インタビュー
楽天モバイルのサービスエリアはどう作られている? 矢澤副社長インタビュー
2021年4月13日 06:00
本格サービス開始から1年を経た“第4の携帯電話会社”、楽天モバイル。4月からは、「1GBまで無料」という新プランでも注目を集めるところだが、携帯電話会社として、最も重要なポイントは「どこで使えるか」、つまりサービスエリアの広がりだ。
2020年10月、楽天モバイル副社長へ就任し、エリア整備をリードする矢澤俊介氏に同社の取り組みを聞いた。わずかな時間で駆け足のインタビューとなったが、サービス開始前から現在、そして日本郵政との提携まで幅広く聞いた。
楽天グループから数百人
――矢澤さんは2019年から楽天モバイルの基地局建設に関与されたそうですが、過去、携われた業務からはガラリと変わった格好ですね。
矢澤氏
はい、ジャンルはもちろん、業務の進め方も異なります。ただ、楽天市場での根底の考え方は共通するかなと感じています。
――「楽天市場での考え方」と言いますと?
矢澤氏
楽天市場は、そこに出店されている事業者さんの売上が伸びなければ、私ども自身の売上ももちろん上がりません。そのためには、お客さまがどういうニーズをお持ちなのか、楽天にどんなことをして欲しいのか、そこに私どもがどう応えていくのか――。
それをもうずっと繰り返していくわけなんです。お客さまに喜んでいただかないと、ひいては楽天自身も成長できないのです。基地局建設という面で言いますと、特に工事会社さんとのコミュニケーションがまさにそうなんです。
――そのあたり、もう少し詳しく教えてください。
矢澤氏
楽天にとって、自身で無線通信ネットワークを構築する携帯電話事業は初めてのことばかりです。そこで、工事会社さんにいろいろ教えていただきましたし、何を求めておられるのか、楽天がどういうやり方をすれば喜んでいただけるか、「楽天がこうしたいなら、こういう案があるよ」と本当にもういろいろとアドバイスをいただいたのです。
――ちなみに今、矢澤さんの職務のうち、何割くらいが楽天モバイルに充てられているのですか?
矢澤氏
十割です。楽天市場事業については全て引き継ぎました。
――おお、そうなんですね。矢澤さんが楽天モバイルに関わるようになってから、そのエリア構築体制はどう変化したのでしょうか。
矢澤氏
かつてももちろん担当者が頑張っていましたが、大きく3つポイントがあります。
ひとつは、工事会社さんとのコミュニケーションの場がなかった点への対応です。工事発注に際し、元請けさんが整理・調整し、どう手配していくのか、機械的な手法で、工事会社さんからのアイデアを活かせる場面がありませんでした。
そこで、「楽天モバイルはただ単に基地局を建てていくのではない、日本の携帯電話市場を変えていくためにやっている。これが日本の未来を変えるんです」とお伝えして、スピードアップがどれだけ意味があるのか、理解を深めていただくように努めました。そして、先述したように、工事会社さんからのアドバイスを活かせるようにしました。
このやり方に変えたのがちょうど2年前ぐらいのことです。
ターニングポイントになったのは、楽天グループ内から、数百人ほど楽天モバイルへ投入したことです。そのスタッフたちが工事会社さんと直接やり取りさせていただくようにしたのです。
また(基地局を設置する場所の)地権者さんとも社員が訪問し、楽天がどんな考えで取り組んでいるのか、きちんとご説明するようになりました。それが大きかったと思っています。
――その方々は、どういった事業から移られたんですか?
矢澤氏
半分は楽天市場、残り半分は、楽天カードや楽天トラベルですとかそういった事業からでした。
――なるほど。
矢澤氏
はい。そしてふたつめは、バックホール、つまり基地局が繋がるネットワークとの接続をいかにスムーズに進めるのか。そのアプローチを現場の事業者さんにおまかせしていたのですが、そこにちゃんと楽天モバイル本社から出向くようにしました。
みっつめは、当社の技術陣の考えを工事会社さんにもきちんとお伝えするという点です。技術陣は海外出身の方が多いのですが、文化の違いやテクニカルな内容を噛み砕いてお伝えしていったわけです。
「置局計画の遅れは大きな課題だった」
――なるほど。振り返ると、その変化はいつ頃からのことになりますか?
