インタビュー

楽天モバイルの段階制新料金プランはどんな考えで設計された? 河野CMOに聞くその狙い

 1月29日、楽天モバイルが新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」を発表した。4月1日から提供されるもので、これまでの「使い放題/月額2980円(税抜、以下同)」→「1GBまで0円、1~3GBは980円、20GBまで1980円、20GB以上は使い放題2980円」という段階制に切り替わる。

 2019年10月に無料サポータープログラム、そして2020年4月の本格サービス開始から1年。いわば無料のお試し時期を経て、いよいよ“有料での正式サービス”とも言えるタイミングとなる2021年4月、どんな考えで「0円から使えるプラン」が提供されることになったのか。楽天モバイル常務執行役員 兼 CMOの河野奈保氏に聞いた。

河野氏

「まず使ってもらう」「ニューノーマルに最適化」

――4月からの新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」が発表されました。段階制ということで、「1GBまで無料」となれば、その容量に抑える人もそれなりにいることは予想できそうです。どのような考えで、こういった形になったのでしょうか。

河野氏
 手探りでスタートした昨年4月から1年弱になります。これまで、実際にネットワークをどのようにご利用いただいたか、そして楽天モバイルが楽天グループ内でも大きな柱になっており、ユーザーの皆さんが楽天の各サービスをどう利用されているか、拝見してきました。

 その結果、「どんな方にもまず楽天モバイルを使っていただく」ことがまず、もっとも重要な点だということになります。そうでなければ、(それ以降の展開が)始まらない。

 どうしても分かりづらいところがあるかと思います。後発なキャリアということもあって、若干不安があるところもあります。

 とにかく触っていただいて、実際に使ってみていただいて……という世界を提供したいことが大前提にあります。

 一方、ユーザーの皆さんの利用量については、新型コロナウイルス感染症を受けた生活スタイルが激変すると、それ以前と大きく変わった方も多くいらっしゃると思います。

 たとえば、それまでたくさん使われていた方でも在宅が増えてデータ通信量が減った、はたまた若い方には自宅にWi-Fiや固定回線がないこともあり、「会社ではWi-Fiだったけど在宅でモバイルデータ通信が増えた」ということもあります。

 同じ人であっても、月によって増減が激しくなった、ということもあるでしょう。それがこの1年の大きな変化だと思うのです。

 「まず使って欲しい」ということで、1GBまで無料ということもありますが、「全く使わない月が出てきても、それに見合ったコストであるべき」という点でも今回の新プランはとても良い落としどころだったのかな、と思っています。

――これまでお試ししてきた人が離脱するかもしれないタイミングに、1GBまで無料という考え方を用意した、と思ってしまうところもあるのですが……。

河野氏
 「1年無料」と2020年4月に銘打った段階で、そうなる可能性は十分予見できるものです。その時点から、何かしら手を打とうとは考えていました。ですので、慌てて対応したものではないのです。

――いつごろから設計を進めてこられたんでしょう?

河野氏
 1年で「6番目」と銘打つくらいですから、実は常に進化を図っている、と思っていただいていいと思います。進化を前提としているからこそ、プラン名に番号を付けたといういきさつもあったりします。

 発表と同時に、次のニーズに向けてアップデート、と考えていただいていいと思います。これはもう楽天グループの文化と言えるかもしれません。

「アグレッシブ過ぎる」ことはない

――もし、無料ユーザーが大きく増える場合、楽天モバイルのシステムに対して悪影響を及ぼす懸念はありませんか?

河野氏
 どんな料金プランでも良いところ、悪いところ、あるいは使われ方による副作用は発生し得ると思います。

 ただ、根本にあるのは、まずユーザーの多くは「使ってみたい」と考えておられるであろうことがあります。

 それから、楽天グループのサービスであることのメリットとして、楽天スーパーポイントが貯まるといったメリットを感じておられることがあるでしょう。

 もし1GB未満で通信料が0円という方でも、楽天モバイルユーザーはオンラインでショッピングする場として楽天市場をのぞいてみようかな、あるいは楽天カードを使ってみようかな、という方が多いんです。グループ全体での相乗効果が得られのです。

 そういう観点からでも、アグレッシブすぎることなく、ユーザーニーズにマッチした形になったと思っています。

――それって具体的にどれくらいなんでしょう。

河野氏
 2020年のデータを見ると、楽天モバイルユーザーは、非契約者と比べ、楽天市場の利用が多いことが判明しています。

 2020年はもともと、新型コロナウイルス感染症の影響でネットショッピングそのものの利用は増えているのですが、とくに利用開始前後を比べると楽天モバイルユーザーは激増している。

 具体的には楽天モバイルを契約していない人は(流通額が)13%の増加でしたが、楽天モバイルユーザーの場合(2020年5月に契約した人のデータ)、44%も増えたんです。

 あくまでも去年の実績ではありますが、そういう相乗効果が見えてきています。楽天市場だけではなく、楽天カードなど、ほかのサービスをご利用いただいていることが判明しつつあります。

 携帯電話における競合他社さんと比べると、当社のユーザーさんは「楽天グループのサービスがあって、楽天モバイルがある」ことをそもそも理解していただいています。つまり、スムーズにほかのサービスをお使いいただいているのかなと捉えています。

――もし、IoT的な用途など、1GB未満の通信をする回線が増えてしまったらどうなりますか?

