インタビュー

「ThinkPad X1 Nano」がドコモから発売される理由、レノボ社長に聞くウイズコロナ時代のコミュニケーションデバイス

 NTTドコモからレノボ製のノートパソコン「ThinkPad X1 Nano」が発売される。

 ThinkPad X1 Nanoは、伝統のThinkPad Xシリーズの最新モデル。13インチディスプレイを搭載しながら1kgを下回る軽量ボディを実現した。さらに特徴として、nanoSIMスロットを搭載。4Gおよび5G通信にも対応する。

レノボ・ジャパン デビッド・ベネット氏

 ドコモといえば「スマートフォン」。モバイル通信を主軸に取り扱う会社からなぜノートパソコンが発売されるのか? もちろんこれまでもモバイル通信対応のノートパソコンはドコモからも登場したことはあったが、近年のラインアップでは近年の個人向け製品の主役はスマートフォンだった。

 そして新型コロナウイルスの影響が未だ大きいこれからの時代、パソコンはどう変化していくのか? レノボ・ジャパン 代表取締役社長のデビッド・ベネット氏に聞いた。

ThinkPad X1 Nano

 聞き手は、ケータイ Watch編集長の関口聖と本誌連載でもおなじみのジャーナリスト法林岳之氏。

ドコモからThinkPad X1 Nanoが登場

――今回の「ThinkPad X1 Nano」ですが、今回なぜこのモデルがドコモ製品として選ばれた理由を教えて下さい。

ベネット氏
 我々は「ACPC」(Always Connected PC、常時接続パソコン)に期待しています。日本ではこれからということになりますが、米国のAT&Tやベライゾン、フランスのオレンジ、中国のチャイナモバイル(中国移動)はパソコンを多く取り扱っています。

 ユーザーの5Gや常時接続に対する期待があり、それを実現するには、キャリアさんとのつながりが重要となるため、他国では、こうした傾向がみられるのです。

 ユーザーが通信モジュール内蔵の製品を求めているのであれば、キャリアさんと組んでこれから常時接続可能なモデルを増やしていきたいと思います。これまで、日本ではキャリアさんはあまりパソコンを扱ってきませんでした。しかし、これからニーズに応じてパソコンも多く扱われていくようになるのではないでしょうか。

 通信につながるということが売りの製品であれば、どこにでも持っていけるように軽い必要がありました。そのため、1kgを切るThinkPad X1 Nanoが選ばれました。

 これまで、どうしてこういう製品が出せなかったのかというとバッテリーライフとの兼ね合いです。(軽くても)バッテリーが保たなければ意味がありません。やっとバッテリーの技術と本体の軽量化の技術のバランスがとれたことで、1kgを切りながら22時間のバッテリーライフを実現できました。

 さらに、キーボードの使い心地にもこだわり、テレワークやテレスクールに必要な機能も入れ込みました。たとえば、マイクアレイを4つ配置することでパソコンの前でも後ろでも、発言した人の声をしっかり拾ってくれますし、200以上の項目がある「拷問テスト」により落としても大丈夫なように作られています。

 さらに、今度リリースされる「Windows 11」によりAndroidスマートフォンとよりうまくインテグレーションされていきます。スマートフォンで受信したメッセージをパソコン上に表示して、そこから返信したりAndroidアプリをパソコン上で使ったりといったこともできるようになります。

――ドコモで取り扱われることは、ユーザーにどういったメリットがあるのでしょうか? レノボ直販や家電量販店で購入する選択肢もあるとは思いますが……。

ベネット氏
 我々メーカーの観点から言うと、ThinkPad X1 Nanoは設計当初から5G接続、常時接続を意識した製品です。そのため、キャリアさんとパートナーになってキャリアさんと一緒に売ることがベストだと思っています。設計当初からキャリアさんと一緒に作って、ネットワーク利用時のユーザー体験がベストになるようにしました。

レノボ鈴木氏
 ちなみに、ドコモ回線ユーザーがドコモさんから購入することで、お得になるプランも用意されます。

――今回のドコモとの提携でレノボのサポート体制はどうなりますか?

レノボ広報担当者
 通常のレノボ製品と同じと考えてもらえればと思います。

5Gモジュール内蔵メリットとは?

