インタビュー

楽天モバイル矢澤副社長に聞く、2021年秋のローミング切り替えとこれからのエリア構築

 楽天モバイルは、これまでKDDIのサービスエリアを利用してきた地域のうち、10月から新たに23道県で自社エリアへの切り替えを進める。この結果、全国39都道府県で楽天モバイル自身のエリアで携帯電話サービスが提供されることになる。

 「第4の携帯電話会社」として参入した楽天モバイルは、ゼロから全国各地でサービスエリアを構築する必要がある。そこでKDDIと提携し、KDDIのサービスエリアでも楽天モバイルユーザーが“ローミング”として利用できるようにしている。

 そのローミングには、当然のことながら費用がかかる。その額は、1GBで約465円(税抜、税込では約512円)となるが、今夏の決算説明会で、三木谷浩史会長兼CEOは「ローミング費用が高い」と幾度も口にし、新規契約の獲得スピードも抑えていると説明。楽天モバイルにとっては、自社エリアの拡大は、顧客体験の向上だけではなく、KDDIへの支払いを抑えることにもなるが、そもそも「ローミングがなぜ必要なのか」を考えると、楽天のエリア拡大はユーザーにとって「本当にもう大丈夫?」と感じさせてしまう面もある。

 果たして、楽天モバイルのエリア拡大は今、どのような取り組みが進められているのか。楽天モバイルでサービスエリア拡充をリードする矢澤俊介副社長に、今回のローミングの切り替えや今後のエリア整備について聞いた。

矢澤氏

人口カバー率は約93%に

 まず始めに、矢澤氏から語られたこれまでのエリア拡大に向けた取り組みを紹介しよう。

 まず同社では基地局設備を展開するにあたり、通信設備を手掛ける工事会社との関係性を、単なる受発注の関係ではなく、楽天モバイルが目指す姿を共有した上でのパートナーシップとアピール。用地確保も、楽天グループ全体で取り組んできたという。

 その用地探しもAIで自動探索してリストアップする手法や、カーボンタワー型基地局の採用、ドローンによる現地調査で時間短縮を図るといった工夫もこらす。

 2020年4月9日のサービス開始時に人口カバー率23.4%だった同社エリアは、今夏(2021年8月末)には92.6%まで広がった。

 楽天モバイルが利用するKDDIのローミングエリアは、「都道府県ごとに楽天モバイルの自前エリアの人口カバー率が70%を上回った時点で、両社の協議をもって、継続・終了を決める」とされている。

 つまり、ローミングが終了する場所は、楽天自前のサービスエリアが満たされた場所。急ピッチでのエリア拡大もあって、この10月の切り替えは「過去最大規模。工事会社をはじめ、皆様には本当感謝している」と矢澤氏は関係者の助力のもと達成できたことと語る。

地下鉄でもエリア拡大

 矢澤氏によれば、引き続き、大型のオフィスビルや商業施設といった屋内地域ではローミングでのサービス提供になる。ただ地下鉄では自前設備の導入が進められている。東京メトロでは、約9割の駅・改札付近・改札~出口までの階段がエリア化される。

自社エリア拡大のメリット

 こうしたエリア拡大は、ユーザーにとってどのような恩恵があるのか。

 楽天モバイルの料金プランでは、auのローミングエリアでは月間5GBまで高速通信が利用できる。つまり、楽天自前エリアが広がれば、そうした制限がない、高速通信を利用しやすくなる。

 矢澤氏は「人口カバー率が93%まで進んだが、楽天の回線と、KDDIさんから借りている回線があり、二重でオーバーラップしている状態」とした上で、両社のエリアが混在している場合、KDDI側のエリアに繋がってしまう端末もあるという。

 楽天側の端末では、ソフトウェア上で、楽天回線を優先するようプログラミングされているとのことだが、iPhone X以前の機種、あるいはAndroidでも古い機種など、楽天モバイルのSIMカード単体を契約して旧機種で利用する場合は、KDDIの800MHz帯のローミングエリアが優先されてしまうことがある。

 矢澤氏は「自宅の住所が楽天エリアだから契約したのに、KDDIの電波をつかんでしまう、というお客さまが一定のボリュームでいらっしゃる」と説明。そうした状況下で、ローミングが終了し、楽天自前エリアだけになれば、KDDI回線へ繋がらなくなり、気兼ねなく通信使い放題になる。

繋がりにくい場合は

 だが、そこで頭をよぎる疑問が「ローミングが終了して、本当に楽天エリアとして繋がるのか」というもの。屋外は問題が少ないだろうが、地下の店舗や宅内の奥まった場所といったケースが気にかかる。

 そこで矢澤氏は、スピーディに対応する方針をあらためて説明。申告があれば、個別調査の上、MVNO回線のスマートフォンを貸し出すほか、屋内向け端末「Rakuten Casa」の設置、一時的な移動局(車載基地局)の出動といった手法で対応する。

地下の店舗専門のチームで

 ここまでが、矢澤氏が主張する楽天モバイルの取り組みだ。しかしまだまだ疑問はある。より深い説明を聞くため、ここからは矢澤氏との一問一答をお届けする。

――半年前にも矢澤さんにインタビューする機会をいただきましたが、職掌は引き続きエリア拡大の担当ですか?

