした。

 本誌では今回、前田氏へ約1時間、インタビューする機会を得た。通信品質への考えや競合各社への見解、そして先んじて各媒体で報じられた銀行業への考え方などを聞いた。

ドコモ前田社長

街に出て体感する

――5月の就任発表時の会見で通信品質改善への意気込みを示し、6月18日の会見でも相当なボリュームで通信品質に関する考え方の説明に時間を充てました。前田新社長のもとでの方針が明確に示されたことになります。

前田氏
 6月の会見でもお話しした通り、お客さまの声に向き合い、その体感をもっとも重視していきます。

 ドコモとしては、2023年から続いて品質改善を進めているわけですが、もっと強化しなければいけない。

 では「どれくらい改善されたのか」と指摘されるでしょう。お客さまの声を拝見していると、一時の大きな不満を持たれていたレベルからは下がってきたと思います。

 会見では「(前田氏は)電車に乗らないのでわからないのでは」とも言われましたが、実は、電車は利用しています。

 で、先日、首都圏の通信品質に携わるチームと一緒に夕方5時半~6時半の状況を確かめました。

――実際に街へ確認しに行ったと。

前田氏
 はい、当社だけではなく、4キャリアの全ての電波状況を確認してきました。

 担当チームからは、電波測定の数値を見ても面白くないのでは……と気遣ってもらいましたが、いやいや、大丈夫だぞと。個人的にはスピードテストやソフトウェアアップデートの進捗とか、好きでずっと見ているタイプなんですよ。

 現場で確認してみると、場所によって良いところ、悪いところがもちろんあります。改善が必要なところにはまだまだ対策が必要だとあらためて認識しました。チームには「良いところも悪いところもきちんと共有してね」と念押しして。

街に繰り出して電波状況を確認した前田氏(ドコモ提供)

 代表例として、渋谷のハチ公前周辺は、実際に確かめたところ、爆速になりました。一方で、表参道の一部はまだ改善が必要です。

 工事で基地局が撤去されれば新たな基地局設置が必要で、細かく管理・運用して、機器も取り入れる。(品質に反映されるまで)工程はありますし、担当者たちも頑張っていますが、あらためて社内へ「頑張ってくれ」と伝えています。

 私が「通信品質のレベルを上げたい」と思う根っこには、ドコモに対してそういう品質を期待いただいていると受け止めていること、そして通信がしっかりしているからこそ、その上でのサービスの価値が生まれるということがあります。

 社内のネットワーク担当は、意気盛んになっています。頑張りたいという声もあって、「よし、きちんと1位になろうぜ」と。

 都市部は(まだ良し悪しのある)そういう感じ。面積は広くカバーしていますが、人口が集中する場所でも快適にお使いいただくには、基地局設備は密に展開しなきゃいけないと。

300億円の対策→「桁が違うレベルで」

――設備投資額などはどうなりますか?

前田氏
 これまでも相当な額を投じてきていますが、今回のエリア対策にでも、かなり大きく投資します。昨年は300億円とお伝えしていましたが、全然違うレベルでやろうとしています。

――具体的な金額感は……

前田氏
 まだ開示できないんですが、「桁が違うレベル」になります。

――前田さん自身のこれまでのキャリア(iモード時代にドコモへ転職、その後、コンテンツプラットフォームやポイントマーケティングなどをリード)からすると、「通信・技術分野は弱点」と指摘されがちだと思うのですが、さすがに月に1回とか定期的に現地調査を続けるのは難しいですよね。

前田氏
 いや、やりますよ。

――え、ホントですか。

前田氏
 やります。

 7月に入って社内に向けてメッセージを出したんですが、そこでも「とにかく現場に行きます」と。

 ネットワーク品質の確認はもちろん、お客さまとの接点であるショップにも行きます。

 課題は当然、解消していかねばなりませんが(社長就任会見で示した方針である)「お客さま起点で事業を運営する」ってことは、お客さまがどう感じられているのかという感覚を、経営層と現場で合致させていないといけない。正しい方向にいかないと思います。