――これからのデバイスは、マイクやスピーカー、もしくはソフト面などの観点から考えると、コミュニケーションに使う上で今後、重要視されそうな要素も出てきそうですね。

ベネット氏
 我々は、ACPCという言い方をしますが、何よりも5Gモジュールが搭載されていれば、どこでも仕事ができるというのが大事なポイントです。これまでも4Gモデルがありましたが、5Gになるとユーザーの関心が高いセキュリティ問題を解決できます。

SIMスロットが備えられる

 これまでの、どこかの喫茶店のWi-Fiにつなげて……というのは面倒だしネットワークは信頼できませんでした。その点、5Gモジュールのあるパソコンならキャリアさんが提供するネットワークを使えるわけですから、セキュリティの観点からすごく良い。

 さらに、マイクロソフトの「Office 365」などをはじめ、すべてのサービスがクラウド化していきます。どんな場所からでも、自分のデスクトップにアクセスできるという点が変わってきます。ひとつのデバイスから複数のアカウントを使って仕事の環境やプライベートの環境にアクセスでき、外にいてもまるで自分の家にいるかのような感覚で利用できるでしょう。

 一方ハードウェアという点になると、我々がThinkPadを開発して来年で30周年になりますが、当初からキーボードのタッチなどを大事にしています。ユーザーにアンケートを取ってみても、やはりキーの打ち心地などが重要視されていることがわかります。我々もそこに注目して業界でもベストなものを作っていると自負しています。

 また、コロナ禍以降、パソコンがコミュニケーションのためのデバイスとして注目されています。テレワーク、テレスクールがものすごく増えていて、今やパソコンでミーティングをしない人が少なくなってきてるのではないでしょうか。

 もちろん、スマートフォンやタブレットもありますが、仕事でのインタビューというようなことになると、ノートパソコンでしょう。我々のノートパソコンは、設計段階から高性能なカメラを備え、マイクの位置も考慮しており、タクシーや喫茶店などどこでもベストなミーティングができるように作っているのです。

――ユーザーの動向としては、ミーティングが重要視されているということですね。Webカメラ搭載モデルの売れ行きがよくなったり、そういった関連する周辺機器の動向にも変化があったんでしょうか?

ベネット氏
 傾向から考えると2つのことが言えます。1つは、LTE・5Gモジュール搭載モデルがこの1年くらいでものすごく増えました。我々レノボは、ほかのどのメーカーよりも通信モジュール搭載モデルの選択肢が多いと自負しています。

 レノボのオンラインショップにおいては、最新型のThinkPad X1 Nanoでいうと、およそ25%のユーザーが5Gモデルを購入しています。これまではWi-Fiモデルが主流でしたから、間違いなくLTEや5Gのニーズが間違いなく上がっているといえるでしょう。

――スマホなどのテザリングでもモジュール内蔵型と同じ使い勝手を実現できるような気がしてしまいます。その点でモジュール内蔵型に考えられるメリットはなんですか?

ベネット氏
 内蔵型のメリットは2つに分けられると思います。

 この1~2年で変わってきたのが、仕事のスタイルです。たとえば、タクシーの中などでさっとパソコンを広げて作業をし、さっと閉じる、というスタイルが増えました。モバイルルーターでは、接続されているかどうかを確認する必要があり、ちょっと時間がかかります。モジュール内蔵型ならパソコンを開いた瞬間にすぐ使えます。これがメリットの1つ目です。

 2つ目は、OSもクラウド化してきていることです。そういったソフトウェアは、ネットワークがなければ使えません。モバイルルーターでは充電や接続が切れていたといった問題が出てきますが、モジュール内蔵型ならパソコンが充電されてさえいれば、使うことができます。こういった利便性はクラウド化されたソフトウェアを使う点で重要でしょう。

 さらに、今回発表のモデルは5G対応です。メールやWebでの調べ物だけではなくどんな仕事をしていても5Gで接続できるという点がすごく重要になってきています。(扱うデータの大容量化により)これまでよりも帯域がとても必要になってくるでしょう。バーチャルデスクトップやブラウザーなど、多くのデータを扱う際に、モジュール内蔵型パソコンは安心して使っていただけると思います。

――日本国内の5Gエリアはまだ整備中の状態です。これまでのLTEモデルでもある程度快適には使えると思うのですが、5Gと4Gで明確な違いはあるのでしょうか?

