インタビュー

ドコモ井伊社長「エリア拡大で競争する時代じゃない」、オリジナル映像作品の制作やドコモショップへの考え方も

 NTTドコモの井伊基之代表取締役社長が15日、本誌インタビューに応えた。

 すでに本誌では、端末販売や、楽天モバイルの料金改定に関する部分をお伝えしているが、本稿では、既報以外のすべての話題をまとめた。

NTTドコモの井伊基之社長

 とくに注目したいポイントは、大きく3つ。 ひとつはドコモショップに対する考え方 だ。5月の決算会見でオンラインコンサルティングの提供を目指すことが明らかにされた一方で、同月には「店舗数3割減」と一部で報じられた。その狙いに、今回、あらためて迫った。

  2つ目のポイントはサービスエリア整備に対する考え だ。山間部のような場所において、鉄塔設備を他社と共用する「インフラシェアリング」が進められてきたが、井伊社長は「エリア競争は昔のこと」と述べ、幅広い帯域を用いて高い周波数を使う5Gや今後の6Gに向けた考えを示した。

 そして 3つ目は「ドコモがオリジナルの映像作品を作っていく」 ということ。これは、7月に子会社のNTTぷららを吸収合併することを踏まえたもの。ドコモが目指す「スマートライフ事業の成長」に向けた代表的な取り組みとなる。

 このほか、インタビューの最後には、井伊社長が使うスマホ、同氏が個人的に注目しているテクノロジーについても聞いた。

「ahamo」とエコノミーMVNO

――直近のドコモでの動きとしては、6月に「ahamo大盛り」が始まっています。

井伊氏
 「20GB」では不足という方が「ahamo」から離れてしまうということで、「ahamo大盛り」では、100GBまで拡張できるようにしました。

井伊氏
 もともと、ドコモでは中容量、大容量のお客さまが他社に比べて少なかった。そこで「ahamo」を始めました。

 他社さんの魅力ある、サブブランド的なプランが若年層のユーザーをたくさん引きつけていました。当社はそれに遅れていた。そのバランスを戻すために打ち出した料金プランが「ahamo」。

 もうこの戦略はブレずにやってますと。ですから「ahamo大盛り」はいわゆるバージョンアップってことですよね。

 一方でやっぱり小容量のお客さんはMVNOさんと組んでやるという戦略もブレずに進めています。

――OCN モバイル ONEとトーンモバイルと。

井伊氏
 どちらも好評でして、やっぱりドコモショップで扱うというのが良いと思っています。

3G設備は徐々に減少中

――「楽天モバイルの0円廃止」に関する場面(※関連記事)で設備投資の大変さに触れていましたが、ネットワーク設備に関して、たとえばインフラシェアリング、コアネットワークの効率化などがこれまで語られています。今、具体的にどういった形になっているのでしょうか。

井伊氏
 「古い設備を早くなくしたい」という点では、3Gがあります。他社では、すでにサービスを終えているところもありますが、国内ではドコモが(2026年3月末終了予定で)3Gを最後まで提供します。

 サービス終了を迎えるとき、3G基地局は急にゼロにはなりません。なので、今、徐々に減らしています。

 個人のお客さまは、地域ごとに基地局をクローズできるんですが、法人のお客さまは広い面で利用されていますので、最後まで利用され続けることになります。コストを減らす手法のひとつは、そうして古い設備を撤去していくことです。

 一方で、4Gのお客さまを、なるべく5Gへ移行していただけるようにします。あわせて4G用だった周波数を、5Gへ転用します。これもコストが下がるんですね。5Gエリアを単純に新規で展開するよりも、4G用の周波数を利活用する方がコストが下がります。

 そして、全部自社で手掛けるのではなく、他社さんと設備を共有するという考え方もあります。一番わかりやすいのはアンテナ、基地局です。約6000局ほど、JTOWERさんへ譲渡しました。(譲渡した基地局の)多くはルーラルエリアです。

