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接続料算定方式の変更やUQ・WCPの二種指定について議論、総務省モバイル研究会第7回

 総務省は、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第7回を開催した。第2回と第5回でテーマになっていたMVNOや接続料に関連するこれまでの議論を踏まえ、今後の検討の方向性が案として示され、議論が行われた。

「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)第7回

 モバイル研究会ではこれまで大きく分けて、一般ユーザー向けの料金や端末に関する内容を第3~4回、第6回で取り扱い、MVNOや接続料(MVNOがMNOに支払う料金)など事業者間の競争環境については第2回、第5回で取り扱っている。

 第7回では、事業者間の競争環境に関する大きな5つのテーマとして、1)接続料算定の適正性・透明性の向上、2)ネットワーク提供条件の同等性に関する検証、3)音声卸料金の適正性の確保、4)MVNOによる多様なサービスの提供(セルラーLPWAの提供)、5)第二種指定電気通信設備制度の全国BWA事業者への適用について、が挙げられた。

 それぞれについて、状況や経緯、モバイル研究会の第1回で示されていた「論点(案)」、第2回や第5回での議論が振り返られ、論点を整理した「検討の方向性(案)」(以下、方向性案)が総務省側から示された。

接続料の算定は将来原価方式を検討へ

 接続料の算定方式の適正性について、今回示された方向性案では、MNOとMVNOの公正競争の確保には、接続料の予見性やキャッシュフローの負担が重要とした上で、過去の実績を基に当年度末に算定する現在の実績原価方式から、複数年度を予測して当年度開始前に算定、乖離額は将来に反映させる将来原価方式を提案。2つの方式の比較や、メリットとデメリット、留意点、具体的な将来予測方法を示し、前向きな検討を促している。

 また透明性については、2018年の公正取引委員会の議論でも指摘されたように、接続料の算定には一層の透明化が求められているとした上で、一種指定(固定網、NTT東西)の経緯も参考に、接続料を算定した根拠の報告や公表、情報提供を求めることが方向性案として示された。

構成員からの意見

 北俊一氏(野村総合研究所 パートナー)は、議論されている2つの算定方式について、「どちらの予測の精度が高いのか、予見性でどちらが良いのか、そこにかかるコストとのバランスでみていくことになる」とし、「(仮想的に)過去に戻ってみて、3年前の時点から(その翌年の)2年前の予測値を、どのくらい精緻に予測できたのかとか、両方式を比べるなら数値的な裏付けが必要。将来原価方式で3年後まで予測を出した後、1年ごとに見直していくとか、折衷案的なものも可能ではないか」と、予見性の高さを基本にして、いくつかのやり方があり得るとしている。

 大橋弘氏(東京大学 公共政策大学院・大学院経済学研究科 教授)は、「かかった原価をその場で回収できればいいが、実際には時間がかかる。そのズレをだれが負担するのかというものだ。MNOにとっては、(MVNOが精算せず撤退すれば)回収漏れのリスクにつながる」とし、現行の実績原価方式にも問題は多いと指摘する。

 一方の接続料そのものについては「競争により、適正化されるのか? やや、難しいのではか」と疑問を投げかけ、「(提供された情報を)公開する必要はないかもしれないが、適正な接続料になっているという、確認のプロセスがあってもいいのではないか」とした。

 大谷和子氏(日本総合研究所 執行役員 法務部長)は、2013年以降は接続料の下落の程度が緩やかになっていることなどから、「接続料は予測可能な時代に入っている。どれだけ予測できるのか、検証していく必要がある」としたほか、MNOの回収漏れリスクについても配慮が必要とした。

 その上で、将来原価方式の導入について、「複数年度で可能ではないか。(それに必要な)データを集める時期に差し掛かっているのはないか」とし、将来原価方式を導入するよう促している。

 関口博正氏(神奈川大学 経営学部 教授)は、将来原価方式について、固定網での実績などから、相違点はあるものの「まったくの手探りではない」とした上で、予見性の向上など利点も多いとし「2年前のデータを使っていた今までと比べれば、導入するだけの価値がある」とコメントしている。

ネットワーク提供条件の同等性に関する検証

 ネットワーク提供条件の同等性は、いわゆる“ミルク補給”と指摘された親会社から子会社への(秘密裏な)支援や、サブブランドと呼ばれるサービスの料金水準が、不当に競争を阻害していないか検証するというもの。

 方向性案では、接続料やユーザーが支払っている料金を算出した上で、不当な競争を引き起こすものではないことを確認するとしており、接続料が、実態としてのユーザーの料金を上回る場合(MVNOが同じ価格帯や品質を実現できない場合)、競争の阻害にならないという理由を示す必要があるとしている。

構成員からの意見

 西村暢史氏(中央大学 法学部 教授)は、第7回の配布資料で参考として、一種指定における不当競争回避としてスタックテストが実施されたことを紹介している点について、「一種と二種の違いは大きく、二種はサービスが多様。スタックテストを行う情報も多様で、テストの費用をどう負担するのかといった、準備作業も必要になる」と指摘し、固定網の実質1社(NTT東西)を対象にした一種指定とは異なる検討課題も多いことを示した。

音声卸料金の適正性の確保

 音声卸料金については、適正性について検証の必要性があると指摘されており、方向性案では、リテールマイナス方式であるならば、MNOが音声定額などで提供しているすべてのユーザー料金を加味した、実質的なユーザー料金をベースに設定する必要があると指摘、これの検証方法なども提案している。

