ケータイ用語の基礎知識
第920回:HAPSとは
2019年9月4日 06:00
高高度を飛ぶ基地局「HAPS」
HAPSとは、携帯電話の基地局装置を搭載し、高高度を飛び続ける無人飛行機です。名前は、英語で「高高度基盤ステーション」を意味する“High Altitude Platform Station”の略から来ています。
携帯電話の基地局は、一般的に高い場所にある方がカバーできる範囲が広がります。しかし、鉄塔・電波塔の類で高さを上げて行くには限度があります。そこで、「非常に広いエリアを1台の基地局でカバーする」ことを目的に、基地局を載せた飛行機による上空から通信を提供する技術が開発されました。それがこのHAPSです。
2019年4月、ソフトバンクの子会社HAPSモバイルが、米AeroVironmentの協力のもと、地上約20kmの成層圏を飛行する成層圏通信プラットフォーム向け無人航空機「HAWK30(ホーク30)」を開発しました。20kmというと、通常の民間ジェット旅客機航路の倍近い高度を飛行することになります。
20kmの高度で飛ぶHAPS搭載基地局のカバーエリアは直径200km。日本全土ならば約40機でカバーできる計算になります。
HAPSでエリア構築することには、1基でカバーエリアを広く取れること以外にもメリットがあります。1つ目は、エリアの穴がなくなることです。これまで携帯電話のカバーエリアは直径数km・十数kmのエリアを組み合わせて構築していたので、たとえば山奥など人が入りにくい場所にはエリアの穴ができてしまっていました。しかし、HAPSであれば、空から広く均等にエリアを作りますから、そのような場所もカバーエリアになります。
2つ目は、高度の高い場所も携帯電話のカバーエリアになることです。鉄塔式の携帯電話の基地局では、鉄塔の高さより高い場所は電波が弱くなりがちです。しかし、現在では、ドローンなどの空中で電波を使う機械などもありますから、今後は鉄塔よりも上の上空も携帯電話の電波エリア化されていく必要があるでしょう。HAPSであれば、基地局は成層圏という非常に高い所にありますから、ドローンの飛ぶ高度くらいはなんなくカバーできます。
ジェット航路の2倍、成層圏という絶妙の高度
ちなみに、この「成層圏」という高度、地上から約12~50kmの範囲になるのですが、この高さも、HAPSといった応用には絶妙の高さであると言えるでしょう。
「対流圏」と呼ばれる高度0~12kmの範囲では、緯度や季節によって温度や風向きが変わったり雲がかかっていたりします。また、民間ジェット旅客機が飛行する高度である約10km前後はジェット気流といって激しい大気の流れもあります。
それに対し成層圏は、雲よりも高度が高く、ソーラーパネルで太陽光を常時受けることができますし、年間を通じて比較的風が穏やかなため、数カ月単位の長い期間を安定して飛行することができます。成層圏は、無人飛行機による基地局を運用するのに適した環境なのです。
ちなみにさらに上空には、高度50~80kmの「中間圏」、高度80~800kmの「熱圏」、高度800~1万kmの「外気圏」といった層もあります。低地球周回軌道(LEO)衛星などは、「外気圏」を飛んでいます。
HAPSももっと高くに飛ばしたらもっと広い地域をカバーできるのではないか……と考えてしまいますが、電波は距離の2乗に応じて減衰するということや、遅延の問題があります。あまりに遠すぎると、電波の速度(約秒速3億メートル)でも、発信した電波がHAPSに届き、さらに地上に届くまでに、人の耳でわかるほど遅延してしまうのです。
HAPSは、衛星電話のような通話の遅延は起きず、それでいてどこにいても電波が届く、アウトドアなどに最適な新しい携帯電話・スマートフォン用の基地局として登場するでしょう。日本上空での商用サービス実現には、2023年ごろを目標に準備が進められています。