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ドコモ・KDDI・ソフトバンク・楽天の社長が「Beyond 5G」への取り組みを語る

 総務省主催、Beyond 5G推進コンソーシアム共催で、Beyond 5G推進に向けた取り組みの共有や、必要な研究開発等の要素について国際的な視点から議論する「Beyond 5G国際カンファレンス 2021」が、11月9日、10日に渡って開催された。

 9日には、NTTの澤田 純氏、NTTドコモの井伊基之氏、KDDIの髙橋 誠氏、ソフトバンクの宮川潤一氏、楽天モバイルの山田善久氏が登壇し、Beyond 5Gに向けた取り組みを紹介した。

NTTグループの「IOWN」構想を紹介

 NTTの澤田社長は、NTTグループのインフラ構想「IOWN」がBeyond 5Gにどのように貢献できるかを紹介した。

NTTの澤田 純社長

 澤田氏は、Beyond 5Gの時代は「サステナブルな社会」とし、3つの特徴をピックアップした。その3つは 「Well-Bing」(幸福)、「Paraconsistentの実現」(環境を保全しながら成長も図るという相反する概念を実現すること)、「地球を意識する」ことだという。こうした社会を実現するには、技術革新が必要だと指摘する。

 情報伝送、伝達のために現在は5Gを拡張しているが、次の6G時代の情報伝達には現在の基盤を整えつつ、カーボンニュートラルなどの問題を考慮すると、「電気ではなく、情報処理そのものも光電融合あるいは光コンピュータを意識していく必要があるのではないか」と提言する。それがIOWN構想だ。

6Gでは、電気ではなく光をベースにした技術を活用した高速大容量ネットワーク基盤、IOWNが構想されている

 現在、チップ内(InsideChip)とチップ間(Inter-Chip)で電気で構成されているものを、大阪万博が開催される2025年には、チップ間は光で伝送できるように、また2030年にはチップ内も光素材に変えたいという計画を示した。

2025年にはチップ間、2030年にはチップ内の光伝送を可能にする計画

 サイバー、フィジカル双方の世界を協調させ、近未来予測などに応用するデジタルツインコンピューティングを支えるネットワークも、「ベースはオール光」という認識。カギになるのは、各事業者、プレーヤーを繋ぎ合うマルチオーケストレーションと、あらゆるICTリソースを全体最適に調和させて、必要な情報をネットワーク内に流通させるコグニティブ・ファウンデーションだとする。

IOWN構想の概要

 ユースケースとして、身体障害者が遠隔で分身ロボットを動かして働くカフェを紹介した。5Gとオール光ネットワークを使うことで、20msec(ミリ秒)というわずかな遅延で、非常にスムースなロボット操作が可能だという。また、光だけでHDMI/DisplayPort映像信号やUSB信号を伝送する技術も実証した。

 IOWNが目指しているのは、125倍の伝送容量、100倍の電力効率、エンド・ツー・エンド遅延が200分の1になった世界だ。それをBeyond 5Gのインフラとして実現するために努力すると語った。

IOWNが目指す性能

IOWNと融合する「5G Evolution and 6G」

 ドコモはBeyond 5Gに関する研究開発を「5G Evolution and 6G」(5Gの高度化と6G)と称して行っており、井伊社長がそのコンセプトと取り組みについて説明した。

ドコモの井伊基之社長

 井伊社長は、今後の社会がデータ駆動型社会となり、デジタルツインコンピューティングの重要性が高まると指摘する。

 「データを桁違いに超高速大容量で活用していく力こそがイノベーションの源泉。それを可能とする超高速で大容量のネットワークを構築するのが、通信事業者であるドコモの使命の1つ」と語り、それを実現するのが5G Evolution and 6Gだとする。

 6Gは、超高速、大容量、超低遅延といった5Gの特徴をさらに10倍、100倍と拡大して高性能化。さらに、海、空、宇宙といったところまでエリアが広がるが、徹底的な消費電力の軽減と低コスト化が課題となると予想する。

5G Evolution and 6Gで期待される未来

 井伊氏は5G Evolution and 6Gの8つの取り組みを挙げたが、「6Gの技術とされていても、早期に実用化が可能であれば5Gに導入すべき」としている。それが5G Evolutionだ。8つの技術の中には、非地上系ネットワーク、テラヘルツレベルの高周波数帯の利用などが挙げられているが、「世界の研究機関や標準化機関、またパートナーと協力しながら、実用化に向けた研究開発をリードしていきたい」と意気込んだ。

