法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」

どうすれば、携帯電話料金値下げが実現できるのか?

菅義偉首相

 安倍晋三前首相に代わり、第99代内閣総理大臣に就任した菅義偉首相は、携帯電話料金の値下げを武田良太総務大臣に指示し、またしても各携帯電話会社は料金体系の見直しを迫られることになった。

 携帯電話業界にとって、永遠のテーマとなりつつある料金値下げだが、今一度、政府からの指示による料金値下げとその是非について、考えてみよう。


誰しもが賛成する値下げだが……

 もう何度目だろうか……。国内のほぼ全世帯が料金を支払っている携帯電話料金が再び、政府からの指示によって、値下げする方向が示された。

 今や人口よりも契約数の方が多い携帯電話は、ほぼすべての国民に欠かせない社会インフラであり、その費用負担が減るのであれば、家庭であれ、企業であれ、誰もが歓迎する話だ。

 しかし、これまでの一連の携帯電話料金値下げの議論では、さまざまな問題が指摘され、必ずしも正しい方向で議論が進められてきたとは言い難い。

値下げは大歓迎だが、ユーザーが納得できる品質の確保を

 こういう書き方ではじめると、筆者が「携帯電話料金値下げに反対している」と勘違いする人がいそうだが、念のため、大前提として書いておくと、筆者は基本的に値下げに賛成だ。筆者はこういう仕事をしていることもあり、各社で複数の回線を契約しており、各社の携帯電話料金の合計額は、月に10万円を軽く超える。この負担が少しでも減るのであれば、大歓迎だ。

 しかし、どんな商品であれ、サービスであれ、単純に「安ければいい」「負担が減ればいい」というものではない。

 たとえば、商品やサービスの品質が著しく低下したり、携帯電話サービスで言えば、エリアが狭くなったり、今よりも利便性が下がるようなことは、当然、避けなければならない。『4割値下げした』ことによって、『4割つながらなくなった』では困るのだ。

 すべてのユーザーのニーズを満たすことは難しいが、多くのユーザーが納得できる品質を保ちつつ、低廉な料金が実現できることが望ましいはずだ。


十数年の議論をくり広げた結果

「MNP」や「改正電気通信事業法」で携帯料金は下がったのか?

 では、どうやって携帯電話料金を下げるのか。それにはいろいろな方策が考えられるが、前述のように、携帯電話料金の値下げ論争は、今に始まったことではない。というより、国内では「MNP」(携帯電話番号ポータビリティ)がスタートした当時の「モバイルビジネス研究会」から、総務省は十数年に渡り、有識者を集めた検討会などを断続的に開催し、さまざまなガイドラインや方針を打ち出してきた。

 では、読者のみなさんは「携帯電話料金が下がった」と感じているだろうか。携帯電話サービスをどれだけ長く使ってきたのかによって、回答は大きく違いそうだが、MVNOなどに移行した場合を除き、おそらく多くの人が「変わらない」「下がっていない」と感じているだろう。

 昨年、菅首相(当時は官房長官)肝入りで改正した電気通信事業法を施行したにもかかわらず、消費者からは「値下げって言ってたけど、下がってない」「端末代金が増えたから、負担が増えた」といった声が数多く聞かれ、結局のところ、納得できるような結果が得られていないのが実情だ。

 もう少しさかのぼって振り返っても自民党の高市早苗議員が第2次及び第3次安倍内閣において、総務大臣を務めていたときにも「小容量のプランが必要」と1GB以下のデータ通信量のプランを導入するように、各携帯電話会社にかなり強く指導したが、結局、これも受け入れるユーザーが非常に少なく、現在の段階式プラン(このプランが安いかどうかは別にして)に集約されてしまった。

 もちろん、十数年の議論で成果がなかったというわけではない。たとえばSIMロック解除などは、本誌読者のようなユーザーにとっては、一定のメリットがあったと言えるだろう。特定のメーカーの製品ばかりを優遇するキャッシュバックの禁止も不公平感を減らすという意味において、納得できる部分があった。

これまでの政策は成果が乏しい

 人によって、解釈は違うかもしれないが、一定の成果と言えるものは、こうした些細な政策が中心で、多くの消費者が「安くなったよね」「良かったね」と言えるような成果は、乏しいというのが正直なところだ。

 特に、昨年の電気通信事業法改正は、端末購入補助が制限されてしまったため、端末購入価格が高くなってしまい、「携帯電話料金+端末分割払い代金」の合計額が増えたことによって、多くのユーザーが負担が増えたと感じている。

 現に、端末の販売数は昨年10月以来、予想通り、落ち込んでおり、今年のコロナ禍の影響によって、さらに落ち込みに拍車がかかる状況になりつつある。

 主要3社が今年3月からサービス提供を開始した5Gもエリアが狭いだけでなく、端末価格が高いことによって、十分な契約数を獲得できていない状況だ。


なぜ、携帯電話料金を下げられなかったのか

 総務省が十数年にも渡り、検討会などをくり返し、ガイドラインや方針を打ち出してきたにもかかわらず、消費者が「安くなった」と感じられないような結果しか得られなかったのは、なぜだろうか。

