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KDDIの第3四半期決算は増収増益、NEXTコア事業だけでなくモバイルの通信品質にも取り組む姿勢

代表取締役社長 CEOの髙橋 誠氏

 KDDIは2日、2024年3月期第3四半期決算説明会を実施した。同社 代表取締役社長 CEOの髙橋 誠氏が、KDDIの今後の事業方針のほか、5G展開や楽天モバイルの見方、NTT法などについて説明、コメントした。

「NEXTコア」事業がけん引し増収増益

 髙橋氏はまずはじめに令和6年能登半島地震に関する取り組みとして、伝送路障害対策として基地局に対して衛星通信のStarlinkを200台、避難所や災害対応機関などに550台を活用したほか、NTTドコモ(船上基地局)やソフトバンク(給油拠点の相互利用)など競合他社とも協力しながら復旧活動を実施していると説明した。

 連結業績については、売上高は4兆2655億円(前年同期比+2.0%、通期予想に対する進捗率は73.5%)、営業利益は8479億円(同+0.4%、78.5%)となり、前年同期比で増収増益となった。

 要因として髙橋氏は「楽天モバイルからのローミング収入の減少」に対して、DXやエネルギー事業と行った注力領域が着実に成長した成果だとした。

 通信料金値下げによる影響が続いていた携帯電話事業だが、髙橋氏によると1人あたりの単価を示すARPUは、通信ARPUが第4四半期で増収が見込まれており、総合ARPUは増加に転じているとアピール。

 また、既存の通信事業以外の「NEXTコア」と位置づけている部分の売上高は、前年同期比で+30.4%と成長、営業利益でも+7.7%で増収をけん引するまでに至っていると説明。髙橋氏は「通期2ケタ成長を目指す」と好調さを示した。

今後の成長戦略

5Gを含めた通信

 成長軌道に向けた戦略の取り組みとして、髙橋氏が1番に挙げたのが「5G通信」だ。

 先述の「ARPU収入」を持続的に成長させるとともに「ネットワーク品質の向上」にも注力することが5Gの成長戦略とし、付加価値だけでなく通信にもしっかりと力を入れていくことを強調する。

 まず、付加価値向上については、いわゆる「ライフタイムバリュー(LTV)」の最大化を目指して、魅力化の向上とデータ通信利用の促進を行っていく。これまでも、通信とセットで金融やエネルギー、エンターテイメントなどの付加価値サービスを提供してきた実績と強みがある年、今後生成AIを活用した取り組みを拡大していく。

 au、UQ mobile、povoの3ブランドを展開する「マルチブランド戦略」も好調に進んでいるとし、3ブランド(povoは課金ユーザーのみ)をあわせたID数は3106万と前期比で12万増、前年同期比で+36万となり、期初予想の3100万を前倒しで達成したという。髙橋氏は、au→UQ mobileへの移行も落ち着いてきたとし、「auの魅力化、ネットワーク品質の向上など、ユーザーに選ばれ続けるための取り組みを強化する」とした。

 マルチブランドの通信ARPUは3990円、付加価値ARPUは1270円とともに上昇傾向が見られる。UQ mobileでも新規契約者の7割以上が中大容量プランを選択していたり、金融サービスが好調だったりしており、今後も通信と付加価値のセットを拡充していくという。

 なお、2023年9月に提供開始した「auマネ活プラン」について髙橋氏は「大変好調、順調に加入者を増やしている」とコメントしており、ARPUの増加と解約率の低減を目指していくとした。

5G専用周波数のエリアが拡大へ

 髙橋氏は続いて、5Gエリアについて「これまで生活動線に沿った5Gエリア展開をしてきた」とし、3月末時点で9万局の基地局の開設を計画しているとした。

 また、2024年からSub-6の周波数帯の活用を本格化し、高速大容量低遅延の通信がより広範囲に利用できるようになるとした。Sub-6帯の利用については、衛星通信の地上局との干渉が懸念され、これまで出力を調整した運用を行ってきたといい、地上局の移転が進む4月移行に、既存の5G基地局の出力調整を行い、5G専用周波数の通信エリアが面的に拡大するとしている。

Starlinkの活用

 衛星通信の「Starlink」については、山間部や災害時など「ユーザーの非日常シーンに寄り添うエリアづくりを行う」(髙橋氏)とするほか、auショップでの取り扱いを今後行うという。

