法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

総務省の「アクションプラン」で、公正な競争環境は整備できるか?

 10月27日、総務省はかねてから議論を重ねてきた携帯電話料金値下げへの道筋として、「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」(以下、アクションプラン)を発表した。

同日には武田良太総務大臣からの説明もあり、本誌だけでなく、多くのニュースで取り上げられたので、ご覧になった読者も多いだろう。

今回はこのアクションプランをどう見るか、これによって、公正な競争環境が整備できるのかについて、考えてみよう。

アクションプランはちょっと肩すかし?

 総務省はこれまでいくつかの検討会やワーキンググループ(WG)において、議論を重ね、さまざまな政策や方針を打ち出してきた。

 今回、10月27日に発表された「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」(以下、アクションプラン)もそのひとつで、「電気通信市場検証会議」や「競争ルールの検証に関するWG」、「接続料の算定等に関する研究会」などで議論されてきた内容を踏まえ、まとめられたものになる。

 その内容については、すでに本誌でもニュースでお伝えし、新聞やテレビなどの一般メディアでも報じられたが、読者のみなさんはどのように受け取っただろうか。

 SNSなどの反応を見ると、「これで乗り換えやすくなる」といった評価が見られる一方、「なんだよ、これじゃ値下げにならない」などの反応も見られた。

 2年前の菅義偉首相(当時は官房長官)の「4割下げられる余地がある」発言に端を発した携帯電話料金の値下げ議論は、さまざまな論争を経て、昨年には電気通信事業法の改正にまで踏み切り、今国会の所信表明演説でも携帯電話料金の値下げに触れられたことから、一連の論争の集大成的な位置付けを期待していた人が多かったが、やや肩すかしを食らった印象を持つ人も少なくなかったようだ。

 アクションプランの個々の項目については後述するが、 全体的に見ると、実際の市場環境を踏まえ、MVNO各社への誘導を含めた方針を打ち出しつつ、MNPによる乗り換えを円滑化することで、事業者間の競争を促していきたいという方針 がうかがえた。

 ひとつ象徴的だったのは、アクションプランを発表する会見において、記者から「具体的な値下げの時期や水準をどう求めるのか」と質問されたことに対し、武田総務大臣がそういった内容を政府が掲げることは「あるべきではない」と答えていた点だ。

 一連の値下げ議論について、各方面から「政府が民業に介入すべきではない」と指摘され、筆者も本コラム「どうすれば、携帯電話料金値下げが実現できるのか?」で説明したが、やはり、政府が直接的に「△△までに○○円にしなさい」という指示は自由主義経済の観点からも異常な事態であり、行き過ぎた発言であったことが明確になった印象だ。

 だからと言って、携帯電話料金の低廉化を図らなくてもいいというわけではなく、規制緩和や的確な指導、公正な競争環境の創出、通信技術の進歩によって、着実に消費者の負担を減らしていく方向が模索されるべきだろう。

 今回のアクションプランでは大きく分けて、3つの柱を掲げ、それぞれにいくつかの方針を示した内容になっている。すべての項目を説明すると長くなってしまうので、注目点をピックアップしながら、内容について、考えてみよう。

わかりやすさの追求と消費者の理解

 まず、第1の柱として挙げられた「分かりやすく、納得感のある料金・サービスの実現」だが、その内容を見ると、ここ数年、一部の販売店で行なわれていた「頭金」商法(頭金と称して、販売価格に一定額を上乗せする)の是正、中古端末を含めた端末流通市場の活性化などが掲げられているが、やはり、注目されるのは「消費者の一層の理解促進(ポータルサイト構築)」だろう。

アクションプラン概要から「第1の柱」部分を抜粋

 先般の携帯電話料金値下げについて解説した本コラムでは、これまで総務省が積極的にMVNOを推進してきたのにもかかわらず、「どうしてMVNOへ誘導しないのか」という指摘をした。