6月18日の会見で示された「お客さま起点の事業運営」という方針

 その目線を合わせていこうよと。「目線を合わせる」ってことは、(社長も)わかってるのか? と問われる話なわけです。ちゃんと(お客さまの声を)理解していかなきゃいけない。

エリア設計を頑張ったスタッフを表彰

前田氏
 その一環として、サービスエリアに関しては、頑張ってくれるスタッフたちを表彰することも考えています。

 社内には、エリア設計を担う「エリアプランナー」と呼ばれる人たちがいます。話してみると、やっぱりみんな、こだわりを持って仕事をしている。

 現場を一緒に回ったスタッフも、いろんな想いがあって、品質を追求してんだな、とあらためて感じましたし……。

 (通信の使われ方、量が変化するなかで)ちゃんと品質をうまく保てていたり、伸ばしたりしている仕事を成し遂げる人たちをどんどん評価する。その評価は、全体に共有されていきますよね。そんな取り組みを進めようと。

 「エリアに愛を賞」と、ちょっと言いづらいんですけど(笑)。

コロナ禍後の「エリア競争」の変化

――ちょうど2年前、井伊基之前社長のインタビューでは「エリア拡大で競争する時代ではない」ということでした。5Gになってルーラル(いわゆる田舎、田園部)ではシェアし……という話でしたが、サービスエリアが競争力の源泉という時代から転換した、というお話でした。そのあたりは、今、変化しようとしている/させようとしているのでしょうか?

前田氏
 長期的なトレンドでは、どういう考え方が正しいのか……いろいろと考え方があります。たとえば、2年前の2022年といえば、まだコロナ禍で、その時点でのサービス品質への考え方、競争に対する考え方も、いわば特殊な状態でのものでした。そういう(競争ではなくなったという)考え方も出てきやすい状況があったかもしれません。

 今は、人がまた戻ってきて、外出先でスマートフォンをより多く使っていただけるようになった。そこで、もっと使いやすくするようにするのは良い取り組みですし、競争を働かせて、より良いものにするのは社会全体としてハッピーな話です。今はそういうフェーズなのかなと。

楽天モバイルは「脅威」

――他社との競争という面では、楽天モバイルが6月、プラチナバンドでのサービス開始を発表しましたが、どう受け止めていますか?

前田氏
 プラチナバンドに限らず、楽天モバイルさんは、変わらずアグレッシブで、幅広く取り組んでいらっしゃると思っています。

 お客さまの獲得競争という意味でも、楽天さんもだいぶ積み上げつつあると思いますし、だいぶ脅威だなと。負けないようにしたいです。

――楽天モバイルに対して、エリア構築が大変という指摘はかねてよりありますが、脅威とみなすというよりも「影響はない」という見解が各社の決算会見でも示されてきましたが、「脅威」だと。

前田氏
 私は脅威だとは思います。もともとの事業があって、大きな収益を得ていらっしゃったわけです。

 どんどんどんどん競争に対して踏み込めるというのは、ネットワーク投資も、販売面でも同じように踏み込んでくる可能性はもちろんある。

 まだ(赤字が続いて収益面で)バランスするまで至っていないと言われていますが、だからといって、様子見でいいということにはなりません。

 実際、低価格帯(の料金でのユーザー)の動きを見ていると、楽天さんもかなり健闘されているように見えています。

――それは、ドコモに対する影響はないが……という意味ですか?

前田氏
 いえ、我々にとっても影響がある話です。

 (NTT全体としては)かつての「OCN モバイル ONE」が低料金のニーズにお応えしてきた。でも、UQ mobileさんやワイモバイルさんのように活発なアプローチは最初から採っていたわけではない。

 長期にわたって、徐々にシェアも落ちていき、低価格プランへのニーズが高まり、わかりやすさも求められた。ドコモとしてきちんと対応すべく「irumo」が登場したわけです。

 競争が激しくなっているところに、ドコモも向き合って、使い続けていただけるようにしたいと思っていますので、ここは(攻勢を)強めるところですし、まったくウカウカしていられる状況ではないですね。