 また、Starlinkとスマートフォンが直接通信する衛星も1月に6機打ち上げられたことにも言及し、2024年内のサービス開始に向けて取り組みを推進するとした。

法人事業で新ブランド「KDDI BUSINESS」

 法人事業について、髙橋氏は法人事業の強化に向けて「KDDI BUSINESS」というブランドを新たに掲げ、法人との接点強化やDXの推進を進めていくと説明。

 IoTやモバイル、データセンターに加え、これまでのグループアセットとAIデータ基盤を掛け合わせ、付加価値となるデータビジネスを推進していくという。

 同社では、グローバルで拡大しているIoTとコネクティビティデータセンターのほか、パートナー企業とさまざまな分野でのDXを推進している。

金融やエネルギー事業も順調に推移

 金融やエネルギー事業については、通信とのシナジーによる顧客基盤の拡大が続いている。

 auフィナンシャルホールディングスの営業利益は、通期で262億円(前年比+87.7%)、決済金融取扱高は12.9兆円(同+23.3%)と高い伸びを示している。au PAYカード会員数やauじぶん銀行の口座数といったID数も増加しており、顧客基盤が順調に拡大している旨をアピールした。

 au PAYゴールドカードでは、auの通信プラン「auマネ活プラン」を契約するユーザーがau PAYゴールドカードに加入するユーザーが多くシナジー効果を発揮しているほか、auじぶん銀行の住宅ローン残高も2023年12月末時点で2.6兆円になるなど、注力領域での成長が進んでいるとした。

 エネルギー分野では、auでんきに関して、電気の調達と販売方法を見直し事業の安定化を図り、契約数拡大を目指す。また、再生可能エネルギーへの取り組みを進め、携帯電話の基地局にも供給するなど、グループ横断の取り組みを実施していく姿勢を示した。

主な質疑

代表取締役社長 CEOの髙橋 誠氏

 説明会後半の主な質疑をご紹介する。回答者は、髙橋氏。

――令和6年能登半島地震による影響額の見通しは?

髙橋社長
 細かい額までは算出できていないが、数十億程度になると思う。

 災害復旧は進んでいる。もともとの通信エリアの97%程度までは復旧している。電力もだいぶ復旧してきている。

――復旧の見通しは? ドコモは基地局を直すより新設してしまうことも考えていると話していたが。

髙橋社長
 ユーザー視点でみると、応急復旧でも通信サービスが利用できるので、本格復旧という言葉にあまり大きな意味は感じていない。

 一方で、電力の8割以上が通電しているという話や、光ファイバーについては幹線が来ていて引き込みに課題があるという話を聞いている。本格復旧は当然やらないといけないが、場所によっては復旧よりも建て替えるしかないところもあり、もう少し時間がかかりそう。

 被災地に向けては、2月から出前auショップという取り組みも展開している。

――Starlinkについて、今回の地震で自治体や企業からどれほど引き合いがあるか?

髙橋社長
 避難所のほか、北陸電力やケーブルテレビ、運輸関係、建設会社、医療機関などから引き合いがあり貸し出している。

 また、小中高校のオンライン授業への活用やボランティア団体、自治体や行政、内閣府、法務省、DMAT、陸上自衛隊、県警、総合通信局などで利用されている。これをきっかけに販売を促進していきたい。

――Starlink、他社との差別化ポイントは?

髙橋社長
 先行の強みがあると思う。グローバルスタンダードになったものに、日本らしい使い方を増やしていくのかと言うことが大事。使い方をイメージできるようになってきたので、付加価値の作り方の工夫を強みにしていきたい。

 加えて、スマートフォンとの直接通信を年末にはしていけるようにしたい。

――今回の人事の意図は?

髙橋社長
 (渉外担当の統括に着任したのは、)今NTT法の問題など、非常に大きな課題や、ブランド力を高めるため、私が陣頭指揮を執りながら対応したいという気持ちがあるため。

 また、グローバルコンシューマー事業について、ミャンマーの国情があまりよろしくないので、なんとか現場の社員で頑張ってもらっているので、私の責任としてミャンマーについても対応していかなければいけないと感じている。

――5G通信のSub-6の衛星干渉緩和でエリア拡大していくという話があったが、今後どれくらい投資していくのか? 次年度以降開設スピードは増えていくのか?

髙橋社長
 投資額は総額のものしか公表できていないが、(総務省提出の)開設計画は結構大きく出しており、今年度が最終年になる。なんとか9万局をやりきろうとしているのが取り組みの1つ。

 そして、この9万局をやりきると、MNOの中ではトップクラスとなり品質は良くなると思うが、一番課題があったのは衛星の干渉。スカパーがものすごく協力していただいて、3月末に(地上局を)移転して頂いて、この干渉がなくなる。これが大きく、干渉がなくなるとパワーを出せるようになるので、関西でも実績があるようにSub-6のエリアがどんと広がる。

――ミリ波の進捗は?