矢澤氏
2年ほど前のことだと思います。
――2年前というと、総務省から基地局開設の遅れが指摘された時期でもありますね。
矢澤氏
タイミングとしては、ほぼ同時期です。ご指導いただく前、2018年の後半ぐらいから、社内でも進捗の遅れは大きな問題になっていました。
私自身は、2019年春ごろから楽天モバイル事業へ関与するようになりました。そのタイミングで数百人、異動しました。
当時、社内にそれだけの人が集まれるフロアがなかったのですが、楽天は、週に一度、月曜8時から朝会と呼ぶ社員ミーティングを開催しており、そのスペースを楽天モバイルへ異動したスタッフ用に充てて、急遽、電話とノートパソコンと机を置いて、一気に始めた、という感じです。
弱点、どう把握?
――東京などでauとのローミングが終了する地域も出てきました。個人的には、屋外では確かに繋がる場面が広がったと感じています。
矢澤氏
ありがとうございます。屋外では、工事会社さんの協力もあり、かなり基地局が増えました。一方で、屋内への浸透については、私どもが用いる1.7GHz帯の特性もあり、どの程度の浸透率か課題があります。
たとえば繁華街の地下街にあるお店から、電波対策を求める声があるのも事実です。
ここで2つのデータがあります。ひとつは、お客さまが実際に利用されて、電波が届いているかどうかというものです。対応としてはローラー作戦で進めているところです。
もうひとつはお客さまやお店からの声でして、日々、そうしたご指摘に対応しています。
――ユーザーの利用状況は、どう把握しているのでしょうか?
矢澤氏
詳しくはちょっと開示できないのですが……たとえば、楽天市場ではもともとAIチームがありました。今、そのほとんどが楽天モバイルに来てくれています。
そのAIチームには2つ、役割があります。ひとつは、地形を3Dで把握し、アンテナをどう設置すればもっとも効率的か、最初の提案を繰り返してくれています。
そのチームがですね、お客さまの流れ、流動性を見ています。そのチームとやり取りしながら進めています。
屋内対策、「Rakuten Casaが非常に重要」
――なるほど。では、たとえば小規模なお店などでの屋内対策として、Rakuten Casaというデバイスがあります。どの程度活用されていますか?
矢澤氏
今、非常に重要なソリューションになってきています。入り組んだ路地、地下といった電波が届きにくい場所には、Rakuten Casaを積極的に提案しています。
――そのRakuten Casaの積極提案というのは、スタッフ、工事会社の方が現地を訪れて売り込んでいるのか、あるいはユーザーからの声を受けて動くというかたち、どちらでしょうか。
矢澤氏
両方ですね。車の両輪で進めています。
KDDIのローミングエリアとの関係
――大規模な商業施設、地下鉄は引き続きKDDIのローミングということでよろしいですか? 現状の確認と今後の計画を教えてください。
矢澤氏
はい、大規模な商業施設、地下鉄はKDDIさんからのローミングをお借りしている状況です。
一方で、私どもの整備もかなり進んできています。たとえば都内の地下鉄ですと、今春をめどに楽天モバイルの基地局の整備がかなり進みます。あとは、ショッピングモールなど、それから大きなオフィスビルといった場所は、ビルのメンテナンスのスケジュールの調整がありますので、少し時間はかかっていますが、順次進んでいます。
鍵となるポイントとして、KDDIさんのローミングは、年に2回、切り替わるタイミングがありまして、まさに今春、ローミングをオフにしたエリアがありますけども、次は秋になります。そのあたりで、私どものエリアへスイッチするという場所がだいぶ進んでくると見ています。
郵便局への基地局設置
――3月に日本郵政との提携が発表されました。出資を受けて基地局整備に投じるとのことでしたが、その前に2月の段階で基地局数を4.4万カ所へ増やす計画も示されています。この数字は全て屋外ですか?