次なる料金プランは「機動的に対応したい」

――楽天モバイルは、楽天市場などのサービスがあった上での通信への参入です。一方で、ドコモでは料金プランとポイント経済圏のシナジーや強みを打ち出していきますか。ahamoやeximoは「ポイ活プラン」が出ましたが……。

前田氏
 料金プランの全体感をどう変えていくかというところまで、考え方が煮詰まっているわけではないです。

 ただ、楽天さんの話も含め、料金プランやキャンペーン施策で、通信サービスやそれ以外のサービスとの関連は、各社取り組んでいますよね。

 我々の今の料金プランのラインアップが優れているか、というのは正直まだわからない。

 ただ、お客さまに評価されるよう、市場環境に対応させて攻めていける変更は、機動的に取り組みたいと考えています。

――なるほど。

前田氏
 たしかにポイント連携するものが遅れたという指摘はありますが、「このサービスをよりおトクに使うなら、この料金プラン」というコミュニケーションをお客さまと取っていくべきだと思います。

 いま、本当に動画もたくさん利用されるようになって、ずっとスマートフォンが使われている状況です。

 開始済みの「ahamoポイ活」は、いわば前哨戦のような側面があります。今後は「eximoポイ活」も予定しています。

 決済で、(さまざまな店舗で使える)共通ポイントを利用されている人が来店されたら、「ポイ活いいですよ」と提案しますし。

 ahamoポイ活の具体的な利用数は非開示なんですが、想定通りの動き。

 たとえば、「ポイ活」を選ばれる方はどんな人か。最初に想定されるのは「もともとahamo大盛り」を使っていた人(※筆者注:ahamoポイ活は、ahamo+大盛りオプションに加えてポイ活オプションを契約する場合を指す)です。

 それから、もともとdポイントを積極的に利用されている方々。こうしたお客さまは、想定通りに加入いただいているんです。

 ちょっと意外だなと感じたのは、「決済利用額が必ずしも多くない人」にahamoポイ活が利用いただいていることでした。「支払いで活用すればポイントがたくさん還元される」わけですが、そのついでというか、「通信をたくさん使える」状態になるわけで、我々からすると、いわば“アップセル”(上位のプランへ切り替える)という状態です。

 特に決済面では、もともと、そこまでの使い方をしていない人でも、たくさん利用されるようになっていて。

 コンテンツ面では「爆アゲ セレクション」で利用が増える人もいます。

 ようは、お客さまへのサービスの組み合わせ方にまだまだ工夫の余地があることが見えてきた。その強化を進めたいですね。

――ドコモの業績発表では「モバイル通信ARPU」として、通信料金での売上高が指標として示されていますが、サービスの利用を促進するなら、そこも含めた指標にしたほうが良さそうですね。

前田氏
 社内だとそういうスタンスです。

 今、一番、重要視しているのはシェアです。これ以上シェアを下げない、実質的にシェアを上げる状態にする。

 そのためには、料金プランとしては低価格帯の「irumo」への加入が大きい。ドコモとしては、昨年irumoを開始したこともあって、他社よりも(ARPUが下落するという)動きが遅れている。

 もちろんAPRUが下がる一方なのか、戻さないのか、という指摘もあるでしょう。では、ARPU上昇を優先して、短期的に、高い料金プランだけ揃えるのか?

 いやいや、料金だけが競争領域じゃないんです……ということになるわけです。金融やコンテンツなどで各社が取り組んでいる。業績発表の上では通信じゃないレイヤーで、どうお客さまにお使いいただいて成長するのか。

 そのためには、顧客基盤がしっかりしている必要がある。ドコモ回線をお使いではない方もdポイント会員になっていただけますが、やっぱり通信品質が(顧客基盤を支えてサービスの成長を促すための)「一丁目一番地」です。

経済圏競争での「ドコモの強み」は

――あらためて、携帯各社の取り組みを踏まえた、ドコモの強みをどう打ち出すのか。市場や金融を持つ楽天、ローソンを傘下にし金融も揃えるKDDI、PayPayが大きな存在感を与えるソフトバンクという各社の状況を踏まえると……。

