インタビュー
「d払い」機能追加から見える「新時代のドコモ」の姿に迫る
前田義晃プラットフォームビジネス推進部長が語るポイント戦略
2019年6月6日 11:30
2019年夏モデルの発表にあわせ、NTTドコモのコード決済アプリ「d払い」に、2019年6月末より、ミニアプリ、ポイント送付などの新機能が盛り込まれることになった。
キャッシュレスに関するサービスや業界動向が大きな盛り上がりを見せる中で、NTTドコモはどういった狙いで新機能を盛り込むのか。
キャッシュレスサービスの還元祭りで沸き立つ中、本誌では今回、NTTドコモ執行役員で、プラットフォームビジネス推進部長の前田義晃氏をたずねたところ、前田氏は開口一番、「加盟店さんたちが、ドコモの持つ資産の可能性に気づき始めたんです」とニヤリ。
きょとんとする筆者に、前田氏はその理由を語り始めた。すると、およそ1年前の2018年4月にNTTドコモが掲げた、“戦略方針の大転換”がもたらす「新時代のNTTドコモ」の姿が見えてきた。
共通ポイント業界で手応え
――6月からd払いに新機能が追加されるそうですね。キャッシュレス分野は競争がますます激しくなっていますが……。
前田氏
そうですね。dポイントが2015年12月にオープン化し、さまざまな店舗で利用いただけるようになって3年半になります。加盟店もそれなりに広がりました。
そうした中、最近になって「NTTドコモにはいろいろとアセット(資産)がある」と加盟店の方々にお気づきいただきつつある。
いわゆる(複数の企業、店舗で使える)共通ポイントは、dポイントだけではなく、いくつかの企業が提供しています。そうした中で、当社、あるいは楽天さんのようなところは必要なピースが揃ってきた。先行していた大手共通ポイントさんに対して巻き返しつつあるのかな、良い感じになってきたのかな……と手応えを感じているところなんです。
――なるほど。そういえばちょうど1年ほど前の2018年4月、NTTドコモは「dポイント会員基盤を軸として事業戦略を進める」と発表していましたね。
前田氏
はい、回線契約だけですと成長が限られますし、国内市場でのパイの奪い合いに終始してしまいます。ユーザーの皆さんにポイントに関わる、価値あるサービスをご提供することで、より多くの方に利用していただけるようにするということを目指してきました。
そうやってdポイントをご利用いただけると、決済にまつわる人々の行動がある程度、データとしてまとまってくるようになる、いわば行動が可視化されます。
――なるほど。
前田氏
当社には、コード決済の「d払い」やクレジットの「iD」といった決済サービスがありますがポイントと決済の2つは親和性が高く、互いに作用しあう。
――ショッピングするとポイントがもらえる。もらったポイントは代金に充当できるので、割安な形で買い物したり、サービスを利用しやすくなる、という形ですね。
前田氏
はい、そうやって利用が増えていくわけです。それって、加盟店さんからすると、売上が上がるという意味になります。つまりdポイントを導入しようと、選んでいただけることになる。
――そうなると、dポイントやd払いなどが使える場所も広がりやすくなる。そのあたりは共通ポイント業界という括りで見ると、Tポイントや楽天とは異なる部分でしょうか?
前田氏
dポイントの場合、ポイントを生み出す部分で最も大きな加盟店はドコモ回線です。楽天さんは、楽天市場と楽天ポイントの関係が、当社のモデルと似ているのではないでしょうか。
ソフトバンクさんは、以前、Tポイントと連携していましたが、PayPayをスタートして、いわばTポイントと手切れしようとしているように見えます。ソフトバンクさんはPayPayに共通ポイントのような役割を担わせ、加盟店を増やしていくことで、当社や楽天さんのような構造になり得るのではないかと見ています。
ポイントを軸にすることで、事業全体のエコシステムの成長を見込める。ということで、各社が今、投資しているという状況なのだと思っています。
加盟店にとってのメリットは「正確性」
――KDDIの高橋誠社長への本誌インタビューでも、携帯電話回線の利用料にあわせて付与されるポイント、という構造が大切だという話がありました。一方で、とある量販店を取材したときには、中国のWeChatPayのようにメッセージングサービスと連携する決済サービスであれば、一度ショッピングした後のユーザーへ継続してコミュニケーションできることがメリットという話も聞いています。
前田氏
コミュニケーションという面では、ポイントが貯まることで、加盟店から消費者の方々へアプローチする、というところをドコモがお手伝いするという感覚ですね。
当社だけではなく、ポイントやコード決済へ参入する事業者は、みなさん、購買行動にともなってデータが潤沢に貯まり、可視化される、ということをアピールされていると思います。自社だけでやるよりも効果も高くなります。さらに加盟店やパートナーへ価値を提供できる、事業機会を提供できると思っています。
――店舗を営む事業者が自社だけでマーケティングするよりも効果が高い、というあたりで、具体的な事例はありますか?
