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KDDI松田氏が「宇宙ビジネスとスターリンクとの連携」を講演、Interop Tokyo 22基調講演

KDDI執行役員 経営戦略本部長兼事業創造本部長の松田 浩路氏

 ネットワーク技術の展示会「Interop Tokyo 22」が、幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されている(リアルイベントは17日まで)。

 基調講演にKDDI執行役員 経営戦略本部長兼事業創造本部長の松田 浩路氏が登壇し、「宇宙から『ずっと、もっと、つなぐぞ。』の実現」と題し、スペースXのスターリンク(Starlink)について講演した。

 「雨の中ようこそお越し下さいました」と参加者を労った松田氏は、冒頭に「59」という数字をスクリーンに示し、何の数字か参加者に問いかけた。

 59という数字について松田氏は「59年前の1963年11月に日米間で初めてのテレビ中継が行われた日」とし、日本で宇宙通信が始まってからの年数だと明かした。

 初めての衛星テレビ中継となったこのイベントでは、当時のケネディ米大統領から祝辞のスピーチが流れる予定だったが「皮肉にも衝撃的なニュース、ケネディ大統領の暗殺のニュースが入ってきた」(松田氏)という。

 今回の基調講演のテーマである宇宙通信とKDDIの「ずっと、もっと、つなぐぞ。」の掛け合わせにつながったところで、講演の本題へと移った。

 ちなみに、講演の後半では、低軌道衛星による通信サービス「スターリンク」が登場する。松田氏は、この講演よりも前に実施されたスペースX(SpaceX)のスターリンク商業販売担当部長(Vice President of Starlink Commercial Sales)のジョナサン・ホフェラー(Jonathan Hofeller)氏による講演に触れ、「ジョナサン・ホフェラーと話したところ、向こう側の映像はスターリンクを使っていた(通信していた)」と松田氏は説明。スターリンクによる通信の安定性をアピールした格好となった。

衛星通信の歩み

 日本の衛星通信は、茨城宇宙通信実験所からスタートした。年表をたどっていくと、1998年に長野オリンピックの映像伝送とフランスワールドカップが開催された。松田氏自身も入社して初めての海外出張がこのフランスだったという。

 近年では、2011年の東日本大震災での復旧活動にも役立てられている。

 松田氏は、長い歴史の中でKDDIが技術的に貢献してきたこととして、「地上局アンテナの開発」や、「移動衛星通信システムの開発」、「衛星最適配置プログラムの開発」、「国際イベントで映像伝送」をリードの4本を挙げた。

松田氏
 カセグレンアンテナというものの開発や、技術設計ですとか標準規格への貢献、実用化研究というのを我々は行って参りました。

 もちろん、NEC様、三菱様、東芝様といったメーカー様をはじめとして、一緒になって挑戦心にあふれた方々と開発をしてきました。

 「衛星最適配置プログラムの開発」は、静止衛星軌道上というのは場所が限られてろますので、どのような配置をすると最適化できるかといったプログラムを開発していました。

 また、松田氏はKDDI山口衛星通信所にも触れ、1969年の開所からあわせて23機のアンテナを配置している。

静止衛星の特徴

 松田氏は、衛星通信の主流である「静止衛星」の特徴を説明した。

 気象衛星ひまわりの場合、上空3万6000キロの上空で地球から見ると止まったように衛星軌道上を回っている。

 理論上は、3機で地球をカバーできることになり、世界中と通信ができるよう進められてきたという。

 静止衛星のメリットは、前述の広域性やマルチプルにアクセスができること、一度に多くのエリアをカバーできるので同報性や耐災害性に優れていると説明。一方、今のインターネット時代のデメリットとして、地上衛星間の距離が長いため光の早さで進んだとしてもだいたい250msかかってしまう計算になるといい、遅延が問題になると分析した。

山口に衛星通信所を開設した理由

 自身も山口県出身だという松田氏は、続けてなぜ山口に衛星通信所を設置したかを解説した。

松田氏
 まずは、理論上3機で地球をカバーできるといいましたが、山口から見ると、インド洋の衛星を使ってヨーロッパと通信ができる、あるいは太平洋上の衛星を使ってアメリカ大陸と通信ができるというので、非常に好立地だったわけです。

 次に、検討当時の資料で地震の多さを表す地図となりまして、50年以上前のものですが、山口県周辺は地震が少ないということで選ばれた理由と聞いております。

 最後に、自然災害です。雨が非常に多いと困りますので、台風が上陸した数が山口県は少ないということで、これらが建設した理由になっています。

衛星通信のユースケース

 続いて、「宇宙からつなぐ」ユースケースとして、「NHKの国際放送」や「南極昭和基地」との通信で、山口の地上局から衛星を通じて通信を行っていることを紹介。

 南極の昭和基地では、KDDIから南極越冬隊員として毎年1人を派遣し、設備の調整などを行い、昭和基地での生活基盤を維持しているという。

 また、災害時にいち早く通信できる衛星通信端末のほか、携帯電話基地局のバックホール区間に衛星回線を利用しているケースもあるという。光回線が届きにくい山奥や遠隔地などで活用されている。