前田氏
 楽天さんは、ECから共通ポイント化を進めて、実店舗にも対応されています。金融も手掛けて、結果、通信事業に参入された。この取り組みは、すごく長い時間をかけた取り組みで、かなり強い。

 その中でも、金融分野、特にクレジットカードの伸びが大きいと理解しています。やはり追いかけていきたい。

 これは、ドコモとしても、dポイントで多くの加盟店さんがいます。実店舗では今、業界で一番最大だと思っています。来店するお客さまに使っていただければ、dポイントカードの提示によって「どんなお客さまなのか」と(匿名化・統計化されたデータとして)可視化される比率が高まります。

 加盟店のなかには、来店客の8割がdポイントカードを提示して、データとして見えているところもあります。そうなると、来店客に向けた関係づくり、CRMも進化する。さらには、その店に並ぶ商品を手掛けるメーカーによる施策も活性化できるようになります。

 一方、ECでは、ドコモ自身は大きなものはありませんし、それは弱いと見られるでしょう。だからAmazonさんとの連携に至った。

 このあたりで、(競合に対するドコモの)対応策は揃いつつあります。

 金融で見ると「ポイント基盤での親和性」は高く、実際に事業として成長を遂げている。2023年度は取扱高が13.1兆円で、前年同期比で20%弱の成長でした。

 このレベルでの成長は、「金融事業が成長していない」とは言えないと思います。起点は決済で、取扱高、つまり利用者数を増やしていくことが、大切です。

 もちろん、楽天さんは20兆円ある(楽天カードの年間取扱高)ので、そこを目指す必要はあります。PayPayさんは確かにコード決済で大きく成長され、d払いも頑張らなきゃいけないですが、クレジットカード事業としては、そこまでという感じでもない。トータル(コード決済とクレジットカード)の取扱高はほぼ同じで、同じような伸び方。負けないようにしたいなと思っています。

銀行業「24年度中にやりたいなという意気込み」

前田氏
 そうした金融領域に関する取り組みは、これまで10年ほどかけて、遅れているところがあるのは事実です。

 ビジネスの機会という面でもそうですが、一人の生活者としても、銀行にただ預けている場合ではなく、投資信託などに手元のお金を投じることが当たり前になっていく。

 そんなときに「金融サービスがわかりやすく提供されていないところを選びますか?」と言われて、選ばれるわけがありません。マネックスさんがドコモグループに入っていただいたのは、お客さまにとっても、良い話になりますし、ドコモにとっても事業機会が増えることになります。

 また、ドコモでも「dスマホローン」の利用が増えていますが、お金を使う機会が増えて、融資も増えています。オリックス・クレジットさんにドコモグループへ入っていただいたのもそういう理由からです。

 普段使いの決済から証券サービス、そして融資を受ける。そういう利便性やサービスを届けるという世界観で進めているわけですが、そうなると、「お金はどこにあるのか」という点があります。たとえばd払いで決済するお金や、マネックス証券の投資信託を買う資金はどこにあるのか……となると銀行口座です。

 ここやっぱり、一定のペイン(痛み、ここではユーザーにとって手間がかかること)があります。金融サービスとスムーズな連携を考えると、(銀行という)その機能があったほうがいいと、もちろん思っています。

 皆さん「いつ銀行業やるんですか?」とおっしゃってますが、それに対して、野心的に「やりたい」「本当に思ってますよ」というレベルで申し上げています。

――5日には、「今年度にも銀行業へ参入」と多く報じられていますが……。

前田氏
 「年度内にやれたらいいなと思ってます」という、希望というか、野心を述べたかたちで、目処がついているかのように伝えられていると、「それはちょっと……」と。

――なるほど。

前田氏
 制度上で必要な手続きがすべてなくせるというわけではないでしょう。ただ、システムの連携をどう構築するか、みたいな観点で、全体を俯瞰しないと進められない話だとも思うのです。