 いくつかの要因が考えられるが、ひとつは根本的に手法が間違っているように見える点が挙げられる。

端末購入補助の制限

 たとえば、前述のキャッシュバックや端末購入補助の制限は、端末購入時の不公平感をなくすという考えがある一方、総務省や有識者には、携帯電話会社の販売奨励金を制限することで、その原資を携帯電話料金値下げに使わせたいという思惑があった。あまり例えが良くないが、家計で例えるなら、「お小遣いをギャンブルに使わず、ちゃんと生活費に使いなさい」というような指導だった。

 ところが、当の本人(携帯電話会社)は「わかりました!」と快く返事をして、ある程度の料金値下げに応じるものの、原資をほかの事業に投資をしたり、ポイントサービスなどで還元したため、なかなか大幅な料金値下げが実現できていない。

 しかし、これは考えてみれば、当たり前のことで、企業が利益をどう使うか、どう還元していくのかは、企業と株主が決めることだからだ。携帯電話会社はいずれも株式を市場に公開した企業であり、株主をはじめとするステークホルダーが存在する。本来、政府が民業に介入し、利益の使い道などを指導することは、自由主義経済の観点から考えても異常な事態でしかない。

 特に、各携帯電話会社にとっては、これから5Gサービスを本格展開する時代を迎え、5Gへの投資が増えていく時期であり、そのための資金は手元に残しておきたいはずだ。

実態にそぐわない的はずれな政策

 また、前述の小容量プランのように、政策そのものが的外れだったり、総務省が打ち出した方針によって、余計に市場を混乱させてしまったケースも見受けられた。

 たとえば、携帯電話サービスは機種変更や契約内容の変更などの手続きに時間がかかるが、総務省がより正確かつ詳細な説明を求めたため、さらに手続き時間が延びてしまったケースがあった。

 消費者保護の観点から正しい情報を伝えることは大切であり、販売店側に問題があったことも事実だが、すべての契約者に対し、一律同じような対応を求めたため、本誌読者のように『内容を十分に理解できている契約者』も長時間の対応を強いられることになった。もっとも最近はコロナ禍の影響も加わり、手続きも購入もオンラインへの移行が進みつつあるが、店頭へ出向かなければできない手続きもいくつか残されている。

 いずれにせよ、総務省が店頭の実態を十分に把握しないまま、方針を打ち出したため、店頭が混乱に陥ったケースは少なくない。


なぜ、そこまでMNPに偏重した政策を打ち出すのか

携帯会社の乗り換え=料金値下げ?

 そして、ここ最近の方針を見て、もっとも強く印象づけられているのが「乗り換え」に対する施策だ。同じ携帯電話番号のまま、携帯電話会社を乗り換えられるMNPが2006年に始まって以来、総務省は全般的に「『携帯電話会社を乗り換えること』=『競争』=『料金値下げ』」につながると考えているようで、特に、ここ数年は乗り換えばかりに注力している印象が強い。

 確かに、A社よりもB社が安いと判断すれば、ユーザーは移行を検討するだろう。ただし、ユーザーが見ているのは必ずしも料金だけでなく、端末やサービス、エリア、品質などを含めた総合力だ。そこに、移行の手間や不安などの要素も加わったうえで、最終的な判断を下すはずだ。

 たとえば、昨年10月にサービスを開始した楽天モバイルは、2980円という他社より格安の料金プランを提供したうえ、300万人限定で1年間無料という特典まで打ち出したが、他の3社の状況を見る限り、MNPで楽天モバイルへの転入が続出しているというような話は聞かない。楽天モバイルには厳しい言い方になるが、この1年間の状況を見る限り、エリアやサポート体制などに不満や不安を持つユーザーがかなり多く、料金的なメリットがあるものの、なかなか移行する気になれないという声が数多く聞かれる。

強引な「契約解除料1000円」の方針

 移行や乗り換えについては、改正電気通信事業法で打ち出された「契約解除料1000円」の方針もかなり強引だった。

 発表当時にも話題になったが、乗り換えを促すため、2年などの複数年契約の契約解除料、いわゆる違約金を1000円以下にするように求めたが、総務省は『謎のアンケート』を実施し、そこで「違約金が1000円であれば、携帯電話会社を乗り換えるという回答が8割を占めた」と説明していた。

 しかし、実際にはアンケートに回答した6000人の内、1758人が「他社へ乗り換えたいと思う」「違約金を支払う意思がある」という2つの質問にYesと答え、その内の『8割』が「違約金が1000円なら、乗り換える」と答えている。つまり、トータルで見ると、本来の回答は約23%が「違約金が1000円なら、乗り換える」というのが正解で、全体の『8割』が「乗り換える」と答えたわけではない。