矢澤氏
はい、基本的に屋外です。すでに郵便局の局舎500カ所程度で基地局を設置させていただくことで合意しております。すでに電波を発している場所も数百カ所あります。
――そのあたり、どういった効果を期待されているのか、あらためて教えてください。
矢澤氏
郵便局は、全国で2万4000カ所あります。郵便局のある場所というのは、やはり各地の街の良い場所に位置されていますので、日本郵政さんと提携できたということは、非常に大きなことだと思っています。
――2万4000という数字と、すでに合意されている500という数字は、だいぶ違いがありますね。
矢澤氏
はい、全ての郵便局に設置というわけではありません。先述したAIチームによる「このあたりに設置するといいよ」という提案をもとに、日本郵政さんに今後、「このあたりに設置させていただきたい」とお伝えしていきます。
――なるほど、今後なのですね。「郵便局に基地局を置く」というアイデアは、どう形作られたのでしょうか。
矢澤氏
私が基地局整備面を担当することになった際、一軒一軒、工事会社さんにお願いするだけではない、楽天ならではの手法を用いようと考えました。最初にお伝えしたように、楽天はお客さまとの関係性を大切にしていますから、そのときは楽天にとっての大口の取引先、何十社と訪問していったのです。
日本郵政さんは、そのうちの1社なんですが、もともと楽天市場の物流面で大変お世話になっており、過去、何度もお邪魔しています。基本的には(日本郵政との提携に向けて)三木谷(浩史氏)がリードしながら全体をコーディネートしていったのですが、基地局についてはその前からいろいろとご相談させていただいたのです。
――経済的なメリットとしてはいかがでしょうか。
矢澤氏
たとえばショップですね。私どもの考えもあって、ほかの3社さんよりかなりショップ数は少ないのですが、郵便局さんで楽天モバイルへ申し込めるようにするという点で連携させていただくことには非常に期待しています。
「1GBまで無料」新プランはエリア品質に影響しない?
――4月からの新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」では、1GB無料という設定が新たに取り入れられました。ネットワーク品質への影響はどう見ていますか。
矢澤氏
実際には7割の方は、データ利用量が少ないと言える状況です。ネットワークへの逼迫度合いよりも、多くの方にとって安心してご利用いただける料金を目指した格好です。ワンプランですので、煩雑さがないという点が一番のメリットです。
シンプルにお使いいただけることがすごく大切だと思っています。そしてネットワークの逼迫度合いという面でも、今のところ、十分大丈夫かなと思っています。
――先日、390万の累計申込件数に達したと発表がありました。その規模でも大丈夫と。
矢澤氏
はい、もちろん利用状況を見て、という話ではあるのですが、当然のことながら楽天モバイルとしては390万件で終わるつもりはありません。これから1000万件、2000万件を目指していきます。現時点での基地局数も、そうした動向にあわせてしっかり対応していきます。
――サービスエリア、特に5Gについてはあまり広がりが見受けられません。このあたりは?
矢澤氏
ひとまず4G最優先で進めてきましたので、今夏の人口カバー率96%達成を目指していきます。これがひとつのマイルストーンになるでしょう。
その準備も進んでおり、いい流れで来ています。基地局を設置するには、場所の確保から数カ月かかるのですが、そうした上位工程の目処が経ってきました。
その工程をいま、少しずつ5Gサービスにも移しており、今夏、5Gの基地局数はかなり増えていきます。
――4G基地局に、5Gも展開することは難しいのでしょうか。
矢澤氏
基地局の設計デザインとしては、4G用アンテナと5G用アンテナを同時に設置できるのものがほとんどです。場所によって、5G設備をつける/つけないと進めてきています。4万4000局のほとんどは4Gですが、物理的には5Gに対応できます。
――最後にプラチナバンドへの考えを教えてください。
矢澤氏
ぜひとも活用させていただきたいと意見表明はしています。
ただし、今は交付されている1.7GHz帯で十分なカバレッジを構築していきます。
その上で、1000万契約、2000万契約で終わるつもりはありませんから、今後の3000万契約、4000万契約を目指す上で、キャパシティや浸透率を考えると、いわゆるプラチナバンドには優れた技術的な特性があるので、それを利用させていただくことがお客様のメリットになると考えています。
そのためにしっかりとした意見、主張をさせていただこうと考えています。
――ありがとうございました。