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「今までが異常だった」――通信・端末の“完全分離”で総務省が緊急提言

料金プランに禁止行為、法改正も検討、モバイル研究会第4回

 総務省は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第4回の会合を通じて、通信料金と端末代金の完全な分離をキャリアに強く求める内容などを盛り込んだ、緊急提言案を公表した。12月18日までパブリックコメントを募集し、法改正を含めた措置を速やかに講じていくとしている。

「モバイル市場の競争環境に関する研究会」第4回、消費者WG第4回との合同会合

 11月26日に開催されたモバイル研究会の第4回は、第3回の最後に案内されていたように、総務省が開催する「消費者保護ルールの検証に関するワーキング・グループ」(消費者WG)と合同で開催された。それぞれの会が3回ずつ開催した内容から、共通して指摘される課題が明らかになったことから、「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」(案)として公表された。

 第4回は全体を通じて総務省の佐藤副大臣が出席したほか、石田総務大臣も会の最後に登場して緊急提言の内容を推進していくよう取り組むと挨拶している。

最後に挨拶する石田総務大臣

 “緊急提言”の背景として、11月19日に内閣府が開催した規制改革推進会議の答申に、総務省に対し通信料金と端末代金の完全な分離を図ることなどが盛り込まれた点がある。またモバイル研究会でも、第3回まではユーザー向けの料金に関する課題などを取り扱っており、キャリアのビジネスモデルの転換を促す意見が繰り返し出るなど、抜本的な見直しが必要との論調が強まっていたことから、会の途中ながら「緊急提言」としてまとめられた。

「完全分離」、キャリアの端末販売・ビジネスモデルに大幅な見直しを求める

 緊急提言案では、「シンプルで分かりやすい料金プランの実現」をまず掲げている。

 かつてキャリアの料金プランは事前の認可制だったが、規制緩和・撤廃により、さまざまな料金プランを提供できるようになってきたという背景を示す一方で、「理解することが困難なもの」「過度に拘束するもの」が出てきており、「競争が制限されている」と指摘、こうした料金プランは「抜本的に見直し」、「真に利用者のためになる工夫が進められるように取り組んでいくことが求められる」とした。

 そうした背景を受けて、緊急提言案では通信料金と端末代金の完全分離を求めている。

 通信サービスと端末のセット販売には、「セットで購入するものとの強い印象を与え、本来は別のものであるという理解を妨げている」「割引が特定の端末の利用者に限定されているという不公平が生じている」「必要以上に新規端末に買い替える誘因が働く」「過度な端末購入補助でハイエンドとローエンドの実売価格が接近し、市場メカニズムが有効に機能していない」など、現在の問題点が多数指摘されている。また料金プラン側でも「自らのニーズに沿って合理的な選択を行うことができない」「利用者を過度に拘束する」などと、1億7000万契約を超えてなお続く、セット販売の弊害への指摘が続く。

 その上で提言として、「端末の購入等を条件とする通信料金の割引等を廃止する」ことで「問題点を解消することが適当」とし、通信サービスの一定期間の利用を条件に端末代金を割り引く施策も「見直すことが適当」とされた。“4年縛り”などと指摘される、現在の分離プラン向けに提供される端末代金の残債免除プログラムについても、依然として残る問題点を指摘し「抜本的に見直すことが必要」と同様。また、これら割引が販売代理店を通じて行われる場合も、対応する必要があるとしている。

複数年契約、過度に複雑なプラン

 複数年契約など、通信サービスの長期契約については、期間拘束のないプランが内容で劣り、実質的な選択肢になっていないことは「見直すことが求められる」としたほか、違約金の水準は「合理的な算定根拠に基づき設定されるべき」とし、現在の高い違約金の水準はスイッチングコストを高めるものとして「見直すことが求められる」としている。