 もちろん、MNPによる乗り換えコストは安い方が望ましいが、正式な統計調査ではないとは言え、こんないい加減な『アンケート』を元に、政策方針を決めてしまうあたりに、総務省の政策に危うさを感じる。

 今年3月にMM総研から発表された調査レポートでは、「7割が解除料が1000円でも乗り換えない」という結果が得られており、スイッチングコストの低廉化だけでは、ユーザーが動かないことが明確になってきている。

 この他にも今年に入ってからは、MNP移行時の手数料の撤廃を挙げていた。MNPはネットワーク側で転送の処理ができるしくみとは言え、その維持には一定のコストが生じるため、これを誰が負担するのかを議論する必要がある。もし、携帯電話会社がコストを負担することになれば、結果的にMNPを利用していない契約者にも間接的に負担することを意味するが、それは公平な施策と言えるのだろうか? 本来は受益者負担がルールであるはずだ。

 こうして振り返ってみると、総務省はここ数年、「乗り換えやすくすること」が携帯電話料金の値下げに直結するように考えているようで、かなり強引に乗り換えを促す方針を次々と打ち出してきた印象が強い。

 なかでも昨年の改正電気通信事業法で打ち出された移行を促す方針は、菅首相や安倍前首相と懇意される楽天の三木谷浩史社長兼会長率いる「楽天モバイル」参入に合わせての政策だったと、見る向きもある。現に、菅首相は一連の携帯電話料金値下げ論争のきっかけとなった「4割下げられる余地がある」発言の意図を説明する際、「楽天モバイルが新規参入するから、値下げ競争につながる」と根拠に挙げており、特定の企業に肩入れしていると問題視する指摘も聞かれた。


何かがおかしい携帯電話料金値下げの根拠

 携帯電話料金を値下げするため、これまで総務省や有識者は、さまざまな根拠を挙げてきた。しかし、これらの根拠が間違っていたり、不適格なものだったため、各携帯電話会社にも業界にも説得力がなく、十分な値下げが実現しなかったのではないだろうか。

「料金だけ」比較する総務省

 たとえば、「国内の携帯電話料金は、諸外国に比べ、高止まりしている」という指摘は、これまでも何度もされてきた。その根拠のひとつとして、総務省が毎年、実施している「電気通信サービスに係る内外価格差調査」が挙げられることが多い。

 しかし、この価格調査は「東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、デュッセルドルフ、ソウルの6都市における、携帯電話、FTTH、固定電話の各サービスについて調査を行いました。」(「電気通信サービスに係る内外価格差調査」の説明より引用)としているものの、料金のみを比較しており、エリアや品質などはまったく加味されていない。

 筆者は取材などで海外によく出かけるが、昨年の経験から言えば、ニューヨークの地下鉄でスマートフォンが利用できる場所は、かなり限られており、東京のように「ほぼすべての地下鉄で使える」ようなエリアにはなっていない。

 ほかの国と地域でもビルなどの建造物内では速度が低下したり、圏外になることが多数あり、毎回、日本に帰国する度、「あー、日本はどこでもつながる」と安心することが多い。こうした感想は筆者だけでなく、本誌や僚誌、あるいは他の専門媒体などで記事を執筆しているライター諸氏や記者もほぼ同じ感想を持っているはずだ。

 また、これも過去に事例として挙げたことがあるが、日本では東京から大阪まで、新幹線で移動するとき、ほぼ途切れることなく、各社の4G LTEネットワークを利用できる。多少、キャリアによる差はあるものの、3Gも含めれば、概ね問題なく利用できるはずだ。キャリアによっては博多まで、極力、利用できるようにエリアを整備していたり、東北新幹線など、他の路線でも比較的、安定した通信ができるように、エリアが構築されている。

 これに対し、同様の高速鉄道が発達している欧州はどうか。

 国と地域によって、多少の違いがあるが、ドイツのICEやフランスのTGVなどはベルリンやフランクフルト、パリといった大都市こそ、ストレスなく使えるものの、都市間の郊外エリアは3Gどころか、EDGE(GSMの高速通信規格)でしかつながらなかったり、圏外になることも多々ある。

 欧州で鉄道旅行をしたことがある人なら、ご理解いただけるだろうが、日本の新幹線乗車時に利用できるエリアや品質とは、格段の差があるというのが実情だ。しかもこの差は高速鉄道という重要な交通インフラの話だけではなく、街中でも同じように、少し郊外に移動すると、すぐに通信品質は落ちてしまう。

 さらに、携帯電話料金値下げ議論の発端となった菅首相が官房長官当時の「4割下げられる余地がある」発言は、その根拠として、2017年にOECD(経済協力開発機構)加盟国で行なわれた調査(Mobile broadband subscriptions grow in OECD area, data usage doubles in 2017)を挙げていた。しかし、この調査は比較する国と地域によって、料金プランやデータ通信量、契約形態などもバラバラで、元々、料金を比較するものとして、適切なものではない。

本当に日本の携帯電話料金は高いのか?

