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ドコモが通信品質対策で新たに300億円、設備高度化しAIでSNSも迅速分析

 主に都市部でつながらないという声が相次ぐ、NTTドコモの携帯電話ネットワーク。同社は10日、全国で2000カ所超に及ぶ通信品質の改善策を発表した。12月末までに90%を完了する計画であわせて鉄道線での対策も行われる。本記事では、説明会の内容を詳しくお伝えする。

2000カ所超で品質改善へ向け対策

 集中的に対策を実施するエリアは、駅や繁華街、住宅街など全国2000カ所以上。同社が示した資料では、9月末時点で約70%を完了している。さらに乗降客数の多いJRや私鉄、地下鉄の鉄道動線でも同様に対策を実施する。対象の路線は乗降客数の多いものを中心に全国で50路線以上を調査分析、対策を進めるという。

NTTドコモ 小林氏

 5G/4G設備の増設や新設のほか、既存の基地局でも電波照射の角度や出力、向ける方向を調整するほか、5Gの上り速度も向上を図る。同社では対策後の品質の目安を「お客さまが安心して動画視聴(HD画質相当)できる通信品質を目安とする」としている。

 ドコモの携帯電話ネットワークをめぐっては、主に都市部での品質が低下しているとの声が相次いでいる。同社では、コロナ禍が回復したことによる人流増との説明がなされていた。今後、全国2000カ所での対策は2023年12月までに90%以上を進め、鉄道動線における対策は同時期までに完了を目指す。

 同社では、2000カ所以上での対策を「点」。鉄道線での対策を「線」と表現し、回線品質の向上を加速する構え。対策する場所には、将来的に逼迫が予想される場所も含まれ、300億円を新たに投資する。

東京都心部での対策

 かねてより対策を進めていた、東京都内のうち渋谷、新宿、池袋、新橋については、スループット向上、5Gエリアの拡大を達成したとNTTドコモ ネットワーク本部長 常務執行役員の小林宏氏は説明した。

 特に渋谷では渋谷駅ホームの屋内アンテナを再設置したほか、新宿、池袋、新橋もあわせて設備増強やカバーエリアの調整などを実施。この結果、7月時点では利用しづらい場合があるとされていた渋谷駅の山手線・埼京線ホームでは5G/4Gでそれぞれ20Mbps以上、10Mbps以上のスループットが出ている。

 新宿駅東口/池袋駅東口付近でも5Gで100Mbps以上のスループットを実現したほか、新橋駅烏森口付近では5Gエリアを拡大した。

MU-MIMOやAI活用で対策

 小林氏は、今後のエリア品質改善としてSNSに基づいた改善場所の把握など新たな取り組みを説明した。

 新たに同社独自の大規模言語モデル(LLM)を活用。SNSの情報から「〇〇駅」「〇〇線」など場所の情報を収集し、どこがネットワーク対策の必要がある場所なのかを見極める。作業者がSNSの情報を入力することで場所の確認などができるようになっておりどこで使いづらくなっているのか、ユーザーが満足なのか不満を抱いているのか、もしくは中立的なコメントをしているのかをAIに分類させ、出力する仕組みという。

 他社では、位置情報を活用したアプリから通信状態を取得し、エリア改善に役立てている事例もある。ドコモでも位置情報を活用したコンテンツがあるなか、サービスとの連携はないのか。これについて、報道陣の囲みに応じたNTTドコモ ネットワーク部長 執行役員の引馬章裕氏は「真摯に見習うべきところは見習いたい」と回答。なお、現時点では、多くのユーザーに利用される「d払い」アプリに、通信状況を収集する機能は含まれていない。コスト削減が品質低下を招いたのではないかとの問いには、エリア整備への投資を削減したことはないと否定した。

 設備も高度化し「MU-MIMO(マルチユーザーマイモ、複数ユーザーの端末と同時に複数のアンテナで通信する仕組み)」に対応する小型・低消費電力な装置を導入。同社によれば従来装置に比べて20%ほどの小型化が見込めるほか、消費電力は約50%削減でき、通信容量が2倍になるとしている。また、上り通信において5G/4Gの切り替え処理を最適化することで品質改善を図る。これにより、ある基地局の5Gの通信範囲の端でのスループットが2倍になるという。

質疑応答

――あまり人のいない地方でもドコモがつながらないという声がSNSにあがっている。なぜこのようなことが起きるのか?