5G Evolution and 6Gに向けた8つの技術

 技術の一例としては、AGCと共同開発している、メタサーフェス技術を活用した電波レンズ、また、NICT(情報通信研究機構)などと一緒に行っている、非地上系のカバレッジ拡張に向けた取り組みを紹介した。

メタサーフェス技術を活用した電波レンズ(左)と、非地上系のカバレッジ拡張に向けた取り組み

 なお、NTTのIOWN構想について、「IOWNも6Gも、2030年代に向けた通信情報処理基盤であり、方向性は同じ」と発言。「IOWNとの関係を、5G Evolution and 6G Powered by IOWNと勝手に名前を付けて研究開発を進めている」と述べ、5G Evolution and 6GをIOWNの技術と融合させることで、次世代の情報通信インフラに進化させることができると期待を寄せた。

IOWNとの関係

 最後に5G Evolution and 6Gのホワイトペーパーも紹介。2020年1月に第1版が公開されているが、11月8日に第4版が公開された。IOWNとの関係や通信技術の最新の検討状況が追加されているという。

Beyond 5Gは技術的アプローチとユーザー視点のアプローチが必要

 KDDIの髙橋氏は「2030年の社会基盤であるBeyond 5Gを早期かつ円滑に導入することは、国際競争力強化に向けた総合戦略。日本全体でBeyond 5Gを盛り上げていかなくてはいけない」とし、KDDIのBeyond 5Gに向けた取り組みである「KDDI Accelerate 5.0」を紹介。デジタルツインコンピューティングによる新しいライフスタイルやビジネスの創造、社会課題解決を実現するテクノロジーについて語った。

KDDIの髙橋 誠社長
KDDI Accelerate 5.0

 Beyond 5Gについては、2つのアプローチを考えるべきとの考えを述べた。先端技術の研究という技術からのアプローチと、ライフスタイルというユーザー視点からのアプローチだ。最先端の技術で世界をリードする一方で、「パートナーとともに、通信事業者では気がつかない新しいライフスタイルと、それを支えるビジネスを創造していくべき」と語った。

Beyond 5Gは、技術からとライフスタイルというユーザー視点からの2方向からアプローチする

 Beyond 5G時代の世界を実現するテクノロジーとしては、光と無線を融合させたユーザーセントリックなエリア構築の研究を取り上げたほか、電波を自由な方向に反射できる液晶のメタサーフェス反射板、256ビットの鍵長に対応する共通鍵暗号で、処理速度として世界最速138Gbpsを達成した「Rocca」という暗号アルゴリズムを紹介した。

ユーザーセントリックなエリア構築(左)と、液晶のメタサーフェス反射板

 ライフスタイル視点の研究としては、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や東京医科歯科大学などと共同で実証している、脳神経科学とAIを活用した「スマホ依存」に関する共同研究や、遠隔制御ロボットを開発するテレイグジスタンス社との共同実験を取り上げた。

研究所や大学とともに、スマホ依存に関する研究も行っている

 また、社会課題となっている脱炭素については、基地局設備やデータセンターの省電力化が重要と指摘した。基地局はAI技術による電力削減を進めており、電力使用量を最大50%削減。また、液浸冷却装置を利用した小型データセンターによって、消費電力を約35%削減できる目処が立っていると説明した。低軌道衛星によるブロードバンドネットワークを提供する「Starlink(スターリンク)」との提携についても言及した。

基地局設備やデータセンターの省電力化にも注力
Space X社の衛星ブロードバンド事業「Starlink」と業務提携。日本のどこでも高速通信を可能にする

 髙橋氏は、「5Gネットワークを可及的速やかに展開することに加え、Beyond 5Gの推進についても全力を上げていく」との意気込みを示した。

消費電力の削減、耐障害性の向上が重要と指摘

 ソフトバンクの宮川氏は、「5Gからさらに進化するBeyond 5Gは、社会を支える基盤へと進化していくもの」で、産学官が一体となって取り組む必要があると指摘。課題の1つとして膨大な消費電力を挙げた。

ソフトバンクの宮川潤一社長

 Beyond 5Gに向かって、大量のIoTデバイスがネットワークに接続され、それらのデバイスからデータが発生する。現在のモバイルデータトラフィックは約50エクサバイト(EB)とされるが、2030年には約15倍の700EB、2050年には3000倍を超える150ゼタバイト(ZB)と単位が変わるほど増えるとの試算を宮川氏は紹介した。