ベネット氏
 たしかに今はまだ5Gへの過渡期ですが、キャリアさんが力を入れて展開中です。4Gでももちろん問題なく利用できますが、やはりバーチャルデスクトップやクラウド化されたソフトウェアはおそらく5Gでないと、快適性は落ちるので5Gがベストだと思っています。

 5Gのさらに面白いところはこれまでのように、スマートフォンやパソコン、タブレットだけではなく、XRなどさまざまなデバイスが多数つながっていくことです。より多くのデバイスと接続できれば、たとえば外でパソコンがなくてもXR体験ができたり、ストリーミングでハイレゾリューションなゲームができたりと、今までできなかったことが可能になっていくでしょう。

クラウド時代には5Gパソコンを

――クラウド時代のソフトウェアは、5G対応パソコンでより使いやすくなるということでした。クラウドネイティブなソフトウェアの登場がユーザーにもたらす影響が気になります。

ベネット氏
 ひとつは「デバイスポータビリティ」です。スマートフォンの場合、AndroidからiPhoneに買い換えるとき、またはその逆の際でもクラウドサービスを利用していれば同じようなコンテンツが利用できます。

 おそらくパソコンもそういう時代になってきたと言えると思います。Offie 365のようにどんなデバイスからでも同じデータが使えます。5Gではアプリケーションやデータだけではなくバーチャルデスクトップなども実現できるでしょう。

 5Gを介して仕事用のデスクトップにログインしたり、プライベート用デスクトップにアクセスしたり、ひとつのデバイスからどこにいても、何でもできるといったように、非常に使いやすくなったのではないかなと思います。

 もうひとつは、Windows 11のAndroidとのインテグレーションです。アップル製品ではコンピューターとスマートフォン、タブレットを上手く統合させています。Windows 11ではものすごくインテグレーションがよくなりました。先程言ったようにスマートフォンのメッセージをパソコンで見たり、ファイルを簡単に共有できたりといったところです。

――スマートフォンの場合、機種変更するとアプリなど環境をそのままコピーできます。ThinkPad X1 Nanoに買い替えた際にもそうしたことができると便利そうですね。

ベネット氏
 同様の体験は可能です。ほとんどのクラウドベースのアプリケーションは、前のWindowsパソコンからThinkPad X1 nanoに移行できますが、ローカルでのみ使用しているものについては手動でインストールすることになります。

 しかし、実際にそういう状況は少なくなってきており、多くのユーザーがクラウドアプリケーションやブラウザベースのものを使っています。たとえばゲームは、手動でインストールは必要ですが、セーブデータはクラウドに保管されており、インストールさえすれば、同じ環境を引き継ぐことは可能です。その点ではスマートフォンと同じような体験が可能です。

――(法林)Windows 11もリリースされますが、マイクロソフトはどんな人でもデバイスを使えるようにと「アクセシビリティ」を重要視しています。レノボとしてはそうした動向をどう見ているのでしょう? また、それを日本の消費者にどう伝えていくのでしょうか?

ベネット氏
 SDGsといった言葉を最近良く聞かれます。環境に対することだけではなく、ユーザー体験なども含めて、アクセシビリティは重要なことです。レノボの考えとしては環境に優しいこととユーザーに優しい体験を提供していきたいと考えています。

 アクセシビリティの機能はもっと使いやすくなるよう考えています。ボイスコマンドについても、マイクの配置がイマイチだとなかなか上手く認識してくれないということがあり、ストレスにつながります。マイクの品質や配置などでコルタナなどの機能ももっと使いやすくなるので、そうしたところはマイクロソフトと一緒に作っています。

 カメラについても同様です。ジェスチャー操作もカメラがしっかり認識しないと動いてくれません。我々は、高性能なカメラを搭載し暗くてもしっかりジェスチャーを認識するよう工夫しています。

 ブルーライトカットや目に優しいコントラストなど、我々でも考慮しています。パソコンがないと仕事はできません。文科省の「GIGAスクール構想」で子どもも授業を受けられないなど、パソコンは必須のものとなっています。そう考えると、アクセシビリティの機能は重要です。

