インタビュー

楽天モバイル矢澤新社長インタビュー、「プラチナバンドを強く求めていく」

 第4の携帯電話事業者として参入した楽天モバイルが、本格サービス開始から3年目を迎えた。基地局設備を全国各地に展開し、2022年2月には、人口カバー率96%を達成した。

 本誌では今回、4月1日付で代表取締役社長へ就任した矢澤俊介氏へインタビューした。矢澤氏は、「成長へのフェーズに入った。そのためにプラチナバンドが必要だ」と語る。

矢澤俊介(やざわしゅんすけ)
1980年3月4日東京都生まれ楽天モバイル代表取締役社長。2005年6月、楽天(現楽天グループ)に入社し、楽天市場事業の営業統括や、執行役員を歴任。2019年11月、楽天モバイル常務執行役員として基地局建設を統括し、楽天回線エリアの拡大をリード。2020年10月、同社代表取締役副社長に就任し、エリア拡大やカスタマーサポート、店舗戦略等を管掌。2022年3月、楽天モバイル代表取締役社長に就任。

楽天モバイルが、いま、プラチナバンドを求める理由

――社長就任おめでとうございます。さっそくですが、今回のインタビューにあたり、プラチナバンド(800MHz帯周辺の周波数を指す、携帯電話業界用語)を強く求めていくとのことですね。

矢澤氏
 本格サービス開始から丸2年、おかげさまで加入者数は順調に増えてきております。この2年は、サービスエリアを、1.7GHz帯に集中して整備してきました。

 これまでも総務省の会合などで、プラチナバンドを要望する意見を表明してきましたが、このタイミングであらためてお伝えする理由としては2つあります。

 ひとつは、人口カバー率が96%に達したことです。最初にいただいた1.7GHz帯を、しっかり有効活用しなきゃいけないと思っておりました。96%に達するまでは、(プラチナバンドを強く求めることは)喉元まできていましたが、グッとこらえてやってきました。

――確かに、最初に割り当てられた周波数を十分用いる、というのは必要不可欠ですね。

矢澤氏
 はい。そして、もうひとつは、楽天モバイルがこれから成長フェーズに入るということです。

 ほかの3社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)と、いっそう、真剣に戦っていく、あるいは乗り越えていく。そんな段階に入ってきたと思っています。

 もちろん、ほかの3社に至らないところはたくさんありますが、乗り越えるにはどうすべきか、というところです。

 楽天モバイルの参入以降、国内のスマートフォン向け料金プランは安くなってきた、とさまざまなところで紹介されています。

 総務省の資料によると、割安な料金を利用されている方は、いわゆるサブブランドと楽天モバイルを合わせてもまだ、全体の約20%です。

 のこりの80%は、メインブランドで20GBを使うと、7000円という高どまりした料金プランにまだ留まっているということになります。

――なるほど。

矢澤氏
 一方、各社の保有する周波数を見ますと、当社は1/6。やはり、ほかの3社からすれば「楽天モバイル、恐れるに足らず」ということかと思います。まだまだ、その基準に立ってないんだと思うんですね。

 だからこそ、サブブランドで対抗すればよいだろう、という格好です。そして、割安な料金が気になるお客さまはそうした価格帯に移行するものの、それ以外の方には、なるべくサブブランドに移ってほしくない――それが、既存3社の正直なところではないかと。

 そこに楽天モバイルとしても競争していきたいのですが、まず公平な状態で戦いたいと思っています。お客さまへのアンケートでも、楽天モバイルが参入したことで、携帯電話の料金が割安になった、という評価が多いです。こうした声は非常に嬉しく、(競争をさらに促進するため)プラチナバンドを求めていこうと決断したわけです。

――1.7GHz帯の限られた周波数だけでは、たしかにいずれ頭打ちします。そこで繋がりやすいプラチナバンドを求めるのもよくわかります。総務省でも議論が進められていますが、本当に割り当てられる可能性はあるのでしょうか。

矢澤氏
 今、国会において電波法の改正が議論されています。おそらく可決されるだろうと見られてますが、この改正では、周波数には有効期限がある、という話が新たに盛り込まれます。

 具体的に「この帯域は◯年」というわけではなく、電波は有効期限を有するものである、という意味です。これが順当に可決されれば、今年10月から施行予定と総務省から聞いています。

 そのタイミングで、プラチナバンドの再割当で、有効期限を設定できます。そこで、楽天モバイルに割当を、というわけです。

 技術面で、これまで各社から出された意見では、品質を確保するための仕組みとして「フィルタ」(特定の周波数を通す/遮る装置)が必要とされています。しかし、3GPPの既定の範囲であれば、必要ではないと思います。

 また、レピーター(中継機)は一部、交換が必要かと思いますが、それでも家庭用Wi-Fiルーターのようなサイズで、郵送でやりくりできます。期間で見ると、1~2カ月、長くなれば半年あれば対応できるものです。

 このレピーター交換さえ終わればすぐにでもプラチナバンドを利用させていただきたいところですが、総務省のガイドラインでは、消費者保護として、1年間の事前告知が必要です。もちろん、ガイドラインには従いますので、1年待ちます。

