インタビュー

ドコモ前田副社長に聞く、ドコモ内に新設された「スマートライフカンパニー」が目指す未来

 NTTドコモが7月1日、社内の新組織として「スマートライフカンパニー」を設立した。新たにカンパニー制を導入し、事業領域ごとの判断をスピーディに進めて、事業に取り組むことになる。

 ドコモでは、本業である携帯電話サービスに加えて、グループとなったNTTコミュニケーションズを中心とする法人事業、そして「dポイント」を軸とした金融決済など新たな領域を手掛けるスマートライフ事業の2つでさらなる成長を目指す方針を示している。

 スマートライフカンパニーは、ドコモが手掛けるサービス・領域のうち、ユーザーにとって身近な存在として、通信に次いで挙げられる決済サービスや金融サービス、電力などの領域が含まれる。

ドコモ前田副社長

 NTTドコモで6月、新たに副社長へ就任し、社内の新組織であるスマートライフカンパニーをリードすることになった前田義晃氏へのインタビューをお送りする。

 なお、本インタビューは、「dスマホローン」の発表よりも数日前に実施されたもの。「dスマホローン」には直接的には触れていないが、その狙いや意欲については前田氏が語る場面もあった。

基盤となるのは「dポイント」

――「スマートライフカンパニー」というものを作り上げる上で、どんなところから着手されたんでしょうか。

前田氏
 まず前提として、これまでの取り組みがあります。

 ドコモとしては、かなり以前から「スマートライフ」にあたる事業を展開してきていますが、やっぱり転換点だったのは、スマートフォンの登場です。

 社会変革のスピードも速くなり、いろんな意味で垣根がなくなっていった。たとえば、かつては携帯電話とパソコンのインターネットは分けていたわけですが、そんな境目もなくなり、より多くのプレイヤーが参加するようになっていった。

 そのなかで、ドコモがどう存在感を出していくか。

 ここ数年で言うと、やっぱりポイントプログラムです。dポイントをベースにしながら、回線契約のお客様だけではなく、より多くの方にご利用いただく。つまり顧客基盤が広がって、さまざまなパートナー企業の方々に参加いただいて、パートナーの事業機会を増やしていく。そんなふうに展開してきたわけなんです。

 ドコモ回線のお客さまは約5000万人いらっしゃいますが、dポイントクラブ会員数は、6月末時点で約9040万会員です。回線をお持ちではない方にも広がってきたのは事実でして、それはパートナーの方々と取り組んできたからこそ。

 そんなパートナー様も今は約58万社、ブランド数で言うと727ブランドあります。dポイントが共通ポイントとしてリスタートを切ったのは最後発でした(2015年12月にドコモポイントがdポイントに改定)。

 リスタート当時は「うまくいくのか?」と皆さんからよくご指摘もいただいていましたが、なんとかここまできました。dポイント加盟ブランド数では、ほぼ(共通ポイント業界で)最大数に達したかと見ています。

――店舗数ではなくブランド数ですか。

前田氏
 加盟店舗数は約10万店舗あります。共通ポイントの規模としては最大かなと思いますが、店舗数の定義や評価はいろんな見方がありますので、ブランド数と。

――なるほど。

前田氏
 加盟店拡大だけではなく、もうひとつ、dポイント関連ではデータの活用があります。

 購買行動という蓄積されていくデータを活用して、パートナー企業のマーケティングのパフォーマンスを上げていく。ドコモと一緒に新たな価値を提供する、あるいは事業機会を生み出すということで、広げてきています。

 さきほどスマホの登場で社会の変化がスピードアップしたとお伝えしましたが、この動きは、加速度的に高まっていくことは十分考えられます。

 そこへドコモとしていかに対応するのか。世の中に対して価値を提供し、うまく実装していく。現時点でも、うまくできていることもあれば、そうではないこともある。今までと同じやり方を続けていけるのか? というと、そうじゃない。

 カンパニー制になることで、ある種の独立性を高めてスピードアップする、機動的に投資していくということを目指していくわけです。それにあわせて、幅広い領域での展開になりますので、人材の育成はもちろん、採用ということも注力していこうと考えています。

複数手段あるドコモの決済サービスはどうなる?