前田氏
結構あるんですよ。ドコモでは、dポイントの加盟店さんなどに向けて、毎年一回、「パートナーサミット」と銘打ったイベントを開催しています。かつてiモード時代にもそういう取り組みはしていましたが、「こんな風にみなさんのお手伝いができます」と事例を紹介しているんです。
そうした中でdポイントを導入する企業さんから評価されていることのひとつは「データの正確性が高い」ということなんです。
――正確性ですか。
前田氏
競合の共通ポイントの中には、会員登録する際、正確な情報でなくともポイントカードを作成できる場合があります。実際、そういうことが発生していると思います。
――dポイント会員の多くはドコモ回線のユーザーですよね。回線を契約する際には、正しい顧客情報の登録が必要ですね。
前田氏
はい、ドコモ回線のユーザーさんがdポイント会員になるということは、回線契約が土台になっており、正確性が高いことになります。
そうした購買行動の情報は、もちろん、加盟店を訪れるお客さま1人1人から同意を得た上で頂戴しています。何を購入されたかまではわかりませんし、匿名化しています。ただどの加盟店で、どういう属性の方が、いつ、いくら購入されたかデータ化している。
さらにドコモでは、許諾を得た回線情報をもとに「いつ、どれくらいの人が、どこにいるのか」というモバイル空間統計という情報も持っています。そうした統計データも加盟店へ提供することで、加盟店にとってはdポイントからの購買行動情報にと組み合わせて、ターゲット層として有効な部分を割り出しやすくなります。
――なるほど。
現実世界でアドネットワーク
前田氏
dポイント情報とモバイル空間統計の組み合わせによる、新たなマーケティングサービスが実現できそうだな、と考えて、今年1月、電通さんとともに、ライブボードという新会社を立ち上げました。これは屋外広告配信を手がける企業なんです。
――購買情報と昼夜の人口動態、その上で屋外広告ですか。
前田氏
屋外広告の効果がどれくらいあるのか、一般的には、なかなか合理的なデータを出せません。近くの駅の乗降客数などから推測する程度でしょうか。
しかし最近では、広告を出す企業、主に外資系を中心に、データに基づかなければ広告を出さないところも増えています。
ライブボード社の仕組みは、屋外広告でもその効果をきちんと計測できる。もちろん、ベースになっているデータは統計値ですので、一度は本当に現地の状況とかけ離れていないか、実地調査をして正確性を担保するようにしています。
――その取り組みは、どちらかと言えば、広告業界のお話になりますが、Webサイトの収益を支える仕組みのひとつであるアドネットワークと同様の形ですね。
前田氏
ライブボードのサービスは、これからテストセールスをしようとする段階です。デジタルサイネージになっている場所で、なおかつ広告が入っていない、いわば空き枠を用いてテストしようとしています。
このテストも思っていたよりすんなり開始できそうなんです。空き枠だからというのはあるんでしょうけども、話を聞いてみると、そのデジタルサイネージを保有する側からすると「広告価格が高くなった」と言うんですね。どうしてだ? と聞けば、ライブボードのサービスで広告効果を計測してみたら、デジタルサイネージの広告枠を安く売っていたことがわかったと言うんです。もちろん場所によってはその逆パターンもあり得ると思いますが、そういう評価ができるようになったと。
――統計データから、本来の広告枠の価格がわかる、と。
前田氏
こうした事例は、英国でも進んでいます。電通系の現地会社が、携帯電話会社のEEのネットワークを用いた、現実でのデジタル広告配信を始めました。そうすると、「この場所は広告が見られている」「ここは見られていない」ことがわかる。その結果、見られていない場所へ投資する必要がないと判断できるようになったそうなんです。
こうした取り組みは、シェアを獲得できれば、業界内のイニシアティブを得られるでしょうから、先行する意義があります。我々がやっている「dポイント会員基盤の戦略」との親和性も高い。
将来的には、デジタルサイネージを用いて、ユーザーの現在地にあわせた広告やクーポンの配信も視野に入ります。