 都心部は、今後も増設計画がありますので、今後もその設備は利用するだろうと。

 一方で、ルーラル(いわゆる田舎、田園部)はそこまでの設備は必要ないだろう、余るだろう、ということだったら、(競合各社が)お互いに立てると一番、設備効率が悪い。ここをシェアするのは、協調できるんですよね。インフラシェアリングの効果があるところ。

 ルーラル以外ですと、トンネルやビル内は、以前から基地局設備をシェアしています。コストのかかるところをシェアするという基本的な考え方です。

エリア競争は「昔のこと」、競争原理の大きな転換点

井伊氏
 昔は、サービスエリアを競争力にしていた。「うちはつながる」「他社はつながらない」みたいな。

 でも、もうそういう時代じゃないんで。

 もう各社、ほぼほぼ同じくらいのエリアの広さですから。だったら、「シェアする」と割り切ったほうがいい。従来のキャリアの競争原理の大きな方向転換だと思います。

――それは、井伊さんが現職へ就任する前からですか?

井伊氏
 NTT(持株)副社長時代(2018年~2020年)の時に、つくばフォーラムで「インフラシェアリングをすべき。なぜ、みんなこんなに鉄塔を立てているんだ。経済的ロスだ」と公言してたんですよ。まさかドコモに来ることになるとは思っていませんでしたが(笑)。

 ただ、その時は、エリア拡大が競争でしたから。しかし、これからの5Gは、やっぱりあんまり(電波が)飛ばない。6Gも、もっと周波数が高いからもっと飛ばないでしょう。

 すると、「(電波が遠くまで届かないため)基地局をたくさん設置しなければいけない」という課題は、各社共通なんですよね。全て自前で基地局を展開するのは、経済的負担が大きいのは、もう自明の理。やっと(ルーラルエリアを中心とした)インフラシェアリングに合意できるような環境になってきたってことだと思うんです。

――実際に他社も話に乗ってきていますか?

井伊氏
 乗ってきていますよ。楽天さんともご一緒しています。JTOWERさんには、今、3キャリア(ドコモ、KDDI、楽天モバイル)が出資していますよね。

――KDDIとソフトバンクは「5G JAPAN」として共同展開する方針を示しています。インフラシェアリングは、JTOWERに集約されるのでしょうか。

井伊氏
 そうした個別のお話もあるでしょう。JTOWERさん1社に集約されるかと言えば、そうではないと思います。

 というのも、実は東京都は、小池百合子知事が「ぜひ、東京都の設備を基地局用に活用してください」と。そこで、手続きの簡素化や場所の解放をしてくれています。エリア拡大において、自治体がその場所を提供するという形です。

 そこで、たとえば、アンテナを設置させてもらう。JTOWERさんも関わっているところはありますが、全てではありません。自治体とこれからコラボレーションしていくのが良いんじゃないかと思っています。

――極言すれば、ルーラルエリアに設備を置かないことになってしまいそうな気がしますが、ルーラルエリアでも設備投資していくモチベーションはどう維持されるんでしょうか。

井伊氏
 そうですよね。クリームスキミング、つまり儲かるところだけでサービスをすることを、今の行政や国は望んでいません。デジタル田園都市国家構想の中では、ルーラルエリアでも5Gの恩恵を得られることを目指しています。

 もちろん(都心部とルーラルエリアで)基地局の密度に違いはあるでしょうが、そもそも「ニーズ」をどう作るかですよね、結局は。

 4Gでこと足りるところを、わざわざ5Gにしても意味がない。地域や産業の課題解決にうまくマッチする、5Gならではのソリューションを作れるかどうかにかかっています。

 その大前提にまず、電波が飛んできてることがあります。なので、(政府の方針として)エリア整備に大号令がかかった。もちろん我々からすると、設置した設備を遊ばせててもしょうがないから、見合うサービスを展開しなきゃいけない。