 この件については、多くの読者からTwitterなどで賛同するコメントをいただき、たいへん心強く思った。しかし、その一方で、同じタイミングで実施された「武田総務大臣と携帯電話利用者との意見交換会」では、消費者の代表とされる参加者から「プランが複雑すぎてよくわからない」「格安スマホへの乗り換えがよくわからない」といった指摘が上がっていた。

 つまり、本誌読者のように、ある程度、リテラシーのあるユーザーは、必要に応じて、MVNO各社やサブブランドの割安な料金プランに乗り換えたり、サブ回線として契約したりしているが、デジタル事情にあまり詳しくないユーザーには、MVNO各社やサブブランドの内容が十分に認識されておらず、「安そうだけど、わからないから移行しない」という考えになってしまっているわけだ。

 こうした状況が生まれたのは、やはり、総務省が各携帯電話会社やMVNO各社、販売代理店など、企業やショップ(代理店)に対する政策ばかりに目が向いていて、一般消費者に対するアプローチや説明が疎かになっていたからだろう。

 総務省の各検討会には、もっとも消費者に近いはずの存在として、消費者団体や携帯電話の販売に関する専門家が参加していたはずだが、これらの人たちから、消費者の理解度に対する指摘はなかったのだろうか。

 しくみを作ることも大事だが、 周知を図り、運用していくことはもっと大切 であり、総務省も検討会も「消費者ファースト、国民ファースト」の意味合いを今一度、見つめ直して欲しいところだ。そういった意味からも今回のポータルサイト構築の策は、注目される。

 ただ、このポータルサイト構築をどのような形でまとめていくのかは、消費者として、しっかりと見極めていく必要がありそうだ。

 総務省が運営するのであれば、特定の事業者の具体的な料金を掲げて比較したり、実際の契約ページに誘導するようなことは難しそうだが、手順として、どのようにすれば、移行できるのかをわかりやすく解説して欲しいところだ。

 普段から総務省として、「わかりやすく」を携帯電話会社などに求めているのだから、そのお手本と言えるような説明を期待したい。

 また、今年7月の本誌インタビュー記事「菅官房長官に自民党有志議員が「通信料値下げ」に向けた提言書――坂井学議員と大串正樹議員に聞くその狙い」のもとになった提言書でも「MVNOへのユーザーの移行を促す講習会等への支援の実施」という提言が掲げられていたが、ポータルサイトだけでなく、消費者を対象にしたセミナーや映像コンテンツなどを含めた施策も期待したいところだ。

 今年は特別定額給付金でマイナンバーカードがあらためて注目されたが、カードそのものは2016年から交付されていたものの、十分に周知がされないまま、数年が経過していた。

 ところが、給付金に必要ということで(実際はなくても可能だった)、申し込みが殺到し、混乱を招いた。これもマイナンバーカードの周知や理解が不足していたことが背景にある。

 政策は作ることが目的ではなく、実際に消費者や国民が理解し、その恩恵を受けるところまでが本質であるはずだ。

MVNOの生きる道は料金だけでいいのか?

 次に、第2の柱として掲げられた「事業者間の公正な競争の促進」について、考えてみよう。

アクションプラン概要から「第2の柱」部分を抜粋

 まず、くり返しになるが、先般の携帯電話料金値下げの本コラムでも指摘したように、公正な競争を促進できなかったのは、やはり、2012年のソフトバンクによるイー・アクセス買収という失策があったからで、その点は総務省として、きちんと反省の弁を述べて欲しいところだ。

 昨年10月、再び4社めの携帯電話事業者として、楽天モバイルが参入したが、ソフトバンクがイー・アクセスを買収した当時の430万という契約数に達するには数年が掛かると見られ、それまで公正な競争環境は失われたままだ。

 また、公正な競争という観点で言えば、9月末に本コラムの「NTTドコモの完全子会社化で、公正な競争環境は担保できるのか?」で説明したように、通信業界は数十年の歴史の中で、さまざまな競争政策が図られてきた結果、料金の低廉化やサービスの向上が図られてきた経緯がある。