――既に位置情報を元にした広告配信は実現している部分もありますが、デジタルサイネージで関心をさらに高めるという可能性はありそうですね。
前田氏
こうした取り組みは、5Gを使ったテストケースにもなり得ると思っています。たとえば、リアルタイム性の高い広告ですね。
海外では、空港近くの街で、飛行機が飛んでくると、それにあわせてデジタルサイネージに少年が表示され、空を指さすという事例があったそうです。それを見ると、広告主である航空会社の飛行機が飛んでいる。
この事例は時刻を合わせるなど、さほど複雑な仕組みではないでしょうが、わかりやすいですよね。
あるいは、洗剤会社の広告も面白い。これは雨が降ってくると、それにあわせてデジタルサイネージに「シャワーで泡を流す」という映像が表示されたそうです。
もし5Gを使うとなれば、デジタルサイネージで表示する映像を、高速大容量で配信する事例になるでしょう。既に街中には、ビルの壁面を占めるような大型サイネージがありますよね。そうしたサイネージの映像が、これまでより高精細になると迫力やプレゼンテーション能力はぜんぜん違います。
配信する際には5Gのスペックが活きるのではないかと思うのですが、ミリ波だと天候に左右される可能性もあって、実現はまだちょっと先になるかもしれません。
――モバイル空間統計とポイント会員基盤の情報の組み合わせが、実世界でのアドネットワークを実現させるというのは、興味深いですね。商業施設の屋内などにあるデジタルサイネージにも利用できるようになりますか?
前田氏
将来的に取り組むお話ですが、モバイル回線だけではなく、Wi-Fiなどを組み合わせて実現していくことになると思います。こうした仕組みでは、たとえば商業施設の周辺にどういう方々がいるのかも推測できます。より詳細なターゲティングが可能になるのです。
――いつごろに実現しそうでしょうか。
前田氏
ライブボード社の取り組みは、都心で今年度内に正式な販売を開始します。そんな未来ではなくもうすぐ始まっていくんです。
こうしたリアルのデジタルサイネージを含めて、dポイント会員基盤がマーケティングソリューションに活用できるでしょう。
まずは「便利」になって使ってもらえるように
――購買行動といったデータの活用や、匿名化処理されることは、ドコモだけではなく他社を含め、業界全体で進めている流れだと思います。しかし、ユーザーの中にはやはり恐れを抱く方もいると思います。どう取り組みますか?
前田氏
はい、同意をいただくことがまずは大前提になります。
そもそもdポイントや、d払いといったサービスで、消費者の方々にきちんと価値を提供できていなければ、利用していただけません。本当に便利に感じていただけるサービスになる必要があります。
現在は、我々も含めてお得感を感じてもらうための取り組みを進めているフェーズだと思います。
――d払いには、新たに「ミニアプリ」という仕組みが取り入れられます。タクシー会社のアプリをインストールしていなくとも、d払いアプリの中の「ミニアプリ」があれば利用できるとか。
前田氏
ミニアプリは、まさにユーザーさんがショッピングしたり、サービスを利用したりする際の利便性を高める取り組みです。中国の「WeChatPay」におけるミニプログラムを参考にしながら開発したものです。
もちろん「便利さ」は人それぞれです。そうなるとより多くの方に価値あるものと感じていただくには、プラットフォームにならなければいけないと感じています。
つまり加盟店さんと一緒に便利さを作っていかなきゃいけない。かつてiモードへコンテンツ事業者さんが参画いただいたのと同じような考え方かなと思います。
――なるほど。
プラットフォーム化する重要性
前田氏
早くプラットフォーム化しなければ、消費者が取り残される面もあるでしょうし、還元ばかり先行してしまう状況が続いてしまいます。
実際、去年の段階だとPayPayさんのキャンペーンで大きく盛り上がりました。その一方で、当社も同時期、ローソンさんとともに還元などに取り組んできた。d払いはもともとスマートフォン側の決済で使われてきた基盤がもとになっていますので、実店舗へ広がったときにも着実に広がっていったんです。
