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「2030年に宇宙もエリア化」、ドコモが描く5Gと6Gの未来図

 NTTドコモは、同社の取り組みを紹介するイベント「docomo Open House'22」を1月17日~19日まで開催中。

 オンライン開催の同イベントでは、次世代ネットワーク「6G」などに関連して、さまざまなジャンルの技術やプロジェクトが展示されている。また、イベント初日の17日には、報道陣向けにリアル会場での展示も実施された。

 リアル会場では、同社執行役員 R&Dイノベーション本部 6G IOWN推進部長の中村武宏氏が、「5G Evolution and 6G Powered by IOWN」と題して説明を行った。本記事では、その内容をお届けする。

中村氏

ドコモが目指す未来

 ドコモが「サイバーフィジカル融合」として掲げる次世代空間の実現には、「5G通信」のさらなる進化が求められる。より高速かつ低遅延になることは当然として、同社はカバーエリアの拡大なども目指す。

 中村氏は「海や空を含めて3Dでサービスエリアをつくるだけでなく、2030年には宇宙もエリア化すべきと考えている」と語る。

 そして5G通信のさらに先を行く「6G通信」に関しては、世界各国で数多くのプロジェクトがすでに始まっている。日本でも、2020年に「Beyond 5G推進コンソーシアム」が立ち上げられた。

 6Gの状況に関して、中村氏は「だいたい10年の周期で、我々は新たな世代のシステムをつくっている。5Gのときは、2013年~14年あたりに世界中でプロジェクトが立ち上げられ、ホワイトペーパーが出された。6Gは現時点でホワイトペーパーが山のようにあり、5Gと比べて3年くらい前倒しになっている」と紹介。

 そのうえで、「10年という周期を踏まえると、6Gの商用化タイミングは2030年ごろと予想されるが、世界的にはそれが前倒しになる可能性もある」とした。

 中村氏は「(6Gに関しては)特に韓国が非常にアグレッシブ」であるとしながら、「我々もしっかりと追従する、あるいはそれを上回ることも視野に入れつつ開発に取り組んでいく」と意気込みを見せる。

 「6Gの開発競争に関して、投資金額の大小で何とかなるものなのか、もしくは特許を取ることが大事なのか、今の状況を教えてほしい」と質問された同氏は、「いろいろなことを工夫してやっていかなければならない。5Gの反省を踏まえながら、特許やビジネス、競争などのさまざまな戦略を考えていく必要がある。あとは、個々で対応できるような時代ではないので、いかに複数で連携して効率的に技術を開発していくか、というのが重要になってくると思う」と答えた。

 なお、6Gの標準化スケジュールとしては、ITU(国際電気通信連合)でもスケジュールが検討されているほか、共同プロジェクト「3GPP」でも1年半ごとに新たなリリース(仕様)が発表されている。

 中村氏は「2030年の商用化タイミングから逆算すると、2024年あたりのリリース19(Release 19)で要求条件が作成され、技術仕様は2025年あたりのリリース20~21(Release 20~21)になるのではと予期している」と語った。

ドコモのさまざまな取り組みと技術

 そのような状況のなかでドコモが開発を進める新技術は、「移動や通信含め、いろいろな技術を組み合わせたもの」(中村氏)。

 「トラフィックの増大なども考慮しながら、さまざまなことをやっていかなければならない」と語った中村氏は、複数の取り組みや技術を紹介した。

「置くだけアンテナ」

 ドコモが1月17日に発表した「置くだけアンテナ」は、電波を伝送するケーブル「誘電体導波路」の近くに置くだけで、通信エリアをつくり出せるアンテナ。

 同社が以前発表した「つまむアンテナ」と異なり、床や壁などにケーブルを埋め込む場合にも対応できる。

カバーエリアの拡大

 ドコモは、非地上系のネットワークとして衛星系のネットワーク拡張にも取り組む。

 同社が「ベストミックス」と呼ぶのは、特性の異なる「静止衛星(GEO)」「低軌道衛星(LEO)」「高高度疑似衛星(HAPS、成層圏プラットフォームとも)」の3種類を、適材適所に配置して使っていくかたちだ。

 ドコモはそのなかでも特に「HAPS」に関するプロジェクトを推し進めており、実証実験なども実施している。2021年8月には米エアバス(Airbus)との協業により、実機を用いたHAPSの成層圏伝搬試験を行った。

 そして1月17日にドコモは、先のエアバスを含む4社で、HAPSの早期実用化に向けた協力体制構築の検討に関する覚書を締結。これにより、HAPSに関する各社の連携を強めていく。

高周波数帯の開拓

 ドコモは高周波数帯の開拓として、「テラヘルツ帯」の活用を目指す。テラヘルツ帯とは、現在5Gで使われている「ミリ波」よりもさらに高い周波数帯のことだ。

 中村氏によれば、「『テラヘルツ』とはいえ1テラや2テラの実現は難しく、最大300GHz程度をターゲットとしている。それでもかなりチャレンジングで、伝送する方法などの課題がある」。

 テラヘルツ帯の利用検討に向け、ドコモではシミュレーターをつくって検証を実施。6Gで100GHzを利用し、100Gbps超のスループット達成も確認しているという。

ユースケースの開拓

 そして中村氏が「伝送技術とともに重要」と語るのが、「ユースケースの開拓」だ。

 たとえば5Gのユースケースとしては、8Kなどの大容量な映像を伝送する技術が挙げられる。そのほか、医療やコネクテッドカーなど、ドコモは多くの分野での5G活用を図っていく。

 6Gについて中村氏は、「2030年代に向けて、ぶっ飛んだようなユースケースを生み出していかなければならない」とコメントした。

 6Gにおけるユースケースのひとつ「ヒトの能力を拡張するもの」としてドコモが開発しているのが、「人間拡張基盤」。

 6Gでは毎秒1ミリ以下の遅延が目指されており、人間の神経の伝送速度より速い。中村氏は「ネットワークが、ヒトの神経の代わりになれる可能性がある。人の動きや感覚を、ネットワークを介して違う場所に届けることで、いろいろなことができるのではないか」と語る。

 こうした技術は、たとえばスポーツの動きや伝統技術の継承など、多彩な分野での活用が期待される。さらに開発が進めば、「人が思ったことも伝送できて、SFの世界であるようなテレパシーも夢ではなくなる」(中村氏)。

「IOWN」との有機的な融合

 中村氏は説明の最後に、NTTが開発を進める次世代ネットワーク構想「IOWN」に関しても言及した。

 ドコモは、超大容量や超低遅延などを特徴とした「IOWN」の技術を有機的に融合させ、5Gの進化や6Gとあわせて、エンドツーエンドで次世代情報通信インフラへ進化させることを目指す。

 「5G Evolution & 6G Powered by IOWN」という世界観を広くプロモーションすべく、同社は「5Gデモバス」のデザインリニューアルを実施。同バスはスクリーンや音響設備を搭載し、没入感のある仮想空間を体験できるものとなっている。

 また、「5G Evolution & 6G Powered by IOWN」のコンセプトムービーも、ドコモのWebサイトで公開されている。