構成員からの意見

 大谷氏は、「検証を行うのに必要な、不足している情報をどのように得るのか。一定程度は開示してもらうことが必要になる。検討してほしい」とコメントし、卸料金について一部は情報提供が必要になるとの見方を示した。

 佐藤治正氏(甲南大学 マネジメント創造学部 教授)は、卸料金は、高めの料金を基準にしており、実態を反映させるのが課題になっているとした上で、(第5回の議論などで)「各社が対応するといっているので、総務省側でも早く方向性を示すようお願いしたい」と促した。

 佐藤氏はまた、「(卸料金に関連した情報などは)経営情報だから出せない、と断るケースがある。経営情報の中でも、出せるものと出せないものががあるだろう。政策のために、真摯に対応していただきたい。総務省からも強く依頼してもらいたい」と、透明性の確保に協力するようキャリアに要望した。

 佐藤氏はこの点について、裁判所が採用する「インカメラ手続き」(機密情報が提出拒否に値するかどうか、非公開で当該の機密情報を確認すること)なども検討してはどうかとコメント。関口氏も「電気通信の分野では守秘協定を結んでやってきた事例もある。十分可能ではないか」としている。

MVNOによる多様なサービスの提供(セルラーLPWAの提供)

 MVNO向けにセルラーLPWAなどを開放する取り組みについては、MVNOがMNO同様に低廉な料金で柔軟に提供できることが重要とする。

 一方で、MNO側はこれまでのヒアリングや議論の中で、接続料を設定できない旨の慎重な意見を出しており、また実際に、KDDIは接続約款上に規定がなくL2接続も利用不可、ソフトバンクもL2接続は利用不可とするなど、MVNO向けの対応は遅れている状況。

 方向性案では、MNOが、これまでの議論で「新たな卸料金を設定する」などとしていることに対し、「適正原価・適正利潤により算定されるはずの接続料よりも低廉な卸料金の設定は想定しづらい」と指摘。さらにそもそも論として、データ伝送交換機能からセルラーLPWAが除かれていないため、「接続料の設定は行わなければいけないのではないか」と示し、MVNOにとって低廉なサービスのネックになるとされる「回線管理機能」などの料金の設定を、セルラーLPWA向けに適切にするような制度整備が必要としている。

UQとWCP、一部要件を変更し「二種指定」の対象に

 二種指定とは、一連の議論の中では、MVNOが対等に交渉できるよう、一定以上のシェアを持つMNOに規制を課すというもの。従来はシェア25%以上が指定対象だったが、ソフトバンクが25%以下の状態(ドコモ・KDDIと比べて規制の少ない状態)で長く存在したことなどから、2012年に基準値がシェア10%に改められ、同年からソフトバンクも二種指定になっている。

 構成員限りのデータとなったが、2.5GHz帯でデータ通信を手がける全国BWA事業者のUQコミュニケーションズとWireless City Planning(WCP)は、どちらも対応端末数のシェアが10%を超えているとされた。また、MVNOを呼んだ第2回やMNOを呼んだ第5回では、いずれも関連する事業者(ドコモ以外)から、二種指定の適用について慎重な意見が出されている。

 方向性案ではまず、一般論として、(BWAを含む)MNOはMVNOに対して「交渉上の優位性を持ち得る」と整理した過去の答申を引用、全国BWA事業者は、寡占市場が形成されているモバイル市場で周波数の割当を受け、MVNOに対する優位性を持ち得るとした。

 一方、端末のシェアが相当に低いMNOは、MVNOに自網を利用してもらうインセンティブ(動機)が働くとし、10%を超えたというシェアの数値のみで、ただちに優位性につながるわけではないとした。

 ただし、現状のBWA事業者は、大手MNOに回線を提供し多くの収益を得ているため、MVNOに設備を開放するインセンティブは働いていないと指摘、交渉優位性と端末シェアを鑑み、現行制度の上では、二種指定の対象になると結論づけた。

 なお、全国BWA事業者の二種指定にあたっては、音声伝送役務(通話サービス)やMNP、SMSを不要とすることなど、関係する項目を見直すことも示されている。

 加えて接続料の算定については、BWA事業者と連携しているMNOが一体的に接続料を算定することを可能にするのが適当ともしている。

構成員からの意見

 相田仁氏(座長代理、東京大学大学院 工学系研究科 教授)は、二種指定のシェアのカウントについて、大きな問題を抱えていると指摘する。

 ひとつは、周波数に対応する「端末」の数をカウントすることについてで、SIMカードを差し替えればさまざまな電波にも対応するiPhoneのような現在の端末の状況などから、「端末の数ではなく契約数でシェアを考えるのが合理的」とする。

 一方で、さらに踏み込んで考えると、1枚のSIMカード(契約)で複数の端末を使う場合や、eSIMのように書き換えられる場合、将来的に5Gと4Gが端末内で共存した場合に同じようにカウントするのか、M2MやIoTではそもそもおなじ数え方でいいのかなど、さまざまな問題を包含している点を指摘する。

 相田氏は、少なくとも端末の数でシェアを数える現行の規則は「見直したほうがいいのではないか」としたほか、これらは、ほかの場の議論でも進む「(今後は)ネットワークサービスはハードではなくソフトで行っていくというお題目とも合わなくなってきている」とも指摘し、根本的な部分に修正が必要になっていることを示した。

 なお総務省側はこの件について、「IoTや5Gについては重要な課題として検討していく」と回答している。