「モバイルプロジェクト・アワード2009」受賞者に聞く

180万契約を突破した「iコンシェル」の将来像


 昨年冬に発売された新端末と同時にスタートした「iコンシェル」。行動支援型の新サービスとして注目を集め、ユーザー数は7月に180万を突破した。分離プランの導入で総販売台数は落ち込んでいるが、「iチャネルを上回るペース」(NTTドコモ、コンシューマサービス部、担当部長、前田義晃氏)で普及しており、端末購入者の約半分が同サービスに加入しているようだ。サービス開始からまだ8カ月強しか経っていないが、その間の進化も著しい。今後、iコンシェルはどこへ向かっていくのか? 同プラットフォームの現状や将来像を、改めてドコモにうかがった。

進化の途上にある「iコンシェル」

パーソナライズした形で届けられる「インフォメーション」

 簡単におさらいすると、iコンシェルとは、いくつかの機能を組み合わせたサービスのこと。マチキャラが情報を届ける「インフォメーション」、スケジューラーがサーバーと連携して自動で情報が加えられる「スケジュール」のほか、「トルカ」や「電話帳」の自動更新なども含まれている。あらかじめユーザーが設定することで、個々人の行動を支援してくれるというのが、大きなコンセプトだ。

 例えば、鉄道の運行情報のインフォメーションであれば、「初期設定はお住まいの5km範囲の路線が設定される」(前田氏)。その電車が運転を見合わせたりした場合に、マチキャラ経由で情報が届けられるという仕組みだ。スケジュールやトルカは、サイトからダウンロードしておけば、データが自動で更新される。また、「電話帳お預かりサービス」を拡張する形で、サーバーにバックアップした電話番号に、住所やサイトのURLが加わる機能も、iコンシェルに含まれている。

 非常に便利なサービスで、電話帳お預かりサービスまで含めて月額210円(税込み)という値付けはリーズナブルだが、「自動」という部分のさじ加減が難しく、進化の余地が残されている。前田氏は気象情報を例に挙げながら、次のように話す。

NTTドコモ、コンシューマサービス部、担当部長、前田義晃氏

「天気予報であれば、初期設定では『警報』だけで、『注意報』は自分で設定するようにしている。しかし、時期によって大きく変わる。関東圏で冬場に注意報を設定すると、ほぼ毎日乾燥注意報が出てしまう。一方で夏場の落雷注意報はあった方がいいのではないか。こういうところが、まだパーソナライズでき切れていない。」

 これは気象情報に限った話ではない。鉄道運行情報や道路運行情報は、現状「都市部は鉄道、ほかの地域は交通をデフォルトにしている」(同氏)と、ある程度のパーソナライズはできているものの、逆に都市生活者が車で移動している際や地方生活者が状況する際などは、設定が必要になる。また、「鉄道運行情報は人によって重要度が違う」(同氏)のが課題だという。現状でも「頻繁に止まる電車だと『またか』となるが、逆に『助かった』という声もある」と、反応が真っ二つに分かれている様子がうかがえる。

映画やイベント情報などを自動でダウンロードできる「スケジュール」クーポンの「トルカ」も自動で最新のものに切り替わる

冬モデルから始まる位置情報連動

7月21日時点でのコンテンツ数は364と、開始当初より大幅に増えた

 こうした課題の一部は、冬モデルと同時に始まる“位置情報との連動”で解消される見込みだ。冬モデルから、「端末に自動測位の仕組みを入れていく」(前田氏)といい、この機能はiアプリやiコンシェルで利用できるようになる。現状ではユーザーが都度測位の操作をしなければならないが、自動測位なら一度許可を出してしまえば、あとは全自動で位置が通知される。まさに、行動支援のための機能と言えるだろう。前田氏は“終電”を例に、この仕組みで実現するサービスを具体的に説明する。