 また、利用者の理解が期待できないような過度に複雑な料金プランや合理性を欠く料金プランは、利用者の正確な理解や合理的な選択を妨げるとし、見直しが必要としている。

料金の提供に「禁止行為」を定め、電通法改正で業務改善命令

 緊急提言案では、その取組の方向性について、「利用者の利益を阻害するものとならないための最低限の基本的なルールを守りつつ行われることが必要」とした上で、「料金その他の提供条件に関する禁止行為を定め」るとし、違反した場合に改善を命令できるよう、「電気通信事業法の改正を含め、必要な措置を検討し、速やかに実施に移す」としている。

 また総務省がとる措置の効果をデータで検証できるよう、販売奨励金や端末購入補助の詳細、端末に係る収支の状況などのデータを定期的に把握することが必要ともした。

すべての販売代理店に「届出制を導入」の方針

 通信関連の苦情相談件数の低下については、これまでの取り組みに一定の効果が認められるとするものの、依然として高い水準で推移しており、店舗販売など販売代理店に起因した苦情相談が多く生じていると指摘。その内容の多くは不適切な勧誘や説明に起因すると分析され、携帯電話についてはキャッシュバックの派手な看板や「実質0円」などの店頭広告において、適用条件が認識しづらく、特典が受け取れないという苦情があるとする。

 また、すでに取り組んできた端末購入補助を抑制する取り組みは、通信事業者(キャリア)に適正化を図る一方、販売代理店は対象外になっており、十分に効果を上げていない状況、と振り返る。

 緊急提言案では、電気通信事業法の改正を含めて必要な措置を講じることが適当とした上で、「販売代理店の存在を総務省が直接把握するための必要最小限度の制度として、届出制を導入する」とし、(光回線を含む)販売代理店の不適切な勧誘や実態について、総務省が業務改善命令を行える環境にする方針。届出制については、一次販売代理店だけでなく、すべての販売代理店が対象になる見込み。

「残念な現実」「これまでが異常だった」

 モバイル研究会と消費者WGの合同会合となった第4回では、すでにそれぞれの会で課題として挙がっていたことが改めてまとめられた形になったが、緊急提言案に対し有識者からなる構成員から意見が述べられた。なお基本的には、各構成員から緊急提言案に賛同する意見が表明されている。

 大谷和子氏(日本総合研究所 執行役員 法務部長)は、従来のガイドラインでは不十分とする意見があったことなどから、緊急提言案の中で電気通信事業法の改正に踏み込んでいることを評価。「料金に下方硬直性が認められる残念な現実があり、何らかの取り組みが余儀なくされている」とする一方、「合理性や合理的という言葉が繰り返し出てくるが、何に合理性があるのか、十分な説明が必要。過度の、や行き過ぎた、という基準も同様」と、緊急提言案にさらなる具体性を求めた。

 モバイル研究会の第1回にも出席した黒坂達也(クロサカタツヤ)氏(慶應義塾大学大学院 特任准教授、「消費者WG」構成員)は、大谷氏の意見に賛同した上で、「法的根拠の明確化を進めていただきたい」とした。また料金プランの変更など、大幅な見直しが求められることから、「事業者、販売代理店にも啓蒙活動を進めてもらいたい」とし、ユーザー向けの告知や案内もしっかりと行うことが重要になるとした。

 北俊一氏(野村総合研究所 パートナー)は「ついに通信料金と端末代金の完全分離という提言を出した。ここまでやるのかという意見もあると思う」とした上で、「最新のiPhone XRでも、(一部店舗では)一括ゼロ円+キャッシュバックをやっている」と指摘。「これまでが普通と思ったらそれは間違い。これまでが異常だったと考えるべき」と異常性を訴え、「本当はこれまでにも適正化するチャンスはあったし、試みたが、一向に収まらない。正常化するためにしかるべき対応をとらなければならない」と、これまでを振り返りつつ、必要な対策であるとした。

 北氏はこのほか、「完全分離」までの過渡期には、現在の(値引きを前提として用意した)在庫をさばく必要があり、ここの値引きについては一定のルールの下で行われることが重要とし、しかしここでも大きな抜け穴がないよう「知恵を出し合っていいく必要がある」と指摘している。