――前回、前田さんに取材したのは2019年6月でした。dポイントがドコモの事業戦略の軸になるというタイミングの後だったわけですが、この3年の取り組みが「加盟店拡大」「データ活用によるパートナーとの事業機会創出」といったお話になるわけですね。

前田氏
 dポイントを中心にして進めてきて、以前はクレジットカード、その後、コード決済の「d払い」も進めてきたわけなんですが、そうした決済サービスは、競争のなかで勝ち負けはいろいろありますが、ある程度、拡大できてきたわけです。

 「d払い」じゃなきゃいけない、あるいは「dカード」じゃなきゃいけない、ということはなく、お客さまにとって使いやすいものを促進するという。

――d払いだけではなく、おサイフケータイ、つまりiD/dカードがあるのもドコモならではの強みでもありますよね。個人的には、「iD」ユーザーですので、6月にリニューアルした「dポイントクラブ」で、「長期利用ありがとう特典」で還元率がアップするのがd払いのみとなっているのは寂しいのですが……。

前田氏
 はい、そうですよね。私もiDのヘビーユーザーですし、愛してくださっている方々はたくさんいらっしゃると思っています。

 一方、d払いのようなコード決済は、QRコードを店頭に置くだけ、といった手軽さがあります。それで利便性も高められるので、実はもっとも先進的ではないかな、とも思っています。

 とはいえ、戦略的なところを踏まえて、決済サービスをあらためて、まとめ直していくことができると思っていますし、iDユーザーが、わざわざd払いを、というのも変な話です。(ドコモの決済サービスを)総合的に大きくしていく、使いやすいものにする工夫は、これから実施しやすくなっていくかと思います。

 そうやって、利便性を高めて、スピード感も変えていく。可能性はまだいっぱいあると思っています。

――7月に入ってKDDIの通信障害が発生しましたが、そうした通信障害時、あるいは圏外では決済用のコードを通信経由で生成する「d払い」などのコード決済は利用できないことがあります。

前田氏
 ドコモでも昨秋(2021年10月)に通信障害があり、ご迷惑をおかけしました。

 そうした課題は、各社ごとではなく、通信ネットワークが大きな影響を持っていることがもたらしていることでもあり、どう対策するのか、バックアップしていくのか、という点は事業者に共通するものです。具体的な対策は今日の段階ではまだお答えできませんが、社内の温度感としては強いものとして認識しています。

――ユーザーからすれば、ITリテラシーが高い方に限られるかもしれませんが、d払いだけではなく、dカードも使えるようにしておく、という手段はありそうですね。

前田氏
 はい、そうして使いやすいと思っていただければと思いますし、しっかりアピールをしていきたいです。

金融サービスのこれから

――決済、ポイント周りの話から、次は金融サービスについて教えてください。約1年前に、三菱UFJ銀行との連携が発表されています。ただ、まだ具体的なサービスとしては発表されていません。

前田氏
 決済以外の部分については、競合他社と比べ、ドコモのあまり大きな存在感と言いますか、ガッツリ取り組んでいないように見えているのではないかと思います。

 さきほどお伝えしたように、決済関連を成長させる、統合していくということはもちろんなんですが、その決済をきっかけに、決済以外の金融領域も、よりアグレッシブに進めていきたい。

 銀行機能そのものをドコモ自身がゼロから作るというと、やはり信頼性や慎重な取り組みが求められます。そこで、三菱UFJ銀行さんとのアライアンスのなかで、進めていくことが合理的だと考えています。

――競合では、KDDIがauじぶん銀行を設立しています。今回、ドコモが取り組んでいるものは、ユーザーから見ると、三菱UFJ銀行のサービスのひとつになるのか、あるいはドコモが前に立つ形になるのか、いかがでしょう。

前田氏
 基本的には、ドコモが前に立つ形です。銀行というインフラを三菱UFJ銀行さんに支えていただく、連携していくということがありますが、ドコモが提供するものになります。

