MWC Barcelona 2023

約4年ぶりにMWCに帰ってきたドコモ、現地での出展内容をチェック

 NTTドコモは、MWC Barcelonaに出展し、次世代通信技術の6Gに関するコンセプトや、子会社のNTTコノキューが展開する「XR World」、Open RAN(O-RAN)の新ブランドである「OREX」を来場者に向けてアピールした。

 ドコモが同イベントに出展するのは、NTTによる完全子会社化が完了する以前の19年2月以来。20年は新型コロナウイルス感染拡大でMWC自体が中止に。21年はオンライン中心、22年は規模をやや縮小して開催されたが、渡航制限が厳しく、日本からの参加者はまばらで、ドコモも現地出展は見送っていた。

約4年ぶりにMWCに帰ってきたドコモ

 ブース全体で目立っていたのが、6Gのユースケースを紹介する取り組みだ。6G自体は、まだ標準化の段階ではなく、世界各国のキャリアやベンダーが盛り込むべき仕様やコンセプトを提案している段階。5G以上に超高速・低遅延になるほか、より高い周波数や宇宙空間、海底といった通信のエリアが広がることで、どのような世界観が実現するのかを、来場者に分かりやすい形で展示していた。

6G導入までのスケジュール感。29年から30年ごろに商用展開される可能性がある

 特に注目を集めていたのが、日本で開催した「docomo Open House」でも展示していた「人間拡張基盤」。超低遅延のネットワークを生かし、映像や音だけでなく、触覚などを伝えるプラットフォームを志向する取り組みだ。会場には、ディスプレイに表示された映像の触感を疑似体験できる装置を用意。布を触ったときや、楽器を弾いたとき、スケートボードに乗ったときなどの感覚が共有できるようになっていた。

触覚を伝える人間拡張基盤。手に持ったボールに、映像の触覚が伝わる仕掛けだ。なお、利用には個々人の触覚に合わせるためのキャリブレーションが必要になる
木や布など、さまざまな素材を触ったときの感覚がボール型デバイスを通じて手に伝わる
目の前の映像に合わせた触覚が伝わるデモも行っていた

 また、人間拡張基盤の1つとして、微弱な電気信号でピアノの演奏を学習できるデモを行っていた。鍵盤をトントンと歯切れよくたたくスタッカートや、音が途切れないようにやさしく弾くレガートの練習ができるよう、手を遠隔地から動かすというのが、この展示の趣旨だ。5Gを超える超低遅延だからこそ、実現できるユースケースを示すのが、この展示の目的と言えるだろう。

電気信号で手や指を操作してもらい、ピアノの演奏のコツをつかむというデモ

 このような目を引くユースケースの展示に加え、ドコモは6Gに向けた技術仕様の提案も行っていた。その1つが、「分散MIMO」の活用だ。分散MIMOとは、通常のMIMOとは異なり、複数の多素子アンテナから発射した電波を1つの端末で受信するというもの。ここに、Sub-6とミリ波、さらには1THz以下のSubテラヘルツ波を組み合わせて、通信をより高速化する取り組みをシミュレーションで紹介していた。

分散MIMOを活用した際のスループットと、通常のMIMOでの比較

 上記の画像は、画面左が分散MIMO適用時のもので、右が非適用時のもの。分散MIMO適用時は、一部の端末がダウンリンクで100Gbps以上の速度になっている一方で、非適用時には100Gbpsを超える端末が存在しない。1~10Gbpsや10~50Gbpsのスループットを出している端末の割合も増えており、0~1Gbpsの端末の割合が減っていることも見て取れる。こうした6Gのシミュレーターも、ドコモが開発しているという。

 コンシューマー向けの取り組みとしては、NTTコノキューが展開するXR Worldを出展。会場には、(国際的に名の通った)人間大のゴジラが置かれており、メタバースの世界内にもゴジラシリーズに登場する各怪獣が現れていた。また、Matrix Streamでキャラクターを動かせるデモも行っており、多数の来場者がその様子をVRゴーグルで楽しんでいた。

ブース内にゴジラが登場。XR Worldを楽しむこともできた
Matix Streamは通路側に配置、多数の来場者がVRゴーグルをかけ、コンテンツを楽しんでいた

 ブースでは、ドコモが新たに発表したO-RANのブランドである「OREX」もアピールしていた。O-RANとは、基地局の無線装置をオープン化する取り組みのこと。無線通信を行うRU(Radio Unit)だけでなく、CU(Central Unit)、DU(Distributed Unit)といった各装置やソフトウェアは、従来、同一ベンダーの製品で統一されていた。これを異なるベンダーで構成できるよう、標準仕様を定めたのがO-RANだ。

O-RANの取り組みもアピール

 会場の説明員によると、ドコモは3G、4Gのころから複数ベンダーを活用したネットワークを構築しており、そのノウハウを生かした取り組みとしてO-RANを展開しているという。単一ベンダーに依存することで、キャリアが囲い込まれてしまったり、代替装置の調達が難しかったりすることを解決するための取り組みとして注目されている。ドコモは、O-RANのアライアンスを立ち上げたメンバーの1社だ。

ドコモは、横須賀にシェアードオープンラボを展開。世界各国のキャリアが遠隔で検証環境を利用できるようにしている
OREXという新ブランドを立ち上げ、ビジネスとしてのO-RAN導入支援の展開を加速させていく

 一方で、共通仕様といってもベンダーごとに方言のような差分はあり、単純に装置やソフトウェアを組み合わせただけでは期待通りに動作するとは限らない。ドコモでは、そのノウハウを生かし、現時点では、世界5キャリアにO-RANの導入支援を行っている。この体制をさらに強化したうえで、O-RANの導入支援のビジネスを本格化していくために策定したのが、OREXという新たなブランドだ。同様のビジネスは楽天シンフォニーが行っており、成果を上げつつある。ここに対抗する動きとして、注目しておきたい。