 ちなみに、実際のところ、日本の携帯電話料金が高いのか、安いのか、品質はどうなのかという点については、今年7月、ICT総研が発表した「2020年 スマートフォン料金と通信品質の海外比較に関する調査」が非常にわかりやすい。

 この調査では通信の品質の指標として、イギリスに本拠地を置く調査会社のOpenSignal社がまとめたデータを利用している。

 OpenSignalの調査では今年4月、日本の主要3社の比較がレポートされたが、今年9月にはグローバルでの調査のレポートも公開されており、近日中に日本向けにも説明が行なわれる見込みだ。その調査によれば、日本の主要3社はいずれも世界でトップクラスの品質やエリアを保っているという。

 ICT総研の調査では、これに日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国の6カ国のMNOの料金プラン(割引などを適用しない状態)を当てはめ、比較しているが、日本は欧州よりも高く、米国や韓国よりも安い中位クラスとしている。ただし、欧州としてあげられているイギリス、ドイツ、フランスは、料金プランこそ、日本よりも安いものの、4G接続率は日本よりも10%以上低く、通信速度も日本の半分程度しか出ていない。これにエリアの評価を加味すると、日本と同等の水準を保っているのは6カ国の内、韓国のみで、それ以外はいずれも日本に比べ、「安いけど、遅い」「安いけど、つながらない」という評価になっている。

 つまり、ごく当たり前のことだが、料金と品質には相関関係があり、値段を下げれば、速度やエリアに影響が出るのが必至だ。ましてや日本のように、災害の多い国において、常に迅速な復旧を実現してきている各社の対応状況を見れば、とても「不当に高い」などといった評価はできないだろう。


利益率が高いことは悪いこと?

社会インフラを担う会社として

 さて、「携帯電話料金は諸外国に比べ高い」という表現は、これまでも何度もくり返し、評価基準が間違っているということを指摘してきたが、次の手として、最近、挙げられるのは「利益率」だ。

 先日、本誌に掲載されたMCAの記事によると、今年の第1四半期、主要3社の内、NTTドコモは25.5%、ソフトバンクは23.9%、KDDIは20.5%の利益率を記録している。

 菅首相や総務省をはじめ、政府関係者は同じ社会インフラを担う東京電力の営業利益率が5%であることを引き合いに出しながら、「国民の共有財産である電波資源を使いながら、20%前後の利益率を得ているのはけしからん」と厳しい調子で、携帯電話会社に圧力をかけている。

 しかし、東京電力は説明するまでもなく、東日本大震災による福島第一原発の処理などで、大幅に利益を失っている状況であり、そもそも比較対象としては適切な企業ではない。同じ社会インフラの企業で言えば、鉄道などが考えられるが、今年はコロナ禍の影響で、利益率が下がってしまったものの、JRグループではJR東日本が14.2%、JR西日本が10.6%であるのに対し、ドル箱の東海道新幹線を抱えるJR東海は35.6%の利益率を生み出している。

 ちなみに、米国の携帯電話会社も利益率は20%程度を確保しており、エリア整備などにコストが掛かる携帯電話会社にとって、利益率20%程度は、ごく当たり前の数字であることが理解できる。

 また、利益率が高いということは、当然のことながら、その分、税金もたくさん納めていることになる。

 今年2月に東洋経済が取り上げていた「税金が多い会社」では、トップのトヨタに続く第2位がNTTで、以下、通信事業者はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクグループ、ソフトバンクがベスト10に名を連ねている。

 もし、携帯電話料金の『官製値下げ』を強行し、各携帯電話会社の営業利益が目減りすると、その分、税収も落ち込むことが予想されるが、それは政府として、いいシナリオなのだろうか。税金の多い会社のベスト10に名を連ねる企業の内、少なくとも3社、親会社を含めれば、5社が影響を受けることになるのだが……。

同じ公共の電波を使う会社

 こういう書き方をすると、「電波は国民の共有財産で~」といった声が聞かれるが、当然のことながら、共有財産を利用することに対し、各携帯電話会社は「電波利用料」を支払っている。

 平成30年度の負担額をチェックすると、NTTドコモは約178億円、KDDIは約127億円、沖縄セルラーは約9800万円、ソフトバンクは約160億円、UQコミュニケーションズは約73億円、Wireless City Planningは約43億円、楽天モバイルは約3700万円をそれぞれ支払っている。

 参考までに、同じように電波利用料を支払う地上テレビ放送事業者を見てみると、NHKが約20億円でもっとも多く、在京キー局各国が約4億円台半ば、中部各局は1億円弱、関西各局が1億円前後を支払っている。

 業種が違うため、簡単には比較できないが、読者のみなさんはどちらの業界に対して、「もっと電波利用料を支払うべき」と考えるだろうか。

 ちなみに、電波利用料について、菅首相は「携帯電話料金を引き下げなければ、電波利用料の値上げも辞さない」と厳しい口調で語っていたが、電波利用料が高くなれば、その分、ユーザーの利用料金に跳ね返ることは、誰にでも想定できる。