 やはりドコモとしては、金融分野について、お客さまの使い勝手として、たとえば銀行口座にお金があり、(d払いなどへ)チャージしたり、投資したりするという用途が中心になるでしょう。そこへ、ドコモの決済サービスやdポイントを連携させて、さらに使いやすくしましょうと。

 その中心になるところですので、大変重要な意味を持ってると思います。

――「ドコモ銀行」(仮)とでも呼ぶべき存在になると。ドコモ回線のユーザーで、三菱UFJ銀行に口座を持つ人も多くいると思いますが、移行を促すのでしょうか。

前田氏
 すでに三菱UFJ銀行で口座がある場合には、そこで連携するというイメージです。ドコモのサービスとの連携が強まり、ご利用いただくことで、たとえばdポイントが貯まるですとか。

――なるほど。より具体的なサービスとして、どんな姿をイメージしているのでしょうか。

前田氏
 ひとつは融資ですね。もうひとつが保険です。

――個人向け融資ですか。どういったものでしょうか。

前田氏
 たとえば、ドコモの通信サービスをずっとお使いでお支払いが滞りない方でも、転職というタイミングを迎えていて、たまたま信用調査の審査で落ちてしまうことがあります。一時的に貸付の条件が厳しくなる、といったことはあると思うのです。

 そういうタイミングで、ドコモ独自のデータを用いることで、そういったお客さまにとって機会の損失がないよう、一時的に資金が必要という方に融資するといったことができるのではないかと思っています。

――たとえば、個人向けローンでは住宅や自動車、教育ですとか。

前田氏
 いわゆる個人向けの無担保ローンというところから検討しています。

 そこにdポイントを関連付けるですとか。何かしら、利用したくなる動機づけ、インセンティブをご用意するとか、メリットがあるようにして、より広くご利用いただけるようにしたいと考えています。

ドコモが持つデータが広げる可能性

――ひとつの例として、ドコモへの支払い状況というデータを用いるとのことでしたが、ほかにどういったデータがあるのでしょうか。

前田氏
 ドコモのお客さまとしての属性データはもちろんですが、匿名化した上での行動や位置情報をもとにしたデータもあります。

 たとえば加盟店さんで、ポイントカードを提示していただき、ショッピングをされる方が全体の30%いらっしゃるとしましょう。

 そういう行動をとる方のうち、来店頻度や購入額といったデータも組み合わせることができます。最近お店に来ていなかった方がお越しになったですとか。

 ではどうすれば、お客さまの行動に働きかけることができるのか、どんなコミュニケーションができるのか。

 もし、とあるdポイント加盟店へよく来店していて、購入額も大きいということであれば、いわばそのお店の「ファン」のような方です。そういう方に向けて、サービス、キャンペーンを積極的に紹介していくとか。

 一方で、もうひと押しないと、お使いいただけないという方もいらっしゃいます。そこにdポイントを、インセンティブのように活用することで、「どれくらいのポイントを提示すれば来店していただけるのか」といったところもわかります。お店にとっては、販促費となる部分を最適化できると。

 なんだかダイナミックプライシングに近い話でもあるんですが、そういう活用も可能なソリューションもご用意していますし、少し簡易なパッケージにして提供しているものもあります。

 お客さまとの関係づくり、いわゆるCRMとしてdポイントを軸としたデータを用いていただきながら、dポイントに加盟する小売店の業績をアップさせるといったかたちです。

――なるほど。

前田氏
 こうしたデータ活用は、いわばマーケティングソリューションとなるわけですが、その領域自体もさらに広げていいけるとも思っています。

 外食などだけではなく、たとえば消費財をつくるメーカーさんが直接、生活者の方と向き合おうとしているのです。

 基本的には小売店さんを通した形になりますし、大規模なテレビCMを展開したりしておられますが、今、進めようとしているのは、たとえば新商品を発表して販売する際に「これを買っていただいたらdポイントを差し上げます」というキャンペーン(マストバイキャンペーン)を実施するとして、何回購入されたか、ということがわかります。

 こういう仕掛けは、ドコモだけではなく、他社さんも実施されていますが、メーカーさんにとってはdポイントという仕組みの上に、いわば「仮想顧客基盤」が構築されることになるわけです。