 災害時には、船を基地局にして地上側の通信の復旧も図っている。

 このほか、キッザニアによる子ども向けの体験プログラムを通じて、東京や兵庫のほか、さまざまな地域で体験イベントを実施しているという。

低軌道衛星時代の幕開け

 松田氏は、「新しいことに向けての挑戦を今、民間主導で行わせていただいている」とし、KDDIだけでなく、新しいアイデアを持っているスタートアップ企業とともに宇宙ビジネスを展開していくとし、KDDIの宇宙ビジネスの取り組みを説明した。

松田氏
 ひとつは「KDDI∞(むげん)Labo」ですが、大企業様とスタートアップ様のアイデアや技術をもつスタートアップとマッチングさせるような場を10年くらい提供させていただいています。

 無限大ラボの卒業生としましては、非常に有名で元気がある「アクセルスペース」といった会社さんがいます。

 また、我々コーポレートベンチャーキャピタルというものを持っておりまして、資金を提供して一緒になって成長していこうと言うことで運営させていただいております。

 こういった形で宇宙ビジネスの潮流に乗っていきたいと言うことで取り組みを進めています。

 では、なぜ今宇宙なのかということですが、やはり1つ大きなブレークスルーであるのが衛星の打ち上げ技術、製造技術が民主化したことだと思います。

 まずコストが安くなってきました。昔のスペースシャトルは27トンのものを15億ドルくらいかけて送っていました。ところが、今スペースXのファルコンロケットを使えば1キロあたり2940ドルになります。

 また、衛星自体を作る製造コストが安くなり、衛星字体も小型化が進んでいます。

 衛星の打ち上げ回数についても、増加しており身近なものになったと言うことだと思います。

 また、低軌道衛星の特徴として地球と衛星間の距離が近いことを挙げた。

 これにより、地球をカバーするのに大量の衛星が必要になるが、低遅延大容量通信が可能で、端末の小型化、省電力化ができるという。

 地球と衛星間の距離について松田氏は「低軌道衛星の場合、地球との距離が550キロとなり、これは静止衛星のおよそ65分の1の距離になる」と説明。一方、大量の衛星打ち上げが必要となるので「多くの企業さんが挫折した」(松田氏)と分析した。

 また、衛星の数が多ければ多いほど、地上と結ぶネットワーク、地上局が必要になる。低軌道衛星の場合は、地上ネットワークの重要性が高まるほか、衛星間光通信を活用するなどこれまでの衛星とは異なる性質を持っているとしている。

 なお、松田氏によると「海底光ケーブルは、屈折率があるため光の約3分の2のスピードで通信している」とし、理論上では距離が長くなればなるほど、衛星同士での光通信のほうが早くなる可能性があると分析。あくまでも算数的な話と前置きした上で、ニューヨークとロンドンの間やニューヨークと東京の間では、衛星間通信を活用する方が遅延が小さい可能性があるとした。

 このように静止衛星や低軌道衛星などさまざまな衛星で開拓が進む上空だが、一方で静止衛星の通信を邪魔しないルール制定も必要だと松田氏は指摘する。

 松田氏によるとKDDIでは国際電気通信連合(ITU)の世界無線通信会議(WRC)において、KDDI河合氏が議長を務め、制度整備をリードしており、どういう風にすれば静止衛星と低軌道衛星が共存できるのかルール制定に関わっていたと説明した。

スペースX「スターリンク」との提携

 スターリンクについて松田氏は「ロケットの製造から打ち上げ、その中に載せる衛星まで全部自分たちで作っている」と垂直統合している部分を紹介。打ち上げロケット「Falcon9」では一度に50機ほどの衛星を打ち上げて配置されるという。

 スターリンクは現在36カ国でサービス展開しているといい、実効速度ではすでに150Mbpsの速度が出ているとしている。また、今後「4000機以上の衛星」でサービスを提供する予定という。

 昨年9月に発表したスペースXとの業務提携では、au通信網に採用する契約に合意したと発表された。携帯電話通信網への活用には、基地局のバックホールとして利用するものと、デバイスと衛星が直接通信するものがある。今回の提携では、バックホールとしてスターリンクを利用するものだと松田氏は説明。

 低軌道衛星によるエリア1つあたりは狭いものの、次々に上空を通過する衛星に順次切り替えて通信を続けることで、常に衛星と通信するように設計されているという。

 スターリンクには、このほかデジタルデバイド解消や防災対応などですでに引き合いがあると松田氏は説明。通信が整備されていない建設現場においては、建設作業員の通信環境を確保し職場環境回線や満足度の向上を図ることや、緊急時の連絡など、インフラ会社にあたってはリモート監視/メンテナンスに活用できるのではないかとしている。

 このほか、登山ルートや山小屋でのコネクティビティの提供や、離島でのカバレッジ確保、ドローンの回線利用などにも利用できると松田氏は説明する。

 松田氏は、KDDIでの活用について、急ピッチで準備しているとし、スターリンクの日本での展開もサポートしていくとした。

【お詫びと訂正】
「KDDI∞(むげん)Labo」の表記、スターリンクのスペックが一部不正確な内容となっていました。お詫びして訂正いたします。