競合他社さんですと、楽天さんも「楽天市場」で利用できていたサービスがリアルに、ということで同じように立ち上がっていったと分析しています。LINEさんは、当時、口座作成や本人確認などの手間があったと思いますが、その後の還元キャンペーンでユーザーを獲得されていると思います。
プリオーダーから見る既存店舗の抱えるハードル
たとえば中国では、実際に「あ、こんな購買体験があるんだ」というのが、PoC(Proof of Concept、コンセプト検証)を含めて数多くあります。たとえばプリオーダー(スマートフォンから飲食店へ事前に注文しておき、ユーザーは来店するとすぐ受け取れる)も本当に当たり前になっている。
中国だけではなく米国でもプリオーダーサービスはありますが、日本ではまだ数少ないですよね。
――ああ、確かに利用したことがないです。
前田氏
日本ではまだまだ利用できるプリオーダーがないと思います。こういったサービスは理にかなってますし、生産性の向上といった経済合理性もあると思いますが、純粋に便利なんですよね。
それなのに、なぜ日本ではまだまだ広がっていないのか。いろんな要素があると思いますが、加盟店さんに聞くと、たとえばPOS周りのオペレーションが変わるといったご意見がありました。ここ最近ですと、増税への対処もあってPOSベンダーさんのリソースもない。原因はありがちかもしれませんが、簡単に解決できるものでもないわけです。
中小店舗への拡がりは
――中小の店舗でもミニアプリは利用できるようになるでしょうか?
前田氏
加盟店になるような企業さんにとっては、新たなアプリを開発して消費者にインストールしてもらうのはハードルがあります。ミニアプリを提供することは、そうした企業に向けたソリューションという側面もあります。ミニアプリを採用していただくことで、他のサービスとの連帯感もありますし、効率も上がり、ユーザーを増やす効果も期待していただけると思います。
ユーザーが店舗の近くを訪れると、ミニアプリでクーポンがプッシュされてd払いの決済のなかでクーポンが自動適用されて値引きされる。こういう形は中国でもよくある形態だと思いますが、加盟店さんが自前でやろうとするとコストがそれなりにかかる。そこをミニアプリで、という形で。
今回はPWA(Progressive Web Apps)のようなイメージでミニアプリを開発していますので、ネイティブアプリよりも開発効率は良いという側面もあると思います。
――ミニアプリという仕組みがオープン化する可能性もあるのでしょうか。
前田氏
個人的には、将来的にオープン化して良いと思っています。もちろん当初はしっかりとサービスとして構築しなければいけません。その上で、ユーザーにとって不便にならないようにしつつ、よりスピーディな展開を求める方もいるでしょうから、という形です。今の時代にあわせ、より良い形態はあると思います。
JPQR、「仕様統一は意義がある」
――なるほど。ただ、現時点で、たとえばPayPayは、街の中華屋さんのお弁当売り場にQRコードを掲出して利用できるようにしていたりします。
前田氏
ドコモにも全国津々浦々のショップや代理店さんがいらっしゃいますが、PayPayさんほどの営業力かというとまだ及びません。
ただ、その一方で、メルペイさん、LINE Payさんらと今回、デジタルガレージさんのマルチQRコード決済ソリューション「クラウドペイ」を利用して、1つのQRコードで決済できる環境に対応することになりました。
――確かにそのお話も夏モデル発表会の中で案内がありましたね。
前田氏
加盟店さんからすると、「いろんなサービスのロゴシールをたくさん貼るのも困る」という話もありますし、コード決済事業者からしても、1社だけだと採用してもらうのも難しいことがある。
となると、1枚のQRコードで各社のコード決済に振り分けられる、という形じゃないと現実的じゃないと思うわけです。デジタルガレージさんのようなサービスは必要になりますし、海外のサービスに対応する必要もある。加盟店を拡げていくために現実的な手のひとつであって、実はそんな大きな取り組みではないというのが正直なところなんですよ(笑)。
――そういうことですか。QRコードの統一のようにも見えて、ちょっとインパクトのあるお話なのかも、と捉えていた部分はありました。
前田氏