 購入された方の属性がわかるわけで、メーカーさんがリサーチをしたい、新商品を企画したい場合、どう流通させるのか、購入していただくためにどんなプロモーションをしたらいいいのか、という「商品が売れる状態を作る」ための取り組みができる。

 こういったあたりは、次の展開でして、今、いくつかのメーカーさんと実際にやり始めていて、もう少しで正式なかたちで発表できると思います。

――dポイントユーザーの属性や行動パターンを分析すると。それを小売店側だけではなく、商品を製造するメーカーもやりやすくなるという仕掛けですか。

前田氏

 はい。一例として消費財メーカーさんを挙げましたが、同じような考え方はエンターテイメントの世界でも通じるのではないかと考えています。ファンとコミュニケーションっていうものを、どういう形で作っていきますか、と。

 たとえばスポーツ、芸能といった分野ですが、スポーツの場合、ドコモではかねてよりJリーグさんと長くお付き合いしてきており、Jリーグさんのマーケティングも支援してきています。

 直近では、(NTTのチームもある)ラグビーですね。ファンをまず増やすという話もありますが、たとえば大学ラグビーはご覧になっていても、リーグワンの試合は観ていないという方に向けて、その行動を変えていただけるようなアプローチをする、といったことを含め、実験的な取り組みを始めています。

2025年目指す社会実装

――送客などのデータの活用例として、たとえば、取材する側がこの1年で注目した例としては、KDDIの「povo」があります。お店で購入した分にあわせてデータ通信量がもらえるというものです。とはいえ、ここまでの話からすると、ちょっとまた違う形を検討していると。

前田氏
 現時点ではdポイントを中核にしつつ、金融や決済でデータが獲得できる点と、マーケティングで活用していってパートナーとユーザーの関係が強まって、ポイントがもっと活用されるという流れです。

 そこで、ポイントをもっと貯まるようにしたい、ということであれば、以前からお伝えしてきたようにドコモの回線をお使いいただくほうがおトクですよと。

 ドコモとしては、やはりコアのアセット(資産)をどんどん磨き込みたい。そして、価値として世の中に浸透させていくのは、パートナーさんとともに活用していくということを、どんどんやっていかねばならないと思うんです。

 それをずっとやっていく先として、社会を進化させていくために、オープンなかたちで社会的価値に変えていくという状況を作らなきゃいけない。

 ひとりひとりのライフスタイルを変えていく、社会を良くしていく。こういうお話は各社さんおっしゃっていることではありますが、いかに社会へ実装させていけるのか。

 手前味噌ですが、そんなことができる企業はあまり多くなくて、自分たちはできると自負しています。

 7月1日にスマートライフカンパニーが立ち上がった際には、社内に向けてこれからのパーパス(目標)と価値観を話しました。

 その目標は、いかに社会の発展へ貢献するか、社会をいかに良くしていくのか、ということです。これって、昔の「三公社五現業(かつての電電公社や日本郵政公社など)」は、いろいろ指摘はありますが、日本を良くしていく、豊かにしていくという使命があったと思います。それをやり続けていく、やりきっていく、あるいは育んでいくと。

 そうしたことが、やはり(ドコモの)存在意義であることは事実です。社会への実装力を高めていくために実践していくことが、やっぱりスマートライフカンパニーの方向感だよねと。

――なるほど、当たり前とされる考え方かもしれませんが、新たな節目だからこそ、あらためて確認しておきたい方向でもありますね。

前田氏

 dポイントクラブという会員基盤があって、中核となる資産(技術、ソリューション)を洗練させていくことで、新たな価値を提供できる機会が増えています。

 これって、現在、手掛けている事業範囲ってことだけではなくて、さまざまな領域に向けて、ドコモがオープンな存在として、データを活用される状態になっていることが社会基盤、社会のOSになり得るんじゃないかと。

 個々人の生活だけではなく、社会を支えて変革につなげるプラットフォームになっていきたい。それが私たちの目指す姿だと思っています。

――それって、いつごろを目指すのでしょうか

前田氏

 やっぱり2025年にはそういう状態にしたいです。

――なるほど、今回はありがとうございました。