 そうなると、民間だけではなく、自治体さんと組んでやった方がうまくいくんですよ。たとえば、行政サービス自体をデジタル化するとか。そうすると基本的に(モバイル通信の)必要性が生まれるじゃないですか。役所の手続きや、医療ですとか。

 民間がやると、プラスアルファ、付加価値のサービスです。人によって要不要が分かれます。ですので、「絶対必要な生活必需サービスのデジタル化」を先に手をつけるには、繰り返しになりますが、やっぱり自治体さんと組むのが一番早い。予算もつくでしょうし。

NTT Com一体化、法人強化がもたらす「個人ユーザーのDX」

――そうなると、子会社化して法人事業を集約するNTTコミュニケーションズが大きな意義を持ってきますね。

井伊氏
 はい、特に中小企業様向け、地場企業様向けのデジタル支援のようなサービスが おそらく一番重要です。大企業はもう自力で結構進めていますので。

 そこで、わりと安価でありながら、効用が出るようなサービスを出せるかどうか。

――期待しているサービスは?

井伊氏
 経営の中心としては、会計サービスや営業支援ツールとかでしょうか。内線電話をそのまま携帯電話として外に持ち出せれば、営業活動が簡単にできて、それでいてコストも掛からず便利、というものは受け入れられるでしょう。

 はたまた、製造業では、工場と販売店というネットワークがありますよね。すると品物の在庫管理も大切です。「明日、お店に、饅頭が◯個欲しい」とか。

 こうした在庫管理の日々の出入りや、オペレーションを、人がFAXでやっていたのが昔のやり方。これをオンラインでやる。在庫管理の自動化みたいなこともある。

 どこまでデジタル化を進めるかは、働く人の仕事が減るということにもつながり得ますので、(導入のスピードなど)バランスを取りながらになるでしょうか。

――一般ユーザー向けのメディアとしては、法人事業のお話ってちょっと距離があるように感じていたのですが、ここまでの井伊さんの説明は、普段よく行くご近所のお店などがどんどんデジタル化が進む、というイメージも抱けそうです。

井伊氏
 そうですよね。

――でも、いつごろ変化していくんでしょう。

井伊氏
 デジタル庁を含め、国がかなり本腰を入れて予算をつけるでしょう。そして自治体での取り組みが加速していくということになると思います。これから5年以内、つまり中期的なスパンでやり遂げないと、日本は海外よりも遅れてしまいます。

 「圧倒的な国の力」で先進的な取り組みを進めているのは、中国でしょう。同じことはできないかもしれませんが、キャッシュレスのようなものをどんどん普及させると顧客データなどは簡単に集まります。でも、現金支払いですと、自身の手で集計しなきゃいけない。そういったあたりは、まだデジタル化できる余地があります。

――なるほど

井伊氏

 スーパーマーケットにはセルフレジが導入されていますし、コンビニエンスストアでも無人店舗が登場してきており、通信を使ったカメラが活用されています。一般の方も体感していただけるようになっていくでしょう。

――一方で、ドコモが各地を実証実験で進め、ならされた土壌の上に、海外などから、ほかのサービスが入ってくるということも……。

井伊氏
 それも競争です。しょうがないです。

 我々ができるのは、サービスの内容の充実性もさることながら、お客さまをきちんとサポートしていくこと。必ず課題、トラブル、お困りごとが出てきますから、サポート体制の勝負になると思うんですよ。

 若い人を中心に、「お店のサービスが、フルで自動化してもいい」「全部、自己責任でやってもいい」という方はたくさんいらっしゃいますが、その一方で、そうした状況がちょっと困るという方もいらっしゃる。そこに対するサポートをちゃんとすることが、おそらく生き残るための必要な戦略です。