そうですよね。一方で、政府や業界団体が進める「JPQR」は一定の意義があると思います。加盟店の中では大手チェーン向けの話になるかもしれませんが、それでもたとえば、コードの仕様が統一されれば、POSレジに組み込むソフトの開発コストが下がるという効果は期待できそうですよね。
どちらかというと、スマートフォンにQRコードを表示して、POSレジで読み込む「CPM」向けのお話でしょうか。とはいえ、スマートフォン側で店頭のQRコードで読み取る「MPM」にも同じように意味があるでしょう。
ただ、もし仕様が統一されていても、それは加盟店を拡げやすくなるかというと別の話です。たとえばd払い、PayPay、LINE Payを使いたいという店舗へ、何も考えずに対応するには、3枚のQRコードが必要のままです。
JPQRは、先述したように開発コストへの効果はあるかもしれませんが、仕様統一すれば何もかも簡単になるかというとそうではない。このあたりの話は、キャッシュレス協議会でも指摘はしていますが、まずはアウトプットとして「QRコードのどこの部分に何を書くか」が進められている形ですね。
社会へ拡げていくための機能拡充
――少し先ですが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、何か意識するところ、あるいは次の一手への考えはありますか?
前田氏
2020年はそんなに先ではないんですよね。訪日外国人が増えるところへ、キャッシュレスに関わるより便利な購買行動になるように、いろいろと整備されると良いのでしょう。多少なりともアプローチできないかなと思いつつ、難しいところもあるかなというところでしょうか。デジタルトランスフォーメーションしていることを示していきたいなとは思います。
――競合他社の中では、たとえば楽天が仙台の球場でキャッシュレス化を進めています。NTTドコモもラグビーチームがありますし、Jリーグチームのスポンサーでもあります。
前田氏
集客面ではなかなかプロ野球の規模感には追いつけません。とはいえ、テストマーケティングできるような場は必要かなと思います。
ただ僕の担当する領域からすると、2020年だけではなく、その後も見据えて社会に広がっていくことを目指して進めたいですね。完全キャッシュレス化という意味で、お財布を本当に持たずとも過ごせる環境を作りたい。
――そういう意味では、今回はd払いに「ウォレット」機能が追加され、銀行からのチャージもできるようになりました。
前田氏
そうですね、ただ「払います」だけではなく、キャッシュレスサービスの口座にお金を入れておく、貯めておくという構造を作り、それをユーザーの皆さんに理解していただくことになります。ただ、そうしたサービスを実際に使いこなしていただくためにはハードルがあります。各社の還元キャンペーンは、利用を促進することで、キャッシュレスそのものへの理解を深めていただく効果もあるのだと思います。
――“還元祭り”が終わると、ユーザーも去ってしまうのでは?
前田氏
そうかもしれませんが、他社さんを含め、一定規模のユーザーさんが定着していると思います。当社も、見せ方があまり上手くないかもしれませんが、キャンペーンをしっかり実施しています。もっとも永続的に続けられるかというと難しい。
――ドコモは年間で1600億円相当のポイントが利用されているそうですが、別の場では進呈したポイントの8~9割が利用されているとのことで、逆算すると1800億円程度、ポイントとして還元してきたことになりますね。
前田氏
dポイントだけで千数百億円規模の進呈になっています。これをいかにユーザーの皆さんに使っていただけるようにするか考えることは、全体のエコシステムのためにも有効かなと思います。
他方、楽天さんの動きを見ると、キャッシュレス業界の中では還元キャンペーンへの取り組みは他の企業さんほど大々的ではないと見ています。楽天さんのサービス構造は、やはり当社と似た構造なのかなと感じています。
――ドコモにとって、今回の機能追加で、キャッシュレス事業における必要な要素は揃ったことになりますか?
前田氏
揃いきったとはまだまだ言えませんし、利便性はさらに高めていきたいです。僕らだけで考えることではなく、パートナーさんたちの価値をどう体現できるか、飽くなき追求になると考えています。
――なるほど、今日はありがとうございました。