インタビュー

ドコモが始めるQRコード決済「d払い」の狙いと未来

前田義晃プラットフォームビジネス推進部長に聞く

 海外、特に中国で普及しているというQRコード決済払い。日本ではLINEや楽天、Origamiといった企業がサービスを提供してきた中、NTTドコモが今年4月から「d払い」を提供する。

 「とにかく簡単に使えることを目指した」と語るのはNTTドコモ執行役員でプラットフォームビジネス推進部長の前田義晃氏だ。「d払い」提供の狙いを聞いた。

「d払い」という名前にした理由

――QRコード決済の「d払い」ですが、まずは命名の由来から教えてください。

NTTドコモの前田氏

前田氏
 これまで、ネットコンテンツの支払い方法として、携帯電話料金と合算できる「ドコモケータイ払い」「dケータイ払いプラス」といったサービスを提供しています。ケータイ Watchさんの前で言うのもなんですが、今どき“ケータイ”って言わないし、「dケータイ払いプラス」はちょっと長いよね、なんて社内では以前から話していました。

――なるほど。しかしいわゆるキャリア決済を利用する際には、そのサービス名を知る機会はあまりなさそうです。

前田氏
 はい、確かに調査してみると「ドコモ払い」といった認識を持つ方はいらっしゃいます。

 QRコード決済サービスで「○○ペイ」という名が多いのはその通りですよね。でも、同じ名前はちょっと避けたかった。そうなると「ドコモ払い」というのも考えたんです。でも、最近ではポイントサービスを「dポイント」として前面に出しています。そのあたりを絡めて「d払い」にしたというわけなんです。

4000億円のキャリア決済

――先の発表会ではドコモの金融・決済サービスの取扱高も明らかにされました(2016年度で2.6兆円)。

前田氏
 そのうち2兆円程度がクレジット事業です。キャリア決済は、iモードのピーク時で3000億円程度、現在は4000億円程度という規模です。この背景には、Google PlayやApp Storeの支払い方法として対応していることもひとつの要因に挙げられます。特にGoogle Playでは、日本市場の売上は世界的に見ても大きい。これはキャリア決済が対応していることが大きいでしょう。App Storeも具体的な数値は明らかにできませんが、どんどん伸びています。

ドコモの金融・決済サービスの取扱高
そのうちキャリア決済は4000億円

 このようにデジタルコンテンツ主体でのキャリア決済は成長する機会に恵まれてきましたが、それでも日本市場の携帯電話回線数なども踏まえれば、どこかに限界はあります。その一方で、当社では2015年にポイントサービスを改定して「dポイント」として、さまざまなお店で利用できるようにしました。そして加盟店の開拓に注力し始めたんです。するとキャリア決済の利用も、ものすごく伸び始めたんです。ネットでの購入体験と、実世界での購入体験にも近いところがあるんだなと。

QRコード決済、どう分析していた?

――iモード時代からキャリア決済が根強く支持されていることは感じていましたが、それは現在も変わらないし、実店舗でも利用されるのだということですか。そこでキャリア決済をリアルで利用できる「d払い」に繋がるわけですね。一方で、QRコード決済そのものはこれまでどう分析されていましたか?

前田氏
 確かに中国で広がっており、日本国内でもインバウンド需要を含め、LINEさんや楽天さんも動いていて、普及に向けた機運が高まっています。一方で、私自身の周囲ではまだ認知度はまだ高くない状況だなと。

――競合のLINEさんが公開されているLINE Payの規模は、たとえば国内の登録者数が3000万以上など、相当大きいのかなという印象もあります。どう分析、評価してきたのでしょうか。

前田氏
 正直わからないです(笑)。何をもって「利用」とされているか、ちょっと見えないかなと。登録者数からすると、もう少し、周囲で利用する姿を見かけてもいいのかなとは感じるところはありますが、LINEを利用される方はたくさんいらっしゃる中で、ポイントと連携しながら普段使いしてもらうことを狙っているのでしょう。

後発、それでも「差はない」

――「d払い」は、国内では後発にあたるわけですが、他社サービスにどの程度遅れを取っていると分析されたのでしょうか。差は大きいですか?

前田氏
 いえ、大きな差があるとは思っていません。競合他社さんのサービスは、実店舗で利用する場合、クレジットカードのような使い勝手だと思います。「d払い」は合算払いでクレジットカードではありません。他社さんとターゲット層は違うかもしれませんが、(d払いを)利用してもらえる層は確実に存在していて、今後の普及のスピード感に大きく出遅れることはないと思っています。

――発表会でも挙がった質問ですが、あらためて教えてください。「d払い」の利用者層はどういう方々になりますか?