 また、「ドコモビジネスメンバーズ」というサービスがあります。このサービスでは、個人じゃなくて、企業アカウントに対してdポイントを付与できます。

 そうなると、従業員の方々にdアカウントが用意されることになって、会社のなかでのIDにもなるんです。

 そうすると、(業務上の経費精算などで)いろんな支払いを、dポイントのIDで簡単に処理できる。

 自社でIDシステムを開発せずとも、dポイントのIDを導入していただけるだけでもDXが進みます。導入企業にとってはコスト削減にもつながります。中小企業だと、そんなシステムを自社開発するのも難しいところがあるでしょうから、dポイントの仕組みをうまく取り入れられると。

ドコモショップは「ハイブリッド」に

――中小個店に向けて営業部門の人員強化、役割を広げるといったお話ですよね。一方で、個人ユーザーを助けるという意味では、ドコモショップのような存在は、これからも一定の役割が求められそうです。ただ、井伊社長は、決算などの場でバーチャルでの対応といった紹介をしていました。個人的にはバーチャルでの接客はまだ難しいと感じる人も多いのでは、と受け止めました。

井伊氏
 そう思われるということは、バーチャルでのサービスの品質が、まだリアル店舗に追いついていないということだけなんです。

 我々(携帯電話会社)が、実はそういう構造を作っちゃった原因でもあるんですね。「実店舗だとわかりやすいけど、オンラインになった途端、よくわからなくなり途中で離脱する」といったことを放置しているから対面のほうがいいとなる。

 むしろ、オンラインの方を実店舗よりも簡単にする方法に取り組まねばなりません。

 「全て自動にして、お客さまが選んでいただく」という手法ではなく、今回、私がやろうとしているのは「オンラインでスタッフがお客さまとつながる」というやり方。

 実店舗であっても、オンラインであっても、担当してる人は同じになるんですよ。すると、同じようなサービス品質を提供できるという考え方なんです。

 来店客数の減少傾向が続いており、そうなると店舗数が過剰になります。

 「店舗を中期で3割減らす」っていうことは、中期で、「3割分」の仕事量が全部、オンラインに置き換わるっていう考え方なんです。どれぐらいオンラインの仕事量を目指しているのか、それを「店舗数3割削減分」と表現してるわけです。

 結果的に実店舗の維持コストが減る。オンラインはバーチャル店舗になって、人件費は変わらない。店舗維持コスト分だけが減る。これって、店舗を運営してる代理店さんにメリットがあるんですよ。

 「店舗を減らすと代理店が苦しむ」という一部報道に、私は非常に疑問を持っているんです。「いや、そうじゃなくて、店舗維持コストを減らすために、バーチャル店舗を持ってください、ハイブリッドで経営してください」ということです。

 理想としては、簡単な質問やお問い合わせはオンライン、品物を見たい場合は実店舗というかたち。両方をうまく使い分ける。

 今はね、なんでもかんでも「お店へ来てください」「予約してください」なんですよ。で、座ったら1時間ぐらい話し込んじゃうみたいな状況になってる。そういうのは必要ないんじゃないか。

 サービスを、「人間を介在させたデジタルにシフトする」という考え方であり、「デジタル化したら人の仕事がなくなる」というわけではありません。対決する姿勢ではなく、「人の手でデジタル化を実現してください」「来店せずに済むようにしてください」という考えなんですよね。

――そうなると、代理店に対する評価方法はどうなっていくんでしょうか。また、実際にオンラインでレクチャーするということの難しさ、ハードルがまだまだありそうだなと思ったのですが……。

井伊氏
 その辺は、実店舗でもオンラインでも同じです。スタッフは同じ方ですので、面と向かってやるか、画面を通すかだけの違い。私からすると、差はないと思っています。

 もちろん、(課題として)お客さまが、どうやってオンラインのスタッフにつながるのか、という点はあるでしょう。そこは、たとえばスマホの画面にオンラインショップへのボタンがあり、押すとスタッフにつながって「お困りですか」と話をうかがう。