――銀行をやりますというよりも、ユーザー体験として、設計をするなかでの必要なパーツということですか。

前田氏
 たとえば、今、マネックス証券さんと初心者向けのわかりやすいサービスをやろうと、今準備を進めています。

 私個人の感覚としては、早く実現させたいと思ってしまうのですが、いやいや、そうじゃないよと。

 リスクも伴うサービスですので、ちゃんとしたシステム開発も必要ですし、金融事業を担う責任、リスクマネジメントの体制が当然セットです。

dアカウントを改善する

――金融サービスをさらに進化・発展させる上で、dアカウントの使いづらさが気になるところです。ともすれば決済アプリでログアウトし、再ログインでも認証が複雑な手順になっているところがあります。安全性と利便性のバランスで、ややセキュアさへ傾きすぎではないかなという印象があります。

前田氏
 はい、そうした認識は持っています。社内でも、たとえばキャッシュの期間をもっと長くできないかなど、議論しています。

 セキュリティを保つことも重視しなければいけませんので、いろいろ試すしかない。モニタリングして、テストしながら見定めるしかないです。

 ただ、ご指摘の通り、「それ不便でしょ」「自分自身、困ることがあるでしょ」ということを意識して進めていきます。「これがルール」といったん決めたら永久に変えないのか? という話です。

 たとえば、冒頭で触れた通信状況も、良くない環境だと「d払い」で支払えないことが発生しています。「d払い」アプリで、そのログも取れる。

 先日も「ここで使えない」という店を共有して、実際に使えないことを確認して、リピーター(中継機)を設置して改善をはかりました。

 こうやって細かいレベルでしらみ潰しを進めるしかない。ですから、利便性や使い勝手の良さを追求する、「お客さま起点で考える」ことが必要です。

 もし、そういう点があれば、ぜひ教えてください。僕も皆さんの記事を見て、社内に転送して「これはやばいぞ」と共有してきたので。

――もうひとつ、加盟店数トップとはいえ、中小規模のお店では、PayPayが席巻している印象ですが、どう進めますか?

前田氏
 確かに、自宅の近くにあるクリーニング店で使えるコード決済はPayPayだけでした。そのままPayPayを使うのもちょっとシャクなので、PayPayにdカードを紐づけてたんですけど、これも通用しなくなる。結局はdカードで「Visaのタッチ決済」でしのいでいたりします。

 そうした、行き届いていない点は細かく差を詰めようと頑張っています。各地の支社・支店で、加盟店に対してマーケティングソリューションの販売を強化すべく体制構築を進めていますが、中小・個店の開拓を進めます。

 もちろんすぐに効果が出るわけではない。そこで訴求したいのが「d払いタッチ」です。

 たとえば、イオンさんはコード決済非対応です。しかし、d払いタッチは使えます。

 FeliCa対応のリーダーライターを置くお店は、中小規模のところでもたくさん存在していますので、そこを訴求していきたいですね。

――タッチ決済は、クレジットブランドのVisaやMastercard対応のものが交通機関などで導入されつつあります。

前田氏
 各店舗には、(すべてのタッチ決済に対応する)オールインワンの端末がありますので、d払いもiDで使える、ということで「d払いタッチ」を知っていただけるようにすれば、と思っています。

――Visaなどは競合というわけではないですね。

前田氏
 はい、「dカード」もVisaのタッチ決済でご利用いただけますし、実際、もともとパートナーであるという認識です。

ミリ波スマホと通信品質の関係

――話は変わって、スマートフォンについてお伺いします。業界全体としては販売数が右肩下がりが続いています。

前田氏
 2023年末に、法制度のルールが変わり(割引上限が2万円→4万円に)ましたが、その後、一時、販売が落ち込みました。ただ、2024年度になって第1四半期は昨対でけっこう販売数が増えています。