髙橋社長
 開設計画に従ってしっかりつ作っていっているのが現状。ミリ波はやはり使いにくいのが現状なので、使い方の工夫を社内でも検討している。

 総務省内でも、端末の販売でミリ波(対応端末を)少しメリットがある形にしようという議論があると聞いており、ミリ波対応端末が増えないと意味が無いので、あわせて検討を進めていこうとしている。

――昨年11月にソフトバンクの宮川潤一社長が「楽天モバイルに助けの手を差し伸べてもいい」と発言があった。KDDIとして何かする話があるのか?

髙橋社長
 楽天モバイルのローミングは4Gネットワークだけ。一方で5Gはどうするかという議論がある。

 5Gは基地局がすごく増えるため、投資がすごく必要。できるだけ設備を共用した方が良いというのは各社持っていると思う。KDDIもソフトバンクと東名阪以外で共有しているが、もっと広げていきたいと(決まったことは何もないが)思う。その一環で、(共用の対象が)ソフトバンクだけでなくてもいいのではという思いもあるので、各社で同様の思いが重なっていくのでは。

――楽天モバイルをどう見てる?

髙橋社長
 楽天モバイルのローミング収入は、契約を見直し今年度の収入源は600億→400億円まで収まっている。東名阪でローミングエリアを広げてきたところで、1月までに拡大を終えているので、現在のエリアが新しいローミングエリアに近しいもの。

 楽天モバイルについては、決算などを見ていてもMNPの数字などそこまでインパクトがあると思っていない。新規を中心に増えていると感じており、引き続き傾向をしっかり見ていきたい。

――23年12月に電気通信事業法が改正され、端末の割引ルールが変わった。一方で、ソフトバンクが新たな購入プログラムを発表したが、影響はあるか?

髙橋社長
 新しいルールでは、転売ヤーへの抑止効果が一番大きく狙ったものだと理解している。ルール改正前の12月はかなり駆け込みがあった一方、1月は2週目まではその反動があったが3週目以降は落ち着いてきた感じ。

 ソフトバンクの新たな購入プログラムは、「13カ月目にどんと高くなる」システムなので、ユーザーも1年で買い替えるような時代でもないと思い、あまり大きな影響にならなくてよかったと思っている。

 新ルールについては、色々と総務省と議論していきたいと思う。

――法人事業の新ブランドを立ち上げた意図は?

髙橋社長
 世界の通信会社の潮流として、B2CからB2Bにシフトしてきている。この時代にあわせて、我々もこれまでのソリューション事業ではなく、ビジネスと明確に打ち出していく。

 企業の課題解決、ソリューションとしてこれまで主眼でやってきたが、これに加えIoTを活用したDXや社会の持続的成長にも貢献できるパートナーと共に進めることも考えて改称した。

――MWCで、ドコモや楽天モバイルはO-RANを推しているようだが、KDDIは今後海外に向けて何を出していくのか?

髙橋社長
 グローバリゼーションに対して、輸出がすべてだと思っていない。国内初というのも重要だとは思うが、MWCに関しては日本のプレゼンス(存在感)が大分下がっている印象があり、1年前、MWCを訪れたときにNTTドコモの井伊基之社長から「日本のプレゼンスを少しでも上げるために、KDDIも出展してはどうか」という話がもともとのスタートだった。

 KDDIでは、グローバルに対してデータセンターを広げており、ヨーロッパでも有名なブランドになっている。これらや自動車のコネクティビティも広げている実績があり、このあたりも展示内容になってくると思う。

髙橋氏「NTT法にも興味を持って!」

 質疑が終了したところで、髙橋氏は「1つだけよろしいでしょうか」とし、「NTT法改正」の話題に触れた。

 髙橋氏は「NTT法の話の質疑がなかったので……」と前置きしつつ、能登半島地震で「安定的に通信を供給できる本復旧には、『光ファイバー』の確保が前提になる」ことを実感したとコメント。

 光ファイバー網については、管路や電柱、局舎などはNTTのみが保有している特別な資産をベースに構築され、通信事業者はこれらを利用することでモバイルなどの通信サービスを届けている構造は、今回の震災を見ても明らかになったと指摘。

 髙橋氏は、今回のような災害時や有事の際に「国民生活が脅かされるような緊急事態にも利用が確保されるように『NTTが特殊法人として』しっかりと維持管理する責務を国民に対して追っているものだと思う」とし、国が関与してこれを担保できる仕組みこそNTT法だとした。

 その上で、NTT法を「国民にとって極めて重要な法律である」とし、「25年を目処に廃止する」という廃止を前提として時限付きで議論が進むことに違和感を覚えているとした。有識者や反対声明を出している181社が違和感を持っている中で、非公開の自民党PTでの議論のみを反映した提言に沿って“強引に”進められることがないよう意見していくと髙橋氏はコメント。

 また、出席した記者に向けては、質疑で話題に上がらなかったためか「皆さんも興味を失わず、取り上げて頂ければ」と呼びかけた。