 対話ができれば、会話は続く。その時、フィーチャーフォンだとできないですよね。だからスマートフォンへ変えましょうという提案もできる。そこはドコモの戦略と合致する。

 スマホは不要という人にも、「困った時にスマホだったら全部助けてくれる」という変化が実現できればスマホを持つべきというように変わっていきます。「割安な機種もありますよ。2万円くらいのものもあります」と。

 5Gの低遅延、高速大容量といった先端的なものを使わず、スマホの画面を通じてお話ができるというだけなんです。

――代理店にとっては「ユーザーと対話し、トラブルを解消したり、要望に応じたりする」といった意味で、これまでとやることが一緒なので、評価も同じになると。回線契約の獲得への評価も、変わらずですか。

井伊氏
 それもオンラインで契約となれば、インセンティブを同じように払うわけですから、何も変わらないんですよ。

――なるほど。

井伊氏
 「ドコモでんき」やdカードなど、総合的なドコモの付加価値サービスをオススメしていただいて、契約につながれば、それに対してインセンティブをお支払いする。だから、実店舗でフェイストゥフェイスでやるのと何も違いはないんです。ただ、店舗維持コストがかからない分だけ、必ず代理店さんは得するはずなんですよ。

――スタッフ数を減らすことは?

井伊氏
 あまりないです。

 むしろ、ドコモショップの人たちにとって、これまでは、実店舗での接客が当たり前でした。新型コロナウイルス感染症が広がった際にも、店舗での対策に取り組みつつ(感染の)リスクにさらされて、仕事をしてた。

 でも オンライン接客を実現できたら、おそらく在宅勤務ができる。

――確かにそうですね。

井伊氏
 それから、「カスタマーハラスメント」の問題が、本当に深刻で。

 どうしても、スタッフに対して、すごく攻撃的なお客さまがどうしても出てくる。それで辞めちゃうスタッフも結構いるんですよ。

 そういう人たちは、実店舗での対面よりも オンライン、場合によってはアバターを使うこともできる。これまでは産休/育休といった場面でも、その一部を在宅勤務に対応できるかもしれません。バーチャルショップ1カ所だけではなく、複数に参加することもできます。完全にドコモショップの働き方改革です。

 そういうことを、ちゃんとデジタルで設計できて、お客さんにとってもつながりやすくなっていればと。

 これまでの「店舗を予約して、交通機関を利用して店舗を行く」ということは、当たり前のことでしたから、そこを変えるとなれば、まず不安が募りますよね。それは当然のことでしょう。変革の際には、めちゃめちゃ不安になるんで、それを1つずつ成功例を作っていき、「なるほど、こういうことですね」としていかなきゃいけない。

 私たちの伝え方が悪いと思うんですが、店舗数を減らす話だけ先行するもんだから、「仕事を失う」「私たち必要なくなる」「売り上げが減る」といったネガティブな受け止めとかが先走ってしまいました。でもそうじゃなくて、「実店舗とバーチャル店舗のハイブリッド」という全体像のコンセプトを、いま、メディアを通じて一生懸命、解説しているところです。

ドコモが「映像作品」を作っていく

――1円端末の販売や転売問題についてお伺いした場面で、端末購入をきっかけに回線契約につながる、というお話がありました。これからドコモがさらに成長させようとするスマートライフ事業、つまり「dTV」のようなサービスもそうしたきっかけで使ってもらえるのでしょうか。

井伊氏
 そこは、今、我々が頑張らなきゃいけないところです。映像コンテンツビジネスにおける、これからの競争の根本的な課題です。

 お客さまからすると、Netflixだけ、Amazonプライムビデオだけ、huluだけとサービスをひとつだけにするわけでもなく、いろんなサービスを利用されます。そこでいかに差別化できるコンテンツを出せるかどうか。

 また、無料でコンテンツを出せるかどうか、という点もあります。たとえばYouTubeは、無料で視聴できる、有料会員なら広告なしというかたちで、コンテンツ自体は変わりません。そうした無料のコンテンツと勝負しても、僕らは勝てません。「回線はドコモで、コンテンツが全部無料」にしてしまうと、スマートライフ領域で一銭も利益がでない。

