インタビュー

楽天モバイルが人口カバー率96%達成、矢澤副社長に聞く

 楽天モバイルは4日、人口カバー率が96%を達成したと発表した。

 2017年12月に第4の携帯電話事業者として参入を発表し、2019年10月に無料サポータープログラム、そして2020年4月の本格サービス開始から約2年。

 本誌では今回、サービスエリア整備をリードする矢澤俊介副社長にインタビュー。過去1年で、2021年4月と10月にも矢澤副社長へ取材しており、10月からのアップデートを中心に、“同社のエリア整備の今”を聞いた。

楽天モバイル株式会社 代表取締役副社長 矢澤 俊介(やざわ しゅんすけ)氏
2005年6月楽天株式会社に入社し、楽天市場事業営業統括や、執行役員を歴任。2019年11月に楽天モバイル株式会社常務執行役員として基地局建設を統括し、楽天回線エリアの拡大をリードした。現在は、楽天株式会社常務執行役員 兼 楽天モバイル株式会社代表取締役副社長として、引き続き基地局建設から開設などのエリア拡大等を管掌している。

屋内のエリア化に注力

――前回のインタビューは、昨年(2021年)10月でした。その際には、KDDIのローミングから楽天回線へ切り替えるエリアを拡大することが話題の中心でした。その10月から約4カ月、新たに取り組まれたことは?

矢澤氏
 屋内対策です。前回の取材で、2021年8月に小型基地局の「Rakuten Casa」を設置する、専任チームを立ち上げたとお伝えしました。

 その結果、これまでに3万台、稼働しています。ほぼ3カ月で達成しまして、計10万台を目指しています。たとえばレストランの前を訪れて、電波が弱ければ、「アンテナを置かせてください」とお願いするわけです。ローラー作戦で進めまして、都心部での密度を高めてきました。

 もうひとつは、地方での展開です。カーボン製のポールを用いています。いわゆる鉄塔と比べ、カーボンポールですと1/3程度で済む。すごく費用が抑えられ、耐久性も高いんです。カーボンポールは、当社が国土交通省からの認可をもらい、国内で初めて展開したものになります。それを増やしてきました。

――サービスエリア整備で、直近では半導体不足の影響があったとのことでした。96%達成時期も、もう2カ月先なのかと思っていました。

矢澤氏
 はい、1つの部品が不足して、基地局展開の遅れという影響が出ました。それが約1万カ所です。なんとか納品してもらってエリアを整備できたのですが納品が遅れるシナリオも想定していましたので、「96%達成は3月末までに」とアナウンスしていたのです。

 割と早く納入ができたので、このタイミングまで前倒しした、ということになります。

――不足していた半導体、部品が納品されたというのは偶然ですか?

矢澤氏
 いえ、ハードなネゴシエーション(交渉)を、ですね。やはり(他社と)取り合いになりますので。

――おお、そうなんですね。交渉がうまく行った理由は?

矢澤氏

 我々としては、グローバルで交渉していました。日本の通信事業者1社というよりも、いま、世界の通信業界で(楽天モバイルの完全仮想化ネットワークをもとにした通信プラットフォーム事業により)注目されていますので……。

 交渉は、三木谷(浩史氏、楽天モバイル会長)とタレック(アミン氏、副社長兼CTO)の2人が担いました。その半導体メーカーに対して交渉して、早めに融通していただけたというところです。

――それはまた強烈なタッグですね。

ローミング費用はどうなる?

――自前のサービスエリアが整備されるまでは、KDDIからのローミングを受けていました。その分、費用がかかるということでしたが、人口カバー率96%達成で、ローミング費用はどれくらい下がるのでしょうか。

矢澤氏

 ローミングの契約については、言えないところが多いんですが、ぼんやり説明するとですね、たとえば、「ローミングを今日すべてオフにしました」とした場合、明日からローミング料を支払わなくてもいいか、というと、そうではないんです。一定期間、一定の金額をお支払いするという契約になってるんです。

――あ、そうだったんですね。

矢澤氏
 KDDIさんには、ローミング契約を締結していただき、本当に感謝しています。

 その上で、「楽天がどんどん基地局を立てていき、どんどんローミング料が減っていく」というのは、KDDIさんにとっては、経営上のリスクになります。

 そのリスクを軽減するためにも、少しずつ、滑らかに(ローミング料の支払額が)減っていく契約になってるんですね。

 2021年4月に、ある程度のボリュームで、ローミングエリアを楽天モバイルのエリアへ切り替えました。次いで10月には、過去最大規模で切り替えました。次の3月でも、かなり切り替えます。

 去年の4月にローミングオフにした結果、徐々にお支払いする金額が減少してきています。ドラスティックにガンと減るものではないんです。

 当社のエリアを通じたデータトラフィックと、ローミングエリアのトラフィックを比べると、圧倒的に当社エリアのほうが多くなりました。

――次の3月でもかなり切り替わるとのことでしたが、人口カバー率も96%になるということで、全国で切り替わるということですか。

矢澤氏
 はい、全都道府県においてローミングからの切り替えが実施されます。

5Gへのオフロード

――なるほど。先ほどトラフィックのお話がありましたが、4Gでは1.7GHz帯しかない状況です。今回サービスエリアで人口カバー率96%と一定の面はできたわけですが、いわゆる通信容量、ユーザーからすると通信速度の速さへの影響はいかがでしょう。