 その間に、これまで利用されていたプラチナバンドが変わる、という周知をしていただいて、2023年10月には楽天モバイルがプラチナバンドを利用させていただきたい。これが我々の主張です。

――しかし各社の主張と大きな隔たりがありますよね。

矢澤氏
 はい、そこはもう、まさに政府による強い意思での決断が必要だと思います。

 有識者会合にも出席しましたが、3社と一社ですので、逆風中の逆風なんです。

 一般的な意思決定として、それぞれの意見から妥協できる点を見つけるといった手法では、とても決められないと思います。

 ここは、国民の財産である、電波の有効活用という観点から、政府の判断をお願いしたいと。

――確かに大手3社の状況に、協調的寡占という評価もありましたから、そこを突き崩すことが政策だとも思います。ただ、「楽天モバイルにプラチナバンド」という要望どおりにいかないことも十分あり得ますよね。もしそうなったら、どんな影響がありますか。

矢澤氏
 プラチナバンドをいただきたいところですが、仮になくとも、楽天のサービスがたち行かない、ということでは、まったくありません。

 今もサービスエリアは拡充を進めていますし、2023年度にはKDDIさんからお借りしている、屋外でのローミングもお返ししたいと思っています。

 プラチナバンドがなくとも、私どものサービスに大きな不具合は出ません。しかし、4社での競争を進めるということが、楽天モバイルに免許が割り当てられた大きな目的だと思います。

 同じ条件であれば、私どもはもっとできると強い自信を持っていますので、ぜひプラチナバンドを使わせていただきたいなと思っています。

iPhoneの影響とオリジナル端末について

――話題を変えまして、端末販売のあたりも教えてください。まずiPhoneの取り扱いから1年です。いかがでしたか。

矢澤氏
 やはり、いい端末ですし、お客さまからの人気も非常にあるとあらためて実感しました。

 ラインアップにあるかどうかは大きな差があり、今の順調な契約増に寄与してもらっていると思います。

――楽天モバイルユーザーのうち、どの程度がiPhoneを使っているのでしょうか。

矢澤氏
 おそらく、他社さんと同じだと思っています。日本での平均と言いますか。

――なるほど、iPhoneのシェアは過半数とも言われていますので、1年でそこまで至ったわけですね。さて、最近は、ポイント還元の施策も積極的です。端末だけ購入されて、短期的な解約につながるといったデメリットのようなところはありませんか?

矢澤氏

 もちろん解約はゼロではありません。確かにデメリットと言いますか、そうした点はあると思います。

 ただし、割合としては非常に少ないのです。短期解約が業績にインパクトを与えるほどではなく、ほぼ全ての方が長期契約で使っていただいています。

 ですので、春商戦で、積極的なプライシングをかけました。

――オリジナル機種については、今後どう考えていますか。

矢澤氏
 メインは、メーカーさんが製造されている機種です。一方で、少し特徴がある自社製品を、今後も積極的に検討していきたいです。

 ニッチだけど、こういうのがあったらいいな、というものがあれば、積極的に検討したいですね。

楽天モバイルはこれからも店舗拡充を進める

――他社はショップを縮小する傾向とも伝えられていますが、楽天モバイルではどうなりますか。

矢澤氏
 他社さんの状況はわかりませんが、我々にとって、お客さまとの信頼関係を作るには、ショップが必要で、強化していかなきゃいけないと思っています。

 今、地方でのショップを増やし、郵便局でのショップも拡充しています。おかげさまで、地方での楽天モバイルの契約が非常に順調です。

 そうした店頭で、(クレジットカードの)楽天カードの使い方や、楽天市場の注文手順などをご説明するんです。

 楽天のネットサービスをサポートするという面でも、お客さまから喜びの声をいただいています。そういった意味でも、地方での店舗展開は、楽天グループとしても重要な拠点作りになってきています。

 直営店もありますが、代理店の皆さんにも本当に協力いただいていて、ショップ展開も今後、積極的に進めていきます。

料金プラン

――最後に料金面についても教えてください。料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」が始まって1年経ちました。非常にシンプルですが、見方を変えると、学割や新たなしくみの導入といったアピールの機会にはなかなか繋がらなかった印象もあります。

矢澤氏

 たとえば、無料期間を短縮するといったことは進めてきました。お試し感覚で利用いただいたところもあったかと思います。

 ただ、楽天モバイルとしては、サービス開始からメッセージは変えていないつもりでして、シンプルな料金プランを提供したい、お使いになった分だけを支払うという世界観を提供したいのです。

 ですので、新しい料金プランでたとえば学割、ですとか、そういった複数のプランをラインアップするといったことは考えていません。お客さまには、わかりやすさを訴求していきたいです。

――最後に、新年度が始まり、社長職に就任されたところということで、今後に向けたメッセージをお願いします。

矢澤氏

 3年目を迎える楽天モバイルは、ほかの3社に「追いつけ追い越せ」を本気で狙える位置まで来てるのかなと思っております。

 そのためには、さまざまな環境を整備する必要があります。それは、お客さまの声にひとつひとつ対応していくことが唯一の道のりです。

 しっかりと地に足をつけて、一歩一歩、サービス品質を改善したい。これからもよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。

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