河野氏
 どうしましょうね(笑)。いろんな利用スタイルが幅広くあることが、この業界だと思いますので、研究しながら考えていきます。

 新しいものへ不安に思われることはあろうかと思いますが、楽天グループの強みとしては、「これはやりきるんだ」と泥臭い取り組みです。コンセプトをワンプランと決めたら、確かに「このときはどうなるの?」というご指摘はあろうかと思います。それでもこのコンセプトをまずやりきることが、楽天グループの基礎にあります。ひとつひとつの取り組みについての発信は足りていないと思いますので、これからも頑張っていきます。

他社ユーザーの2回線目?

――この1年、競合他社のキーパーソンへ取材すると、「楽天モバイルユーザーへの乗換えは進んでいない、2回線目以降としての契約が多いのではないか」という推察を聞くことがありました。楽天モバイルの中の人としては、どう分析していますか?

河野氏
 同じ数字をちょっと違う見方をしているかもしれません。私たちからすると、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)で楽天モバイルへ切り替えたユーザーさんが一定数います。それは、私たちにとって十分な比率だと評価しています。

 一定数、ずっとコンスタントに楽天モバイルへ移られていることは見ています。もちろん、2回線目で使う方もいらっしゃることも事実でしょう。1年無料ですし、試したい方は、主回線ではなく2台目で使うことは自然な原理ですよね。

 私たちもそれをよしとして提供しており、ここから先、1回線目として選んでいただけるようにできるかどうか、ですね。

 そして2回線目であることと、使い続けないことは、必ずしもイコールではないですよね。継続していただけることもありますし、2回線目が1回線目になることはあり得ることだとも思っています。

――料金プランに関しては、メディアとして楽天スーパーポイントとのさらなる連携などがあるのでは? と想像を働かせてきました。

河野氏
 すでにいくつかポイントを付与する取り組みはありますが、もう少しわかりやすい形で提供したいという考えはあります。

 ただ、ユーザーさんの声を見ていると、「何ポイント貯まるの?」といったものを求められる節もあったりして、もう少し見極めたい。とはいえ、すでに今の段階でも相当おトクになるケースがあります。

 たとえば楽天モバイルを契約すると、楽天市場でのポイント付与率はずっと1倍(支払い100円につき1ポイント、ポイント利用分を含め利用代金の1%を付与)です。

 カードや市場などでポイントキャンペーンを実施しており、そうしたところをお楽しみいただいているかなと思いますので、今後はもう少し慎重に検討していきます。

――たとえば楽天市場の利用額に応じて、携帯電話料金が変化するですとか。それってポイント付与と変わりないかもしれませんが……。

河野氏
 現状では、いろんな楽天のサービスでポイントを貯めていただけます。そのポイントは、支払いに活用できます。サービスをA、B、Cと使っていくと「あ、現金が減らずに楽天モバイルを利用できているんだ!」ということになっていくと思うのです。

 楽天モバイルの料金は、最大でも2980円(税抜)です。いろんなサービスをお使いいただければ、そのポイントだけで楽天モバイルの利用料をまかなえます。「楽天スーパーポイントで支払える」ことは、ぜひ多くの方に知っていただきたい点ですね。

業界の動き、どう見ていた?

――UQ mobileやワイモバイルが昨年5月~6月に相次いて、楽天モバイルへの対抗プランを出していました。この当時、競合他社の動きをどう分析していたのでしょうか?

河野氏
 「日本の携帯電話料金が高すぎる」と宣言し、国から料金関連の話もありましたが、以前と比べ、皆さんの料金プランへの関心が高まりましたよね。さらに新型コロナウイルス感染症の影響もあり、お金の使い方を見直す時期でもありました。

 楽天のフィロソフィーとして、社会を元気にする、貢献するというエンパワーメントのもと、サービスを手掛けてきました。この時代からこそ私たちにできること、そして業界の改革のきっかけになりたいという想いはあります。

 それが実際にどういう動きを招いたかは、私たちの口から申し上げるべきことではないのですが、それでもこの1年、いろいろと変化がありました。楽天モバイルのユーザーではなかったとしても、皆さんにとって恩恵を受けられるような時代になってきたことは、頑張ってきた意味はあったのかなと思っています。

サポート面でのトラブルは

――この1年、ポイント付与漏れや誤課金などが発生しました。他社でも過去、類似した事例はあったでしょうが、楽天モバイルに対して、ユーザーからはとても厳しい批判の声や、サポート面を不安視する声があると思います。どう取り組みますか。

河野氏
 そうしたご指摘は確かにそのとおりです。大手3キャリアさんは、これまで力を尽くされて、ユーザーさんが求めるサービスレベルを構築されてきたのだと思います。

 後発である弊社は、クオリティに対してユーザーさんの声が多く寄せられたことは事実です。それはひとつひとつ、きちんと対応していくことしかないのだと思っています。

 料金プランはもちろん大切な要素です。ただ、あくまでも利用するきっかけです。使うと決めていただけるか、そして使い続けていただけるかは、サービスのクオリティが全てだと思っています。今回の発表後、クオリティが何よりも求められるであろうことは承知しておりますので、きっちりやっていきたい。

 進化させなきゃいけないいろんなポイントがあります。そこは口にするよりも、やるしかないとも思っていますので、しっかり取り組みます。

――本日はありがとうございました。