 仮に、電波利用料を値上げしながら、携帯電話利用料金の『官製値下げ』を強行すると、今度は各携帯電話会社の収益が低下し、税収も低下、競争力も低下してしまい、サービス品質も低下することが予想されるが、はたして消費者はそれを受け入れるだろうか。


値下げを実現するには何が必要なのか

 さて、ここまで長々と(申し訳ない)、如何に今までの政策や指摘が適切ではなかったのかを説明してきたが、どうすれば、携帯電話料金の値下げができるのかを具体的に考えてみよう。

公正な競争環境の実現

 確かに、総務省が政策で進めてきたように、携帯電話料金の値下げを実現するには、競争環境が大切だ。先日、NTT持株がNTTドコモを完全子会社化することが発表され、その件についても本コラムで記事を書いたが、この件でもっとも懸念されるのは、公正な競争環境の維持だ。もし、記事をお読みいただいてないようであれば、ぜひご一読いただきたい。

 公正な競争環境を実現するには、当然、競争する相手が必要で、総務省も新規事業者に周波数を割り当てるなどの策を打ってきた。

周波数帯域でパフォーマンスが変わる

 2005年に創業したイー・モバイル(イー・アクセス)もそうした新規参入事業者のひとつだったが、2012年にソフトバンクがイー・アクセスが持つ周波数帯がiPhoneで利用できることから、買収に踏み切ったため、数年前の3社体制を作り出してしまった。

使える周波数帯が増えることをアピールするソフトバンクのプレゼン資料

 この買収は当時、「周波数帯域確保のために会社を買収するのは不適切だ」と反対する意見が業界内から示されていたのにもかかわらず、総務省は法的に止める術がないため、買収を認めてしまった。

 こうしたことがあったため、今回の楽天モバイル参入時には、「既存の携帯電話会社が新規参入事業者を買収するときは、割り当てた周波数帯域を返上する」という条件が付けられたわけだ。

 すでに、買収から8年が過ぎてしまったが、この買収劇が国内の携帯電話会社の競争環境を低下させ、主要3社寡占を招いたことは明白であり、総務省の失策であったことは否定できないだろう。携帯電話料金値下げの議論を始めるまえに、このことを今一度、きちんと認め、国民に謝罪する姿勢を示すべきだ。

 同時に、今回の楽天モバイルの参入時の条件については、「新規参入事業者を買収すること」を止めるものでしかなく、逆に新規参入事業者が既存の携帯電話事業者を買収することは何も触れられていない。現実的かどうかはわからないが、一部では「楽天モバイルがソフトバンクを買収すれば、上位2社に対抗できる」などと語られていることから、できるだけ早急に何らかの対策を打ち出すべきではないだろうか。

 携帯電話料金の値下げを実現するために、競争環境が必要であることは確かだが、ここで間違えないようにしたいのは、競争はあくまでも手段であって、目的ではない。前述のように、総務省が打ち出した政策の多くは競争が目的になってしまっているものが多く、その点も一度、しっかりと見直されるべきだ。

 ちなみに、昨年10月、第4の携帯電話会社として、楽天モバイルがサービスをスタートさせ、これも前述のように、菅首相をはじめ、総務省や政府関係者が楽天モバイルに期待を寄せる発言をくり返していたが、携帯電話サービスはソフトバンクのイー・アクセス買収を見てもわかるように、利用できる周波数帯域によって、パフォーマンスは大きく左右される。

 つまり、楽天モバイルが「世界初の完全仮想化ネットワーク」とアピールしても4Gで利用できる周波数帯域は、1.7GHz帯のみであるため、とても上位3社に対抗できる状況にない。「5G Readyで基地局を準備している」と豪語していたにもかかわらず、9月30日に発表された5Gサービスでは、4G向け周波数帯域を利用する「DSS(Dynamic Spectrum Sharing)」を導入せず、わずか十数カ所に5Gの基地局を設置するだけに留まった。

 もし、総務省が本気で楽天モバイルを主要3社の競争相手と戦えるようにしたいのであれば、準備期間などを経て、上位3社が利用する周波数帯域の一部を楽天モバイル向けに転用したり、未整備エリアでの主要3社へのローミング(楽天モバイルの場合はau網)を優遇する施策を提供するなど、戦うための環境づくりと工夫が必要ではないだろうか。


まずは利用料金の明確化から

 次に、各携帯電話会社に料金プランの見直しを迫るうえで、明確にしておきたいのは、各社の料金プランの表記だ。

わかりにくい料金表記

 政府の要請に応じ、各携帯電話会社はこれまで分離プランの導入や携帯電話料金の値下げなどを実施してきた。各社の発表時の資料では、「○割値下げ」などと書かれていたが、これらは一定の条件に基づいたケースのみが合致する場合のみで、実際にはユーザーが料金プランを見直しても安くならないことが多かった。

 同時に、現在の各社の料金プランのページやカタログなどを見ると、やはり、さまざまな割引サービスを適用した後の料金が明示されており、割引前の料金プランは探さないと見つからないことが多い。しかもその割引の条件が光回線の契約や家族割引のため、住環境や家族構成によっては、まったく違ってきてしまう。