現在は約130億個のデバイスが繋がってると言われているが、2030年には440億個、2050年には約5000億個、現在の40倍のIoT機器がネットワークにつながるという試算
モバイルデータ通信も増え続け、2050年には3000倍以上になるとの試算

 デバイス、データトラフィックが増大するとともに、消費電力も増加の一途をたどる。2050年はなんと5000ペタワットアワー(PWh)という「想像もできないような数値」になる。

 日本の場合、省エネが全くされていないと仮定すると、2030年には現在の総使用電力量の2倍がIT関連の電力だけで必要になるという。2050年には現在の200倍の電力量が必要になると試算されており、「30年後のIT業界の電力は、このままでは到底賄いきれないという結論」と宮川氏は警鐘を鳴らす。

日本のIT関連の電力使用量の試算

 Beyond 5Gではこのエネルギー問題にも向き合う必要があるとし、NTTのIOWN構想、ドコモやKDDIの省エネの取り組みも含め「皆さんで一緒になって考えないといけない」と語る。

 宮川氏は、地域ごとに分散処理して、エネルギー消費の集中を回避することが必要と指摘。データ処理も、今は都市部に集中しているが、莫大なデータを都市部だけで処理するのは「ほぼ不可能」との認識。「このままでは日本の未来が本当に立ち行かなくなるんじゃないかと強い危機感を感じている。データ連携基盤を介して、低遅延、高可用性、かつ省エネなものを実現する分散型のクラウドが必要」と提言した。

 「大容量なデータを、そのままクラウドに置くものではなく、エッジ側で適切化して転送量を小さくすることで、消費電力を抑えることが可能となる。これらを実現することで地域ごとの電力消費の分散化を進め、地域格差のないエネルギーの活用に貢献したい」(宮川氏)

データの分散化によってネットワークの消費電力が削減される

 また、宮川氏も非地上系ネットワークについて言及。加えて、社会基盤の重要性から耐障害性の向上が必要だとし、複数のネットワーク、分散構成やメッシュ、他事業者との連携による冗長性の必要性も指摘した。

インフラの多重化、バックボーンの多重化、他事業者との相互接続によって耐障害性を向上すべきと指摘

完全仮想化ネットワークや衛星通信について紹介

 楽天モバイルの山田氏は、同社の完全仮想化クラウドネイティブネットワークと、そのグローバル展開、Beyond 5Gに向けて取り組んでいる研究開発について紹介した。

楽天モバイルの山田善久社長

 山田氏は、楽天モバイルが後発の携帯電話キャリアであるメリットを活かし、「Beyond 5Gを見据えた最先端のモバイルネットワークの構築に成功している」と自社を紹介した。

 完全仮想化ネットワークの技術については、これまで発表会などで説明されてきた内容と同様だ。2021年8月には、この楽天コミュニケーションズプラットフォーム(RCP)を海外に展開するための事業組織、楽天シンフォニーを設立。日本、米国、シンガポールに拠点を設置し、人材もグローバルに採用しているという。RCPは多くの通信事業者様から引き合いがあり、8月にドイツの通信事業者である1&1 Drillisch社が採用したことも紹介。「ヨーロッパで初めてクラウドネイティブなOpen RANのモバイルネットワークを作るということになり、今、鋭意構築しているところ」と語った。

楽天コミュニケーションズプラットフォーム(RCP)を海外に展開するための楽天シンフォニー。プラットフォーム全体あるいは一部を通信事業者に提供する。
RCPは各国から引き合いがあるという。

 楽天モバイルがBeyond 5Gに向けて取り組んでいる研究についても紹介した。1つは、NICT、東京工業大学とともに行っている産学官共同研究開発プロジェクトで、超低遅延を実現するマルチアクセスエッジコンピューティングについての研究。5Gで増えるトラフィックをローカルブレイクアウトする技術で、直接インターネットにオフロードさせたり、できるだけエッジに近いところでトラフィック処理をするための研究だ。

 もう1つは、楽天モバイルが出資している米AST SpaceMobile社の技術をベースにした研究。この技術の特徴は、衛星から電波を受けるために大きな専用アンテナは不要で、衛星からの電波を携帯電話が直接受けられる点だという。総務省や他の事業者とも、電波干渉を始め様々な議論を進めており、「2023年以降、楽天モバイルが現在使っている周波数を活用して、既存のスマートフォンで日本のどこにいても、直接宇宙から通信ができる世界を目指している」と語った。

衛星からの電波を携帯電話が直接受けられる。楽天モバイルが使っているBand 3の周波数を活用して通信するという