「例として最適なのは『終電ナビ』。外で飲んでいるときなど、終電の時間は気になるもの。自分で検索すればいいが、酔っているとそれも忘れてしまう。位置情報を捕捉できれば、最寄り駅の終電が近づいたタイミングで、情報を送れる。自宅の住所も分かるので、家にいる場合は送らないという制御もする。」

秋冬モデルから位置情報と連動するようになる

 位置情報が加わると、リアルな店舗との連携も現実味を増す。現状でもスケジュールやトルカで店舗の情報を伝えることは可能だが、さらにそのお店の付近にいるユーザーに向け、お得なタイムセール情報や新作入荷情報などを配信できるようになるという。「30分後のタイムセール情報、近くにいる人に配信する必然性がある」(同氏)と、位置情報なしでは不可能だったリアルタイムでの緊急告知が可能になる。また、前田氏はリマインドサービスとのしての有用性も指摘する。

「テレビでおいしそうなお店を紹介しても、きっちり覚えて実際に行く人は少数ではないか。こういったサービスと連動できれば、近くを通ったときに教えてもらえるので、『じゃあ行ってみようか』となる。」

 残念ながら、端末のハードウェア的な部分とも密接に関わるため、「過去の端末に無理やり対応させることは考えていない」(同氏)というが、まだiコンシェルに加入していない、もしくは様子見をしているユーザーを引きつける力は、十分あるはずだ。

「なくてはならないもの」を目指す

 前田氏が「中身的なものは、どこがゴールか分からない」と笑うように、iコンシェルの進化は位置情報連動だけにとどまらない。ケータイは幅広い個人情報を扱うツールだが、iコンシェルが利用しているのはごく一部だ。「あくまで可能性の1つですが」と前置きしながらも、前田氏は「おサイフケータイのDCMXと連動して履歴を見れば、なくなりそうな日用品を売っている店の近くでインフォメーションを出すことができる」と話す。

ゴミの収集日を教えてくれる「53cal」

 コンテンツ拡充もさらに推し進めなければならない。「生活に密着した情報を送りたい」(同氏)という目標達成には、企業や自治体の参加が不可欠だが、まだまだケータイ業界以外のモバイル活用には温度差がある。一方で、先日始まった、ゴミの収集日をインフォメーションやスケジュールで配信する「53CAL」というサービスは、「元々描いていたiコンシェルのコンセプトに近い」というが、あのような情報は「労働集約型で集めていかなければならず、なかなか大変」(同氏)なのだ。

「生活密着型のコンテンツはシステマティックにアグリゲートされて(集められて)いないことが多い。自治体のサイトや広報誌などにも結構便利な情報はあるが、インターネット上をクロールして集めるのは難しい。」

 とは言え、当然ドコモではこうしたコンテンツの重要性は認識している。前田氏が「生活行動支援は情報の網羅感が大切。一般企業はモバイルの機運が高まっているので、一気にやっていく」と熱を込めるように、全社を挙げてiコンシェルに注力していく構えだ。また、ドコモの山田隆持社長が述べていたように、「BtoBtoC」の取り組みが活発化すれば、こうしたコンテンツの厚みが増していくだろう。

 そもそも、iコンシェルは目標が限りなく高い。前田氏は、同サービスを「iモードが一段進化した形」と評し、次のように話す。

「元々、iモードのコンセプトを考えたときに、コンシェルジュというものがあった。iモードは、実現することで豊かさを提供したいという想いがあった。それをやり切ろうと思うと、プル型のiモードだけでは、世の中にあまたある楽しくて便利な情報をお客さまに近づけることができない。」

 iモードの進化形という言葉には、「なくてはならないものにしたい。つまりiモードユーザー・4800万人全員に使ってもらいたい」(同氏)という願いも込められているのだ。こうした“可能性”や“将来性”が感じられるからこそ、iコンシェルは、わずか8カ月強で180万人ものユーザーに利用されるようになったのかもしれない。



(石野 純也)

2009/8/6 11:00