MWC Barcelona 2023
楽天三木谷氏が語る、料金改定の難しさや衛星通信への期待とは
2023年3月1日 04:14
MWC Barcelonaの会期2日目にあたる2月28日(現地時間)に、楽天モバイル傘下の楽天シンフォニーがイベントを開催。楽天グループの会長兼社長を務める三木谷浩史氏や、楽天モバイルと楽天シンフォニーのCEOを兼ねるタレック・アミン氏らが登壇し、同社の現状を解説した。
両氏とも、昨年は世界各国が興味を示すのにとどまっていたO-RANの導入が本格化し始めたことを語りつつ、参入当初から仮想化技術でネットワークを構築していた楽天モバイルの優位性をアピール。楽天モバイルで証明したソフトウェアベースのネットワークを外販していくのが、楽天シンフォニーの役割になる。
イベント終了後、三木谷氏が日本の報道陣の囲み取材に応じた。楽天シンフォニーの見通しや、楽天モバイルが導入予定のAST SpaceMobile、料金、eSIMなど、同氏がざっくばらんに語った内容は多岐に渡る。主な一問一答は、以下のとおりだ。
――O-RANはかなり盛り上がってますね。
三木谷氏
O-RANが未来である中で、今のところ、楽天が一番先を行ってるということになってますね。だから関心は本当にすごいですね。大きいテレコムカンパニーも一部は試してみたい、そういう形になってますね。ちゃんとやらないとね。
――毎年どのぐらい楽天シンフォニーで稼ぐ形になりそうですか。
三木谷氏
マーケットとしてバーチャライゼーション(仮想化)は、15兆円や20兆円になるんですよね。そのうち、全部が全部うちに来るわけではない。ここにはハードウェアも入ってますからね。うちはハードウェアは基本的にいらない。リファレンスデザインはやりますが、インテルにせよ、シスコにせよ、パートナーシップをやっていこうという形になっています。
利益率は高いビジネスになると思いますが、あとはしっかりデリバリーができる体制です。ノキアだったり、エリクソンだったりもデプロイメントの体制がしっかりしている。1社、2社、3社ぐらいだったらいいですが、50社やれとなるとまたちょっと違った話になってくる。それをしっかりやらないといけないですね。
――今までの楽天全体のビジネスとは違い、エンタープライズ領域になります。ならではの難しさはありますか。
三木谷氏
やっぱり、今までは月数万円のビジネスをやっていたのが、数千億円のようなビジネスになってくるところもあるわけで、セールスのプロセスも違う。
それはしっかりやらなければいけないと思います。今、多国籍なチームがあるというのは、これができている理由の1つだと思います。日本人だけじゃちょっと難しかったと思います。
――今回、何かビッグディールはありましたか。
三木谷氏
そうだよねぇ、ビッグディール(笑)。ただ、例えばO-RANに対する批判ということで、消費電力が大きくなるという議論もあったが、それはまったく消え去った。
むしろ、O-RANの方がAIを使いながら省電力になる。テクニカルにいうと、IT業界はムーアの法則で動いてるわけですよ。その法則が働いてこなかったのが携帯業界なわけですよ。なぜかというと専用機器だから。
要するに、1年半で2倍、6年あったら10数倍になるわけじゃないですか。O-RANなりvRANになれば劇的にコストが下がってくる。5Gはユーザーさんにとってはうれしいですが、携帯会社にとってはいいニュースじゃない。
なぜかというと、投資は増えるけど売上が増えないから(笑)。ここはみんな悩んでるわけですよね。競争も激しくなったし、売上は上がらないしどうしようとなっている。
プラス、すごく正直に言えばファーウェイの問題(経済安全保障上、中国ベンダーの製品を使いづらくなっている件)があるわけじゃないですか。そこから抜け出さなければいけないけど、ほかのレガシーにも行きたくない。我々は、今のところですが、いい立ち位置にいると思います。
――マーケットがもっと早くグロースしてくれれば、楽天シンフォニーが売上を上げられたのではないですか。
三木谷氏
でも、すでに受注残高で4500億円ありますからね。たぶん2年でそんなにある会社というのもすごいと思いますけどね。
――それがもっと早く入ってくれば、巨額赤字の見え方も変わってきたのではないでしょうか。
三木谷氏
まぁ、それは前から言ってますが、(楽天モバイルのネットワーク構築への投資を)全部前倒ししたので。まあまあじゃないですか。逆に言えば損益分岐点を超えれば、全部利益になりますから。いろんなところで聞きますが、3年間で7万局作ったというのは驚異的ですね。