 ところが、武田総務大臣はNTT持株の発表に先駆け、完全子会社化を容認するような発言をしており、本当に競争環境のことを理解しているのかを疑いたくなってしまった。監督官庁の責任者として、もう少し通信業界の競争環境について、理解したうえで、慎重に発言して欲しいところだ。

 ところで、競争環境の話題について、ひとつ脱線させていただきたい。他紙の記事で恐縮だが、10月1日から日経新聞の「私の履歴書」という連載に、KDDI相談役の小野寺正氏が登場し、業界内を中心にたいへんな話題となった。全30回の連載で、10月末で終了となったが、通信業界の歴史や公正な競争環境を知るうえで、非常に面白い内容となっている。有料会員向けのサービスだが、オンラインではバックナンバーを読めるので、ご興味のある方はぜひご一読いただきたい。

 さて、話をアクションプランに戻すと、第2の柱の内、意外にたいへんそうなのは「データ接続料の一層の低廉化(3年間で5割減)」だろう。MVNO各社がMNOに支払うデータ接続料を安くすることで、MVNO各社の料金プランを下げようというわけだ。

 筆者も先般のコラムで、「計画経済のようで、やや議論があるかもしれないが、一定の間隔で目標値を定め、接続料の低廉化を図ることを考えるべきだ」と書いたが、3年間の5割減は各携帯電話会社にとって、かなり厳しい目標値と言えるかもしれない。

 しかもこれらが実現しなければ、将来的な周波数割り当てにも影響が出るとなれば、各携帯電話会社としても積極的にコストダウンを図らなければならないだろう。どこまで実現できるのかは未知数だが、方向性としては評価できるものだろう。

 「周波数の有効利用の促進」や「インフラシェアリング」は、こうしたコストダウンにも関係してくるもので、すでにKDDIとソフトバンクが5G JAPANを設立するなど、業界内も徐々にその方向に動きはじめている。ただし、ここでも見逃してはならないのは、NTTグループが光ファイバーで約70%のシェアを持っていることであり、「公正な競争環境」を謳うのであれば、この点について、NTT法の見直しを含めた議論が必要になってくるかもしれない。

MVNOの役割は「低廉化」だけなのか?

 そして、この第2の柱で、ひとつ気になるのがフォーカスされている内容が「料金の低廉化」に集中している点だ。

 これはある業界関係者が筆者に問いかけてくれた話だが、本来、MVNOは各携帯電話会社のネットワークを借り受け、各携帯電話会社だけではできないようなサービスを提供するものだ。

 しかし、現在は料金ばかりに目が向けられており、言い方は悪いが、「料金低廉化のダシに使われている」印象が強い。アクションプランの第2の柱の説明には「多様で魅力的なサービスを生み出す」と書かれているが、MVNOに対しては、多様どころか、料金の低廉化しかフォーカスされていない。

 たとえば、KDDIは10月30日の決算会見に合わせ、シンガポールのCircles Asia(サークルズアジア)とパートナーシップを結び、eSIMを活用したMVNO会社を設立することを発表したが、こうした新しいMVNOとしての取り組みは、もっと創出されていいはずだ。

 たとえば、フィーチャーフォンの終了に合わせ、シルバー向けにサポートを充実させたMVNOサービスを提供する手もある。

 現に、ワイモバイルがジャパネットたかたで販売するスマートフォンは、訪問サポートなどが支持され、契約数を伸ばしている。

 それこそ、5Gが主流になれば、もっと多様なMVNOサービスが登場しそうだが、そういった多様な視点の話題がまったく触れられていないのは残念な限りだ。

 もちろん、公正な競争環境によって、料金が低廉化することは、多くの消費者にとって有益だが、料金以外にも新しいMVNOサービスの創出に必要な何かがあるのではないだろうか。

何のための「事業者間の乗り換え」なのか?