レノボ広報担当者
 ちなみに、レノボでは設計チームとは別に、「プロダクト ダイバーシティ オフィス」というアクセシビリティの機能が十分かを監査するチームがあります。たとえば、設計チームが男性ばかりだと、女性にとって使いづらい……といったことが起きる可能性があり、それを防ぐ働きをしているのです。

モトローラとの協力は? パソコンでもeSIMが広がるのか

――Androidとの統合ですが、モトローラブランドとの連携はあるのでしょうか? またWindowsだけではなくレノボ側で独自のAndroidとの連携機能に期待したくなります。

ベネット氏
 モトローラはレノボのファミリー企業ですし一緒に仕事をしており、ビジネスの機会はうかがっています。ただし、モトローラは歴史が長く、モトローラのファンやレガシーがあります。レノボはそのブランディングやテクノロジーをサポートしていく立場だと思っています。

 マイクロソフトはOSメーカーなので、連携機能についてはリードしてもらっているという形ですが、レノボ側でもどうしたらAndroidやiOSとより連携して使いやすくできるかは研究中です。ただ、Androidはメーカーが多いのでちょっと時間はかかるかもしれませんが、そうしたユーザー体験は良くしていきたい。今日はまだお伝えできることはありませんが、アップルのようなひとつのエコシステムを目指していきたいと思います。

――キャリアさんとの協力は今後も広げていくと思います。4G/5G対応モデルは今後どんな製品が導入されますか?

ベネット氏
 我々は、世界初の5Gパソコンや5Gタブレットを出しました。目標として、5G搭載製品が一番多いメーカーでありたいと考えており、ThinkPadだけではなくタブレットやIdeaPadなどにも広げていきたいと思います。今後もどんどん5G搭載モデルが登場すると思っていただければ。

――SIM形状は物理SIMメインでしょうか? スマートフォンでは、eSIMが広がりを見せていますが、ノートパソコンにもeSIMは広がるのでしょうか?

ベネット氏
 その予定です。我々もこれからeSIMを広げていきたいと考えています。世界的にもeSIM対応デバイスが増えており、パソコンやタブレットにもその流れは波及していくでしょう。今はまだ物理SIMがメインですが、eSIMは国によってはスタンダードになっていくこともあるのではないでしょうか。

――(法林)Windows 11 Insider Previewを見ると、Androidアプリが動作するのはちょっと先になりそうですが……。Androidアプリをネイティブに動かせるというのは、モトローラを傘下に持つレノボにとってはかなり注目の機能ということですか?

ベネット氏
 ひとつ言えるのは、我々もIdeaPadでSnapdragon上で動くWindowsマシンをリリースしてはいます。ただ、X86系でAndroidをネイティブに動かせるかはOSメーカーが決めることで、我々からはコメントできません。しかし、たとえばディスプレイにスマートフォンの画面を表示するなども低遅延で可能なので、OSでネイティブに動かす以外の方法もあるのではと思っています。

レノボ広報担当者
 モトローラの「Ready For」とかもありますからね。

――(法林)そうそう、まさにそれです!

ベネット氏
 ニューノーマルとよく言われますが、パソコンの使い方が大きく変わりました。おそらくコロナが収束しても以前の働き方に戻ることはないでしょう。ですから、今まで以上にテレワーク・テレスクールでパソコンの必要性が上がりました。

 今後、日本でも5G搭載のパソコンが増えて、キャリアさんも取り扱うようになるのではないでしょうか。

 数年前、タブレットが増えてパソコン需要が低下するのではということがありました。しかし、今はパソコンのニーズが戻ってきました。タブレットにはタブレットの使い方がありますが、パソコンに比べると映画を見たり、本を読んだりとコンテンツを消費することに特化している面があります。

 しかし、何かを作成する場合は物足りないのです。ドキュメントやスライドの作成などはパソコンでないと難しい。個人的にほとんどのメールやWeb会議をスマートフォンでやっていたことがありましたが、それと同時に調べ物や仕事をしようとするとノートパソコンがないとできないなと思ったのです。これは私だけではなくそういう人は多いのではないでしょうか。

 なので、5Gパソコンをドコモさんと一緒にどんどん売っていくことがユーザー体験という観点から、非常に良いのではないかと思います。

――本日はありがとうございました。