小林氏
 具体的に把握していないのでお答えしづらいですが、スマートフォンは自ら通信します。トラフィックは毎年増えておりコンテンツもリッチになっていることもあり推測になりますが、自動で通信している部分もある程度影響があるのではと思っています。

 今、5Gで上り通信の部分で(対策を)展開している最中で、まだ(対策が)至っていない部分があるのかなと。いただいた情報はしっかり確認したいと思います。

林氏
 今回説明した2000カ所での対策は、都市部だけというわけではありません。住宅街や地方、屋内も含まれています。地方だと基地局があまりなく設備を新設することもあり、場合によっては若干時間がかかるかもしれませんが、順次対応していきます。

小林氏
 ドコモの基地局は、ひとつで広いエリアをカバーするように設計されています。少しデータ量が増えてくるだけでも(利用が)厳しくなっているのかなと推測しています。

――SNS活用でのトラフィック対策の精度はどうなのか? 他社ではアプリから通信品質の劣化を検知している例がある。

小林氏
 通信への不満が1件あったらすぐ対策するということではなく、3件以上など条件を設けて、複数件(不満の声が)ヒットした場合はご不便をおかけしているということで(対応すべき場所を)抽出します。抽出した場所は、実際に現地に行って通信状況を確認します。

 他社ではアプリの中に(通信状態を検知する仕組みを)入れて測定しているということですが、我々は何らかの機能でデータを抽出していることはありません。SNSの情報のほか、端末と基地局が通信している間はいろいろな品質情報もやりとりしているので制御信号から分析することは可能です。

――対策から効果が現れるスパンは?

小林氏
 予兆検知のデータ自体は数日で出ますが、数カ月継続して見ていますが、何カ月か連続で見ると(対策が必要な)場所が変わったりしますので、SNSの分析結果を当ててより精度を上げていこうと。SNSの情報の分析が手作業でやるとものすごく時間がかかりますが、これ(LLM基盤活用)で1カ月分を1日かからない程度で分析できます。

 ドコモのLLM基盤で精度が上がり、何カ月も予兆検知の傾向を見る必要がなくなると思います。予兆検知も毎月計算できますので、それくらいのスパンでターゲットを絞れます。そこから、パラメーター変更や設備対応などをしていきます。設備対応は長くて1年はかかってしまいますが……。

 SNS情報の分析を精度高く、情報を的確に示せれば全体の(対策の)期間を短くできるかなと。始めたばかりですが、しっかり効果を出していきたいと思います。

――対策のゴールはどこにあるのか?

小林氏
 品質水準は「主要な動画サービスのHD画質」を最低限に守ります。渋谷や新宿はスループットがもっと高かったのですが、こういった場所はあるときにものすごく人が集まります。たとえば、渋谷のハロウィンなどですが、そういったことも考慮しながら対策していきます。

――この2000カ所はどういう理由で抽出されたものなのか?

小林氏
 基本的には無線リソースの使用率です。ピークアウトはしないまでも、このままではピークに近づく基地局を都市部から地方まで含めて抽出しました。さらに人口の多い場所はトラフィックが急激に伸びることがあります。それも考慮した抽出の仕方です。このため都市部・繁華街が多いですが、地方でもピックアップしています。

――今回発表の対策は今までやっていてもおかしくなかった。なぜ今までできなかったのか?

小林氏
 今回抽出した場所は将来的にも、トラフィックの変動が激しくなるとも考えていて、先行的に設備を強化することで色々な変動に対応できるネットワークにしようということです。

 そもそもの設計の仕方のとこになるのかなと。人流があるなかで、従来のトラフィックをベースに設計していると、凹んでいる部分に合わせて設備対応が遅れてしまう。もっと早く人流が戻ることを予測して対策していればもっとすみやかな対応ができたかなと考えています。

 大きな変化は今後もあるかもしれませんが、想定したトラフィックの動きになると思っていますので、今後はしっかりと計画的な対応ができると思います。

――「瞬足5G」として整備したことでセル端ができやすくなって現在の状況を招いた可能性はないか。転用周波数を用いた整備が結果的に正解だった可能性は?

小林氏
 Sub6の5Gは面的に充実させられていないというのは事実です。そこで4Gへの切り替わりが発生します。ハンドオーバーを上手くやっていくところはやりようがあると思っています。瞬足5Gと4Gのエリアが入り乱れていたとしても、ハンドオーバーの改善はやっていきます。

――回線品質の測定がスループットなのは適切か? 他社ではPingのようなものを測って示している。

小林氏
 大きなコンテンツを表示するのにはスループットが基本的には必要です。遅延はネットワークの品質によるところと認識しており、渋谷のエリア改善のなかで、Pingの時間もかなり改善されており、品質を改善すると遅延も連動してよくなります。

 品質の改善でスループットも上がるということで、分かりやすくスループット=速度ということで示しました。

――5Gのエリア設計について最初の方針もあったと思うが、内部から他社の取り組みについて声が上がらなかったのか?

小林氏
 本当の5Gの性能を出せるのはSub6であることは間違いないですが、エリアをどうできるか4Gとの切り替えをスムーズにやるということはしっかり進めてきました。しかし、ユーザーが満足できる品質にはなっていなかったのかなと。

 今でも日々改善を進めており、上り通信での機能向上を進めるなかでパラメーター調整をしており、ちゃんと把握はしています。5Gの性能を100%発揮できる周波数をいかに有効活用できるかを考えてやり続けてきました。

 5Gの上り速度やMU-MIMOもそうですが、5Gとの性能を上げてユーザーに満足してもらえる通信環境を作れるようにネットワークを高度化、4Gとのバランスも考慮しながら進んでいきたいと思います。