 さて、今回のアクションプランの中で、もっとも課題が多いと言われているのが第3の柱に挙げられた「事業者間の乗り換えの円滑化」だ。

アクションプラン概要から「第3の柱」部分を抜粋

 携帯電話料金や契約に関する議論が進められてきた中で、2006年のMNP開始以降、総務省がもっとも重要視してきたのが「事業者間の乗り換え」だ。事業者を乗り換えやすくすることで、各社が料金やサービスで競争するようになり、その結果、料金の低廉化が進むと考えているわけだ。

 この点については、本コラムの「どうすれば、携帯電話料金値下げが実現できるのか?」でも説明したように、契約解除料が1000円になっても7割のユーザーが乗り換えない意向を示すなど、すでに多くのユーザーが携帯電話会社を乗り換えることに対するモチベーションを失っている。こうした状況において、「事業者間の乗り換え」にどこまで注力すべきなのかは、慎重に検討する必要があるだろう。

 もちろん、将来的に消費者が乗り換えたくなったときのため、きちんと環境を整備しておく必要はあるだろうが、なかには多大なコストがかかりそうなケースもあり、費用対効果をきちんと見極めたうえで、政策を検討する必要がありそうだ。

 まず、「番号持ち運び制度(MNP)の利用環境の整備」だが、大きく分けて、「過度な引き留めの禁止」「24時間受付が可能なオンライン手続きと手数料を原則無料化(店頭での手続きは有料でも可)」「MNP移行先での手続きのワンストップ化」の3つの項目から構成されている。

 引き止めポイントによる過度な引き留めは、筆者も何度となく、ある携帯電話会社の対策を耳にしたが、よく考えてみれば、もともと手続きがワンストップ化されていれば、こうした引き止め行為も発生しないわけで、ツーストップのまま、14年間も放置されていたことの方が問題ではないだろうか。

 こんな言い方は失礼かもしれないが、総務省や検討会に参加される有識者の方々は、MNPを体験したことがあるのだろうか? 一度でも体験したことがあれば、これくらいの不整合は見つけられるはずだ。

 オンライン手続きと手数料の原則無料化は、現在のコロナ禍で店頭へ行くことが躊躇される状況になる以前から、オンラインでの手続きが望まれていた。 各携帯電話会社がIT企業でありながら、オンライン手続きのメニューを整備してこなかったことは、不誠実に受け取られてしまう だろう。

 ただ、ひとつ注意しておきたいのは、何でも手軽にオンラインで手続きができればいいというわけではないことだ。

 たとえば、同じ通信業界では加入電話(アナログ回線)から光回線への移行に伴い、仲介する取次業者がよく確認をせず、電話番号の引き継ぎをしなかったため、長年利用してきた電話番号は失われそうになったというトラブルもあった。

 ADSLや光回線では取次業者が勝手に手続きをしてしまうトラブルが何度となく起きており、MNPのオンライン手続きでも同様のトラブルが起きる可能性も否定できない。

 しっかりと本人確認をしたうえで、正しく手続きができる環境になることを望みたい。

キャリアメールの持ち運びは本当に必要か?

 そして、今回のアクションプランの中で、おそらくもっとも難題となりそうなのが「キャリアメールの持ち運び実現の検討」だろう。

 あらためて説明するまでもないが、現在、各携帯電話会社はメールサービスを提供しており、携帯電話時代から長く同じメールアドレスを使い続けている人も少なくない。「今どき、キャリアメールなんて使わないよ」という指摘もあるが、限られた人とのやり取りに利用していたり、さまざまなサービスのアカウントとして登録しているケースなどもあり、無下に「いらない」とは言えない面もある。

 スマートフォンのユーザーであれば、GmailやiCloud、outlook.comのメールアドレスを取得し、そちらをメインに使っていくようになるが、フィーチャーフォンでは基本的にこれらのサービスが利用できないため、相変わらず、キャリアメールは根強い需要があるとされている。