 そこで、有料で買ってもらえるコンテンツをどれだけ用意できるかという点になります。オリジナルコンテンツを今からちゃんと作ろうと強化しています。

 できればアジアで売れるぐらいのものを作りたい。コンテンツマーケットって日本市場だけじゃないですから。実際、韓国のコンテンツは中国にも日本にも来ていますよね。

 アニメなどのファンはアジアにも多くいます。あるいは、現地のスターを起用した映画を作れば、その国の人たちに見ていただける可能性があります。

――そうしたオリジナルコンテンツをドコモがやります、と。

井伊氏
 やりますよ。

――やるんですね。

井伊氏
 やりますよ。それがコンテンツビジネスそのものなんですから。だから、今回、NTTぷららとドコモを統合して(7月1日にドコモとNTTぷららは合併する)、コンテンツビジネスを一本化してやりましょう、ということなんです。

結構本気ですよ。

――いつごろに?

井伊氏

 いつごろって、すぐ始めますよ、徐々に進めます。

 決算会見で、今年度(2022年度)の事業計画について「スマートライフの利益を少し再投資させてもらいます」と申し上げました。それは、コンテンツ制作やXR、DXに投資しますよ、という宣言です。

5月下旬の決算会見で、「新規領域への取り組みなど」として、一定の費用を投じることが示されていた

 投資しないと、新しい領域の成長なんかあり得ないじゃないですか。

 いろんな分野にお金が必要で、それは将来の成長のコアになる。今年や来年ぐらいは(投資に)使いますよ。と投資家の前でも説明しました。利益はその分、少し減りますが、成長のための再投資なので、投資家的には認めてくれるわけです。まぁホールディングスの方がどう見ているかわかりませんけど。

 でも「成長が止まるけど、今年は最高益でした」といってもしょうがない。いかに持続的に成長させるか、それは経営側の仕事です。

――なるほど。

井伊氏
 いま、収益を上げているのは、決済関連のサービス。稼ぎどころなので、各社みんな手掛けていますが、これの一本足打法ではしょうがない。

 映像、XR、あるいはメディカルサービス、ドコモでんきといった分野にマーケティングコストをかけて、顧客ベースを拡大しないといけません。つまり、これもショップに販売していただき、手数料を払う。(ドコモのサービスを使う)母集団を拡大するためには必要です。母集団が大きくならないと、サブスクリプション(定額制)サービスは利益を回収できませんから。

――ここで、店舗への収益につながるということですね。

dポイントでサービス連携を進める

――そういう販売代理店向けの施策もあるわけですね。サブスクへの誘導と言いますか、使ってもらえるきっかけは、引き続きドコモ回線の契約が肝になるんでしょうか。

井伊氏
 いえ、dポイントクラブの会員は、8900万会員います。ドコモ回線のお客さまは半分程度です。

――なるほど、そういう意味でやはりdポイント経済圏は大切だと。

井伊氏
 そうなんです。大事だと思います。

――6月になってから、d払い関連のキャンペーンがものすごい勢いで増えたように感じています。

井伊氏
 ええ、根性入れていますから。

――キャンペーン規模はおいくらくらいですか?

井伊氏
 いやいや、金額は公表しません。でも、かつての加盟店開拓、つまりd払いを利用できるお店を広げていくときに使った販促費に比べれば、今のほうが少ないです。

 まだPayPayさんには及ばない店舗数ですが、それでも一定程度まで増えました。そうした店舗での利用を促進しようとしています。買ったらポイントが還元されるといったものです。

 そういったキャンペーンを しようとしていて、加盟店さんや商品を手掛けるメーカーさんと組んで、販促したいものをターゲットに、dポイントを活用していただく、という手法です。もうバラマキではないんですよ。

 そういうポイントは、結局、(活用した企業にとって)宣伝広告費になるんですね。お客さんに還元しながら販促をするというかたちです。ポイント経済圏は、そういう仕組みで、我々は手数料がもらえるわけですよね。

井伊社長、4種類のスマホを使う

広報担当者
 そろそろ時間が……

――おっと、そうですか。「ケータイ Watch」ならではということで、井伊さん、今お使いのスマホは?