矢澤氏
 はい、そうです。

 一方で、新規契約が増えるほど、ローミング費用の支払いも増えている現状がありました。つまり、(獲得スピードをコントロールするため)アクセルとブレーキの両方を踏みながらマーケティングを進めてきたところだったのです。

 しかし、今回、ローミングの切り替えを大規模に実施するということで、あまりブレーキを踏まず、新規契約の獲得施策を進められることになります。つまりショップ展開も拡大していこうと考えています。あわせてお客さまへの対応もかなり重要になってきています。そのため私がそのショップとお客さま対応も担当することになりました。

――あ、そうなのですね。ショップのことは後ほど質問させてください。ローミング費用については、8月の決算会見でも三木谷さんが発言されていました。エリア拡大はやはり一番注力されてきたポイントだと思うのですが、どういった点に力を入れてきたのでしょうか?

矢澤氏
 基地局は3万局を超えましたが、実はさらに1万局、部品待ちの場所があります。

 半導体が必要なひとつの部品があるのですけど、それ以外はもう既に完成しているというアンテナ、設備が1万局ぐらいあるのです。

――先日、半導体不足で人口カバー率96%の達成時期を延期すると発表していましたが、すでに93%に達しているとのことですよね。このインタビュー前に想像していたよりも伸びていると感じているのですが、今準備中の1万局での展開も、見通しは明るいのでしょうか。

矢澤氏
 はい、これから年末にかけて、かなりの数の半導体が入ってくる予定です。96%という目標はかなり近い将来に達成できる数字と見ています。

――なるほど。

矢澤氏
 開通済3万カ所に加えて、半導体待ちの1万カ所があります。そして、さらに8000カ所、土地のオーナーさんと契約を交わして用地として確保できている場所があります。

 これらを合算すると5万局近く、置局の目処がついている状況です。

 先述した半導体の補充で、年末~年明けにかけて、基地局が仕上がっていく。

 一方で、地下の飲食店などで繋がらない、楽天ペイで決済しようとしても繋がらないというお声をいただいているのも事実です。

 地上の屋外局の目処が立ってきましたので、今年8月から約300人の「地下店舗専門」のエリア対策チームを立ち上げました。

 そのチームは、今だいたい一日300軒~500軒、最大で800軒ほどのお店に飛び込みで「Rakuten Casa」のようなスモールセルの設置を交渉しています。まだ着手したばかりの取り組みですが、都内で地下にあるレストランは約1万件程度だと推計しており、2020年下期~2021年上期にかけて、徹底的に改善していこうと。

――「楽天ペイを使おうと思ったら圏外だった」という声があると思います。地下の飲食店でのエリア拡充は、楽天ペイ対応店舗の拡充を含めた計画なんでしょうか。

矢澤氏
 約300人のスペシャルチーム立ち上げでは、楽天グループ内でも特に2つの部署から助けてもらっています。

 ひとつは「ぐるなび」です。レストラン予約で知られるサービスですが、「ぐるなび」チームからハイスペックの人をお借りしました。

 もうひとつが「楽天ペイ」のチームです。すでに楽天ペイ導入済みの店舗だけではなく、未導入の店舗にも働きかけていきます。

――なるほど。そうした店舗ではRakuten Casaでエリアを作るということですが、導入する店舗のうち、個人店のような中小の店舗では、たとえば楽天モバイルを契約すれば月額利用料を割り引く、といった施策も実施されるのでしょうか。

矢澤氏
 それはありえます。十分ありえます。何かしらベネフィットがないと行けないと思います。今、ある程度、そういったもの設計しているのですが、「楽天モバイルに加入いただけるなら3カ月、◯円にします」といった互いにメリットのある形は十分ありえます。

 ただ、Rakuten Casaをつなげる光回線については、かなり敷設済のところが多いんですが、稼働していないところもかなりあります。

都営地下鉄、他都市の地下鉄は

――地下鉄での取り組みとして東京メトロで90%が自社エリアになったとのことでしたが、ほかの都市、あるいは東京での都営線やJR・私鉄の地下はいかがでしょう。

矢澤氏
 都営地下鉄は、今回、約60%が自前エリアになりました。都内のJR・私鉄の地下エリアについては、JMCIA(移動通信基板整備協会、旧トンネル協会)を通じて置局を進めています。

 KDDIさんのローミングエリアは半年ごとに見直し、更新しているのですが、来年3月、次回のローミング切り替えのタイミングである程度、ローミングを停止できるのではと思っています。

 東京以外ですと、たとえば札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡といった都市ですが、来年以降の対応と考えています

――大規模な商業施設などの屋内はどうなりますか。

矢澤氏

 そうした商業施設と、大規模なオフィスビルに関しましては、もう少し時間をいただくことになろうと見ています。

 そうした施設で工事できるタイミングは、どうしても夜間や休館日に限られます。入居されているテナントさんにも事情があり、年単位でのスケジュールになります。

 小規模なビルであれば、他社さんと同じく、屋外からの電波が届いてカバーできます。

「やっぱり繋がらない」という声に

――繋がらないと訴えるユーザーに向けた取り組みとして、申告フォームや、端末貸出の話がありました。エリア拡大に伴い、どうしてもエリアの端などで電波が弱い場所が増えていく可能性があるのではないかと思うのですが、どのような体制で対応していきますか?