 また、メールに代わるコミュニケーション手段として、スマートフォンではLINEやFacebookメッセンジャー、Skypeなどが広く利用され、つい最近まで、AndroidベースのフィーチャーフォンでもLINEが利用できていたが、残念ながら、LINE自身がフィーチャーフォン向けのアプリの開発を終了したため、各携帯電話会社のフィーチャーフォン向けのLINEサービスは終了することになっている。

 そこで、何とか各携帯電話会社のメール(キャリアメール)をMNPの移行先でも利用できるようにしようというわけだが、まず、当初、一部のメディアで報じられていた「メールの転送」は セキュリティ面から考えてもあまり好ましい手法とは言えない 。一方、キャリアメールをオープン化する方法については、すでにドコモメールやauメール、S!メール(MMS)はいずれもWebメールで閲覧できており、利用料金を支払う形であれば、十分に実現できそうだ。

 ただ、その携帯電話会社の契約者ではないユーザーが「@docomo.ne.jp」などのドメインのメールを利用できることは、必ずしも好ましい状況とは言えず、迷惑メールの発信などをコントロールする意味合いからも少し議論が必要だろう。

 ちなみに、携帯電話やスマートフォンで利用するメールについては、以前から「将来的にMNPを利用する可能性があるなら、主に使うメールアドレスをGmailなどに乗り換えておいた方がベター」と言われてきた。

 おそらく、モバイル事情に詳しい方なら、周りの人々に同様のアドバイスをした経験があるかもしれない。

 その意味で考えれば、「事業者間の乗り換え」を促す政策を打ち出しながら、消費者に対して、そういった知恵や情報を提供してこなかったのは、やはり、総務省の配慮のなさと言えるかもしれない。

「+メッセージ」の活用も視野に

 もうひとつツッコミを入れておくと、MNPでキャリアメールが利用できなくなった場合でも移行先が主要3社であれば、別の方法で長いメッセージをやり取りすることができる。

 そう、主要3社が提供する「+メッセージ」の存在だ。

 NTTドコモ、au、ソフトバンクが今後の重要なコミュニケーションサービスとして提供を開始しながら、あまり利用は拡大していないが、少なくとも相手の電話番号がわかり、相手がアプリを設定していれば、長いメッセージも写真もスタンプもやり取りできる。 十分にキャリアメールの代役になり得る存在だ

 現在は主要3社でしか提供されていないが、これをMVNO各社でも利用できるように主要3社に働きかけることもできるはずだ。

 キャリアメールの過去の受信メールをどうしてもMNPで移行後も閲覧したいのであれば、一般的なプロバイダーのメールと同じように、一度、パソコンなどでローカルに保存できるようにして、そのメールデータをGmailにアップロードして、閲覧できる環境を構築することも可能なはずだ。

「SIMロック解除の推進」や「eSIMの促進」をはじめる前に

 今回のアクションプランでは、SIMカードに関連する項目も挙げられている。ひとつは「SIMロック解除の推進」、もうひとつが「eSIMの促進」だ。

 順序が逆になるが、まず、eSIMの促進については、やや唐突な感は否めない。

 当初、一般メディアでは「事業者間の乗り換えを推進するために必要」といったニュアンスで報じられていたが、そもそもSIMカードの差し替えがわからないユーザーがeSIMのことを理解できるとは思えず、そんなユーザー層に対し、eSIM対応スマートフォンを強力に推奨するような方針を打ち出せば、余計なトラブルを招くだけだ。

 こうしたユーザーの理解度を考えない政策を打ち出してきたがゆえに、今まで販売の現場などに数々の混乱を招いてきたわけで、 総務省にはもう少し技術の内容とユーザーの理解度を考慮した政策を検討して欲しい ところだ。

 eSIMについては、筆者もiPhoneやPixelなどで、国内外のサービスを試してきたが、ユーザーの利用シーンに当てはまるとすれば、1枚目の物理的なSIMカードの環境に、安価なデータ通信サービスなどをeSIMで追加するときなどに有効だろう。