前田氏
 もともとキャリア決済は、どこか特定の層ではなく、まんべんなく利用されてきました。その中でクレジットカードは使わないという方々です。ドコモの料金をクレジットカードで支払う方は、全体のおよそ半数なんです。クレジットカードを使わないスタイルという方は確実にいらっしゃる。パスワードを入れるだけで支払えるという簡便さで利用されてきて、今回はパスワードなしでもQRコードを読み取るだけという形にしたわけです。

小規模なお店と個人間送金について

――まずは利用可能な店舗数を10万店で、というお話も発表会で示しました。

前田氏
 いわゆる流通・小売大手の実店舗は、国内で7~8万店舗だと言われています。飲食業まで含めて10万くらいになるといいなと。たとえば今回、ドラッグストアさんはもともとインバウンド需要を踏まえてQRコード決済に対応されていたので、すぐに「d払い」が参入していただくことになりました。まずは大手の方々に導入していただいて、全国でのカバー率を上げていきます。その一方で、たとえば東京・文京区の商店街で一気に導入してもらう予定もあり、限られた地域内で面的に導入するといった手法もあります。

 dポイントでは、全国で使ってもらえる、貯めてもらえる環境を整備してきました。それは利用者として使う気分になりますし、それが取扱高に繋がっていく。やはりポイントとの連携は重要というところです。

――個人店のような規模のお店はいかがでしょう。「中国では屋台のような店でも使える」といったエピソードが強い印象を与えています。そういったお店は個人間送金の機能があれば広がりやすくなるでしょうか。

前田氏
 中小規模のお店は、ドコモ自身もやっていきますが、数が膨大ですのでパートナー企業とも連携して開拓していきます。中でも、その方面に熱心なのが「Airレジ(スマホ対応のPOSサービス)」を手がけるリクルートライフスタイルさんですね。

 個人間送金については、チャレンジはできたほうがいいなと思っています。一方、既存サービスの「ドコモ口座」には個人間の送金機能があり、すでにキャリア決済で口座残高を充当できるようになっています。ドコモ口座の残高をもって「d払い」の支払いをできるようにすることも導入しようと考えています。そうなると、個人間でやり取りすることも物理的にできるようになります。インターフェイスを揃えて、機能をわかりやすくすると使われるようになるのではないかなと思います。これは短期的な取り組みとして考えています。

 細かい使い勝手がやっぱり重要です。加盟店さん側を含め、きめ細かくやっていかないと、足りない部分が普及の足かせになりかねませんから。

dポイントの使われ方

前田氏
 dポイントは拠出量が増加しており、2017年度は1000億円以上増加します。2018年度にはdポイントクラブが改定され、長期契約の方は、割引かポイントか選ぶ形になりますが、ポイント拠出量がさらに増えると見ています。

 そのdポイントの使われ方は、携帯電話端末の購入時への充当が多いものの、匹敵するレベルで加盟店での利用が増えてきています。2017年6月からは携帯電話料金へ充当できるdポイントを、3000ポイント以上という形から1ポイント単位に変更して、より使い勝手を高めています。そうなってくると、dポイントを貯めたくなる方が増えてくるというわけです。

 dポイントはドコモ回線がなくとも利用していただけます。当社の阿佐美(弘恭氏、ドコモ副社長)も申し上げていますが、商売のベースを拡大するには“契約者”から“会員”にシフトしていきたい。そのためにdポイントを導入しました。一方で、dポイントを使いやすくすることで、貯めたくなる。ポイントを増やすためには何が一番か、というとドコモ回線だよね、という流れもあり得ます。

海外での利用

――国内外での利用についても教えてください。たとえば日本のユーザーが訪れた国で使える、あるいは日本へやってくる海外の方が使うという形は実現できますか?

前田氏
 海外への展開はどうやったらいいか、まだあまりイメージは持てていませんが、一方で、インバウンドの方に向けて、決済サービスの連携などいろんなアプローチがありそうです。たとえばグアムではdポイントが利用できる環境があります。最近ではグアム以外の地域でも検討を進めているところです。海外事業者との連携は見据えていきたい。

 たとえば当社には「ドコモデジタル」という子会社があります。かつて、ネットモバイル、ボンジョルノという欧州の企業を買収し、統合して改称した企業なのですが、海外オペレーターのキャリア決済機能を担っているほか、ドコモユーザー向けのGoogle Playのキャリア決済の裏側を担当してます。

――なるほど、そういう子会社の存在を介して、dポイントの世界もグローバルへ……という夢を現実にしやすくなりそうですね。

AIエージェントと顧客情報

――1月の発表会では、今春登場するAIエージェントとの連携にも少し触れる場面がありました。もう少し詳細を教えていただけませんか。

前田氏
 具体的な連携についてはまだお伝えできるものがありません。ただ、AIエージェントの土台にあるのは顧客情報です。さまざまなデータがあるのですが、その精度が高まると、ユーザーにフィットした適切な情報が配信される。そのエンジンのひとつに、「d払い」の行動データの蓄積があります。これまでもdポイント加盟店での決済行動は蓄積されてきているのですが、活用はしていませんでした。AIエージェントで活用していくことになります。

――たとえば店舗を訪れたかどうか、グーグルやFacebookは適宜、スマートフォンでアンケートを取ってますね。アプリを使えば、グーグル以外の企業でも位置情報を元にした推計と学習が可能になるかもしれませんが……。

前田氏
 あれは驚きますよね(笑)。もちろんドコモも基地局ベースの情報はあるのですが……。

 ともかく、さまざまなデータを活用しながら、どんな価値を提供していくのか、現在考えているところです。

――なるほど。本日はありがとうございました。