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契約者拡大に伴い急増する楽天のローミング費用

グラフで比較するキャリア決算(2)

 先日、携帯会社4社の決算発表が行われたが、なかでも印象的だったのが、楽天の三木谷浩史CEOが「ローミング費用が高すぎる」と何回も発言していたことである。

 新規契約者を増やせば増やすほど、ローミング費用が発生し、赤字体質から脱却できないという趣旨の発言である。

 では、楽天はローミング先のKDDIに、どのくらいの費用を支払っているのだろうか。

 今回は、その規模について推計してみたい。

楽天モバイル決算は基地局投資とローミング費用が原因で赤字

 楽天が発表した2021年12月期Q2期の連結決算(国際会計基準)は売上高が前年同期比16.9%増の7,936億円、営業損失は1009億円と赤字決算が続いている。

 その主な要因を占める楽天モバイルの業績は、売上高が前年同期比17%増の515億円、営業損失は997億円と、前年同期比で459億円の損失拡大となっている。

 エリア拡大のための基地局先行投資が重荷となったほか、契約者拡大に伴って自社エリア外で利用するKDDIのローミング費用が増加したことが大きいとしている。

契約者数はMNO&MVNO合計で500万契約を突破

 楽天モバイルの契約数は、2021年12月期Q2期の決算発表の時点ではMNOサービスの累計契約申込数が6月末時点で442万件と発表されていたが、その後、8月23日にはMNOサービスとMVNOサービスの合計契約数が500万回線を突破したと明らかにしている。

契約者拡大に比例して増加するKDDIへのローミング費用

 楽天がKDDIに支払うローミング費用に関して、実はKDDIがIRの場で、「モバイル通信収入とマルチブランド通信ARPU収入の差分」が、ほぼその金額であるとコメントしているのだ。

Q. 例えばローミングでいうとモバイル通信収入とマルチブランド通信ARPU収入の差分のところで雰囲気を知ればよいか。
A. ご推察のとおり。

出典:KDDI「2022年3月期第1四半期決算説明会 (決算ハイライト・質疑応答)」

 そこで、KDDIの決算資料(2020年度Q1~2021年度Q1)からモバイル通信収入とマルチブランド通信ARPU収入を抜き出し、その差額をローミング費用として推計。グラフ化したのが、下記のグラフである。

グラフ:KDDIの楽天モバイルローミング収入(推計)
出典:KDDI IR資料をベースにMCA作成

 このグラフから、たとえば2021年度Q1に楽天がKDDIへ支払ったローミング費用は330億円とみられることが分かる。2020年通期(1月~12月)のモバイルセグメント売上が2271億円(営業損失が2270億)だったが、そこからKDDIへローミング費用として672億円支払っていた計算になる。

 当然だが、楽天の契約者数増に比例してローミング費用が増加しており、これが三木谷CEOが「ローミングコストがあまりにも高い」と嘆く理由だったのである。

 周知のとおり、半導体調達の遅れから、今年夏としていた人口カバー率96%の基地局整備が今年中にずれ込むとしているが、既に東京都内はローミング提供を終了するなど、2022年3月までのローミング契約解消を急いでいる。

 ローミングを早期に打ち切りたいというのが本音だろうが、当然だがそれを急ぐあまり、ネットワーク品質の劣化やエリア整備の不備を露呈してしまうことは、何としても避けなければならない。

 同社では、2023年中の携帯電話事業黒字化の目標は変えておらず、ローミング費用という『呪縛』から解放された後が本当の勝負と考えているようだ。

IT専門の調査・コンサルティング会社として、1993年に設立。 主に「個別プロジェクトの受託」「調査レポート」「コンサルティング」サービスを展開。 所属アナリストとの意見交換も無償で随時受け付けている。 https://www.mca.co.jp/company/analyst/analystinfo/