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総務省、MNP乗り換えの円滑化に向けた報告書案を公開

 総務省は1日、「スイッチング円滑化タスクフォース」の報告書案を公開した。あわせて5月6日まで同報告書案に対しての意見募集を行う。

 「スイッチング円滑化タスクフォース」は、携帯電話事業者間の乗り換えの円滑化への取り組みを集中的に検討するもので、総務省内の「競争ルールの検証に関するWG」の下に設置されている。

 同報告書案では、大きく「eSIMの促進」、「SIMロック解除の推進」、「キャリアメールの“持ち運び”の検討」、「MNPの手続きの円滑化」についてまとめている。

eSIMの促進

 eSIMについて、諸外国では欧米を中心に55カ国以上の国でeSIM導入が進んでおり、2024年には世界のスマートフォン市場戦隊の33.8%がeSIM対応となると予測されており、今後もeSIMの普及が見込まれている。

 日本においてもeSIM対応端末は一定数存在しており、2020年上期の日本のスマートフォン出荷台数のうち、43.3%がeSIM対応端末という推計もある。

 一方で、コンシューマー向け通信サービスでは、楽天モバイルはすべてのサービスで提供しているが、KDDIとソフトバンクは一部のサービスのみで提供、NTTドコモは対応するとしているが4月時点で提供していないなど対応にばらつきが見られると指摘。

 また、MVNOに向けてeSIMでのサービス提供に必要なMNO設備の機能開放を行っておらず、多くのMVNOがeSIMを提供できない要因となっている。

 現段階でユーザーの認知度が高いと言えず、今後eSIMの普及を進めるためには、ユーザーが申込みから開通手続きまで自身で行えるようどのようなサポートを行っていくのかという課題を解決する必要があるという。

 これらの現状と課題に対し、キャリアからは、「柔軟なサービスの提供に有用」や、「訪日外国人向けの通信サービス提供の迅速化に期待」といった意見がある一方で、「クローンSIMによる特殊詐欺などへの悪用懸念」「リテラシーの低いユーザーにハードルがある」、「サポート面に対する懸念」の声がみられた。

 対応の方向性としては、「MVNOへの機能開放」、「ユーザーへのサポートの充実」、「セキュリティを確保する仕組みの導入」、「eKYCによる本人確認の普及」を軸に進めていくとした。

SIMロック解除の推進

 SIMロックについて、設定している事業者からは「端末の割賦代金などの不払いや端末の詐取/転売を目的とした購入などの不適切な行為を防止するための対策」と説明している。

 一方、SIMロックが設定された端末では、他社回線を利用できないことから、「他社への乗り換えやサービスの併用を阻害しユーザーの利便性を損なう」ことや「他社への乗り換えのコストを押し上げ、市場競争を阻害している」ことを指摘。合理的な理由なしで権利が不当に制限されているとした。

 総務省では「原則SIMロック解除」のルールを制定している。またMVNO各社の端末ではSIMロックが全廃、新規参入MNOの楽天モバイルで販売中の端末すべてでSIMロックを設定していないことから、現在販売する端末にSIMロックを設定しているのはドコモ、KDDI、ソフトバンクのみとなっている。

 MNO3社についても、ドコモは条件を満たせばユーザーからの申し出なくSIMロックを解除する一方、KDDIとソフトバンクはユーザーからの申し出が無い限りSIMロックを解除していない。SIMロック解除の動向を分析すると、ドコモの解除件数が大きく伸びている一方、KDDIとソフトバンクの解除件数はほぼ横ばいで、ドコモと2社の間で圧倒的な差が存在しているという。

 また、MNO3社では回線契約なしでも端末単体で販売しているが、回線契約がないユーザーに対してもSIMロックを設定した端末を販売していると指摘し、「明らかに矛盾しており、自社や自社の回線を用いたMVNOとの回線契約を実質的に強要している」とした。

 これらから、事業者間の乗換コストを最小化して、競争の一層の促進を図る観点から、あらためてSIMロック解除に関するルールについて見直しを行うことが必要としている。

 これについて、キャリア側からはあくまで「盗難や貸し倒れリスクの軽減」を理由と説明。非回線契約者へのSIMロック設定についても「本人確認書類の真贋判定の強化や端末代金不払いなどのリスク回避」と説明している。

 報告書では、今後の方向性として、「不適切な行為が行われる可能性が低いことが確認できたユーザーの端末については、ユーザーに一切の負担(費用や手続きなど)なく事業者の責任/負担でSIMロックを解除する」こと、「不適切な行為が行われる可能性が低いことが確認できないユーザーの端末についても、SIMロック以外のリスク軽減策を検討する」ことが求められるとした。

キャリアメールの“持ち運び”の検討

 キャリアメールについて、「フリーメールと比較して、信頼性の高いサービスとして位置づけられてきた」としており、総務省の調査では、約20%のユーザーがキャリアメールのアドレスが変わることを乗り換えない理由として挙げているという。

 総務省調査では、週1回以上の送受信利用者比率は、送信で37.1%、受信で67.1%、「キャリアメールの持ち運びサービス」を利用したいユーザーの割合は74.1%となっており、一定のニーズがあると分析。キャリアメールの持ち運びについて、一層の分析を行っていくことが望ましいとした。

MNPの手続きの円滑化

 MNP手続きについて、2006年の制度開始以降現在に至るまで、転出先と転入先の2回手続きが必要な「ツーストップ方式」によって提供されている。

 一度の手続きで完結する「ワンストップ方式」については、「競争ルールの検証に関する報告書2020」においても議論が行われており、継続的な検討課題として位置づけている。

 「ワンストップ方式」は、乗り換え手続きが簡易かつ迅速に行えたり、引き止めが起こり得なかったりユーザーのメリットがある一方、「システム改修のコスト」や「事業者間での個人情報のやり取りの仕組み」、「解約に関する重要事項説明等の確保」といった課題が存在する。

 報告書では、課題があるとしながらも「多大なコスト・検討時間を要するような状況には必ずしもない」と見ており、ワンストップ方式の実現に向けて詳細な検討をしていく方向性をまとめた。