矢澤氏
 ローミングの切り替えで、過去2回実施済みでしたが、テスト的な意味もあって実施してきたところがあります。そこで、私どももかなり学びました。

 「この程度、エリアを切り替えても大丈夫」とシミュレーション上では問題ないものであっても、室内などで繋がらないという声が寄せられました。

 お客さまには、本当にご迷惑をおかけしてしまったのですが、1件1件、お客さまの声を解決するなかで、私どものほうでも知見が貯まってきました。

 もちろんそうした事例をゼロにすることは難しいと思いますが、それでも過去と比べ、かなり(繋がらない場所を)減らせるのではないかなと思っております。

 そうは言っても「ゼロ」にはなりません。もしお客さまから指摘をいただければ、いかにスピーディに対応するかが重要です。

 そこで対策として「基地局を増やす」となれば、どうしても1~2カ月はかかります。そこで、移動型の車載基地局や、バックホールが衛星通信で繋ぐ基地局をかなりの数、今、準備しています。

 もちろんそれらを用いない状況が一番良いのですが、いつでも稼働できる状態にしています。

――それはかなりの準備ですね。具体的にどのような流れを想定していますか?

矢澤氏
 マンションでも一軒家でも、お客さまの住む空間はそれぞれ異なります。都心でも、郊外でもそのあたりは代わりありません。

 たとえば団地のような、建物が連なって立ち並ぶ場所でも反射が重なって電波が届かない場所も出てくることがありますので、当社のスタッフもこれまでかなり頑張りまして、さまざまな実験を重ねて打開策を練ってきました。

 たとえば先述した車載基地局も、ガソリンで本来は発電して稼働するのですが、住宅地に展開すると発電機がうるさい。そこで、今回、電気自動車を横に付けるといった対策を採用しています。

 本当に多くのことを学んでおりまして、今回のローミング切り替えは過去最大規模ですので、対策チームとしてもかなり気合を入れて準備を重ねています。目標は、ご迷惑をかける場所をゼロにすることですが、もし何かあれば、最短で3日、遅くとも7日以内に何かしらのソリューションをお客さまに返しましょうという目標を掲げています。

 そのチームが今100人、対策専門として立ち上がりまして、お客さまからの声に備えているところです。

――そのスピード感はちょっとすごいと感じたのですが、全国規模で応対できるものなのでしょうか。

矢澤氏
 はい、我々としてはあの過去2回でかなり学びました。かなりの準備をしてきているつもりです。

 課題となる場所はゼロにしたい。しかしもし発生したら、そのお客さまの声へいかにスピーディに改善していくか、というのも、お客さまから信頼をいただけるかどうか試されていると思っています。

 前回前々回では、その、正直に申し上げて少しお時間がかかってしまっていて、お叱りの声をいただいたのも事実です。

 今回は、これまでの反省を踏まえて準備しています。かなり自信をもって、対応できると思っています。

――ちなみに、今春発表があった郵便局との連携ですが、今回のローミング切り替えにあたり、具体的な事例はありますか?

矢澤氏
 今回はまだないです。

 4Gエリアを広げてきましたが、少しずつ5Gエリアについても進行しており、郵便局ででは、5G基地局の設置などの話し合いが進んでいます。また郵便局内に楽天モバイルのミニショップを設置する計画も準備が進められています。

店頭対応、どうする?

――矢澤さんの職掌範囲にショップも追加されたとのことで、今後についても教えてください。エリア拡充にあわせ、新規顧客開拓も注力できるようになるとのことですが、「楽天モバイルショップ」はどういった姿を目指しますか? 大手キャリアのようなフルスペックなサポートサービスを目指すのでしょうか。

矢澤氏
 特に私が考えていることとしては、「顧客対応最優先」と言いますか、お客さまの満足度向上が最優先だと思っています。

 その点については、少なくとも、ほかのキャリアさんと同等、もしくはそれを超えるような、ショップも含めたサポート体制を作っていかなきゃいけないと思っております。

 一方で、そのショップ数やスタッフ数については、他キャリアさんと同等まで展開するかどうか、今後検討が必要かなと思います。

 とはいえ、ショップ数は、少なくとも今よりも、かなり増やしていきます。その目的は2つあります。

 これまでショップでは、販売だけに集中していましたが、少しずつお客さまのアフターサポートも店頭で受けられるようにしていかなきゃいけないと思っています。

 またコールセンターに対する改善を求める声もいただいています。

 「お客様を増やす」というアクセルを踏むであれば、アフターサポートのアクセルも踏まなきゃいけないと思います。その2つの軸がしっかり回るようにしていきたいですね。

――今日はありがとうございました。

楽天モバイルオンラインショップ
最新機種の情報をチェック