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能登半島地震で見えた課題からStarlink衛星との通信まで――KDDIが災害対策訓練を開催

 KDDIは24日、災害対策訓練を実施した。訓練では、巨大地震による半島地域への影響を想定し、国土交通省、陸上自衛隊、海上保安庁、横浜市消防局と連携してものとなった。また、Starlinkやドローンを活用した新たな取り組みに関する展示も実施された。

巨大地震による半島への影響を想定した実働訓練

 訓練では、能登半島地震で明らかになった課題を踏まえ、半島で巨大地震が発生した際の対応を3つの状況に分けて実施。また、ドローンを活用した救助訓練も行われた。

 1つ目は、放置車両や倒木により道路が封鎖された地域への通信確保を想定した訓練。災害対策基本法に基づき放置車両を移動後、陸上自衛隊の高機動車にKDDI社員が同乗し、障害物を越えて現地へ向かった。到着後はStarlinkの設置グループと電源確保グループに分かれて作業を行い、約1分で設置を完了。時間の都合上、実施はされなかったが、その後約10分でアンテナが衛星を捕捉し、通信が確立できるようになるという。

地方整備局と陸上自衛隊と連携した、一般車両でのアクセスが不可能な場所への通信を確保する訓練
国土交通省 地方整備局が、道路上に放置された車両を移動
通行できるようになった道路を通り、陸上自衛隊と共にKDDI社員が到着
約1分でアンテナの設置、ポータブル電源の接続を完了

 2つ目は、陸路が遮断された沿岸部基地局の復旧訓練。海上保安庁の巡視艇が被災地の港に接岸し、KDDIの現地復旧班と海上保安庁が協力して機材の荷下ろしを実施。基地局到着後、通信停止の原因調査と特定を行い、Starlinkの設置やポータブル発電機の起動を行った。さらに、2024年12月には災害復旧資材の共有に関する協定を締結し、事業者間での連携が進んでいることも紹介された。

海上保安庁と連携した、港から基地局の復旧へ向かう訓練
協力して復旧機材の荷下ろし
電源確保とアンテナ設置の2グループに別れ設置作業をする
衛星電話で電波発射を依頼し、スマホのアンテナピクトでサービス復旧を確認する

 3つ目は、陸路や港からのアクセスが困難な地域への通信復旧訓練。2024年12月に弓削商船高等専門学校の練習船「弓削丸」を使用した訓練映像が紹介された。日本が島国であることを踏まえ、船舶型基地局の有用性が強調され、今後もさらに船舶型基地局を増やしていく。

弓削商船高専と連携した、船舶型基地局の設置訓練
商船高専の練習船を基地局にする理由は、緊急時にも出動しやすいからだという
船に設置されたStarlink
操舵室に設置された無線機とバッテリー。外のアンテナと繋がっている

 さらに、横浜市消防局の救助訓練では、ドローンを活用する場面もあった。地域防災コンビニのドローンポートから離陸したドローンが要救助者を捜索。発見後は映像や位置情報を災害対策本部に送信し、消防局が迅速に出動する流れがデモンストレーションされた。

横浜市消防局と連携した、ドローンを活用した救助訓練
ドローンが出動。コントローラーにはドローンからの映像が送られる
消防局員が車両を切断し、救助活動にあたる
地域防災コンビニに設置されたドローン「Skydio X10」
強力なライトや、障害物センサーを駆使して捜索にあたる

新たな取り組み「超小型基地局」「3D点群圧縮」

 新たな取り組みとしてStarlinkを活用した超小型基地局や、3D点群圧縮技術も紹介された。

 従来の持ち運び型基地局は7kgと重量があり、設営に時間がかかっていた。しかし、Starlinkの導入により、アンテナと発電機のみで済み、設営時間は約30分に短縮。今後、Starlinkの台数増加やオペレーションスキルの向上を目指し、さらなる体制強化を進めていくと説明された。

設備にStarlinkを接続し、回線を切り替えれば作業完了

 また、iPhoneなどに搭載されているLiDARを使用して取得できる3D点群データについても紹介された。このデータは建設現場や災害現場で広く活用されているが、膨大なデータ量が蓄積や伝送の大きな課題となっていた。この問題を解決するために、KDDIとKDDI総合研究所が独自に開発したエンコーダーを用いることで、データの品質を維持しながら容量を約5%にまで圧縮し、スマートフォンや小型コンピューターを通じてリアルタイムに伝送できる技術を実現した。

LiDARを使って3Dデータを撮影。スマホ上でデータを圧縮し、数秒以内に対策本部へ共有できるようになった

石川県からStarlink衛星と直接通信

 最後に、石川県からStarlink衛星を介したスマートフォンとの直接通信デモが行われた。現時点では、衛星の位置によって通信が一時途切れる場合があるものの、石川と会場の間で通信が成立することを確認。現状の通信速度は数Mbps程度だが、春頃に予定されているサービス開始のタイミングでは、衛星の数が増加するため、通信が途切れる間隔が現状と同程度、もしくはそれ以下になると期待されている。

 また、通信の安定性向上に向け、KDDIは地上基地局で培った運用経験を活かし、衛星のソフトウェア設定の最適化をスペースXと逐次意見交換しながら進めていきたいと話す。さらに、端末の品質向上についても端末メーカーと連携を強化し、災害時でも迅速かつ安定した通信を提供する体制の構築を目指している。

Starlink衛星と通信している石川のスマホと、会場のスマホのやり取り
アンテナピクトが立っている状態
衛星が通過してしまい、圏外となった状態
24日時点では、30分に12機の衛星が通過する状況

展示物

移動基地局
災害現場を偵察するバイク
右側のボックスはシガーソケットがついており、衛星電話を充電できるようになっている
能登半島地震でも使われたバギー。荷代に発電機を乗せて運ぶ。
災害救助用ドローンを無線給電
基地局に設置した風車や太陽電池で発電。電源残量などを可視化
被災地で地面に敷いて使う太陽電池(パネル内 右の写真)。会場ではメディア用待機スペースの電源がこの太陽電池で賄われていた
巻いて使用する太陽電池。薄くて軽くて曲げやすい