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楽天モバイル、矢澤氏を社長に据えた新体制を発表――成長期に向けて新たな一歩

 楽天モバイルは、3月30日付の同社の新体制について発表した。

左から、三木谷浩史氏、タレック・アミン氏、矢澤俊介氏、河野奈保氏(CMO)

 三木谷浩史氏は、代表取締役会長として続投。新たに、タレック・アミン氏が代表取締役CEOに、矢澤俊介氏が代表取締役社長となる。現社長の山田善久氏は相談役へ就任の予定という。

 今回の新体制では、矢澤氏が技術展開のチーフレベルオフィサーとして日本におけるビジネス展開を担当。アミン氏は国内に加えて楽天シンフォニーなどを含めた海外ビジネスを担当するという。

 三木谷氏は、アミン氏についてネットワーク業界のスティーブ・ジョブズ、イーロン・マスクとも評し「既存の概念にとらわれない技術力がある。彼が日本にいるのはイニエスタがヴィッセル神戸でプレイしているのと同じくらいか、それ以上。携帯業界イニエスタとメッシを足して2乗にしたくらいのインパクト」とサッカーにたとえて大きな信頼を寄せていることを示した。

 また、矢澤氏については当初、アウトソーシングしていた基地局建設を内部で進め始めたときに「楽天流」の方法で進め、2年強で4万局を設立するなどの立役者と評価。矢澤氏とアミン氏は「いいコンビ」と自身の見方を語った。

これからは成長の時期

 会見の場には新CEOのタレック・アミン氏が登壇。同社の歩みとこれからについて語った。

楽天モバイル アミン氏

 これまで先進的なテクノロジーをベースとしたプラットフォームをつくることを目標に、楽天モバイルは全力を注いできたとこれまでを振り返るアミン氏。同社が極めて短期間で人口カバー率96%を果たしたことを紹介する。

 ネットワークオペレーターとしての礎を築き上げた今、楽天モバイルが向かうのは収益性の向上という。設備投資面など、初期コストが高い携帯電話事業は、グループ全体にも大きな影響を及ぼしてきた面がある。同社では今後、グループの楽天シンフォニーと連携し、特徴のひとつでもあるクラウドベースネットワークの技術を世界へ売り込むことを目標としている。

 これについて、三木谷氏は、楽天モバイルと楽天シンフォニーは「(成長の)両輪。すでに数千億円の受注がある」と明らかにされており、今後の成長の柱として期待が高まる。

 さらに、国内においても低価格へのこだわりは貫く姿勢を見せる。アミン氏は日本へ訪れた当初、日本の携帯電話料金の高額さに驚いたと自身の経験を交えながら、そうした状況を楽天モバイルの存在が一変させたと自信をのぞかせる。

 今後、5Gの展開も予定されているが「5G時代でも(低価格の)戦略を維持し、日本のユーザーのためにバリューリーダーシップを維持し続ける」と語った。グループ内の他サービスとの連携も含め、さらなる顧客体験を提供していくという。

楽天モバイル、法人事業参入へ

 このほか今後、楽天モバイルが法人ビジネスに参入することも合わせて明らかにされた。法人向けのRakuten Linkや工場・倉庫などにおけるプライベート5G・LTE、ロボットなどのIoT分野で展開する。

 時期としては22年第2四半期ごろまでにトライアルを実施しその後、22年第3~4四半期で本格展開を目指す。三木谷氏は、事業規模としては現在取引する40万社以上のうちその1/4を目指していきたいとした。

顧客満足度高めてナンバーワン目指す

 新社長となる矢澤俊介氏は、同社がひとつの基地局もないまさしく「ゼロからの挑戦だった」とこれまでを振り返る。

楽天モバイル 矢澤氏

 同社最大のミッションは「携帯電話サービスの品質向上によるユーザー満足度の向上」。また、それによって国内ナンバーワンのキャリアになるという。矢澤氏によれば同社の現在地は「まだ3合目」。ユーザーから寄せられた声には真摯に対応し、一歩ずつ「山頂」を目指していくとした。

 その山頂へ向かうための課題のひとつとして、エリア拡大を挙げる矢澤氏。今月には96%に達した同社のサービスエリア。「ここから数%が大変という声もあるが、我々のオペレーションを使い、想像を超える速度で限りなく100%に近づけていく」という。楽天モバイルでは、AIやビッグデータを活用した基地局建設が行われており、既存のキャリアとは違うアプローチであることをアピールしている。

 一方で、屋内でつながらないという声も聞かれる中、フェムトセルの展開も合わせて加速していく。

 加えて、リアル店舗の展開も推し進める。ユーザーと対面で向き合い、しっかりその声を聞くために店舗は必要として、取扱店・郵便局など含めて現在960店舗ある楽天モバイルショップは今後も拡大していく姿勢を見せた。

 また、カスタマーサポート強化のため、宮城県仙台市にカスタマーサポート専用子会社を設立しており、災害対策についても強化していくとした。

 矢澤氏は今後、総務省などとのやり取りも担当するとしており「楽天モバイルの主張をしっかり伝え、現状を(総務省に)理解してもらい、国民に納得してもらえる電波割当になるようコミュニケーションしたい」と語った。

楽天モバイルは第2フェイズに

 三木谷氏は、楽天モバイルの始動当初は既存技術でネットワークを構築しようとしていたと当時を振り返る。

楽天モバイル 三木谷氏

 かつては「完全仮想ってなんだ?」と思っていたという三木谷氏。クラウドベースのネットワークで進めていくと決め手からも、さまざまなところで実現性に疑問を持たれていたと言うが、現在ではMNOユーザーだけで500万人を数えるまでになっており、これは楽天カードの会員獲得スピードの3倍だという。

 三木谷氏は「ここからが楽天モバイルの第2ロケット、第2フェイズ」と同社が新たな展開に突入していることを強調した。楽天シンフォニーとの連携を高め、すでに数千億円単位の受注を獲得しているところを兆円単位にすると意気込みを見せる。

 また、長年楽天市場を率いてきた矢澤氏を社長に迎えることで、グループシナジーを強化していく狙いだ。

 加えてアミン氏もトップクラスの技術を持った人間だとして「楽天モバイルの技術力は他社を圧倒する。これを事業にも活かしていきたい」とも語り、三木谷氏、アミン氏、矢澤氏の新体制に期待してほしいと語った。

電波オークションは新規参入阻む

 終盤、電波オークションに対する考えを問われた三木谷氏は、「今でも反対」と立場を明確に示す。

 大手3社の寡占状態にあった過去について触れ、巨額の投資となる可能性がある電波オークションは、新規参入の障壁になるほか落札価格がサービス価格に転嫁され、技術的競争が生まれないなどのデメリットがあると指摘。

 数千、数億におよぶ落札価格が国庫に入るよりも、安価でより良いサービスが提供される方がメリットにつながるとした。