 たとえば、1枚めのSIMカードは古くから利用してきた主要3社のSIMカードを使い、eSIMはMVNO各社の安価なデータ通信サービス、海外渡航時は海外の通信事業者のデータ通信サービスを組み合わせるといった使い方だ。

 また、eSIMはオンラインで手続きを完了できるため、パートタイム的な活用に有効であり、短期出張など、仕事や生活の環境が変わるタイミングでの利用など、フレキシブルに対応できるサービスなどが考えられる。

 こうした実際の利用シーンに当てはまるサービスであれば、ぜひ「促進」をして欲しいところだが、事業者間の乗り換えに際し、「SIMカードがよくわからないから、eSIMにする」というような不可解な政策を打ち出さないように願いたい。

 もし、国内でeSIMを積極的に採用している楽天モバイルへの移行を促すために掲げているのであれば、それこそ「公正な競争環境」とは言えないので、今一度、方針の見直しを検討すべきだろう。

SIMロック解除は進展、別の課題も

 一方、SIMロックの解除の推進については、これまでの政策でSIMロックの解除が事実上、義務化され、一部の端末を除けば、ほぼどの機種でもSIMロックが解除できるようになっている。

 ここ数カ月、筆者が購入した端末の内、携帯電話各社から一括払いで購入した端末は、SIMロックが解除された状態で店舗から渡されており、それほど大きな障壁があるようには見えない。

 ただ、端末のSIMロックが解除されていても別の障壁があるケースがいくつか見受けられる。本誌の「みんなのケータイ」でも指摘したことがあるが、auやソフトバンクはiPhoneとAndroidスマートフォン、あるいはiPhoneの世代などによって、異なるSIMカードを発行し、利用できる端末を制限している。

 また、先日、iPhone 12シリーズが発売された際、SIMフリー版のiPhone 12シリーズを購入したユーザーが各携帯電話会社の契約を5Gに切り替えるには、別途、手続きが必要であることが話題になった。

 具体的には、auは当初、SIMカードの交換が必要とされていたが、実際にはお客さまサポートへの電話のみで手続きが可能と発表された。

 これに対し、NTTドコモとソフトバンクは当初、SIMカードの交換はないとされていたのに、実際には契約変更のためにキャリアショップへ出向く必要があった。

 しかも手続きとしては持ち込み機種変更の扱いになるため、手続き完了後、契約事務手数料として、3000円が請求される。

 さらに、ソフトバンクについては、SIMフリー向けのSIMカードを新規契約するときと同じように、利用する端末のIMEI番号を登録する必要もあった。

 昨年の電気通信事業法の改正などにより、原則的に回線契約と端末販売は分離されたはずだが、未だにこうした余計な紐付けが残っているのは、非常に残念な限りだ。

 当初、電話をかける必要があるauが面倒だと思っていたが、実際にはショップに出向かなければならない他の2社の方が面倒で、しかも来店予約がほぼ義務化されているため、すぐに手続きができないという事態に陥る。

 11月13日にはiPhone 12 miniとiPhone 12 Pro Maxの発売を控えているが、各社ともSIMフリー版を購入したユーザーがキャリアショップを訪ねなくても5Gへスムーズに切り替えられるように環境を整えて欲しい。

 そして、総務省には「回線契約と端末販売を分離」という原則をより明確にし、各事業者に対し、その原則に則った運用をするように求めるべきだろう。総務省は「SIMロック解除の推進」について、今秋以降、検討の場を設置するとしているが、そんな悠長な取り組みではなく、菅首相がさまざまな政策で掲げるように「スピード感を持って」、目についたことから順に、迅速に取り組んでもらいたいところだ。