 制度改正の影響は限定的というか、売り方やコミュニケーション次第で、まだ伸ばせる余地がある。ただ、中長期的には、下落傾向にあるのでしょう。

 その背景には、端末価格(の高騰)もあります。また、ドコモとしてのオリジナリティ、バラエティという話もあります。

 今、機種変更への意欲が高まるかというと……というところはあるでしょう。身近なところでは、私の息子を見ていると、新しいiPhoneが出ると欲しいとすごく言います。新しいものへのニーズは一定程度あるのでしょう。

 そうなると「手が届くのかどうか」です。そこは、ドコモだけではなく、メーカーさん自体も今の状況をどう捉えて開発していかれるのか。

――総務省では、ミリ波対応機種の割引上限を緩和する話も出ていますが、ミリ波かどうかで買う機種を選ぶ人ばかりではないなかで、そうした動きをどう捉えていますか。

前田氏
 我々も5Gエリアを頑張って構築していく方針ですが、これまでの5Gも、すべてが実装されているわけではないですし、すべて使いこなされているわけではない。

 たとえば、海外では、ネットワークスライシングを使ったプラチナサービスもあったりする。プレミアムな通信環境にお金を払っても使いたいという方々がいるわけで、そのことに対して、キャリアも考えを進める必要があります。

 そのためには端末メーカーさんによる実装も含めて考えることになります。世の中よくなる、便利になる、楽しくなるよ、と伝えていく必要があるでしょう。

――なるほど、端末の拡充に向けて、ミリ波を十分に活用できる通信サービスも必要だと。プレミアムなサービスということは、ドコモとして、料金プランに応じた通信品質、という形態もあり得るのですか?

前田氏
 あり得るでしょう。ただ、日本全国での提供と考えると、はたして経済合理性があるのか、という検討が必要です。

 めちゃくちゃ通信する人に対して、ネットワークをしっかり制御(して高品質なサービスを提供)できるのか、という前提も必要でしょう。

 現実的な条件が揃えば、料金プランに応じた通信品質はありだと思います。

――そのあたりは、どこまで現実的な検討なんでしょう?

前田氏
 まだ何も決まっていませんし、準備をしているわけではないです。ただ、グローバルでの状況を含めると、そういう動きもあり得る。

 ニーズが多様化するなかで、たとえば、また息子の例なんですけど、宅内だけでゲームを楽しんでいたのが、持ち運べるゲーム機を使うようになったかと思えば、今はゲーミングPCを欲しがったりして。そうなると、自宅のブロードバンド回線も速度を求めてきた。

 こういう話って、モバイル環境でも出てくるし、出てきていると思います。「この場面で高い品質が欲しい」という通信品質と、日々の生活のなかで充足する通信品質って、やっぱり違う。

 「そこまでクオリティを求めない」という人も含めて、全体に一定の安い価格で提供していくのはちょっと無理がある。

 今は技術面などの制約があって(プレミアムな通信品質の料金プランが)実現できなくとも、ずっとそのままではもったいない。可能性をどこまで突き詰められるか、ということです。

前田さん、今のスマホは?

――最後に、これまでのお話とガラリと変わって、前田社長が使うスマートフォン、教えてください。

前田氏
 いや、ずっとXperiaなんですよ。今は最新モデルの。

――あ、そうなんですか。

前田氏
 最初のAndroidはHTC製でしたよね。その後に登場した初代Xperia、今となっては大ぶりなものですが、当時は格好いいデザインだなと思って、音楽好きとしてはソニーさんということも響いて「Xperia」を選びました。Galaxyを使っていた時期もありましたね。

 今回のモデルは、スピーカーでの音が良いですよ。Bluetoothスピーカーも使っていますが、遜色ない印象で。

 プライベートでは、iPhoneのmini(iPhone 13 mini)も使っています。ランニングするときとか、ウォッチだけなのが、ちょっと嫌で、ポケットに入れて走れるサイズなんですよね。

――あ、ではXperiaを持っていただいて、撮影を……これで、ドコモがシャオミや、モトローラとか取り扱われるようになると、前田さんの選択肢も増えそうですね。

前田氏
 いやー……まぁちょっといろいろ考えていきたいと思います(笑)。

――本日はありがとうございました。