井伊氏
 あ、私ね、複数使ってるんです。AndroidもiPhoneも両方使ってるんですよ。今は4機種ぐらい使ってますよ

取材当日の井伊氏はタータンチェックのジャケットを瀟洒に着こなし、普段とひと味違った雰囲気

――えええ、そんなにですか。いったい、どういう使い分けを?

井伊氏
 いや、まぁ社長としては知っとこうということなんです。 ソニーの社長にお会いするなら「Xperia」の話ができないといけないし、サムスンの社長に会うなら「Galaxy」の話もできないといけない。iPhoneは、あんまり社長と会わないですけど。

 だから、AndroidもiOSも、その使い勝手、違いを体感しているんです。だから今、4機種なんです。

――ちなみに今のお気に入りは?

井伊氏
 それはお答えしないようにしています(笑)。すべて、私どもの取引先なので。

 今日は普通の時計を使っていますが、普段はスマートウォッチもいろいろと使っていますよ。

――なんと、そうでしたか。おみそれしました。もうひとつだけ、最後に、今注目されている技術的なトレンド、テクノロジーを教えてください。

井伊氏
 そりゃ優等生的なお答えをすると「IOWN」です。やはり光電融合デバイスですからね、これに尽きると思います。

 IOWN構想が生み出されたときに、NTT(持株)にいましたし、エネルギーを食わないという、究極のデバイスを作るという点ですね。世界中に必要なことです。ネットワークに導入するだけではなく、様々な装置にも入っていきます。

 たとえば、XRゴーグルに導入されれば、省電力になるのでバッテリーも小さくなり、発熱も抑えられる。

 あえて、ほかのことを言えば、もう一段、進化したデジタルツインというか、AR、MRですね。今のメタバースはVRゴーグルを付けて別世界に入るかたちですが現実世界と仮想世界を重ねられるようになると、使い方がちょっと変わっていく。医療、産業、自動車運転などリアルとバーチャルの融合はまだまだ進歩していません。

 時間と場所を超越して、いろんな人と集まれます。今はまだ、パソコンを見たり、画面の上でしか再現できていませんから、こういうところをトコトン追求していく余地がある。

――最近、携帯電話各社のお話は法人分野の強化というお話が多くて、コンシューマー目線では進化に乏しくなっていくのかな? と思っていましたが……。

井伊氏
 ええ、まだまだ進化しますよ。スマホだって、もっとヒューマニティ、人間性を向上させるべきだと思ってます。グーグルにも言いましたよ、Androidで実現してくれと。

 「ラーメン食べにいこうかな、あそこの店はどう?」って聞いたら「あそこは辛いよ、店が混んでるから止めたほうがいいよ」とか。叱ってもらいたいときに叱ってくれるとか。元気がないときに元気づけてくれるような。

 言語理解や翻訳を超えた先ですね。

 たとえば、手をかけるとだんだん育つスマホには愛着が湧いて、毎日抱きしめたくなるような存在になるくらい、人間性を持ってもらう。かつて「たまごっち」というゲームが大流行しましたが、あれは育てていく感覚がすごく楽しかった。今のスマホは育たないですよね。それが手をかけていくと愛着が湧いて、機種変更してもデータが引き継がれていくと。

  「ポストスマホ」と言われることもありますが、今のスマホに満足しているんですか? まだまだ進化の途中です。

――ポストとするにはまだ早いと。

井伊氏
 はい。形状だってこれからまだまだあるでしょう。面白いデバイスになる余地はありますよ。

――本日はありがとうございました。