――ギネスに申請した方がいいのでは(笑)
三木谷氏
(笑)。もしかしたら、Reliance Jio(楽天モバイルCEOのタレック・アミン氏が在籍していたインドの新興キャリア)の方がすごかったかもしれないけど、みんな驚いてますね。やっぱりそういうところのノウハウも含めて、(楽天シンフォニーで)提供できていったらいいと思いますね。
――5Gにしてもあまり儲からないというお話をしていましたが、2980円(税込みで3278円)で使い放題は安くし過ぎたのでは、と思うこともあります。
三木谷氏
やっぱりそう思う?(笑) ちょっと安くし過ぎたよね(笑)。ただ、日本のユーザー層を分析すると1GBも使ってないのに6000円、7000円払ってる人がすごく多いわけですよ。
逆に言うと、合理的に払っているマーケットの20%、30%ぐらいは取ってる。これからだんだんあんまり使わないのに高い料金を払っている人が、「これ、払いすぎてたな」と気がついてくる。そのときに、大きな動きがあるという形かな。
そのためには、年末までに99%以上のカバー率(が必要)。ASTで国土カバー率100%、これはギネスに申請できるかもしれませんね(笑)。
――値上げは難しいですよね。
三木谷氏
値上げは、そんなに簡単なことではないと思いますね。
――海外だと燃料費高騰などで値上げするキャリアもあると聞いています。
三木谷氏
あー、燃料費が海外だと3倍とかになってますからねぇ。キツイところはあると思いますね。その意味でも、O-RANは(省電力で)注目を集めています。
コア側もバーチャライゼーション(仮想化)して電力消費を抑えていく。電力消費が弱点と言われていたのが、逆に長所になりつつありまず。何かほかにおもしろいことありましたか?
――MWCでは、衛星通信の話もよく聞きます。ASTの名前もVodafoneで挙がっていました。
三木谷氏
あれも、最初にお金を出したの、うちですからね(笑)。ここはちゃんと書いておいてください(笑)。創業資金は、ほぼ楽天が出してますから。
――チップ側が衛星に対応する動きも多い印象です。
三木谷氏
うちのは、端末は全部使えるので。AndroidだろうがiPhoneだろうが、特別なチップはいりません。
――iPhoneの緊急SOSのように、用途を絞ったりはしないということですね。
三木谷氏
全部です。
――O-RANはドコモも外販に力を入れ始めています。意識されることはありますか。
三木谷氏
実績はあるんですか?
――Vodafoneなど、5社の支援が決まったという話はありました。
三木谷氏
お手並み拝見でいいんじゃないですか。もしかしたらうまく行くかもしれないですしね。
――やはりまだ楽天シンフォニーのアドバンテージがあるということですか。
三木谷氏
やっぱり、大変なんですよ。本当に。これはやってみて分かった。僕も簡単にできるんじゃないかと思っていたんですが(笑)。なので、結局、そんなに簡単にはいかないと思いますね。
――どの部分が難しかったですか。
三木谷氏
いろんな周波数帯域があり、いろんな機器があり、3GPP(の仕様で決まっている部分)だけじゃなく、それぞれに個別の使い方があるわけじゃないですか。
それに全部対応していかなければいけないということだと、単純に走ればいいわけじゃない。いろんな機能を付けていかなければいけないし、パフォーマンスもある。実際に使ったとき、オートメーションやオートヒーリング、オートスケーリングが本当に動くのかというところもある。
単に動けばいいという話ではないので、この部分が大変重要になってきます。動いたけど、消費電力が3倍でも意味がないわけじゃないですか。みんなが昔、これは不可能だと言っていた理由は、それなりにあるわけです。いつかはほかの人もできるでしょうけど、結構時間はかかると思います。
――日本勢ということでパートナーシップを組んで海外で売っていくということはないでしょうか。
三木谷氏
全然、そういうのもありなんじゃないかと思いますけどね。ただ、どっちかと言うと見下されてると思ってるので(笑)。
――(笑)
三木谷氏
うちは日本の会社ですが、国際チームなので。そこは違うところだと思いますね。
――MWCでは、eSIMもトピックの1つになっています。決算説明会で、eSIMを使ってワンクリックで契約できるというお話をしていましたが、あれはどういうものなのでしょうか。
三木谷氏
そんなこと言っちゃったっけ?(笑)
――はい。言ってました(笑)
三木谷氏
こうご期待で(笑)。それは、秘中の秘なので。
――ありがとうございました。