 こうした表記は、各社の料金プランを比較する上で、ユーザーが混乱する要因となっているため、まず、料金プランを表記するときは、割引サービスを適用する前の『素の料金プラン』をきちんと明示し、その上で割引サービスを適用すると、どれだけ安くなるという表記を徹底させるべきだ。多くのユーザーが本来、いくらの料金プランなのかを理解するうえでも重要なことなので、業界として、きちんと取り組んで欲しいところだ。

端末代金は別物

 また、こうした料金の「高い」「安い」を考えるうえで、同様に気をつけたいのが端末代金の存在だ。

 かつて月額割引が適用されていた時代(まだ適用中の回線もあるが……)、端末代金の分割払いと月額割引が相殺される形になるため、これらをまとめて「月々○○○○円、支払っている」というように、表現していたが、現在は分離プランが導入されているため、月々の料金と端末の分割払いの代金は別物と考えるべきだ。

 ちなみに、一部のメディアではいまだに携帯電話料金の高さを語るうえで、端末代金を組み入れた月額1万円を軽く超えるような事例を挙げているが、こういった表記も多くの人に誤解を与える元になるため、しっかりと見極めるようにしていきたい。


どうしてMVNOへ誘導しないのか

MVNOを後押しするべきでは

 今、月々の携帯電話料金を少しでも安くしないのなら、どうするか。業界各社のサービス内容をある程度、理解している人なら、当然、「MVNOにすれば、いいじゃないか」と答えるはずだ。

 これまで総務省は携帯電話料金の低廉化を実現するため、かなりMVNOを推す政策を打ち出し、本誌のような専門メディアも積極的にMVNO各社の情報をお伝えしてきた。その効果もあってか、MVNOサービスは着実に浸透し、昨年はじめにMVNOサービスのSIMカード型契約数は1000万を超え、ようやく市場に定着してきた印象だ。

 ところが、あれだけMVNOサービスを後押しする政策を打ち出してきたにもかかわらず、一連の携帯電話料金の値下げの議論においては、MVNOのことが言及されていないばかりか、ほとんど考慮されていない。むしろ、今回の件で、各携帯電話会社が値下げを実施してしまうと、料金プランによっては結果的にMVNO各社の事業にも直撃するのに、その点は総務省や総務大臣、菅首相の発言ではほとんど考慮されていない。

 もし、本当に国民の通信量負担を軽減する方向にしたいのであれば、MVNO各社の存在をもっと後押しすべきだろう。すでに、MVNO各社のサービスを利用しているユーザーであれば、通信速度やエリア(本来、エリアはMNOと同等)、サポート体制などがどうなっているのかを理解しているだろうが、特定の時間帯に通信速度が低下すること、トラブル時には自分で対応することなど、一定の制約があることを理解できれば、十分、実用になるレベルに達している。

 一部に、モバイルWi-Fiルーターで「使い放題」を謳い、ネットワークがユーザーの利用増に耐えきれなかった事例はあるが、そういった特異なサービスでなければ、問題なく、利用できるはずだ。

「Go To MVNO」キャンペーン

 具体的に、どう後押しするのかについては、いくつかの策が考えられる。たとえば、MVNOサービスの利用を不安に思う人も少なくないため、MVNO各社とMNO各社の違いがわかるような情報を提供し、それを伝えるためのセミナーを開催したり、コンテンツを拡充するなどの方法が考えられる。現在も一部の団体がそういった事業を展開しているが、総務省として、MVNOサービスの浸透を図るため、もっと幅広くサポートをするべきだ。

 それこそ、菅首相が官房長官のときに打ち出し、現在も全国で展開中の「Go To」キャンペーンよろしく、「Go To MVNO」キャンペーンを実施して、月々の料金や契約事務手数料を一定額サポートするしくみでも実施してもいいくらいだ。エリア整備が遅れに遅れている新規参入の携帯電話事業者に肩入れするような発言するよりもよっぽど国民に支持されるはずだ。

 ちなみに、総務省がこれまで打ち出してきた移行重視、流動性重視の方針を今後も強く継続したいのなら、「Go To MNP」キャンペーンを実施して、はじめてMNPを利用するユーザーをサポートする手も考えられるだろう。

回線卸の低廉化

 また、ここ数年で着実に浸透したMVNOサービスが今後も継続的かつ安定したサービスを提供するため、各携帯電話会社がMVNO向けに提供するメニューや接続料なども見直しが求められる。

 現在も総務省の検討会などで議論されているが、欧州各国の格安のMVNOサービスのような安さを実現したいのなら、現在、主流とされる相互接続だけでなく、卸契約を積極的に推進し、ボリュームディスカウントによる接続料の低廉化を実現し、消費者向けの料金プランの低廉化に結びつける方向性が求められる。


