MWC Barcelona 2023

「Snapdragon 8 Gen 2」やミリ波の実力は? MWCでクアルコムのブースをチェック

 MWC Barcelonaに合わせ、第2世代のAIエンジンを搭載した最新モデムや衛星通信対応のチップセット、IoT対応の5Gモデムなど、さまざまな新製品を発表したクアルコム。同社のブースでは、そのデモや通信実験の成果が展示されている。また、一部の来場者限定で、イラスト生成AIの「Stable Diffusion」を「Snapdragon 8 Gen 2」上で動かすデモも公開した。

 最初に紹介するのが、「5G AI Suite Gen 2」を搭載した5G対応モデムの「Snapdragon X75 5G modem-RF」だ。同チップは、5G Advancedをサポート。22年のMWCに合わせて発表された「Snapdragon X70 5G modem-RF」の後継という位置づけで、AIエンジンを進化させることで通信性能を向上させているのが特徴となる。

最新のモデムやそれを搭載する端末、基地局向けのソリューションなどを展示していたクアルコム。写真は、「Snapdragon X75 5G modem-RF」のチップ
5G AI Suiteが第2世代に進化。キャリアアグリゲーションの性能も向上している

 クアルコムによると、前世代までと異なり、Sub-6とミリ波のトランシーバーが一体化しているのもポイントだという。これにより、端末メーカーがより簡単かつ低コストでミリ波に対応することが可能になる。ミリ波の普及を推進するクアルコムらしい実装と言えるだろう。23年中の出荷を予定しており、年末から24年にかけて発表されるフラッグシップのスマートフォンに採用されると見られる。

 ブースには、実際のモデムチップが展示されていたほか、AIの有無による性能の比較や、キャリアアグリゲーションによるスループットの実験結果が紹介されていた。ビームマネージメントを行うAIを進化させたことで、移動時のミリ波の通信性能や、位置情報の正確性などが上がったほか、全体として通信速度も向上したという。たとえば、AIありの場合、屋内、屋外を問わず、電波強度(RSRP)が向上するという結果が示されていた。特に端末を回転させる際に、その速度が上がるほど、差は顕著になるという。

AIでビームマネージメントを改善。ミリ波で端末を回転させた際の電波強度を改善できるほか、位置情報の正確性も向上するという

 通信性能では、5Gの5波キャリアアグリゲーションに対応。上りの通信のMIMOやキャリアアグリゲーションにも対応しており、トータルでスループットが向上している。ブースでは、Sub-6の5周波数帯、計250MHz幅を利用した場合の実測値として、4.2Gbpsまで速度が出た結果が示されていた。TDD方式の場合、3波のキャリアアグリゲーションに対応しており、こちらは計300MHz幅で4.7Gbpsまで速度が出ていた。

5波キャリアアグリゲーションや3波のTDDキャリアアグリゲーションに対応しており、それぞれ4.2Gbps、4.7Gbpsの速度を実現していた

 また、同モデムは動画などのアップロード需要が拡大していることを受け、上りの通信性能も強化。MIMOやキャリアアグリゲーションにより、スループットを300Mbpsから500Mbps程度まで向上させている。

上りのMIMOや5Gキャリアアグリゲーションにも対応。それぞれ300Mbps、500Mbpsと高い速度を記録

 1月に発表された衛星通信の「Snapdragon Satellite」は、映像でその機能が紹介されていた。クアルコムは、同機能をハイエンドモデル向けのチップだけでなく、ミッドレンジなどまで拡大することを表明しており、MWCではシャオミ(Xiaomi)やOPPOとの協業を発表。衛星には、イリジウムが提供する低軌道衛星を使用するという。

 ブースでは、これとあわせて、最大20MHz幅の5Gを利用するIoT用モデム「X35 5G modem RF」を紹介。5Gながら、帯域幅を絞っており、バッテリー容量が少ないIoTデバイスの通信に特化させている。

衛星通信は双方向の通信に対応しており、メッセージなどが利用できるようになるという
クアルコムが「5G NR-Light」と呼ぶ帯域幅が狭い5Gに対応したモデムチップ。バッテリー容量が少なく、長時間駆動が求められるIoTデバイスへの採用を想定している

 一部の来場者向けに披露していたのが、冒頭で挙げたStable Diffusionのデモだ。マシンパワーを必要とするイラスト生成AIを、Snapdragon 8 Gen 2搭載のスマートフォンで動かし、その性能を示すというのがデモの目的だ。

 同AIの利用にあたっては、Snapdragon内のDSP(Digital Signal Processor)である「Hexagon」で処理を行っているという。キーワードを文章で指定すると、それに合わせたイラストが自動で描かれた。実行からイラスト完成までの時間は、わずか14秒ほどだった。商用展開の予定はないとのことだが、Snapdragon 8 Gen 2の実力を垣間見ることができるデモだったと言えそうだ。

Stable Diffusionを使い、キーワードからイラストを生成。アプリケーションはSnapdragonに最適化しており、すべてデバイス内で処理が行われている

 “ミリ波推し”のクアルコムだが、MWCのブースでは、Xperiaでその実力を体験することもできた。スペインキャリアのテレフォニカは、MWC会場に商用環境のミリ波を構築。エリクソンの基地局を使い、実際に電波を発射していた。スピードテストの結果は、下りで1.8Gbps程度と高速だ。ただ、端末と基地局の間に筆者が立っていたときは700Mbpsまで速度が低下してしまった。障害物に弱い周波数ならではの結果で、その課題も浮き彫りになった格好だ。

会場内に設置したミリ波基地局の通信を試すことができた。結果は1.7Gbpsと高速
基地局を背にした状態で端末をのぞきこんだところ、筆者が電波をさえぎってしまい、速度が低下した

 クアルコムブースには、O-RAN対応のDU向けアクセラレーターカード「Qualcomm X100 5G RAN accelerator card」や、64T64RのマッシブMIMOに対応した「Qualcomm QRU100 5G RAN platform」も展示されていた。いずれも、ドコモが立ち上げたO-RANを商用化する新ブランドのOREXに提案しており、消費電力が競合製品の半分程度というのが売りになるという。

O-RAN準拠のアクセラレーターカードやRANプラットフォームを出展