矢澤氏
 おかげさまで、お客様がどんどん増えています。サービスエリアは確かに96%に達しましたが、これからも広げていきます。

 また(人口が多く、駅前などで通信が混み合いやすい)都心部の強化も、今春からもう1回やっていこうと思っています。

 通信速度に対する、お客様の期待もあります。これまでの楽天モバイルは、加入者が少なかったこともあって、かなり速い速度を体験していただいています。それが「だんだん遅くなってきたね」という状況に陥ってしまうと、満足度が下がります。そこで同じスピードをキープできるよう、もう1回、都心部で基地局を配置していきます。

 そしてもうひとつ、5Gもあります。今、基地局が3万7000カ所、2月2日時点で開通しているのですが、全ての場所で5Gの設備を設置できます。都心部を中心に、5Gのサービスエリアを構築していきます。5Gへのオフロード(通信量の分散)もどんどん始まっていきます。

――5Gへのオフロードの割合はどの程度になりますか?

矢澤氏
 社内でもまだ目標値は決まっていません。ただ、5Gサービスは、一般的にお客さまのデータ通信量が増えます。

 楽天モバイルの料金は段階性ですので、5Gが広がることで、お客さまにとっては高速通信をご利用いただけるようになり、当社にとっては収益の向上が見込めます。5Gの強化は、都心部で今年、かなり進めていきます。

――5G SAも同時進行で広げていかれますか?

矢澤氏
 5G SAは、ちょっと遅れて展開と見ています。対応デバイスなど、いろいろと準備がありますから。とはいえ、年内には開始したい。

――1年前、総務省の有識者会合で、楽天モバイルから提出された資料では、「2022年には逼迫度が他社と同程度になる」とのことでした。電波あたりのユーザーの利用の度合いが上がってくるということですが、今はまだ余裕があるのでしょうか?

矢澤氏
 5Gへのオフロードが予想以上にありますので大丈夫です。キャパシティが苦しいということは、今のところ、まったくないと思っています。

 とはいえ、将来的にそういったことが起きないように、まず基地局を増やします。そして5Gエリアも広げます。それでうまく分散させていきたい。

――基地局を増やすということは、セルを細かくする、つまり基地局1カ所あたりのカバーする広さを小さくすると。

矢澤氏
 はい、そうです。

 当社では、3セクターのアンテナ(1つの基地局から発射する電波を3つのエリアに分ける)なんですが、新たに、1セクターながら、より長距離までカバーできるアンテナを新たに開発しました。

 路地や商店街、あるいは初詣で人が集まるような場所といったところに専用のアンテナとして、360度、カバーするアンテナを設置しています。そうした場所が今後、600局展開する予定です。

――楽天モバイルのWebサイトで、「観光名所で使えますよ」とアピールするエントリーが最近公開されていますが、そういうところに設置されるのですか?

矢澤氏
 はい、そうした場所で専用のアンテナを設置しているところになります。

2.3GHz帯について

――2月2日、総務省から2.3GHz帯の割当方針が示されました。立候補されるかどうかは、まだ表明できないかもしれませんが、その帯域や、導入が求められているダイナミック周波数共有技術についてどう考えていますか?

矢澤氏
 立候補するかどうかは、現時点では、ノーコメントです。

 基本的には、まず1.7GHz帯でエリア展開を頑張っていきます。周波数帯は増やしたいと思う反面、5G時代が結構、早く到来するとも思っています。5Gの有効活用も念頭にあります。

 プラチナバンドについては、今後もおそらく求めていきますが、5Gへの転用なども考えて、どの周波数帯に立候補するか、検討しています。歯切れ悪い回答ですいません。

今後の課題

――あらためて今後注力するポイントを教えてください。

矢澤氏
 ひとつは鉄道です。東京メトロや都営地下鉄、そして東海道新幹線ではトンネル含めてエリア化がすすんでいます。

 お客さま1人1人にとって、移動する場面で少しでも弱点となる場所があれば、そこは対応していきたい。

 正直に申し上げて、まだまだお客さまから「ここが繋がりにくい」とお声をいただいているのは事実です。そうした指摘へ一件一件対応することが、我々が日本一になる一歩、歩みになります。

――大規模なローミングの切り替えを実施した昨年10月の段階でも、エリアに関する問い合わせへ応対するチームを設置したとのことでしたね。この4カ月でどれくらい対処されたのでしょうか。

矢澤氏
 そのチームの立ち上げ前からを含め、2020年4月~2022年1月まで、電波改善リクエストには4万件強に対応してきました。

――なるほど。最後に本誌読者へのメッセージといいますか、これからに向けての意気込みを。

矢澤氏
 ご指摘をいただければ、「2週間以内に解決策をご提案する」という目標で進めています。

 そうした一件一件へ、真摯に対応したい。お声をいただければ、専門チームがすぐご提案を出しに参ります。「繋がりにくい」というときは、ぜひ遠慮なく、楽天モバイルへ伝えていただければ。(そうして対応していくことが)日本一に繋がっていくと思っています。頑張っていきますので、その、応援いただければと思ってますので、よろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。