わかりやすい指標に基づき、低廉化を目指す

 そして、最終的にどのように、各携帯電話会社に対し、月々の利用料金を下げさせていくのかを考えてみよう。

ユーザーがいつでもMNPできる環境整備を

 ここまで詳しく説明してきたように、総務省が打ち出してきた方針の内、販売奨励金などを抑制して、原資を携帯電話料金値下げなどに注ぎ込ませる方向性は、ほぼ無理だと考えられる。

 なぜなら、各社とも楽天の参入により、非通信分野の拡大を図っており、当然、その分野に投資することが考えられるからだ。同時に、KDDIのように、通信分野に携帯電話サービスだけでなく、光回線やCATVサービス(J:COM)などを含む事業者の場合、携帯電話料金の値下げによって、光回線サービスなどに影響が出てしまっては、これらも競争環境を失うことになりかねない。

 また、MNPによる流動性を高めることで、競争を促す施策については、くり返し説明してきたように、本末転倒となっている面があり、十分な効果も認められていない。Webでの手続きや手数料の上限設定など、一定のルール作りは必要だが、そもそもの話として、多くの消費者が他社に乗り換える意向を持っていない状況で、強制的に流動性を高めようとしてもムダなだけだ。

 総務省として、取り組むべきことは、今後、何かをきっかけに、消費者がMNPで移行したくなったとき、負担が少ないように、スムーズに移行できる道筋をきちんと整備しておくことだ。

 たとえば、何らかのテスト的な回線契約を用意し、実際にMNPを試してみて、各携帯電話会社やMVNO各社の対応ぶりを検証し、それを報告するような形にすれば、十分、問題点は洗い出せるだろうし、その流れをユーザーに示すことで、MNPの需要喚起にもつながるはずだ。

 ただし、携帯電話料金値下げにとって、移行促進や流動性を高めることはあくまで「手段」でしかなく、「目的」ではないことを十分に留意しておきたい。

計画的な低廉化を図る

 こうした条件を踏まえると、各携帯電話会社の値下げを実現するには、わかりやすい指標を作り、それに基づいて、計画的に低廉化を図っていく方向が望ましいと考える。計画経済のようで、やや気になる面も残るが、それでも現在のように、圧力や強権発動によって、的外れな『官製値下げ』を強行するより、よほどまともなコントロールができるはずだ。

 ただ、ここで難題となるのがその指標だ。指標については、今年7月、本誌インタビュー記事の「菅官房長官に自民党有志議員が「通信料値下げ」に向けた提言書――坂井学議員と大串正樹議員に聞くその狙い」でも課題として挙げられていた。

 筆者も両議員と数回、お話をさせていただいたが、現在は各携帯電話会社のARPU(Average Revenue Per User/1契約あたり売り上げ)ひとつを取っても各社の計算方法が必ずしも一定ではなく、比較が難しいとされている。携帯電話会社によっては、携帯電話事業のみの利益をあまり明確にしていないケースもあり、1契約(1回線)あたりの利益水準などで比較することはあまり適切とは言えない。

技術の進化にあわせた値下げ

 逆に、携帯電話の技術は世代が進むごとに、周波数の利用効率が高められ、データ通信のビット単価は確実に下がってきている。

 それならば、データ通信量の単価を図る基準値を設け、一定年数の間隔で計画を立て、それに従って、単価の値下げを促していくことはできないだろうか。

 現在はauが4Gと5Gで使い放題を実現しているため、やや計算しにくいが、NTTドコモの「ギガホ」(4G)の場合、最大30GBまで使えて、定期契約なしの月額料金が7150円となっている。単純計算では1GBあたり238円になるため、これを基準に、たとえば、今後5年間で、毎年1%ずつ下げることを指針として、出すわけだ。

 実際に、1%が適切かどうかは、また別の議論が必要で、5年間などの期間の見直しも必要になるが、消費者にとっても通信技術の進化によって、料金の低廉化が図られることが実感できるだろう。

 使い放題の料金プランの対応については、データ通信量の単価で計算できないが、テザリングや海外利用などで利用できるデータ通信量の上限は決まっているため、それをベースに計算する方法が考えられる。auの「データMAX 4G LTE」は2年契約がない場合、月額7650円で、テザリングやデータシェア、世界データ定額で利用できるデータ通信量は30GBとなっており、これも単純計算では1GBあたり255円となる。

 この計算式が正解というわけではなく、実際に比較するときの単価の算出方法は、計算の得意な有識者にお任せしたいが、こうした方向性で指針を示していくことも検討するべきではないだろうか。

 こうした計算式に基づいた比較をするうえで、ひとつ注意が必要なのは光回線との組み合わせや家族割引など、各割引サービスを組み合わせる前の『素の料金プラン』で指針を作ることだ。各携帯電話会社がそこからさまざまな工夫をして、割引サービスを組み合わせ、月々の料金を下げることもできるが、わかりやすくするには割引前の料金プランで比較されるべきだ。

 ただし、その場合、割引サービスの妥当性にも目を光らせておく必要があるだろう。

 光回線や家族割引以外にも長期割引なども適用されるだろうし、最近では電気やガスとの組み合わせによる割引も発生している。

 しかし、「何と組み合わせてもいいでしょ」とばかり、たとえば、「○○というコンビニに、月に10回、来店したら、1000円引き」というように、無関係な割引サービスが始まれば、総務省がその是非を問えるようにしておきたい。もしかすると、総務省ではなく、政府とは別に、米国のFCC(Federal Communications Commission/連邦通信委員会)のように、通信行政を専門にチェックする機関などを作り、そこでコントロールしていくのもひとつの手かもしれない。

端末購入補助の制限は見直しを

 そして、最後に「消費者が通信技術の進歩を実感できる」という点において、昨年の電気通信事業法改正で制限された端末購入補助は、見直しを求めたい。

 現在、端末購入時に一律2万2000円までの割引が認められているが、端末の価格はかなり幅があり、ハイエンド機種は非常に買いにくくなっている。端末購入割引の余地があるかどうかは、各携帯電話会社が判断することになるが、割引はこうした『定額』ではなく、幅広い価格帯の製品に対応するため『定率』をベースに検討して欲しいところだ。

日本の社会で技術を磨く大切さ

 こう書いてしまうと、「端末購入補助で、端末を安く買いたいだけじゃないの?」と誤解されそうだが、この1年近くの端末販売の落ち込みを見ていると、このままでは数年後に、国内はミッドレンジ以下のモデルを使う人ばかりになってしまいかねないと危惧しているのだ。

 せっかく国内メーカーがiPhoneやGalaxyといったグローバルモデルに挑める製品を作っても国内市場で使い込まれなければ、製品がそれ以上に磨かれなくなり、それ以上の進化が期待できなくなってしまう。メーカーが新しい技術を開発し、それをユーザーが国内で体験し、技術や製品が磨かれていくからこそ、携帯電話サービスに携わるメーカーや関連会社が日本からグローバルに飛び出していくシナリオが描けるはずだ。

 日本は少子高齢化の時代を迎え、国内の需要だけでは市場での生き残りが難しいことは、他業界を見ても明らかだ。

 NTT持株のNTTドコモ完全子会社化には公正な競争環境の維持という課題が残されているが、もし、本当にNTTグループがGAFAと対抗するために、モバイル通信の技術が必要ということであれば、日本国内でその技術を日本のユーザーが体験し、日本の社会で磨いていくことも大切なはずだ。そのためには多くの日本の最新の通信技術をいち早く安価に体験できる環境づくりが重要ではないだろうか。


日本の通信行政はこれでいいの?

 かなり長い記事になってしまったが、ここ数年の総務省の取り組みには、認められる部分もあれば、どう考えてもおかしいと考える部分があり、それらを踏まえて、本稿をまとめてみた。

間違った根拠に基づいた官製値下げ

 筆者は長らく国内の通信業界を取材して来たが、総務省が何かを発言し、それに対して、どの通信事業者も関係者もほとんど反論を述べることがなく、「ははっ、仰せのままに」とばかりに従ってきたことに対し、大きな疑問を持ってきた。もちろん、携帯電話料金は当然のことながら、下げていくべきだが、本稿で指摘したような理不尽な指導や間違った根拠に基づいた方針などに対し、誰も何も言えないまま、強引な『官製値下げ』をくり返すことは、民主主義としても大きな問題がある。まるで「御上(おかみ)から周波数帯域を拝領して、携帯電話サービスを献呈させていただいている」ような体制を強いる通信行政で、世界で戦う企業が育つはずがない。

 携帯電話料金を本当に下げたいのであれば、きちんとした根拠や明確な指針に基づき、状況を正しく理解している人たちによって、議論が進められるべきだ。10月6日、武田総務大臣は今回の携帯電話料金値下げに対し、各携帯電話会社に加え、利用者の代表とも面談をすることが報じられたが、こうした団体の人たちを否定するつもりはないものの、本当にそれが適切なのかどうかを本誌読者のみなさんにもよく考えていただきたい。

国内の携帯電話業界の大きな転換期

 個人的には、今回のNTT持株によるNTTドコモ完全子会社化という動きも含め、国内の携帯電話業界は、携帯電話会社や端末メーカー、販売代理店、ソフトウェアベンダー、部品メーカーなど、業界に関わるすべての企業や人にとって、非常に大きな転換期を迎えていることをヒシヒシと感じている。今後の政府の舵取りによっては、グローバル市場で戦うどころか、世界から取り残され、国内市場が立ち行かなくなるようなダメージを受けるリスクもあると見ている。

 今後、菅義偉首相をはじめ、武田良太総務大臣や総務省、関係省庁の動向をしっかりとチェックして、本当の意味でユーザーが「安くなった」「便利になった」を実感できる環境づくりをしていく必要がありそうだ。

 読者のみなさんもいっしょに今一度、日本の通信行政がこれでいいのかどうかをよく考えていただきたい。